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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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175 デート・サバイブ 4


 俺たちは早速、この後に向かう目的地へと足を向ける。
 今度は倉庫街の入り口にある両替商の元へ顔を出す予定になっていた。
 ここからはほんの目と鼻の先にある場所のはずだ。

「最近、ひとところに腰を落ち着けて生活をする事が無かったので、こうして街を歩いていると不思議な気分になるな」
「うふふ。シューター卿もそれだけご出世なされたという事ですわ」

 村の下男よりも酷い扱いを受けていた、このファンタジー世界にやって来てすぐの事を考えてみると、上等なおべべを着て従者を引従えて道を行く俺の出世ぶりは、なかなかのもんじゃないだろうか。
 連れているのが蛸足の別嬪さんというのはともかく、護衛が悪党もビックリする強面傭兵のみなさんというところはご愛敬だ。

「出世ねぇ。俺は元々、いつも誰かの下で働くだけの簡単なお仕事をしている立場だったんですよ」
「まあ、そうだったのですか?」
「だからこうして、誰かを使って仕事を割り振りしたり、責任を負う様な立場は未経験なんだよなあ」
「その割には、なかなか堂々と交渉をなさっておいでではないです事? ご立派にお役目をお勤めになっておりますわよ」

 カラメルネーゼさんはそう言って笑ってくれたけれども、正直なところを言えば俺自身はあまりピンと来ていないのである。
 何しろ俺はもともとフリーターだったからな。
 バイト戦士で出来る出世などというものは、作業現場でせいぜいバイトリーダーになる程度の事だ。
 コンビニで発注責任者になるか、工場の作業ラインで班のリーダーになるぐらいがせいぜいで、自分の部下を持って、誰かを指導する様な役割は経験した事がない。

 仕事じゃないという事ならあったかもしれない。
 むかし俺が下宿していた沖縄古老の空手道場で、師範代のお手伝いをしていた時は、まあ部下というかお弟子さんの面倒を見ていた事があるぐらいか。

「だから、不安があると言えば不安があるな。やった事がないんだから、これはしょうがない」
「何事もみんな、はじめての経験ですわ。わたくしも、殿方と添い遂げた事がございませんので、結婚は経験した事がありません事よ。ハァ早く素敵な殿方と添い遂げてみたいものですわぁ……」

 そんなカラメルネーゼさんの願望については無視する事にして、俺は日本語でメモっておいた両替商までの地図を頼りに、街の風景をぐるりと軽く見回した。

 すると、街の中をぐるぐると歩いていると、嫌でも気が付く事がある。
 それはここ数日この街を眼にしていると、生活する人々が妙に活気づいている事だった。

「ふむ。触滅隊の悪党働きが無くなったので、以前の往来が復活したのかな?」

 そんな風に最初は思いもしたのだが、どうやら違ったらしい。

「おーっほっほっほ。もうすぐ秋分の祝祭日ですわ、そうなれば何ら楽しみらしいものもない片田舎の街と言えど、活気づくのは当然ですわよ?」
「秋分の祝祭日? そう言えば、少し前にエルパコもそんな事を言っていた気がするな」
「そうですわね。収穫を祈願するお祭りであり、若い男女にとっては出会いのお祭りでもありますわね」

 お彼岸とも言われる秋分の頃合いと言えば、一般に昼と夜の長さがほとんど同じになる時期だったはずだ。
 俺のイメージでは秋のお祭りと言えば、収穫を感謝する方のお祭りを連想する。そういうのは感謝祭っていうぐらいだしな、時期ももう少し遅くて十一月ぐらいの感覚だ。

「村や街の若い男女は立派な労働力ですわ。そうなると、普段は日々仕事に追われて楽しみも出会いも限られてしまいますわねえ。だから、祝祭日には羽目を外してもいい事になっておりますわよ?」
「あなたは仮にも騎士爵の称号をお持ちのお貴族さまでしょう。村や街の若い人間とは身分が違いますからね!」

 ニッコリ笑って出会いを求めたそうな顔をしているカラメルネーゼさんに、俺はひとまず釘を刺しておいた。
 彼女の本心がどこにあるのか知らないが、羽目を外されて秋分の日をサルワタ勢にとっての醜聞の日にされたらかなわないぜ。これはニシカさんあたりにも釘を刺しておく必要があるな……
 俺は気になったので足を止めると、傭兵のみなさんにも振り返って質問をする。

「君たちもそうなのか?」
「へい。さすがに祝祭日の時は戦争もありませんや」
「そんな事をしたら女神様のバチがあたってしまいますからね」
「秋分の時は教会堂でお祈りをしてですな、秋から先もいい女に出会えますようにと手を合わせるんですわ」
「肉がいいですなあ。祭りになれば屋台も出ますから、旦那も街じゃめったに食えない猪肉や鹿肉が口に入れられますぜ」

 俺はこれでもサルワタで元猟師だったので、猪も鹿も時々食べてたんだよなぁ。
 あと、祝祭日に戦争をする馬鹿はいない何て言うのは、どうもフラグみたいな気分になるのでやめなさい。

 こうして馬鹿を言っているうちに両替商の店舗前まで俺たちはやって来た。
 倉庫街の人々は、景気よく大きな掛け声を上げながら大きな荷車を押したり運んだりしていたけれど、両替商の店は、どことなく辛気臭い雰囲気だった。
 微妙に、入るのが億劫なんですがこれは……

