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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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179 デート・サバイブ 8

仕事場のお引越しが落ち着きましたので、本日より更新再開です!

 風雲急を告げるとでも言うのだろうか、にわかに(リンドル)の中はあわただしい喧騒に包まれつつあった。
 理由はリンドルを支配する御台マリアツンデレジア第二夫人によって動員令が発布されたからである。

「冒険者ギルドで傭兵の足止めがはじまったぜ、募兵だ。受付のおっさんの話によると、それから農業ギルドでも農家の次男、三男坊の召集がかかったらしいな」

 翌朝の事。
 冒険者ギルドへ情報収集に出かけていたニシカさんが、そんな話をもって陽も登り切らぬうちにあわただしくリンドル聖堂の宿泊所へと駆け込んできた。

「いよいよ戦争準備が開始されたという事ですね」
「ああ。それから、リンドル河岸の港でも関所が設けられたぜ。城門と河岸、ふたつの場所で通る連中全員に厳しい検問だ。あれじゃあ野兎の一匹だって街に侵入するのは難しいんじゃねえか」

 ニヤリとして鼻を鳴らして見せたニシカさんの報告に、俺は腕組みをしながらそう返事をした。
 場所はもはや俺にとっては執務スペースになりつつある談話室である。
 この場には報告に現れたニシカさんの他には、雁木マリとカラメルネーゼさんが控えているだけだ。
 正妻カサンドラは男装の麗人を伴って、ようじょはけもみみと一緒に、今は別件で行動をしているところだ。

「この情報、ただちに騎士修道会とサルワタの村長さまにお知らせしないといけないな。マリ、頼めるか?」
「了解したわ。すぐにリンドルの司教に命じて、ブルカの修道会本部と各地の教会堂に伝書鳩を飛ばしましょう。ドロシア卿への手紙は、書き終えたらすぐに署名を頂戴」
「わかった。よろしく頼むぞ」
「それから、こちらからも報告があったわ。カーネルクリーフから、ハーナディンを呼び戻す様に指示が届いたの」
「騎士修道会の総長から?」
「ええそうよ。いよいよサルワタの助祭マテルドをブルカに召喚する命令が出されたの。ゴルゴライに滞在中のイディオと、それからスウィンドも合流させて、少数精鋭でブルカ辺境伯を弾劾するために連れ出す手筈が整ったという事だわ」
「おお、そういう事か」

 しかしこのタイミングで有力な戦力になりうる俺たち外交団の人員がひとり抜けるのは痛い気もする。
 俺が難しい顔をしているの見た雁木マリは「安心しなさい」と言葉を続ける。

「騎士修道会にはまだまだ優秀な人材がそろっているわ。代わりの人間がブルカをすでに発っているという事だから、期待していいわよ。ちょっと政治向きの男じゃないけれども」

 そうまで言われたのなら、俺がハーナディンを手放したくないとゴネるのはむつかしい。
 修道騎士ハーナディンとはこれまで上手く付き合ってこれたと思うが、またどこかで一緒になる事もきっとあるだろう。
 何しろ俺も一応は騎士修道会の聖使徒さまという扱いだしな……
 もしかするとホーリーブートキャンプでしごく教官どのとして再開するかもしれない。
 わかったとだけ俺はうなずいて見せると、そのまま周囲を見回して誰か別件でリンドルの城館に使いを飛ばせられる人間を探した。
 こういう時に小間使いというわけではないが、気楽に声をかけられるのはゴブリンに限る。

「ッジャジャマくん、ちょっとこっちへ来なさい!」
「はい、シューターさんッ」

 談話室の扉の前には、いかめしい顔をした傭兵のおふたりが立っていたけれど、使いに走らせるにはちょっと強面すぎるからな。

「君はこれからお城の御台さまのところへひとっ走りして、この手紙を届けてきてほしい」

 俺は談話室のテーブルに置かれていた四つ折りの紙片を手に取って、ッジャジャマくんに渡した。
 本来ならば羊皮紙の巻物に蝋印で封をするぐらい厳重にするのが理想なのだろうけれども、それではちょっと大仰すぎるからな。
 何しろ書かれている内容が内容なのだ。

