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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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間話 ギムルの嫁取物語 9

投稿後、一部に加筆を加えました。
 農民たちを武装させ、予想外に激しい抵抗をしてみせたスルーヌ村長のトカイである。
 しかしそれには、ブルカ辺境伯の介入があった事を伺わせる人々の証言が得られるに至って、俺たちも義母上も納得をしたのだった。

「誰だそのツジンという男は?」
「それがですね。捕らえた騎士を拷問したところ、しばらく前にこの村にやって来たブルカ辺境伯の側近を名乗る男だそうですよ」

 冒険者エレクトラが、村長の屋敷を接収してくつろいでいた義母上に対してそう報告したからである。
 義母上はこの屋敷の客間だった場所を自分の居場所と定めると、俺たちの軍勢が立てた手柄、つまり死んだ敵の首を並べて満足に浸っているところだった。
 そこにエレクトラが村の幹部をしている女を連れてきたものだから、首実検はよほど効果がてき面だったのだろう。女幹部は震えていた。

「すでに村にはおらん、だろうの……どういう男だツジンというのは?」

 ソファから身を乗り出した義母上は、村の女幹部を睨んでそう質問した。
 するとエレクトラが村人を脅す様にして言葉を促す。

「さあ、ああなりたくなければ言ってみな」
「つ、つるりと禿げた頭に垂れた眉毛をした壮年の男ですだ。修道士の格好をしておりましたが、村に傭兵を呼び入れる手配をしてくださり、村長さまにサルワタの売女騎士がこの領地を狙っていると教えてくださったのです」
「何っ、今わらわを売女と申したか!」
「ヒィお許しをっ」

 義母上が声を荒げたところでその場で失禁してしまった女幹部は、自分がした粗相の水たまりの広がりがそこにあるのも気にせずに、頭を床にこすり付ける勢いで命乞いをした。
 売女という言葉に反応して義母上が剣を引き抜いたものだから、自分もテーブルに並べられた戦死者と同じ様に首だけの存在になるとでも思ったのだろう。
 激昂したものの村の女幹部を蹴り飛ばしただけで満足した義母上は、剣の腹で生首の頭をぽんぽんと叩きながら、ぶつぶつと言葉をつづけていた。

「辺境伯は、どこでわらわたちの行動を掴んで居るのか。わらわたちがサルワタを最初に出立したのは、夏の到来を知らせる嵐の後だ。それからまだ日もさほど経っていないというのに、動きが早すぎる。どう思うか、修道騎士どの?」
「そうですな。アレクサンドロシア卿の領地であった助祭マテルドたちの事件の事を考えると、何れ近々に辺境のいくつかの領地を攻め滅ぼすつもりがあったのかも知れません。ツジンという修道士については、お恥ずかしながら俺はその名前を聞いたことがありませんね」

 修道騎士イディオは水たまりに頭をこすり付けている村の女幹部を見下ろしながら、そんな風に説明した。
 エレクトラが状況を補足するために言葉を添える。

「この者の言葉を纏めると、そのツジンというのがスルーヌの村を訪れたのは、あたしたちがゴルゴライを占領する前の事でした。おい、そうなんだよね、アンタ?」
「そ、そうです。ツジンさまが村長のところに訪ねて来られてしばらくすると、ゴルゴライのご領主さま一家が滅ぼされたと知らせが来たもんだから、おらたちは覚悟を決めたのですだ」

 謎の修道士ツジンが現れたと思ったらサルワタの襲撃を説いた。しばらくすると実際にゴルゴライがサルワタによってあっさりと攻め滅ぼされ、ツジンは「それ見た事か」と言い、村人たちは「次は俺たちの番だ」と恐怖したのだと言う。
 それもこれもツジンさまが村の広場で扇動したからですだ。と、村の幹部は言い訳をつらつらと述べたのだとか。

「その時にはすでに傭兵たちを引き連れていて、必ず次はこの村に来るからと言ったんだね?」
「そうですだ。事実そうなったんですだ……」
「ちなみに村長さ……アレクサンドロシアさま。ツジンなどという修道士を、イディオ卿と同じくこの村の司祭さんも知らないと言っています」
「ふんッ。旅をするのに都合がいいから、坊主の格好をしていたというところだろうかの。だがこれでひとつ大事な証言を得たではないか。ブルカ辺境伯は、わらわたち周辺の軽輩領主同士が互いに争って、弱る様に工作する人間を送り出していたのだろう」

 義母上は生首を弄ぶのに飽きてしまったのか、剣を鞘に納めてエクセルパーク叔父に視線を向けた。

「この村の後始末はエクセルパーク、そなたに一任するとしよう。何れ確かな代官を任命す故、しばらくはお前にお願いできるかの?」
「我がクワズとスルーヌは領地も隣接していますし、もちろんご命令とあらば嫌も応もありません。しかしそれでは義姉上、トカイはどうするのですか?」
「首を刎ねるのは簡単だが、大切な証人だ。後でイディオ卿に尋問をしていただいた後に、物見の塔の地下牢にでもぶち込んでやればよい。それと……トカイには確か娘がいたな。人質に取る故、明日にでもその者をサルワタに連れて帰るぞ!」

 俺たちはその言葉に、右胸を付いて臣下の礼を取った。
 叔父上などは、家格は違えど同じ辺境領主という立場であるのに、その態度は明らかに支配者に対する格好だった。

     ◆

 義母上を応接室に残したまま、俺たちは村から撤収するための準備に取り掛かった。
 トカイの娘というのを早々に捕まえなければならないのだが、この屋敷にそれらしきトカイの家族がいないのである。
 すぐにも先ほど証言をした村の女幹部を捕まえると、俺は質問をする。

