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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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閑話 ギムルの嫁取物語 4

「その方ら、待ちわびたぞ!」

 義母上を見て即座に馬を下りた俺たちに、労いの言葉が向けられる。
 まずエクセルパーク叔父が貴人の礼にのっとって右手を付いて首を垂れると、野牛の族長タンクロードバンダムも人間の習慣に合わせてかそれに倣う。
 衆目の手前、義理息子である俺も家臣として振る舞う事が求められるだろうと考えた俺も、それに続いた。
 馬を下りた野牛の兵士どもは、片膝を付くという念の入りようで恭順の姿勢を示したのである。

「ご命令によりこのエクセルパーク参上つかまつりました。アレクサンドロシア義姉上におかれましては、ご機嫌麗しゅう」

 しかしクワズ領主である叔父が臣下の礼の様なものをとるのには違和感があった。
 叔父は騎士爵の身分でサルワタ領主とは同格の立場だ。この小柄な叔父とお会いした事があるのは親父の葬儀があった時、それから何度かブルカに向かう折に宿を借りた事がある程度だ。
 あくまでも対等な領主間の付き合いがあったと思うが、今の叔父はそう振る舞ってはいない。

「おお、エクセルパークか。立派な男子になったな、お義父さまお義母さまはご健勝であるか」
「おかげさまで日々をつつがなく過ごしておられます。ギムルくんも、たいへん立派になられたようで、さすがアレクサンドロシア義姉上でございます」
「わらわに世辞などはいらん。野牛の族長とその一党も、苦労をかける」
「フンス、我ら誇り高きミノタウロスの一族は、義理を重んずるのだ。戦争と聞けば、これはただ事ではないからな」
「その辺りの事を屋敷で説明する。よし付いてまいれ」

 そう言って身を翻した義母上のすぐ横に、叔父が並んで歩いた。
 族長タンクロードバンダムと俺は顔を見合わせながら、背後の野牛の兵士たちに付いてこいと指示を飛ばす。

「ゴルゴライを占領とは穏やかではありませんな。いったい何があったのです?」
「実はハメルシュタイナーめの発議で、家中の人間が武力解決手段(フェーデ)を行う事になったのだ」
「フェーデですか。まさかそれによってゴルゴライ領主の一家がみな死んでしまったので……?」
「話せば長くなるのだが、まあ、あの破廉恥領主の嫡男であるナメルシュタイナーという男だけは取り逃がしてしまったのだ。これがブルカ辺境伯のもとに走ると、非常にまずい」
「確かに、それはまずいでしょう」

 前を行くふたりの話に耳を傾けながら、俺たちは村の中を見回しつつ進む。
 以前この村に訪れた事があるのは、やはりブルカに向かう旅の途中であった。その時は荷馬車に揺られながら村の幹部とふたりで一夜の床を借りるべく宿屋に宿泊したのを覚えている。
 サルワタの森の方面に向かうここから先の田舎道は寂れていて、行商人もほとんど定期便しか運んでこないような寂しい自然の風景しか見る事が出来ない。
 だが、ここを経由してリンドルへと向かう道は、船着き場に向かう人間やリンドル往還で輸送物資を運ぶ人間がいて、当時訪れた時にはそれなりに活気ある風情だったはずだ。

 それがまるで閑散としている。
 村の家々は身を寄せ合う様にして立ち並んでいるけれど、ひとの気配はこの村の住民以外に見かける事は無かった。

「それで村長、フェーデの原因は何だったのです?」
「あのハメルシュタイナーめの、いつもの難癖さ。それはな、」

 気になるところだ。
 外の人間が村にいない理由と、何か関係があるのではないかと俺は思って質問した。

「入浴中のカサンドラとッヨイを覗き見しておる破廉恥な男がおったのだ。それがハメルめの次男坊でカフィアシュタイナーという若者だった。その事に気が付いたニシカが、気配に向かってナイフを投げ飛ばしたのだ」

