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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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174 デート・サバイブ 3

 冒険者ギルド長たちに見送られながらギルド建物を出たところで、オープンカフェスペースの様になった場所にカラメルネーゼさんを発見した。
 彼女はサルワタ外交使節が雇っていた四人の護衛の傭兵を脇に立たせて、優雅に小さな陶器の酒杯の様なものを口に運んでいるところだった。

「おーっほっほっほ。会合は無事に終わりましたのでしょうか?」
「お待たせしてしまいましたか、カラメルネーゼさん」
「いいのですわ。ちょうど喉が渇いていたので、こちらで潤していましたのですわ」

 何を呑んでいるのだろうと、カフェスペースに俺たちが近づいたところ、ギルド長がピクリと反応して俺に教えてくれる。

「ブランデーですな。ギルドの酒場でも提供しているものですぞ」

 恐らくツンとする独特の匂いでわかったのだろう。
 すぐにもニシカさんが羨ましそうに俺の横で肘を突っついた。そんな事をされても赤鼻の二つ名をもつ彼女を甘やかす俺ではない。
 すると、小さな陶器の酒杯を小指を立てながらひと息に煽って見せたカラメルネーゼさんである。

「お前たち、何をしているのですか。婿殿とご夫人がたにも、同じものを直ちに用意なさいな」
「へい! すんまへんカラメル姉さん。(あね)さん、ニシカの姉御、ただちに同じものを用意します!」

 おいいくぞ、とか言いながら顔中傷だらけの傭兵たちが、ガヤガヤと酒を出すカウンターに走っていったではないか。
 ニシカさんはご満悦、カサンドラは困惑の表情で俺を見て、ベローチュはキリっとした顔で待機していた。

「あのう、ブランデーというのはオゲインさまが嗜んでおられた強いお酒ですよね……」
「無理に呑まなくてもいいから。この後の仕事もあるしね」

 この世界の人間は、昼間から酒を口にするからいけない。
 自動車の運転があるわけでもなく、企業コンプライアンスが徹底されているというわけでもない。
 むしろ、紳士淑女の嗜みと言わんばかりに、交渉事には何かに付けて酒が付いてまわるから困ったものである。
 ついでに喉が渇いたからと言って生水を飲む習慣も無いので、ワインは水代わりに当たり前だからなぁ。
 俺も酒は大好きな人間で、元いた日本でならば仕事帰りに立ち飲み屋でビールを一杯頼んだものだ。

 しかし、しかしだ。
 この世界のビールは不味い。
 他の酒となれば、水代わりの皮かすの残ったサルワタのワインか、街で飲まれる上等なワインか、芋の焼酎か、あるいは蒸留酒だ。
 いつぞやなど、ビールを避けて珍しそうなご当地酒っぽいハチミツの酒を注文したら、見事にビールみたいな味だった。
 泡立っていて、しかも微妙に苦い。
 甘いのを期待して大失敗した苦い思い出である。

 とりあえず運ばれてきたショットのブランデーをニシカさんがおいしそうに呑んでいるのを横目に見ていると、カサンドラとベローチュも顔を見合わせながら口に運ぶのだった。

「カサンドラ奥さま、ご無理なさらずわたしが呑みましょうか?」
「いえ、ひと口だけは呑んでおきましょう。注文してくださった傭兵さんたちに悪いですし……」

 俺はと言うと「へいお待ちです!」と言って差し出してくれた恐ろしい顔の傭兵から小さな酒杯を受け取ると、カラメルネーゼさんの隣の席に座った。すると、

「それで、ギルドでの話し合いは上手くいったのですこと?」
「まあ、予定通りには……」

 ほのかな蒸留酒の臭いを漂わせながら、カラメルネーゼさんがしなを作りながら身を寄せてきた。
 妖艶な笑みを浮かべると、俺が飲まずにテーブルに放り出していた酒杯を、器用に触手を使って持ち上げる。

「次に行く場所は、気を大きく持っておいた方がいいですわ。さあ、お呑みになって?」
「お、おう」

 カサンドラとニシカさんがテーブルの反対側に座るのを視界の端に捉えながら、俺は小さな酒杯を受け取って渋々飲んだ。
 これから向かう場所は奴隷商会である。
 あそこは俺にとっていい思い出ないからなあ。確かにカラメルネーゼさんが言う様に、気圧されないためには酒を飲んでおくのもアリかもしれないね。
 名前の長い商人、今頃どうしてるかな?

