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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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177 デート・サバイブ 6

「ブロッケン領主さま宛に送金をお願いします。支払いはオルコス五世金貨で五枚で……」

 両替屋の事務所を出ようとしたところで、聞き覚えのある女の声が耳に飛び込んで来た。
 見てみると、ッジャジャマくんに連れられた女魔法使いが受付のゴブリン相手に何やら話し込んでいるところだった。

「手数料は二パーセントですけど、いいですかねえ?」
「ああそれで構わないわ。ブルカ辺境伯金貨との両替相場はどうなってるの?」
「一オルコス五世金貨が二・三ブルカ辺境伯金貨ですね。少し値上がりしていますけど大丈夫ですか?」
「構わないわ、やってちょうだい」

 そんなやり取りを聞き届けたところで、ちょうど俺と女魔法使いが視線を交差させた。

「あっ」
「よう、真面目に借金返済しているみたいだな」
「おかげさまで、情報提供では儲けさせてもらいましたからね。これで少しでも借金完済に近付けたわけです。今後ともご贔屓に」

 うふふっとちょっぴり美人顔には似合わない下卑た笑みを浮かべる女魔法使いである。
 するとッジャジャマくんが女魔法使いに対して、気取った顔を作ってこんな事を言う。

「役に立ち、裏切らない人間であればこれからも側に置いてやってもいいですよ」
「聞いてくださいよ。このゴブリン、さっきから終始この調子で偉そうなんですよね。大使閣下さま、ギャンと言ってやってくださいギャンと」

 ギャンなんて言わないよ!
 俺が呆れた顔をジャジャマくんに向けたところ、素知らぬ顔で出来もしない口笛を吹いて見せる。しーしーふー♪
 女魔法使いも自分がロープに繋がれた虜囚であるという意識がまるでない偉そうな態度だが、ッジャジャマくんも都会に出てきて気が大きくなっているのかもしれない。

「あら、お客さんと知り合いかい?」
「うちの随行員ですよ」
「そうかい。じゃあこれからはわたしの同僚になるひとたちだね? わたしは見ての通り両替商(ここ)の主でカレキーウォールズってんだ。サルワタの御用商人に招聘されたんだよ」

 ふたりをカレキーおばさんに紹介しようとしたところ、それより先にカレキーおばさんがふたりを見比べながら挨拶をはじめる。
 例によって値踏みする様な態度でふたりを観察しながらである。

「サルワタの魔法使いマドューシャです! 魔法がご入用の時はいつでもお声掛けください。あ、閣下は手数料一割でいいですよ。今は閣下の捕囚なので」
「ッジャジャマです。シューターさんの部下で騎士見習いです」

 品定めされている事を理解しているのかいないのか、女魔法使いとッジャジャマくんは競って自己紹介をした。
 サルワタの魔法使いって……まだ今後の処遇も定まっていないのに、女魔法使いは気を良くして勝手に口上を名乗っているし、ッジャジャマくんはいつのまにか騎士見習いに昇格している事になっている。ッワクワクゴロさんがその事を知ったらこの弟くんは折檻されそうである。

「騎士ッジャジャマくん」
「は、はい!」

 俺が騎士ッジャジャマと呼んであげたところ、とても嬉しそうに俺を見上げて来る。

「勝手に持ち場を離れてこの女を連れ出さない様に」
「え、ええと。送金しないと大変な事になると言われたので……」
「大変な事になるのはこの女であって、我々ではない。逃げられたらどうするんだ」

 女魔法使いは、俺と雁木マリとカラメルネーゼさんを相手にしても、一歩も引かないどころか圧倒してみせた様な強敵なんだぞ!
 そのところをまるでわかっていない悪魔面の猿人間兄弟の末弟は、村に戻ったらお兄さんに再教育してもらう必要があるな。

「処分が決まるまでに脱走されるとやっかいですわ。腕は後ろ手に縛り直して、猿ぐつわをかましてから、教化室にぶち込んでおくとよいですわね」
「じゃあそうしてくれ」
「ひいい、わたしは協力するって言ってるでしょう?! 閣下、閣下ぁ」

 女魔法使いはッジャジャマくんに引きずられて退場していった。

「賑やかな家臣のみなさんだね。奥さまも大変でしょう?」
「ええ、そうなのですわ。主人はこれでも七人の妻がおりますでしょう? わたくしなどは妻の末席ですから、いつも苦労が絶えませんですわ。おーっほっほっほ!」

 適当な事を言った後、カラメルネーゼさんは俺と眼が合うと笑ってごまかした。おーっほっほっほ!
 文句を言うのもアホらしくなった俺は、黙ってやり取りを呆然と見ていた受付のゴブリンから、女魔法使いがもらい損ねていた送金手形の半分を受け取る。

