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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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181 デート・サバイブ 10


 リンドル城の支配者マリアツンデレジアに促されるままに向き合って俺は着席する。

「彼は我が家中のお抱え芸術家、ヘイヘイジョングノーという者です」
「お初にお目にかかります、御台さま。わたくしはシューター卿の家臣、芸術家のヘイヘイジョングノーと申します。絵画や建築設計を専門とさせていただいております。以後お見知りおきを」

 俺がソファの後ろに立ったヘイジョンさんを振り返って紹介をすると、くせ毛を抑えていた帽子を取ったヘイジョンさんが、優雅に挨拶をして見せる。

「まあ、サルワタのご家中には色々なご家来衆がおりますのね。魔法使いに修道騎士や軍人。それに芸術家」
「たまたまシューターさまとその奥さまにご縁がありまして、こうして家中の一員とさせていただく事が出来ました。芸術家とは本来、根無し草です。そんなぼくを拾ってご慈悲を与えてくださるシューターさまのご恩に報いるために、日々絵画の技術向上を志しております」

 日頃から女性の絵を描くために口が達者に鍛えられているのかもしれない。ヘイジョンさんはチラリと俺と目配せをした後に改めて向き直り、マリアツンデレジアに美しさをたたえる。

「実はこの度、リンドルの街でも絶世の美麗夫人と噂に聞こえた御台さまに、どうしてもお会いしたいとシューターさまにご無理を言って連れてきていただいたのです」
「わたしが、街の噂にですの?」
「ええ、もちろんでございます。つい先日もその噂話を嬉しそうにシューターさまがお話になっておいでで、ぼくなどはその絶世の美しさを是非にも一枚の絵に残したいと願いまして。もし御台さまがお許しくださるのであれば、その麗しきお姿をカンバスに描き留めておきたいものだと」

 よくもまあ歯の浮く様なセリフを、次から次へと並べ立てるものだ。
 俺はヘイジョンさんの口から飛び出す言葉に反応して、吹き出しそうになるのを必死で押さえた。
 背後でヘイジョンの隣に立っていたベローチュから、絹擦れの音が聞こえてくる。きっと男装の麗人も笑いをこらえているのだろう。
 案の定、向かいのマリアツンデレジアの背後に立っていた家令のじいさんも、執事っぽい恰好に似合わない背中を丸めた姿で脇を向いていた。あれはやはり吹き出しそうになっているのを、必死でこらえているに違いない。

「どうです、御台さま。彼がここまで言うのだから、ぜひあなたの肖像画をひとつ仕上げてみては。この様なご時世ですから、ブルカとの戦を前にご出馬の記念を残しておくのも、後世の歴史に名を刻むというものです」
「か、仮にもわたしは芸術の庇護者を自負しておりますの。そこまでお言葉をかけていただければ、悪い気はしないというものですわね……。ひとつ、ヘイヘイジョングノーさんに描いていただこうかしら?」

 顔は少しばかり上気している様だったけれど、マリアツンデレジアも乗り気であるらしい。
 お女中さんによって運ばれてきた、例の遠国産の白磁の茶器を手に取ると、モジモジと白磁器の縁を撫でていた。

「お任せください。このヘイヘイジョングノー、麗しきマリアツンデレジアさまのお姿をカンバスに再現してご覧に入れましょう」
「うふふ。それでしたら、二枚ほどご用意してくださらない?」

 俺がヘイジョンさんに内々で命じていたのと同じことを御台さまが口にしたので、俺たちはおやっという顔をしてしまった。

「それは構いませんが、どの様に致しましょう?」
「一枚はこのわたしの執務室の壁にかけるとして、もうひとつは是非、シューターさまにお持ちになっていただきたいですの。これもヘイヘイジョングノーさんをご紹介いただいたご縁というものだわ」

 なるほどそう来たか。
 てっきりシェーン子爵にも渡す様に指示するのかと思ったら、まさかの俺に対するプレゼントときたか。

「シューターさまには高価な白磁のゴブリン人形も頂いております事ですし、こうしてわたしの権勢の後ろ盾をしていただいているわけですからね。リンドルとサルワタ、わたしたちの協力関係を内外に示すひとつのキッカケになるかもしれません」

 今夜の話し合いの事を考えれば、とても幸先の良い申し出である。
 マリアツンデレジアはそう言って微笑を浮かべた後に、茶器になみなみと注がれたぶどう酒を少しだけ口に運ぶと、何やら女中を呼びつけて命令を飛ばした。

