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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第1章 気が付けばそこは辺境の開拓村だった

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21 青年ギムルと少し打ち解けた気がします


 青年ギムルの部屋を訪ねる。
 時計のない生活を続けているので時刻は定かではないが、体感的には陽が落ちて一、二時間というところだから、春なら八時頃だろうか。

 ドアをノックして「入れ」という言葉を聞いてから、中に入る。

「失礼します」
「待っていたぞ」
「先ほどは恥ずかしいところをお見せして……」
「全裸のお前でも恥ずかしがる事があるんだな。驚いた」
「ちょっとやましい気持ちがあったから、ですねえ」

 俺はテレテレしながらドアを閉める。
 青年ギムルは筋骨隆々の体を縮こめて、安っぽい机に向かっていた。手元には蝋燭と紙。

「冒険者ギルドに提出する書類を書いていた」
「遅くまで大変ですね。おふたりを受け入れる件ですか?」
「違う。それは口頭でいい。まあ座れ」

 寝台を指示したギムルに従って俺は腰を下ろした。

「お前をギルド会員に推薦する書状だ」
「……あれ、村長さまのご許可を頂いてからという話だったんじゃ?」
「お前が残るなら、日銭を稼ぐ必要がある。それにお前も冒険者を経験しながら人集めをした方がいいんじゃないか。義母上には俺から言っておくので安心しろ」
「なるほど、お気づかいありがとうございます」
「書状は、ギルドには俺たちの村出身のコミュニティーもあるので、ギルドとそこへの顔つなぎだ」

 青年ギムルは俺に紙面を寄越した。ここはファンタジー世界なので羊皮紙を期待したところだが、再生紙みたいな出来の悪い麻紙だった。いや再生紙よりも程度が悪いな。
 モノの本によれば、エジプトのパピルスは非常に手間のかかる工程を踏むので、あまり量産には向かなかったらしい。してみると、これは別の技術で作られているのだろうか。

 ところで俺には、見せられた紙面の文字が、

「読めません。何と書いてあるんですか?」
「サルワタの開拓村で猟師をしているシューターという男と、ニシカという女をよろしく頼むと書いてある。ふたりは出稼ぎに来ているのでしばらく街に滞在する費用を稼ぐ必要があるとな。それから俺の代理人である旨も書いてあるので、悪さはしないように」
「も、もちろんです。ギムルさんにご迷惑はおかけしない様にします」

 俺はあわてて苦笑いした。

「それで、もしよろしければなのですが。妻に伝言をお願いしたいのです」
「ん、何だ言ってみろ」
「妻はその、字は読めないでしょうか」
「お前の嫁なのにそんな事も知らないのか。読めないだろう」
「何しろ新妻ですので……」
「チッ、夫婦そろって無学め」

 もじもじしながら俺が返事をすると、ギムルは悪態をついて新しく小さな紙を用意した。インク壺に羽根ペンを付けて俺に向き直る。

「言え。俺が代筆してやる」
「え、でも。妻も読めないんですよね?」
「俺が代読してやる。早く言え」

 とんだツンデレ青年である。
 本当にデレて欲しいのは女子だけなんだけなんだがなぁ。

「前略、カサンドラはお元気ですか。こちらはよろしくやっております。ブルカの街はとても大きいです。夜も灯火があちこち溢れて、都会の雰囲気に圧倒されますが、飯はカサンドラの作ったものが一番です。ところでギムルさんの命令で街にしばらく滞在す――」
「長い。紙は貴重だ、短くまとめろ」
「は、はい……」
「早くしろ」

 所要により滞在延期となりました。早く逢いたいですがこれも役務です。愛する妻へ

「こ、これでいいですか。てれてれ」
「いいだろう」
「明日、妻に土産を買いますのでそれと一緒に渡してやってください。何がいいかな?」
「赤鼻に聞け」

 そう言って手紙を乾かすために放置すると、ギムルは向き直って酒の瓶を出してきた。

「さて、話しがあると言ったが」
「き、聞きましょう?」

 青年ギムルが改まった顔をするので、俺はちょっとビビった。
 もしや前々から俺の事が気に入らなかったとかそんな事を言い出すのではないか、と思ったのだ。
 俺が村にやって来た頃のギムルは、俺を警戒して、確実に嫌がらせをやっていた様な気がする。
 今でも、女村長が俺に目をかけている事について、あまりいい気分ではないのかもしれない。
 何か釘を刺されるのだろうか。

「呑むか」
「いただきましょう」
「いつぞやぶどう酒を奪ったわびだ。遠慮なく呑め」
「ああ、あれはギムルさんの顔が潰されておあいこだったじゃないですか」
「それでは俺の気持ちがおさまらんからな」

