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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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閑話 アレクサンドロシアの野望 風雲禄 3


 命令によって参集した者たちを前に、わらわは睥睨をする。

「お呼びでしょうかアレクサンドロシアさま」

 修道騎士のひとりが、まるで臣下の様に貴人に対する礼をとって首を垂れた。
 すると、護衛役をしている冒険者たちがそれに倣い、同じ様にゴブリンの武装飛脚や他の部下たちもそれに続く。
 騎士修道会はあくまでも対等な同盟相手であり、少なくとも部下ではない。
 それがこうして首を垂れて見せる姿を見ると、不思議な気分になるのも当然の事だった。

「先ほど、カーネルクリーフどのより送られた書簡がそこの武装飛脚によってもたらされた」
「総長は何と仰ったておいででしたか?」
「王侯貴族の動きに注意せよとな。ブルカ辺境伯が西の国境線上に派遣していた軍勢を、引き上げにかかっているという。ミゲルシャールめはどうやら密かに王都へ参上しているらしいの」
「そ、それではいよいよ開戦?!」

 押し黙ってわらわはうなずいて見せる。
 すると、その事をすでに知っていたエレクトラはともかくとして、わらわの護衛をしている冒険者たちは一斉に色めき立った。

「わらわはもともと、ブルカ辺境伯と戦争を回避し時間をかけて対抗するための手段を考えておった。そのひとつが騎士修道会との同盟関係であり、この城の側に立派な聖堂を建立しようというものだった。あるいは辺境諸侯と連携して、何れ来る戦争に備えるという考えだ。しかし、」

 ブルカ辺境伯が直接的な対決、開戦に指向を傾けたという事は前提が崩れたのである。
 その原因を崩したのは、わらわたちがブルカ伯の想像以上に素早く対応に回ったからだと自負している。
 たぶんそれは自惚れでも何でも無く、事実だろう。

「もはやそういう時期ではない。このサルワタと騎士修道会が連携している事は、ヤツの斥候どもがこの一帯をちょろちょろしている事からも知れるというものだ」

 ツジンという男の存在を忘れてはいけない。

「なれば開戦の時期をどこに定めるのか、それが問題だ。戦をするのは大前提だ、そのイニシアチブをブルカ辺境伯に渡してはならない!」

 一同改まって居住まいを正す姿を見て、満足する。
 わらわは事前に用意していた書簡や手紙を指し示し、改めてみなを見渡した。

「武装飛脚エースは、ただちにカーネルクリーフどのにこの書簡を届けてほしい」
「わ、わかりました!」

 平伏するゴブリンに満足する。
 次は修道騎士に視線を向けると、わらわは少し身を乗り出す。

「修道騎士どのは戦場経験がおありか?」
「あります、二度ばかり辺境の南方で異教徒との戦いを経験した事が」
「よし、それならばお前はゴルゴライからスルーヌにかけて、領内の地形をつぶさに見てまいるのだ。可能ならばゴルゴライのイディオどのとも連携せよ」
「それは……?」
「騎士修道会の諸卿らはこの一帯の地形をまだ理解しておらぬだろう。地の利を生かすためにも、もっとも開戦地に適した場所を探し出してほしい」

 わらわは十数年この辺りで過ごしてきたので、多少の地理感はある。
 しかし現役で戦場に生きてきた者たちにもその事を理解してもらい、いざという時は答え合わせが出来る事が望ましい。

「わかりました。ただちにゴルゴライとスルーヌの方面に向かいます」
「従士隊の人間にも、手分けして村の周辺を散策させるのがよいだろう。土地を知っているという事は、いざという時に予想もしない何かに気付く事があるやもしれん」

 ははあと修道騎士が頭を下げた。
 わらわが騎士見習いだった頃によく見かけた、若い向上心のある騎士にある快活さが心地よかった。
 この者は功名心があるのだろうし、わらわの命令も熱意をもってやってくれそうだ。