「何と書かれているのですか?」
「まあ中身は恋文だな」
「こ、恋文?!」

 俺のと言葉に、ッジャジャマくんだけでなく雁木マリとカラメルネーゼさんまでが驚いた顔をしているじゃないか。ニシカさんだけはそう聞いてニヤニヤしはじめたが無視する事にする。

「そう言って、お城のご家中にお渡しするのだ。サルワタ大使のシューターが今夜、御台さまと内密のお話をしたいと手紙を託されたというんだ」
「!」
「ああ、ついでにこう付け加えておいてくれ。シューターは、これから身綺麗にするために公衆浴場へと出かけた。うちの大使閣下はマジですよと。耳打ちしながら、そう言う風に言ってやればいい」
「はあ。シューターさんのご命令とあればやりますが、これから戦争がはじまるんですよね?」
「そうだ命令だ、行ってくれるか?」

 今ひとつ釈然としない顔をしたッジャジャマくんは、四つ折りの恋文を受け取るとペコリと頭を下げて立ち去ろうとした。
 去り際、

「オラ、中身を見ようとしているんじゃねえ! どうせ読めねえくせにッ」

 中身を盗み読みしようとしたッジャジャマくんに、目敏くそれを見つけたニシカさんが怒声を浴びせる。
 驚いたッジャジャマくんは、あわてふためきながら談話室を飛び出していった。

「ンで相棒よう。どういうつもりで恋文なんて書いたんだよ。お前ぇは文字もまともに書けないんじゃなかったのか?」
「そ、そうよ。リンドルの御台にラブレターを送るなんて、この一大事にお前は何を考えてるの!」

 ニシカさんと雁木マリ、ふたりの態度はまるで対極だった。
 不思議に思いながらも状況を面白がっている黄色の長耳と、明らかに不審の色を顔に浮かべた暴力メガネである。

「ま、まあ落ち着いてください。実は手紙を書いたのはカサンドラです」
「カサンドラ義姉さんが? よくも自分の正妻に、そんな手紙を書かせたものね。呆れてモノが言えないわ」
「実はですね、これにはわけがあるのです。先日アレクサンドロシアちゃんからの手紙が届きましてね……」

 俺が声をすぼめながら身を寄せると、釣られてニシカさんと雁木マリ、カラメルネーゼさんが近づいてくる。

「どういう話ですこと? ドロシアから何か秘密の命令が届いたのですわね」
「アレクサンドロシアちゃんが、マリアツンデレジアの権力を簒奪しろと命じてきたんですよ。どうやってもこのタイミングで、リンドルの中心人物を暗殺なり失脚なりさせるのは不都合が多すぎるでしょう。だから、カサンドラとッヨイさま、それからベローチュの進言で、彼女を篭絡させる事に決めた」

 いちいち驚きと不審の顔を浮かべている三人の女性を相手に、俺は昨日三人の女性と話し合ったあらましを伝える事にした。

「不用意に婚姻外交に持ち込むと、これは村長さまの強引な同化政策に他の連合軍の諸侯たちがいい顔をしないだろうし、かといって俺たちが今さら敵対するダアヌ夫人を担ぎ上げるのも無理がある。そんな事をすればリンドルで今まで作り上げた人脈をみんな不意にするからな」
「あのババアはひとの話を聞かなさそうなやっかいなババアだからな。ババアとはそういうもんだ」
「け、けどそれがどうして恋文になるのよ。あなたはまだわたしとも結婚していないのよ。それなのに次々と女にツバをつけて回るなんて、例えこれが政治でも女神様の聖使徒として恥ずかしくないのかしら?」

 ニシカさんは半ば納得、雁木マリは納得がいかないという顔をしている。ついでにカラメルネーゼさんまでとても嫌そうな顔をしているじゃないか。

「そうですわ。ドロシアはいったい何を考えているのかしら。わたくしには理解不能ですわ!」
「それは、ダアヌ夫人に対するけん制だな。実はもうひとつ、みなさんにまだ話していない事がひとつあったんですけどねえ、このリンドルの領地とベストレという領地の領境に触滅隊の悪党働きをして隠していた財宝が眠っているんですよ」
「財宝? 触滅隊が集めていたのね」
「そうだマリ。ダアヌ夫人は実のところその財宝を狙って、今でもマリアツンデレジアさんの追い落とし工作をやろうとしているんですよ……」