「証文、どうしますか?」
「俺がお預かっておこう。後で渡しておく……」

     ◆

 両替商を出た俺は、カレキーおばさんに教えてもらった近所の食堂でカラメルネーゼさんと簡単な昼食を済ませた。
 その後にいくつかの商会と顔つなぎや必要な商品の買い付け交渉を行った後に、竜の骨皮を売り込むために専売契約の交渉を行っていたようじょや雁木マリと合流したのである。
 滞在するリンドル聖堂に帰り着いたのは、陽が落ちる時刻に差し掛かっていた。

「交渉の予定はおおむね問題なく進んだのです。リンドルの街で一括してワイバーンの素材を購入してくれる商会があったのです。マリアツンデレジア夫人派の商会なのです」
「こちらも、一番難しそうだった両替商を取り込むことに成功しましたよ」
「それは何よりなのです」
「ひとまずはサルワタの御用商人という事で、それから長女夫婦をサルワタの開拓村に招聘出来そうな段取りになってます。問題はご隠居する予定のカレキーウォールズさんまでが足を運んでくれるかどうかですねぇ……」
「けど、それならそれで都会のリンドルにカレキーおばさんは居残ったままでもいいかもしれないのです。お商売の交渉事は今後、カレキーおばさんがやってくれるのであれば、ッヨイたちのお仕事はずいぶんと楽になるのです」

 概ね、街に出ての交渉事は順調な様だった。何よりだね!
 しかし、営業報告も終わりに向かったところで、談話室の中にエルパコが巻物をひとつ持って入って来るではないか。

「シューターさん。ぼく宛に、マリアツンデレジアさまとシェーン子爵の連名でこんなものが届けられたよ」
「うん? 何でエルパコ宛なんだ?」
「わからないよ」

 そりゃそうだよな。受け取った内容を確認するために、雁木マリが受け取って蝋印を剥がした巻物を広げてみる。

「近く辺境の領主を集めた諸侯会議を開きたい故、サルワタ領主どのにもご登城をお願いいたしたく候。これはマリアツンデレジア卿の文字ね。気取った王都の人間が使う言葉だわ」
「諸侯会議、対ブルカ同盟に向けた顔合わせか……」
「同様のものをセレスタとゴルゴライに送り、オッペンハーゲンにもわたしたちが交渉を行った後に送る段取りをとると書かれているわ。つきましては詳細を詰めるのにシューター卿に相談をしたいとあるわね」
「うん。すでに触滅隊を討伐して、ブルカ辺境伯はッヨイたちの動きを察知しているはずなのです。戦争準備に取り掛かっている可能性もあるので、時期としてはッヨイたちも動き出さないといけないのです」

 マリが巻物を読み上げると、ッヨイさまも賛同の意を示した。
 いよいよ戦争か。サルワタからゴルゴライにかけての一帯は、事実上、女村長が支配する領域と言っても差支えがない。
 間にある女村長が以前嫁いでいた義実家の場所で、ここは義弟が今は納めているというけれど、アレクサンドロシアちゃんの以前の口ぶりからすると、野牛の一族と俺がもし成婚しなかった場合は、前の実家から親族を呼び寄せると説明していたあたり、今もかなりの影響力があるんだろう。

「ゴルゴライはすでに俺たちの支配地域だけれど、これはどう解釈したらいいと思う?」

 してみると、ゴルゴライの代表というのはたぶん俺なのかギムルなのか、そういう人間を代表者に立てるかもしれない。

「そうね。教会堂経由の定時報告を聞いている限り、ゴルゴライは騎士修道会の騎士隊と従士隊が駐屯を継続している様だし、騎士修道会から代表者を出しても、サルワタから代表者を送り込んでも、これは問題ないと思うわ。必要があればドロシア卿の事だからシューターに準男爵を命じる可能性もあるしね」
「サルワタの武威をしめすのならば、どちらもドロシアねえさまが代表者で通すのがいいと思うのです。数の有利で諸侯会議を乗り切るのならば、多数決の取りやすい様に、代わりの領主をでっち上げるといいんです」

 ふむ。どちらもありというところか。

「これは直接アレクサンドロシアちゃんに質問した方がいいな。この手紙を添えて村長さまに送り付けてくれ。内容が内容だ、武装飛脚を手配した方がいいかな?」
「わかりました。リンドル往還については武装飛脚を手配し、その先は修道騎士に直接アレクサンドロシア卿の元に届ける様に後程手配しましょう」

 ハーナディンに声をかけると、彼は胸に右手を置いて俺に深々と一礼した。
 相変わらず猟師出身とは思えない優雅な所作だった。
 そうすると、今度はまたベローチュが「失礼します」と言って、少しあわてた態度で室内に入って来るではないか。
 先ほどまで談話室に俺たちと一緒にいたと思っていたけれど、途中でいつの間にか中座していたらしい。

「ご主人さま。セレスタのオコネイル男爵からも至急伝が届きました! ブルカに出ていたセレスタ商人から、市中で食糧の買い付けを始めている気配があるとの報告です」
「!」