「それから、馬の扱いにたけた冒険者というのは誰か?」
「俺です。すいません、用事をお命じ頂くと、村長さまの護衛が出来なくなってしまいますが……」

 そう答えたのは冒険者ダイソンだ。まるで巨大な猿人間の様に巨躯で鍛えた体であったが、お兄ちゃんは確か下半身が弱いと言っていた。
 対人戦もエレクトラには今一歩劣るとも言っていたが、馬を扱うのが得意なのであれば適材適所というものだろう。

「構わん。そなたは直ちにセレスタに向けてこの手紙を持っていけ。馬の扱いに長けているという話を聞いたが、セレスタまではどのぐらいの時間で届けられる?」
「伝書鳩を使わないので?」

 わらわはカーネルクリーフに渡したものの写しを、ダイソンに差し出した。
 中身ほとんど同じものだが、セレスタ領主のオコネイルならば、ここから察する事も出来るだろう。
 王都周辺の王侯貴族どもに噂を流す。
 わらわにはあまり中央に伝手はないが、オコネイルは褐色エルフ族の有力貴族の一党に連なるものであるし、わらわよりも中央に長く在勤したので、情勢に明るいはずだ。
 あわせて王都方面の情報収集に力を貸してもらいたいという追伸もしたためている。

「内容が内容だけにな、途中で伝書鳩を捕まえられた時に不味い。お前自身の手で届けてもらいたい、頼りにしているぞ?」
「あ、ありがとうございます。励みます!」

 サルワタの村では、馬の扱いになれた人間と言えばこれまでギムルしかいなかった。
 義息子はわらわが手ずから馬の扱いを教えた故によくそれをこなしたが、さすがにこの使命にギムルを使うわけにもいかない。仮にも義息子はサルワタの村長、わらわの後継者だから気軽に使える人間ではなくなった。

 そして次の命令を飛ばさねばならぬ。

「残りの冒険者たちもここにおる故、よい機会だ」

 わらわがそう言うと、ブルカの街から雇われてきた彼らが互いに顔を見合わせながら不思議そうな顔をしている。

「俺たちに何か、ご命令ですか?」
「うむ。本日ただいまをもって、そなたらを解雇する」
「?!」

 その場が騒然となった。
 わらわの言葉を文字通りに受け止めて、納得がいかないという顔を浮かべているのだ。
 まあ、それもそうだろう。

「そんな、アレクサンドロシアさま。あたしは……!」
「ど、どういう事ですか。まさか俺たちがブルカの街から雇われてきたからと言って、辺境伯さまのスパイか何かだとお思いなのですかっ?」
「そうです、俺たちはこれでも、サルワタに骨を埋めるつもりで志願して来たんですよ!」
「嘘つけよな、お前は田舎の娘と出会いを求めて、あわよくば結婚したいからって志願したんだろうが!」
「ばっかそうじゃねえ、フロンティアスピリッツと言ってくれよ!」

 反応は様々だが、自分たちがブルカの冒険者ギルドから派遣された事からスパイ扱いをされているのではないかと大いに不満の顔を浮かべている。
 予想した結果だったので、わらわはつい笑ってしまった。
 特にダイソンだけが重用されているのが気に入らなかったのか、エレクトラは抗議の顔をしておるわ。

「お前たち、話と言うのは最後まで聞くものだぞ。続きを言っていいか?」
「続きがあるのですか……」

 冒険者たちを代表してエレクトラが意見した。

「そうだ。お前たちは名目上、サルワタの売女騎士に解雇されたと言ってブルカの街で噂を流してくるのだ。ブルカとの戦争にお前たちは反対し、その結果ブルカのスパイであると疑われて解雇されたとな。このまま居残れば命の危険を感じたので逃げてきたと付け加えるのもよいだろう。とにかくサルワタは領土を拡大し過ぎて、統治に苦労していると言いまわるのだ」