「どうされたのですシューター卿、さあ参りますわよ」

     ◆

 両替商というのは、手数料を取って貨幣の両替を行う商売である。
 例えばこの国ならば金貨、銀貨、銅貨という三種類の三貨制度が用いられているらしい。
 王国の本土ならオルコス五世金貨というのが主要な流通金貨らしいが、辺境ならブルカ辺境伯金貨だ。
 それに銀貨ならば騎士修道会銀貨の他にも、何種類か存在している事を俺も知っている。
 銅貨は基幹通貨なのか、これは大量に王国で鋳造されているらしく、よく見かける。

「この地域で使われている貨幣の現在の相場は、ブルカ辺境伯金貨一枚に対して騎士修道会銀貨が五十枚、オルヴィアンヌ銅貨なら四二〇〇枚程度となっております」

 そんな事を、俺たちが両替商の玄関を潜ったところで、カウンター越しにゴブリンに言われた。
 建物ばかりは立派だが、店内は客など誰もいない閑散とした有様だった。

「いや、俺たちは両替をしに来たわけではない」
「では為替でしたか。手形の発行でしたら、ただちに番頭をお呼びします」

 ゴブリンはペコリと頭を下げて、すぐに奥の事務所っぽい場所に走っていこうとした。
 いや待てそうじゃない、俺たちは信用取引をやりに来たわけでもないんだよ!

「では何ですかね。ご融資の相談でしたら、保証人の連署と代表保証人さまをお連れ頂かないと、会頭はお会いにならない事になっていますよ」

 ゴブリンめ、ひとをゴミでも見る様な態度でジト眼を送ってきやがった。
 こいつは明らかに俺が借金の申し込みにでも来た様な態度でこちらに接しているのだ。
 すると玄関口で待たせていた傭兵のみなさんが、ゴブリンの失礼な発言を耳にして中に飛び込んでくるではないか。
 たまたま残暑が厳しいからと扉が開けっ放しにされていたので、それで聞こえたんだろう。

「何だと! 貴様、旦那を愚弄する気か!」
「俺たちじゃ旦那やカラメル姉さんの保証人として不足だと言うのか!」
「野郎をぶち殺してやりましょう!!」

 君たちはややこしくなるから少し黙っていなさい。

「いやどれも違うからね。これを君のところの主人に見せなさい、サルワタのシューターが来たと言えばきっと了見が伝わるはずだ」
「はあ? サルワタのシューなんだって? 暴力はいけませんよ暴力は!」

 俺は傭兵のみなさんをなだめすかせながら、懐からマリアツンデレジアに貰った紹介状をここでも差し出す。
 胡乱な眼を引っ込めようともせずにゴブリンは俺と紹介状の品定めしにかかる。
 なるほど。辛気臭い雰囲気なのは、ここを訪れる人間が、だいたい融資の希望でやって来るからなんだろう。
 失礼なゴブリンは渋々俺にひと睨みした後に奥に引っ込んだ。

 すると今度は奥から別の人間のキンキン声が聞こえてくるではないか。
 おばさんかな? おねえさんかな? ちょっとダミ声っぽい枯れた声質なので、俺はおばさんを連想する。

「借りたものは返す。これは世の中の道理というものですよ!」

 俺とカラメルネーゼさんは顔を見合わせた。
 ついでに傭兵のみなさんは、すごすごと居心地悪そうに退散の準備をはじめているではないか。

「どうしてあなたは、いつまでたっても利息ぶんすらお返しにならないのですか! 一年貸付ければ、利息は一割と決まっているでしょう!!」

 奥からまたも聞こえる罵声にビクンと身を縮めた傭兵さんたちは、そそくさと表に飛び出していった。
 あれはきっと、どこかの酒場にでも借金をこさえて通っていたに違いない。
 身に覚えのある人間の態度だね。

「いいですか! 金は秋分の祝祭日までにきっちり耳を揃えてお返しください! びた一文まけませんから、せめて代わりにそこまでお待ちする事にしますよ! ホント、ひとを女神様か何かと間違っているんじゃないでしょうね? わたしは教会堂の慈善事業をやっているんじゃないんですよ」

 ごもっともな事をまき散らした奥から聞こえる声のあと、お金を借りていたお客さんらしい人物が転げる様に飛び出して、店の外へ消えていった。

「やあ、お待たせしました。お見苦しいところをお見せしてしまいましたね。何? 御台さまの紹介状をお持ちの猿人間のシュー? どうもシューさん、はじめまして。ささ、こちらに!」

 耳打ちするゴブリンの丁稚と一緒に現れたおばさんが、俺たちふたりに愛想笑いを浮かべながらペコペコと頭を下げた。
 サルワタの代表的おばさんのジンターネンさんとはまたちょっと違ったタイプのおばさんだ。
 愛想笑いを浮かべているくせに、眼がまるで笑っていない。

「サルワタ領主アレクサンドロシア騎士爵の夫、シューターだ。折り入って話があるので少しひとのいない場所で相談をさせていただきたい」

 何となく、この一連の交渉事のなかで今日一番の面倒くさそうな雰囲気をかもしだしているおばさんだった。

ささやかではありますが、気が付けば総合評価15000を頂く事が出来ました。
ありがとうございます、ありがとうございます!
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