「芸術家さんのために、リンドル宮殿内に一室をご用意なさい。風通しがよく、明るい南向きの作業部屋がいいですの」
「はい、御台さま。仰せのままに」

 そんな女主従のやり取りを見守っていた俺の背後に、男装の麗人が身を寄せて言葉を小さく漏らした。

「上手くいきましたね」
「まあ、掴みは悪くないな」
「あとはご主人さまの度胸次第です。必ず篭絡してくださいね」

 女の口から篭絡なんて、簡単に言うんじゃありません!
 茶化す様に、だけれど本音のところでは是非にも成功させてもらわねばならないという言葉を含んでの発言だろう。
 もちろん、俺も考えた行動をするつもりだ。
 下手に体に触るだけで、仮初の愛でも呟いている事がバレてしまったら、今後の関係が最悪になってしまうからね。
 わかっている、と小さく返事をしながら俺は密かに息子の位置を調整した。

「さて、お前たちはわたしが良いと言うまで人払いを徹底するのですの」
「承知いたしました」

 ゴクリとつばを飲み込んで、退出していく女中おばさんや男装の麗人、そして警備の騎士たちを見送るのだった。

     ◆

「閣下はブランデーで大丈夫だったかしら?」
「さ、酒はビールじゃなければ何でもいいよ。特に気にしない」
「そうですの。ではご当地のブランデーをお召し上がりなさいな」

 全ての人間がマリアツンデレジアの居室から退去した後。
 薄地のガウンを揺らしながら奥の部屋に案内された俺は、言われるままに藤編みのイスに腰を落ち着けて、なされるがままにしていた。
 手づから盆に乗せた上等そうな酒瓶と酒杯を運び、甲斐甲斐しく俺に酒杯を持たせて、琥珀色の液体を注いでくれる。
 女くさい匂いが俺の息子を刺激する。
 息子は出番はまだかとひもぱんの中でもぞもぞしはじめていたが、やるべき事はやるにしても、そのまえにやるべきことがる。

「では、わたしも同じものを頂きますの」
「自由にしてください。ここはあなたの部屋だ」
「うふふ、そうですねえ。奥の部屋まで男を入れたのは、あなたがはじめてですよ」
「先代の子爵さまがおられるでしょう?」
「ジョーンは郊外の別邸には足しげく通ってはきましたが、リンドル宮殿にわたしを迎え入れませんでしたの」

 そんな棘のある言葉を口にして、ふっとマリアツンデレジアは微笑を浮かべて見せた。

「それで。この様な夜中にわたしと話をするという意味を、あなたはもちろんご理解した上で申し出たのですよね。いったいお話はなんですの?」
「まずはその話からしましょうか。聞いてくださるかな?」
「時間はたっぷりとありますわ。あなたがここにおられるという事は、閣下の奥さまたちも、ご了承済みという事でしょうし」

 はは、まいったな。
 上目遣いに俺を見やりながら、酒杯を両手に持ったマリアツンデレジアが、藤編みのイスに腰を落ち着けていた俺の隣に、強引に座り込んで来た。
 意外にも幼い顔をした年増の女というのは、とても妖艶だ。

「簡潔に言えば、あなたを援助したい。俺が言いたいのはそれだけですよ」

 御台さまの微笑む笑顔に視線を向けた俺は、出来るだけ真面目な顔を作ってそう言った。
 しかし、言葉選びを間違えてしまったかもしれないね!
 援助というととても聞こえの悪い響きがそこにはあって、マリアツンデレジア夫人は「まあ」と小さく声を溢してころころと笑って見せた。

「いたってストレートな表現ですのね。女神様の聖使徒というのは、どなたも直接的にモノを仰るのかしら?」
「も、もちろん言葉には意味がありますよ。あなたのリンドルにおける政権掌握のために、協力を惜しまないという意味だ。ダアヌ夫人が、ブルカとの対決を前にしても不穏な動きを見せている」
「辺境に並ぶもの無き武勇を誇ると噂の閣下が守ってくださるというの? 楽しみですの」

 そんな言葉を投げかけながら、マリアツンデレジアは俺の酒杯を奪い取ると、テーブルへと押しのけてしまった。
 そのまま俺の上等なお仕着せの服の上から胸板を触り……

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