     ◆

「これはこれはシューターさま。この様なむさ苦しい場所にわざわざ足を運んでいただきまして」
「いやいやいや、むさ苦しいだなんて。素敵な内装の部屋向きじゃないですかねぇ」

 奴隷商会の接客室に通された俺とカラメルネーゼさんは、紳士然とした奴隷商人にソファを進められて、さっそく腰を落ち着けた。
 お世辞ではなく、この部屋は裕福な身の上の人間が好みそうな、落ち着いた気品ある雰囲気だった。
 威圧感のある高価すぎる調度品も無く、上品に花瓶に夏の花などが飾ってあるあたりが、この残暑の季節に涼やかな気持ちにさせてくれる。
 言われなければ、奴隷商会の接客室だとは思わないだろう。

「それで、本日はどういったご用向きで? 当商会は戦争奴隷、性奴隷、代々家が奴隷の者、それから借金のカタに奴隷となった者など、様々な商品を取り扱っております」

 酒臭い俺自身の口元を気にしながら奴隷商人を観察してみる。
 俺の中で奴隷商人と言えば名前の長いブルカにいた、お高い壺詐欺の男であるか、カラメルネーゼさんというイメージがあった。
 してみると、マリアツンデレジアの紹介状を持って訪れたこの商人は、そのどちらとも違う雰囲気の男だった。
 例えていうなら銀行マンの紳士と言った感じだろうか。
 居住まいをキチンと整えていて、しわひとつない上等な黒を基調としたオーダーメイドの服を着ている。
 俺は銀行の窓口なんて口座開設でしか利用した事がない人間だけれど、この部屋の雰囲気と言い、それに物腰の柔らかそうな人となりと言い、ちょっとエリートな雰囲気がムンムンだった。元いた世界の俺の中にあった銀行マンのイメージそのものだ。

 まず俺の前に口を開いたのはカラメルネーゼさんだった。

「わたくしの主人は今、開拓を推し進めるための移民を募っておりますわ」

 彼女は本業が奴隷商人でもあるし、ここに来るまでに用向きの説明は「わたくしにお任せくださいな」と言っていたからね。
 俺は大使閣下らしくニコニコ顔で座っていればいいという事なのだが。

「ほう、すると犯罪奴隷を労働力としてお求めですかな? それですと、まずは冒険者ギルドを仲介してのお願いというのが開拓移民を募る際の筋というものですな」
「ええそうですわね。従って犯罪奴隷の労働力につきましては、すでに先ほど主人が話を付けに行きましたのでぬかりなしですのよ」

 微笑を浮かべたカラメルネーゼさんが、俺に顔を見せて同意を求めてきた。
 主人、主人と言っているが、こんな言い方だとカラメルネーゼさんが俺の奥さんみたいに聞こえるからやめてほしい。

「なるほど閣下はお手が早いですな」

 これもまた聞こえ様によっては、女性に手当たり次第にお手付きにしているみたいだからやめて欲しい……

 聞くところによると、開拓移民を募る手順というのは冒険者ギルドがその窓口となるものらしい。
 事実、俺がはじめてギムルとブルカに人集めに行った際も、冒険者ギルドが移民と安価な労働力となる犯罪奴隷を用意していたものだ。
 今回もリンドルの冒険者ギルドで「若い男女」を求めた際に、これは含まれているのだと言う。
 冒険者ギルドから労働力となる犯罪奴隷を奴隷商会に発注をかけて、これを商会が用意する。
 街にある冒険者ギルドというのは、モンスターの討伐や何やという様な発注の仲介手数料を得て運営されている組織らしいからな。
 だから冒険者ギルドの商売を邪魔しちゃいけないので、犯罪奴隷の取引はここではお断りなのだ。

「ですので、今回の要件は別にありますの」

 目的はふたつあった。

「ひとつは、犯罪奴隷と別口で、借金のカタにとられた奴隷。それから性奴隷」
「なるほど。料金は当然お高くなってしまいますが、その点はよろしいのでしょうか?」
「かまいませんわ。主人もその点は理解しておりますの」

 チラリと俺を見やった後に、何かの紙片と手形を取り出したカラメルネーゼさんである。
 見れば金属手形の様なものを持ち出したみたいだが、何だろうと俺が首をひねっていると。

「ほう、奥さまはご同業の方でしたか」

 そら見た事か! カラメルネーゼさんの事を、俺の何人かいる奥さんのひとりだと勝手に勘違いしたじゃないかッ。
 ギロリと蛸足麗人を睨み付けると、しれっとした顔で言葉をつづけるではないか。

「ふたつ目は、情報を集めているのですわ。このリンドルの街では、どういった経緯で若い性奴隷向きの女性を集めておいでですこと?」
「性奴隷向きの若い女を、ですか。ふむ……」