 ずいとぶどう酒の瓶を進めてきた。
 ここまでされたら呑まないのも悪い。この世界のビールはまだ馴染まないので、不味い皮かすだらけのぶどう酒の方が俺の口には合う。

「俺たちの村は、荒れ放題の山野から親父と跡を継いだ義母上が三〇年にわたって切り開いてきた場所だ」

 ギムルが酒を舐める俺を見ながら突如語りだした。

「ええ、伺った事があります」
「何も無ければ、俺か、弟か妹が継ぐことになるだろう」
「まあそうですね。ギムルさんにはご兄弟がおられましたか」
「今はいないが、後日はわからぬ」
「あれ、失礼ですが村長さまは石女(うばづめ)なのでは……」
「義母上が言ったのか?」

 ジロリと見られて俺は委縮した。
 確か商会のゴブリンも言っていたし、この事はッワクワクゴロさんも知っていた事だ。
 顔をそらした瞬間に、筋骨を揺さぶってギムルが面をしかめた。

「あの猿人間が言ったのだな。口の軽いゴブリンめ」
「も、黙秘します」
「いい。だがそれは事実ではない。もしかすると義母上は言い寄る人間を避けるために、そういう噂を流したのだろう」
「するとギムルさんは村長さまが石女ではないと?」
「当たり前だ。もし石女ならば教会堂の助祭が治療にあたっている」

 言葉を区切ったギムルが、自らも酒の瓶を口に運んでひと息ついた。

「はっきり言う。俺はよそ者が嫌いだ」
「…………」
「村は俺たちの家族が育て上げてきたものだ。村人は俺たちの家族だ。よそ者はそれを、俺たちから奪おうとしている」

 押し殺した声でギムルが言ったのを聞いて、俺はとても恐ろしくなった。
 何か過去の経験がそう言わせているのだろう。

「義母上がまだ若いというのをいい事に、周辺の領主や村長たちが、義母上に言い寄って来たこともある。騎士と名乗って己を売り込んできた馬鹿者もいた。それらは俺が力づくで排除した」

 ギムルは剣の腕こそ素人剣法だったが、この通り筋骨隆々で腕っぷしは確かだ。称号だけは騎士の下手な男よりは確かに強いだろう。

「だから俺を警戒していたのですか」
「その点はすまん事をしたと思った。お前はただの全裸だった」
「ただの全裸でしたね。何の意図もなく林の中をさまよっていましたから……」
「俺に協力しろとは言わん。義母上に協力してくれ。俺は亡き親父と義母上を敬愛している。村の開拓は俺たちの手で成さねばならん。誰にも、渡す気などない」

 なるほどこの男。前々から思っていた様に相当のマザコンだった。
 まあ美人で切れ者の義母上だ。歳も近ければお姉さんとしての憧れも相当だろう。
 そして俺に協力しろかぁ。
 俺にできる事なんて、たぶん猟師ぐらいじゃないのかな。あと空手の指導ができます。
 妙に熱い視線を送って来るギムルに俺がきょどきょどしていると、

「バッカそれじゃまず、お前が嫁さんもらって義母ちゃんを安心させることだな。孫ができたら村も安泰だぜ」

 突然ドアが開いて、赤鼻もとい鱗裂きのニシカが入って来た。今は黄ばんだブラウスにヒモパン一枚だけのラフな格好である。

「と、突然何を言い出すのだ。貴様はどうしてここに来た。これは男同士の話しだ!」
「お前ケチケチしすぎなんだよ普段から。よぉシューター、これ豚鼠の団子な、下の食堂でもらってきてやったぜ。あとビールだ!」

 その金は誰が払うんだ。もしかしてツケか。俺のサイフをちょろまかしたのか?!
 乱入して来たニシカさんは団子とビールの小樽をかかえてドカリと寝台に座ると、

「なんでオレだけノケもんなんだよ。酒呑むなら誘えよなぁ!」
「赤鼻さん酒の匂いには敏感ですね」
「お前はお呼びではない。帰れ」
「うるせぇ! 男はみみっちい事をうだうだ言うな。シューターにわびるのか、協力してもらいてーのかしっかり決めやがれ!」

 ニシカさんが俺にウインクひとつ飛ばして笑って見せた。
 ウィンク? あれ、ニシカさんアイパッチ外してるわ。

「あれ、ニシカさん眼帯は?」
「あー顔洗った時についでに洗って干してきたわ。んな事はどうでもいい」
「いいんですか……」
「それよりこの男、義母ちゃんを他の男にとられるのが嫌なんだぜ。笑っちゃうな!」

 とても嫌そうな顔をしたギムルをニシカさんが茶化していた。笑うたびに、ぼよよん揺れよるわ。やめろ、俺の肩に腕を回してくるな!

 こうしてろうそく一本で遅くまで酒を飲み、俺たちははじめての街の夜を明かした。

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