「おい、お前は名前を何という」
「クレメンスですだ」

 訛りの強い口調で女幹部は自分の名前を口にした。

「よしクレメンス。次からは俺の義母上、アレクサンドロシア準女爵さまの事を間違っても売女などという事は許さん」
「はっ、はいだす……けど、おらが言ったんじゃないだす。村長さまやツジンさまがそう言ったんだす」
「トカイやツジンと言うのは、どういうニュアンスでそう言っていたのだ? 貴様も村の幹部であるのなら、その辺りの事は前々から知っていたのだろう」

 屋敷の前で誰かに聞かれていないかと心配したのか、女幹部クレメンスは周囲を見回して俺とエレクトラに耳打ちした。

「サルワタの女騎士さまは夫を二度も変えて、しかも何れも死別している悪女だと村では噂していましたのだ。そんだけじゃねえ、今でも女騎士さまに取り入るためにあちこちのご領主さまが恋文を届けているだの、男が屋敷に寝泊りしているだの、全裸を貴ぶというよそ者の男を囲っているとも聞きましただす」

 それ故、どうやら近郊領主の連中は義母上の事を売女と呼んで蔑んでいる風情があったというのだ。
 恐らく恋文を熱心に送っていたというのは、ハメルシュタイナーの事だろう。他にもそういう者はいたと思うが、それらは義母上が王都で騎士をしていた時代の同僚だったはずだ。
 それから男が屋敷で寝泊りしているというのは、どうせ義母上に懸想した行商人が、追い出された腹いせにまき散らした風聞の類だろうな。
 全裸を貴ぶ男というのは、これは間違いなく義父シューターの事であっている。

「義母上は美しくも高潔のひとだ、その様な噂に今後一切惑わされる事無く、新たな領主となった義母上アレクサンドロシア準女爵さまを裏切るなよ……」
「はいだす。もうおら、こんなおっかねえのは嫌だす」

 股を濡らした女幹部にひとつ忠告したところ、胸を撫でおろしてみせた。
 残念ながら女幹部クレメンスは義母上やタンシエルとは違い、撫でおろした胸がとても貧相だった。

「いつまでも股を濡らしたままでは貴様も格好がつかないだろう」
「はいだす。着替えてもいいだすか?」
「え、エレクトラ。この女が着替えを済ませたら、トカイの娘を捕縛するために捜索する事にする」

 エレクトラは「わかりましたギムルさま」と言って、女幹部の手を引いた。その時、

「か、顔はおらが知っているだす。村長さまの命令で、お嬢さまは教会堂に逃げ込んでいたので、そこに行けば会えると思うのだ」
「色々と考えた事をするもんだね、あんたのところの村長さまも」
「はい、これもツジンさまのご指示のたまものだす」

 振り返ったクレメンスが股をモジモジさせながらそう説明をしてくれた。

「いいから早く服を着替えこい。直ぐに戻ってくるのだぞ!」

     ◆

 果たしてクレメンスが言葉にした通り、トカイの娘は教会堂に潜伏をしていた。
 父トカイが物見の塔の地下牢ならば、その娘は教会堂にある冷暗の教化部屋という賢しらな有様だった。
 どちらも聞けばブルカ辺境伯の使者を名乗る似非坊主ツジンの作戦だったという。もしも義母上に対する抵抗に失敗した場合、

「おらが聞いた限りでは、少しでも時間を稼ぐために村の中に潜伏しているのがいいと、ツジンさまが言ったのだす。そうしているうちに(ブルカ)のご領主さまが援軍を送ってくれるかもしれないだとか」
「馬鹿めが。辺境の小競り合いにブルカ辺境伯が介入するなど、早々はないだろう」

 だがそういう口上で、義母上をこの土地に張り付かせようという作戦だったのは頷ける。
 俺たちが近隣領主と小競り合いをして疲弊して、そして時間を無駄にしている間に、ブルカ辺境伯は次の手を打って来るのだろう。
 ツジンと言ったか、その似非坊主がシューターの向かった辺境諸侯の外交先で、スルーヌでやった様な吹聴をして回っているかも知れない。
 あるいは何れ来たる開戦の準備か……

「ギムル卿、司祭のご協力で教会堂内の包囲は完了しました。ネズミ一匹逃げだす事は出来ません」

 想像を働かせているところに、イディオ卿が報告をしてくれた。

「よし、族長。踏み込むか」
「わかったぞギムルよ。お前たち、ご領主の命令で蛮族の娘を連れ出せ。女は人質にするらしいので、暴れても傷ひとつつけずに捉えるのだ!」

 野牛の兵士たちが教化室に飛び込んだ時、中に潜んでいたトカイの娘はその父がそうであった様にわめきちらしながら村の広場へと引き立てられてきた。
 捕縛の際は案の定抵抗してみせたので、こういう扱いに恐ろしく手慣れていた修道騎士イディオ卿が飛び出して、腕をねじりあげてしまう。

「後生だから、許してクレメンス!」

 領主の娘というフレーズから、俺は若い女を連想していた。
 しかしそこから出てきたのは美しい義母上と見比べても、あまりにも違っていた。
 カサンドラかタンヌダルクかで比べれば、ジンターネンのばあさんだ。

「おい女、あれがトカイの娘という者なのか?」
「そうですだ。アンギッタさまです」

 若い女ならば人質としての価値もあるだろう。
 あるいは義母上の様に美しく齢を重ねた大人の魅力ある女性であるなら、領内の有力者の元に嫁がせるという計画を、義母上がお立てになるかもしれない。
 しかし、アンギッタは違った。

 あまり人質として役に立たない中年の女とわかって、義母上はひどく不機嫌になってしまった……
許してクレメンス!
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