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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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184 サルワタへの帰還 前編

 やあみんな、これから俺は異世界の船旅に出かけるよ。
 随行員は男装の麗人と借金まみれの女魔法使い、あと蛮族エルフだ。

「村の事、よろしく頼みますね」
「ああ、村の事は任せてくれ。出来るだけ状況報告は頻繁に飛ばすようにする」

 黎明の時刻。
 家族を代表してカサンドラが俺を心配そうに見上げていた。
 むかしは俺に対してほとんど口数も少なくて「嫌われているんじゃないか」と思っていたものだ。
 それがこうして俺の頼りになる大正義奥さん、それも正妻になったというのだから感慨深い。
 カサンドラをはじめ、家族や仲間たちを守るために俺たちはギリギリの戦いを強いられているのだ。
 この幸せは失ってはいけない。
 外交も大事だが、連続殺人事件などという大参事がサルワタの村で起きている。

「みんな。サルワタの事は心配だと思うが、今はリンドルでの外交にひとつ集中してくれることを期待しているぜ。カサンドラ、留守中の外交はきみにお任せだ。他の奥さんたちの事をよろしく頼むからね」
「はい、シューターさん。お気をつけて」
「カラメルネーゼさん、あなたはオッペンハーゲンとの交渉を頼みます。留守中の俺に代わってカサンドラがメインで行う事になると思うが、あなたが頼りだ」
「おーっほっほっほ。こんな小さな船ではなく、大船に乗ったつもりで頼りにされてよろしくってよ! ただし、対価は後日いただきますわ」

 カサンドラと視線を交わし、カラメルネーゼさんにお願いをしたところで彼女が何か企んでいる顔をしていたが見なかった事にした。

「ッヨイさま。何かあればあなたの決断で物事を決めてくださって構いません。出来るだけ早く戻りたいと思いますが、次にリンドルに来るときは、アレクサンドロシアちゃんも必ず連れてきます」
「了解なのです。ッヨイはゴルゴライ方面の動きも気になっているのです、そろそろブルカ辺境伯が何かを仕掛けて来る気がしてならないのです。今頃ブルカ伯は怒りんぼうになっているのです……」

 ッヨイさまは小さな瞳を俺に向けて、ゴルゴライについての心配事を口にした。
 俺は行きがけこそ通過するだけになってしまうけれど、ゴルゴライは往路復路ともに必ず経由するポイントだから気を配っておく事は出来る。

「わかりました。リンドルを目指す際に、改めて情報を集めようと思います」
「よろしくなのです!」
「それからエルパコ。シェーン子爵の動きには特に注意をしておいてくれ、今回こんな事になったので拗ねてサルワタの外交団に嫌がらせをしてくることもあるからな」
「わかったよ。シューターさんも船酔いしない様に、気を付けてね」
「おう、男は黙って水兵さんだ」

 ハーレム大家族一同でリンドルにある河港にやって来た俺たちは、ここから船でセレスタの河港へと向かう予定をしていた。
 現地では男装の麗人ベローチュが手配してくれた男色男爵の軍船が待機していて、そこからさらにゴルゴライの近くまで輸送してくれる手筈になっていた。

「しかし、朝一番の手配でよく船が用意できたな。聞いたら船はもう少し遅い時間に出向するのが普通らしいじゃないか」

 街の中にある市場がひと段落する時間。
 つまり午前八時から九時ぐらいになると河港を出港するのが通例らしい。その事を船着き場に集まった船頭たちに聞いたものだから、俺はそんな感想を抱いたのである。

「そこのところは安心してちょうだい。この船はオッペンハーゲン公商会の持ち船なのよ、カラメルネーゼさんが交渉して、特別に持ち出してくれたんだわ」
「マジかよ……」

 そんな解説をしてくれたのは雁木マリである。
 彼女も本当はサルワタに駆け付けたそうな顔をしてこちらを見ていたけれど、彼女には騎士修道会の代表者としてここリンドルに居残る責務がある。

「あたしがいないんだから、絶対に無茶はしたらだめよ。ハーナディンもイティオもスウィンドウも、医療技術はあたしより数段劣るんだから」
「わかっているさ。怪我をしたら三人がかりで治してもらうか」

 俺たちがこれから乗り込む船は、全長二〇(たけ)という、まあそこそこの大きさがある貨客船だった。
 人間の平均身長を基準にしている長さらしいので、大体三六メートルぐらいの船という事だろうか。
 海を渡る船だと思えば小さな部類だろうが、川幅二〇〇メートルそこらの河川を下る舟艇としては十分にしっかりとした造りだと思う。
 この船に、野牛の一族から借り受けている馬の中でも特に脚の丈夫な四頭、それから修道騎士ハーナディンの馬が運び込まれて、船倉に連れていかれた。

「先日は楽しい夜会をありがとうございました。ご挨拶が遅れてしまいましたが、本日のご案内をさせていただきます、みなさんははじめましてですね……クロードニャンコフです」

 そんな風に積み荷をあわただしく運び込んでいた水夫たちをかき分けて、高価なローブを身に纏った一人の男が前進してくる。
 彼はオッペンハーゲン公商会でリンドル副館長をしているクロードニャンコフ氏だった。

「し、知らないこととは言え、失礼しました。今日はお世話になります」
「いえこれも大同盟のために必要な事ですからね。ご協力は当然のものと言えましょう」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

 クロードニャンコフ氏に改めて俺が頭を下げると、そのタイミングで家族そろってペコペコした。
 何という腰の低い家族だろう。というか、別に俺だけやればいいのに、そろってみんなが頭を下げるので、水夫のみなさんが不思議そうな顔をして俺たちを見守っているではないか。