 この期に及んで領地掌握を諦めていないダアヌ夫人に対して、俺たちがマリアツンデレジアに肩入れをする事にしたという態度を、明確に示しておきたかった事を俺は説明した。
 ダアヌ夫人の欲しがっている財宝をマリアツンデレジアに託してしまえば、もはやダアヌ夫人が勝手な事をするのは難しくなる。
 アテにしていた財源は政争の道具に使うより、今はブルカとの戦争の資金に回すべきだろう。
 不完全ロリババアのわがままの道具にするべきではない。

「言っておきますが、これはッヨイさまの作戦ですからね。恋文を持ってサルワタの人間が城館に駆け込んで、これは内密ですがサルワタの大使が火遊びをしたがっていると耳打ちすれば、すぐに家中に知れ渡る事になるでしょうから……」
「ッヨイがそんな事を考えたのね。わ、わかったわ。あくまでダアヌ夫人をけん制するためで、結婚するためではないのよね?」
「そうです。あくまで現地妻にするべきだとッヨイさまは言っていましたねえ」

 俺の言葉に「現地妻!」と驚くカラメルネーゼさんに、絶句する雁木マリである。
 ニシカさんは興味を失ったのか鼻をひとこすりするとソファに身を預けて深々と座りなおした。
 そして続きを促してくる。

「それでその財宝の話をどうすんだよ」
「マリアツンデレジアさんに、その詳細を知らせようと思っています。ダアヌ夫人はその金を使って、ベストレから農業用地に適した所領を買い取る計画を密かに立てていたみたいんだんですけどねえ。これからは戦争だ。戦争になれば食糧確保が難しくなるので、ベストレの領主がどういう人間か知らないけれど、今このタイミングで領地を手放すなんて馬鹿な事はしないだろう。またリンドルだって新しく手に入れた領地を経営する余力なんて存在しないからな」
「なるほど背景については了解ですわ。けれども、いったい誰が現地妻なんて言葉をようじょの(きみ)に教えたのか、気になりますわね」

 そんなカラメルネーゼさんの言葉に、俺はため息をついて「アレクサンドロシアちゃんですよ」と返事をしておいた。
 ようじょの教育によろしくない発言をしたアレクサンドロシアちゃんに対して、雁木マリとカラメルネーゼさんが非難の声を上げた。

「ッヨイはまだ未成年なのよ」
「ようじょにそんな言葉を教え込むなんて……」

 何だか俺が非難のはけ口にされている様で、言葉が胸に突き刺さる。
 俺は空気が悪くなるのを嫌って、話の続きをあわてて説明した。

「今、ッヨイさまがエルパコと一緒に女魔法使いを尋問しにいってますよ。あの女魔法使いは色々とその辺りの事を詳しく知っているらしいですからね。情報はそっくりマリアツンデレジアさんにお伝えする。これを話しに今夜登城する計画だったんだなあ」
「それではカサンドラ夫人はどこへお出かけに?」
「オゲインおじさんのところへ説得に行ってますねえ。ダアヌ夫人を黙らせる必要があるので。とにかく今夜、俺とマリアツンデレジアさんとの間で話し合いをします。諸侯会議の件もあるし、出来るだけ話し合っておきたい」

 俺はその旨を強調して三人の女性を見回しながら、そう言葉を締めくくった。
 雁木マリは未だに納得がいかないのか俺に対して不審の表情を浮かべたままだった。そんなに婚約者が信用出来ませんかね。
 蛸足姫は対照的に、何かブツブツと「これはわたくしにもチャンスがあるという事ですわ」とよくわからないことを口にしていた。何のチャンスだろう?
 そしてニシカさんは腕組みをして「今夜は監視する人間もいなさそうだし呑みに行くか」と呟いているのを見逃さなかった。

 宣言通り、夜に備えて公衆浴場に出かけて、身綺麗にするべきかな。

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