 それが運悪く、カフィアシュタイナーという男の尻に刺さったのらしい。
 宿屋の前を通り過ぎるタイミングで、義母上が側にある大きな木を指さした。

「おおかた、その樹の上から覗き見をしていたのだろう。ナイフが刺さったハメルの次男は地面に落ちて、怪我をしたそうだ。ハメルめはあろう事か、自分の馬鹿息子は木登り遊びをしていて尻にナイフを刺されたと言い訳しよったのだ」

 ハメルシュタイナーという男を義母上が嫌っている事はよく知っている。
 親父の葬式があった夜には、義母上に言い寄ってきた不貞者であるから当然だとして、まさか死んでしまったとは。

「しかし、フェーデにハメルシュタイナーが出てきたとは驚きですね。
「まさかな。あの卑怯者のハメルシュタイナーは、当事者である次男はともかくとして、長男と巨大な猿人間をけしかけてきよったわ。あっはっは、それでもわらわたちが勝ったのだから傑作だ」
「な、なるほど」
「いけ好かんハメルめは、あろう事か自分の切り札にしていた巨大な猿人間に捻り殺されよったからな。これが笑わなくていられるか。ん?」
「フンス、蛮族にふさわしい末路だな」

 愉快そうに笑う義母上に釣られて、族長タンクロードバンダムも鼻を鳴らして見せた。
 俺としては、気が気でないという気持ちでいっぱいだった。同じことを感じていたらしい叔父がおずおずと義母上を見上げながら質問する。

「……ま、まさか義姉上もご出馬なされたので? ご無事で何よりです」
「いや。こちらからフェーデに出たのはわらわの夫と鱗裂きのニシカという猟師、それに貴族軍人時代の同期だったカラメルネーゼという騎士爵だ。何れも武芸に腕のある者たちだから負けるとは思わなんだが」

 さすがに騎士の心得がある義母上であっても、命に係わる勝負は家中の人間に任せたか。
 いや、聞き流してはいけない発言がそこにはあった。

「な、なるほど。いや、お待ちください」
「何だ、屋敷はもう目の前だから、続きはそこで話せばいいだろう」
「そうではなく、そうではなく大切なご発言を義姉上はなさいました。今、夫という言葉をお口になさったようですが、ご結婚成されたのですか?」
「ああそうか、そうであった」

 近頃は色々とありすぎて、何から説明していいのかもわからん。そんな事を苦笑した義母上が、珍しく少し顔を赤らめて俺たちを見回した。

「ギムルよ」
「はっ」
「わらわはシューターと再婚したから、そなたも以後はシューターを義父として孝行せよ。いいな」
「は?」

 俺は驚きの言葉を漏らしてしまい、隣のタンクロードバンダムはニヤリという顔をしていた。
 状況をまるでわかっていないエクセルパーク叔父は、さらに口をあんぐりとあけて俺と野牛の族長、それから義母上を交互に見回しているのだった。

     ◆

「みなの者に紹介しておこうと思う。こちらは騎士修道会の修道騎士、イディオどのだ」

 かつてゴルゴライの領主館だった場所に、俺たちは集まって義母上を囲んでいる。
 ここには安楽椅子に腰を落ち着けた義母上と俺、野牛の族長、それからエクセルパーク叔父、さらには騎士修道会の法衣を着た男までが控えていた。

「お初におめにかかる、修道騎士イディオです。総長カーネルクリーフのご命令で、アレクサンドロシア準女爵(バロネテス)の援軍に参りました。先発として騎士小隊と従士分隊を率いてまいりました。ゴルゴライの守備は我らにお任せください」

 イディオと名乗った男は、野牛の兵士とは違い痩せていて、けれども体の筋はよく発達していた。
 例えるならシューターの様な筋肉の付き方で、あの男の事を連想させる。

「義母上、つまり騎士修道会との協力関係については、無事に取り付ける事が出来たので?」
「そうだの。騎士修道会は、血縁によって結ばれた同盟関係となる事を要求してきた。従ってガンギマリーどのとシューターとの間で婚約をすることにしたのだ」