 大きな期待は出来ないが、連中を少しでもかく乱する事が可能であれば儲けものというところだ。
 冒険者は剣士として戦場でもある程度期待できるが、兵士たちの集団にまじって活用するのはむずかしい。
 徴募した農民兵は軍事的な訓練などはまったく施す事が出来ないので、槍を並べて攻めたてるのがやっとだ。
 そこをいくと冒険者は日頃から仲間同士の連携が基本だと聞いているので、わが村で雇った彼らを分散して使うというのはむずかしい。
 しかしわらわの配下では、冒険者はせいぜいわらわの親衛隊として護衛にぐらいしか使い道がないのだ。
 数も合わせて十人に届かないし、この単位なら、いてもいなくてもあまり変わりはない。
 さらに、事実ブルカ伯のスパイという可能性も捨てきれない事も考えられる……

 とならば別の使い方をとわらわは考慮すべきだろう。

「そ、それはつまり……」
「情報を流してもらいたい。出来るだけサルワタの混乱した内情を、冒険者ギルドや酒場でな」
「そ、その後は俺たちはどうすれば……」
「ヌッギという村を目指せ。そこはわらわの生家がある土地だ。父が統治しておった土地だが、今は妹がそこを治めている。時期が来ればブルカの背後を突くために、動いてもらいたい」

 わらわはそう言ってニヤリとしてみせると、金貨の詰まった革袋を取り出した。
 数はひとり一枚の人数分には行きわたるはずだ。

「はした金ではあるが、何かの駄賃にして欲しい。そなたらの活動に期待している。ブルカを背後から付くのだ!」

 冒険者たちにそう言ってやると、意外にも乗り気で「ははあ」と平伏した。
 出来る事がなんでも手を打っておくべきである。

 さて、衆目がわらわに集まっているのを確認したところで、最後にわらわは安楽椅子を立ち上がって口を開いた。

「本来ならば今頃はこの城の側で、聖堂建築がはじまっていた時期やもしれん。だが戦争に勝ち、女神のお導きによってその勝利がもたらされたのだと感謝の気持ちを込めて、改めて聖堂建立の計画を練る事にしようではないか。サルワタと騎士修道会、辺境諸侯の勝利をわが手に!」

 剣を抜き放つと、それに呼応してみなの者が吠えた。

「「「応ッ!」」」

     ◆

 礼拝堂のわらわの部屋に残ったのは、護衛のエレクトラと村の司祭のふたりだった。

「あの、アレクサンドロシアさま。あたしも解雇されてしまうのでしょうか……」
「ん? そなたとダイソンはわらわの大切な護衛だからな、そう簡単に手放すわけにはいかん」
「あっありがとうございます……」

 ホッと胸をなでおろすエレクトラを見て苦笑を浮かべてしまった。
 不思議なもので、この数か月の間、常にエレクトラを側に置いていた事でわらわの方にも情が浮かんでしまったのも事実だった。
 護衛の役を側に侍らせるなど、貴族軍人の時代に副官だったモンサンダミーを付けていた頃以来である。
 あの者も今はオコネイルの傭兵をやっていると言うが、元気にしているであろうか。

「しかし司祭よ。そなたのお身内は、どうしてわらわに臣下の礼を取るのだろうだろうの」
「それはもちろん村長さまに、いえアレクサンドロシアさまに指導者としての器があるからでございます」
「フン。わらわなどは、数百の兵士を率いて戦った事がある程度の騎士だぞ。器などというものは、はなから自分で感じた事はない」
「しかし事実、今は辺境の雄と呼ばれたブルカ辺境伯さまを相手に、戦を仕掛けようとしておられるではないですか」

 そうなってしまったのは、あくまでも事の成り行きであった。
 シューターという人間が村の側に全裸で迷い込まなければ、きっと村を襲ったワイバーンとの戦いの中で村は疲弊して、開墾を推し進めるという計画に着手する事は出来なかっただろう。
 下手をすれば、というよりもお兄ちゃんに命を救われなければ、今頃は女神の導きで異世界に旅立っていたはずだ。