「ではそろそろ出立します。みなさん、お見送りの方は渡し板から離れてください!」

 水夫さんの大声が周囲に響き渡って、急ぎ足でハーナディンと女魔法使いが船の飛び乗った。
 俺が最後にカサンドラに手を振っていたところで「ご主人さま行きますよ」と男装の麗人に腕を引っ張られてしまったではないか。

「閣下。この船は貨客船の風体をしていますが、オッペンハーゲン領地への連絡船として使っている脚の速い構造の早船です」
「ほほう。足の速い船ですか……」

 その代り貨客船というわりに積載できる荷物はいささか少ないですがね。と、船の説明をしてくれるクロードニャンコフ氏に相槌を打つ俺。
 離岸していく際に、俺はそんな言葉を聞きながら港からいつまでも手を振っているカサンドラやエルパコたちの姿を眺めていた。俺も時々、大きく手を振って見せる。

「あのさシューター閣下。今生の別れと言うわけでもないんだから、いつまでも名残惜しそうに手を振るのやめませんか……」

 振り返ると、とても嫌そうな顔をした女魔法使いがいた。長い黒のローブのすそを積まんで、さっさと船室に入りたそうな顔をしている。
 こいつは空気が読めないヤツなので俺はあまり好きじゃない。

「お前は少し黙っていなさい。ご主人さまに意見をするなんてもっての他ですよ!」
「ですけどね、先輩。魔法使いはだいたい水辺が嫌いなんですよ、魔法が暴走しやすいし、精神集中しにくいし」
「ご主人さまが外を見たいと言った時が、自分たちが外を見たいタイミングなんですよ。お前は奴隷としての心得がまるでわかっていませんね」
「いいじゃないですか先輩。ニシカ奥さまなんて、お見送りにも顔を出さずに最初からお酒を飲んでましたよ」
「あのひとはいいんです。蛮族だから」

 後ろで男装の麗人と女魔法使いで争い事をはじめてしまったらしい。
 サルワタで起きた連続殺人事件のために急きょ引き返す事になった俺であるけれど、その随行員のひとりに選ばれた女魔法使いマドューシャである。
 圧倒的な魔法戦闘力を誇る彼女を連れていれば切り札になるだろうと思って連れてきたのだが、借金苦のこいつは金に汚い女だ。何かあればすぐに裏切られるんじゃないかと俺たちは疑っていたけれど、逆に俺の事を金づるになるとでも見ているらしく、女魔法使いは近頃媚びてきている。
 裏切らない保証にはまるでならないのだが、カラメルネーゼさんが女魔法使いにへそピアスを付けたのである。

「お前は奴隷である事をわかっていません。国法により契約した奴隷が脱走した場合、追手がかかりますからね。そこのところはわかっているでしょうね」
「逃げませんよそんなの! 逃げたら借金とあわせて二重苦になるじゃないですか。それより閣下からお金をせびるんです」
「やっぱり奴隷の立場を理解していない。ニシカ奥さまに教育してもらいましょう、船室に行きますよ」
「やめて、やっぱり外の風を感じていたいです。魔法使いは自然が大好きなのさ。……あン、へそピアスを引っ張るのは反則だから……」

 すごく恥ずかしい。
 隣でオッペンハーゲン商館の重鎮がいるものだから、俺はとてもバツの悪い気分になってしまった。
 身内の恥ずかしい姿は見られたくないものだ。

「…………」
「いや、火急の危機にも動じない部下のみなさんには驚かされますな」
「まったく恥ずかしい……」
「この後の予定ですが、おおよそ二刻あまり川を下りましたら、セレスタ河港に到着します」

 俺を案内する様に船室の方に進みながら、クロードニャンコフ氏は振り返った。
 彼は普通の商人という感じがしなかった。
 お会いするのはダアヌ夫人の主催した夜会がはじめてで、今回が二度目であるからさほど情報を持っているわけではないが、何となく感じたのは領民出身の商人ではなく、貴族あがりなのではないかという風だ。
 所作はどちらかというと、カラメルネーゼさんやマリアツンデレジアに似ていると思う。
 同じ様にお貴族さまの様な所作をする雁木マリのそれは、このファンタジー世界に飛ばされてから後天的に身に着けたものだろう。
 けれどもクロードニャンコフ氏にはちょっと優雅さがあった。

「本来ならばゴルゴライのギリギリ近くまでお連れしたかったのですが」
「いえいえ、ご無理を言って連れて言って頂けるのですから、それだけでも感謝ですよ」
「はい。ゴルゴライの付近になると、川の流れがかなり乱れますので、船足を早くする事を目的に設計されたこの船では舵の効きが悪いんです。そのかわり、あの辺りで船を使っているセレスタの軍船ならば、間違いないかと思いますよ」

 いくつかある船室のうち、上等な作りをしている個室の中に案内された。
 そこにはニシカさんが当たり前の様に座っていて、当たり前の様に手酌をしているではないか。
 すでに赤鼻をしていたので、出来上がってるなこの蛮族。

「よう、先に一杯いただいてるぜ」
「リンドルの酒もいいですが、オッペンハーゲンの酒もいいでしょう。南のワインはまた別格のはずです」
「おうオレ様は大概の酒は好きだが、この酒は飲み口がよくていいな」
「ニシカさん、何であんた客のくせに偉そうにしているんだ! すいませんクロードニャンコフさん」
「いえいえ、お気になさらずに」

 まったく、すいませんねえ。
 俺は黄色い蛮族に代わってクロードニャンコフ氏に頭を下げて謝罪したのだが……
 その後ニシカさんは船酔いになった。

「し、シューター、ゲロ壺をおくれよ。気分が悪い……」



http://15507.mitemin.net/i186889/

挿絵(By みてみん)
土さまより、ッヨイさまのファンアートを頂きました!
ありがとうございます、ありがとうございます。
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