 これには俺だけでなく、雁木マリとカラメルネーゼさんもハッとした顔をする。
 貴族軍人出身のカラメルネーゼさんだけが、厳かに愛剣を胸に抱きながら俺の方を見やる。

「いよいよ、ブルカが戦争の本格準備をはじめましたわね。わたくしもブルカの伝手を使って、情報収集を強化する事にしますわ。食料の規模、兵器の買い付けの種類、冒険者ギルドの依頼手配がどうなっているかあたりで、どの程度の戦争準備をしているのかがわかるはずですわ」

 頼りになるのはやはり軍人経験者である。

「わかった。その点もあわせてハーナディンが一筆取って、アレクサンドロシアちゃんに手紙を用意してくれ。俺が署名をする」
「了解です。同じものを騎士修道会に共有しても?」
「そうね、きっと時間差で騎士修道会からも伝達がくると思うけれど、情報は重複しても無駄という事は一切ないわ」

 俺に対する質問は、雁木マリが代わりに応えてくれた。
 俺もうなずいて同意をすると、ッヨイさまとカラメルネーゼさんにニシカさんが、揃って大きく首肯するではないか。

「ブルカが先に手を出しそうな気配がしてきたな。戦争になるとすれば、いつだと思う?」
「大義名分を得てから、と考えるのが普通なのです。触滅隊の悪事糾弾を辺境の連名で行ったタイミングでは、時期が遅くなってしまうと思うのです。けれど、秋分の祝祭日より前となると、領民の生活が混乱する事になるし、それよりも遅くなるとッヨイたちの戦争準備が整ってしまうのです」
「確かにそうね。ッヨイの言う通りよ」

 雁木マリも同意する。

「兵隊を揃えて、諸侯連合軍が態勢を整える直前、となると十一月の頭頃が一番可能性が高いのです。それより先は冬が訪れて、辺境は雪景色になるのです」
「今から三か月か。長いと見るか短いと見るか、考え所だな……」

 うんうんと首を捻りながら熟考するッヨイさま賢いな。
 もう軍師でいいんじゃないかなぁ。
 このファンタジー世界の生活様式に詳しくない俺だが、こっちの世界でクリスマスやお正月みたいな大きなイベントシーズンにあたる祝祭日で、ブルカ伯が戦争を仕掛けて来るというのはちょっと考えにくかった。
 してみると、秋の収穫時期がひと通り終わった段階というのが妥当なところだろうか。
 そんな事を考えていると、ニシカさんがぽつりと天井を見上げながら口を飛ばしてくる。

「十月だ」
「根拠は何ですかおっぱいエルフ?」

 ちょっとむくれた態度で、ようじょがニシカさんに質問する。ちょっとした軽口が単語に含まれているところを見ると、ようじょの考察を否定されてむっとしているのだろう。

「オレ様はブルカ周辺を見て回った事があるがよ。あの辺りの畑の具合を見ると、トウモロコシの収穫は夏の終わりから秋のはじまりにかけてだ。つまり秋分の祝祭日までには刈り入れ完了している。夏麦はあまり見当たらねえ。芋は土壌が悪いのか畑がなかったはずだぜ。だったら十一月は冬麦を植える時期だからな。その時期は外すんじゃねえのか」

 なるほど、ニシカさんは見るべきところを見ているな。
 畑の様子を観察すれば、ある程度の穀物の収穫時期と戦争をしやすい時期というのも推測できるという事だろうか。

「失念だったわね。あたしは畑仕事はやった事がないから、その辺りまでは考え付かなかったわ」
「確かにそうですわね。わたくしの実家の領地も王都周辺で、子爵家とは言ってももっぱら税収はお金ですわ……」
「おいようじょ、そのあたりの情報を集めて、たぶんこの時期に準備が整うだろうというのを設定するんだ。いくつか候補があるだろうよ、全部の収穫と種まきを実施しようと思ったら、戦争なんて出来ねえ。今年の天候を見て、一番収穫の望めないものを捨てて、戦争を仕掛けてくるはずだ」

 巨大な胸を押し上げる様に腕組みしているニシカさんが、つむっていた片眼を開いて静かにそんな事を指示するのだった。

「学のねぇオレ様にはこれぐらいしかわからねえからな、後はようじょの仕事だ」
「わ、わかったのです……」

 俺たちは、そんな会話を繰り広げた後に、三々五々で伝令やら休息やら本日の汗を流すためにと公衆浴場へと出かけて行った。
 問題はその場に、みんなが出て行った後も残った三人の女性だ。

 ひとりはッヨイさま。
 これはこの後に残っている、かなり大きな問題を話し合う予定があったからである。
 もうひとりはカサンドラ。
 何か俺に言いたい事があるらしく、いつもならハーレム大家族でも近頃仲良くしているカラメルネーゼさんか雁木マリと、公衆浴場にでもお出かけするところである。
 三人目がベローチュだった。
 これも何かもの言いたげな感じで、談話室の壁に背中を預ける様な格好で、部屋に残ったみなさんが消えるのを待って俺に意見具申をしたそうな雰囲気がぷんぷんしていたのである。


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