「そういうものか」
「そういうものでございます」
「だが不安は尽きぬ。ともすれば孤独と圧迫で押しつぶされそうになる……」
「はい。ですから、せめて戦いが始まるまでは、心を安寧になさりますよう、わたしたちに出来る事があれば……」

 ハゲた頭を下げて、司祭はそう言った。
 近頃は暑いからか頭の上に乗せていた丸帽子を、この男は被っていない。
 聞けば辺境への植民がはじまった時代からずっとこの辺境諸邦を見て回り、伝導を続けてきた宗教者であるという。

「どうでしょう。わたしが心を落ち着かせるお茶をお入れしましょう」
「どうせポーションを使うのであろう?」
「ポーションの原材料の入ったものですが、直接注入器具を使って摂取するよりも、経口であれば弊害も少ないと思います。効率は悪いですが、今は落ち着く事の方が大事です」

 エレクトラと顔を見合わせたハゲ坊主は「アレクサンドロシアさまは気を詰めておられますからな」と言っていた。
 確かに、休む暇も無くこの半年を駆け抜けたと思う。

「わかった。好きな様に致せ」

 そう答えると司祭は微笑を浮かべて「ではその様に」と返事をした。
 安楽椅子に体を沈めると、一礼をして退出していく司祭とエレクトラを見送り、書物に囲まれたこの仮の執務室で少しばかり眼をつむるのだった。

 気を詰めてばかりいても、何もいい事はないからな。

     ◆

 油断をしていると、よくない知らせがあるらしい。
 司祭の勧めを大人しく聞き入れ、ここ数日はポーション入りの茶を飲んで心を落ち着かせていたのだが、

「アレクサンドロシアさま、大変です!」
「何事だ騒々しい」
「現地の地形掌握のために送り出していた修道騎士から、緊急の知らせが入りました!」

 そう言って飛び込んできたのは、確かッワクワクゴロの弟のひとりという男だったはずだ。
 名前は確かッボロリ? 覚えていないが、その様な名前だったはず。

「申してみよ」
「死後ずいぶんと経過した修道騎士と、野牛の兵士の死体が発見されたそうですよ。場所はゴルゴライからスルーヌに向かう街道から外れた場所だそうです」
「何だと!」
「恐らくですが、エレクトラさまが言うにはアレクサンドロシアさまがゴルゴライを平定なさった折に、周辺の領主さまにあてて送り出した使者の内のひとりかと……」

 スルーヌに送り出したまま、ずっと行方が知れなくなっていた使者の一行である。
 トカイに詰め寄っても知らないの一点張りで、当然その後の使者の足跡も知れずままだったはずだ。

「それと、」
「まだあるのか!」
「ごっ、若いゴブリンの死体が発見されました」

 ゴブリンの死体……
 もしかするとそれは武装飛脚エースのものではないのか。わらわは激昂しそうになる気持ちを抑えながら、立ち上がると、急いで礼拝堂を出立する準備に取り掛かる。

「その死体は冒険者の様な格好をしていたのか?」
「いえ、死体は騎士っぽい恰好をしていたそうです」
「死体はどこで発見されたのか、まさかサルワタ周辺ではないだろうの」
「修道騎士さまの死体が発見されたすぐ側です、ちなみに近くの村の人間ではないと言ってましたねえ……」

 そうか。エースではないとなると、修道騎士を討ち取る際に争って死んだという事だろうか。
 しかし妙な話だ。ゴブリンの騎士などというのは、この周辺では聞いたことがない。
 もしかすると、ブルカ伯の手の者か。ツジンという人間の配下だった者やも知れぬな……

「直ぐにもエレクトラを呼んで来い。現場を見なければ何とも言えぬ、わらわも現地に向かうぞ」
「わかりました!!」
+注意+
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