 俺たちはその言葉を黙って聞いている。

「だがシューターはわらわの部下であるから、これは貴族の作法に照らし合わせれば家格のつり合いがとれぬ。そこでわらわは、シューターとの結婚をする事に決めたのだ。あ、あれは使える男だ、わらわは簡単に手放すつもりなどないからな。ギムルに異存はないな?」
「も、もちろんです」

 呆気に取られている俺たちを前に、義母上はなおも続ける。

「こちらはギムル、我が義息子だ。何れそう遠くない時期にわらわの跡をついでサルワタの騎士爵となるだろうから、そのつもりでいてくれ。わらわは準女爵の爵位を手に入れたからな、それを名乗るとしよう。騎士修道会との同盟が永遠のものである事を示すためにも、世襲を示す事は必要だろうの」

 わずかの間にいくつもの情報を詰まった事を義母上はつらつらと述べる。

「ギムル、イディオ卿に挨拶せよ」
「アレクサンドロシアの息子、ギムルです。母ともどもよしなに……」
「立派な青年ですな。これで我らの同盟も安泰でしょう」
「ど、どうも」

 満足した表情を浮かべた義母上は、さらにエクセルパーク叔父と族長タンクロードバンダムに自己紹介する様、促していく。
 俺は義母上の言葉を反芻して、少しでも理解しようと心がけた。
 義母上が、シューターと結婚する。
 俺もその事は考えていただけに満足する結果のはずだった。義母上は貴族だ。それが独身であるという事は世間に対し格好がつかないと俺は常々考えていた。
 だが、誰でもいいというわけではない。このゴルゴライを支配していたハメルシュタイナーなどは最悪の例で、絶対に義母上を渡してはならないと考えていた相手だった。

「時にタンクロードよ。そなたの連れてきた兵士というのはあの騎兵どもだったな。随分と無理をして数を集めたようだが、あらためて感謝せねばなるまい」
「フンス、ご領主。あれは第一陣の中で騎兵のみを集めた先発隊だ。後には歩兵どもが続いているから安心してくれ」
「ほう、数はどれぐらいになるかの」
「ざっと二〇〇といったところか。同様の数を率いて、第二陣までは用意する事が出来るが、どうする?」
「二〇〇! そ、それはまた大変な兵力であるの……むむっ」

 シューターの事はいけ好かない人間だと考えていたが、義母上が特に頼りにしている姿を見るにつけて少しは考えを改める様になった。
 少なくともシューターの義母上に対する忠誠心は本物だと思ったし、命を張って義母上を助ける姿はこの眼に焼き付いている。
 ワイバーンの前に飛び出して義母上を庇った姿は本物だ。その時の俺は恐ろしくなって、失禁しそうになってしまったほどだ。いや、した。
 シューターは間違いなく、義母上にふさわしい男であるのに。
 どこかに俺は寂しい気持ちの様なものがあった。

「そなたは、何をぼけっとしているのだ!」

 義母上の激昂する声が俺に突き刺さる。気が付けば安楽椅子から立ち上がった義母上が拳を握りしめて、俺の腹を叩くではないか。

「みなの前である。後継者たるお前がその様な姿では、示しがつかないというものだぞ。シャキっとせよ!」
「は、はい失礼しました、村長」
「うむそれでよい」

 義母上にあわてて頭を下げた俺の背中に、エクセルパーク叔父と族長タンクロードの手が肩に置かれ、慰めてくれていた。

「わ、わかるよ。俺も正直なところ動転しているんだ。まさか義姉上がご再婚なされたと聞いたからね。シューター卿という方はどんな人物なんだい?」
「婿殿は辺境随一の戦士だぞ。何しろこの俺を倒したのだからな」

 フンスッスッス!
 これは義母上に、俺たちの結婚の報告をするしかあるまい。
 俺は密かにそう思った。

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