 大事な話を切り出されてしまったので、抗議の視線は引っ込めなくてはいけなくなった。
 想像するに、俺のたくさんいる奥さんのひとりとして振る舞っていた方が都合がいいとでも判断したのだろう。
 しかしこれでは俺が好色男児みたいでとても不愉快である。
 悲しくなった俺はちょっぴり不貞腐れた顔で、そのまま成り行きを見守っていた。

「殿方にご奉仕するための性奴隷というのは非常に高価なものです。従って借金のカタに仕入れた奴隷の内で、了承の得られたものを中心にかつ、厳選して商品をご用意しております。また、娼館に卸す商品につきましては、これはピンからキリですなあ」

 基本は借金のカタに取られた娘たちである事は間違いない。
 けれども農家の小娘から町娘、没落貴族の令嬢という場合もあるので、やはり教育の行き届いたもには、高貴な身の上の紳士に売られて行き、教育が必要なものは娼館が安く買い取って、指導をするものだというのだ。
 この辺りの事はどの世界でもあまり変わらないのが悲しいところだ。

「娼館に買われる場合は、基本的にブルカ聖堂会の領分でございますので、かならず聖堂会を経由して取引されますな。その辺りは閣下の婚約者であらせられる、ガンギマリーさまがお詳しいかと思いますが」

 犯罪奴隷の売買が冒険者ギルドで行われる様に、娼館に卸される性奴隷もブルカ聖堂会の既得権益という事らしい。
 この話は以前ブルカで、名前の長い奴隷商人を懲らしめようとした時、確かに雁木マリから聞いた話である。

「ええ。もちろん賢くも主人はその辺りの事をしっかり心得ておりますわ」
「では何がお知りになりたいのでしょう?」

 まっとうな商売をしているだろう紳士な奴隷商人は、不思議そうな顔をした。
 いや奴隷商人がまっとうというのも不思議な事であるが、このファンタジー世界ではこれが当たり前だしな……

「ある情報筋によりますとですわ。近頃、巷を賑わせていた触滅隊が、密かに手に入れた女奴隷たちを売り払うルートが存在していると、そう耳にいたしましたの」
「なるほど、それで御台さまの紹介状をご持参だったのですな……」

 よそ者の俺たちが色々と調べ回っていても、だ。
 まっとうな商売をやっているだろうこの紳士商人は、俺たちをけむたがってお茶を濁す事は明々白々だ。
 場合によっては俺たちが触滅隊に襲われて負けた場合、俺の奥さんたちが売り飛ばされてしまった可能性があったわけだが、それだけじゃない。

「もちろん。わたくしの主人は、あなたがその様なご商売をやっておられると疑っているのではありませんわ。ただ、世間を騒がせていた触滅隊と、それに繋がるブルカ辺境伯との繋がりを見つけ出さねばなりませんものね」

 カラメルネーゼさんの説明に一応は納得してくれた風の紳士商人さんである。
 ここでへそを曲げられて借金奴隷のお値段で話がこじれたら問題だからな。よかったよかった……

「現状ではわたしらの仲間内でその様なルートを使った商売をやっている人間はおらんでしょう。騎士修道会に眼をつけられれば、奴隷の健康診断もままなりませんからな」

 町医者は高額を要求しますからな。と、紳士商人はわかりやすい理由で回答してくれた。

「だが、闇取引をしている者も確かにいるでしょう。奴隷の健康診断を経ずに商品を売買したりすれば、教会堂や聖堂会には気付かれない。また、扱いにくい商品というのは確かに存在していますからな」
「わけのある高貴な身の上の人質、という事ですわね」
「ええ、そういう場合は確かに、人知れず取引がなされることがまれにあります」

 カラメルネーゼさんの言葉にそうだとうなずいて見せた紳士商人は、改まって口を開いた。

「わかりました。その辺りの事を、しっかり探りを入れてみる様にしましょう」
「そうか、感謝する。よろしく頼みます」

 俺が手を差し出すと、紳士は笑ってその手を握り返した。

「実は御台さまのご家来がたも調べをやっている事は存じておりましたが、どうにも背景をおっしゃらずに高圧的にお調べをなさいますので、株仲間たちはみな閉口して協力をしなかったのですよ。疑われる様に問い詰められたのでは、みな答えようがないというものです」
「ははあ、するとあなたのところにも?」
「いいえ。わたしは御台さまの派閥に組する人間ではございませんから、ご家来がたは来れませんでしたな」

 こんなところでもお家騒動における派閥争いの弊害が出ているのだ。
 リンドルしっかりしろよ! 一致団結して、ブルカに備えないといけない時なんだよ!
 俺が心の中でそんな事を思っていると、マリアツンデレジアの紹介状を握りしめながらマジマジと眺めていた紳士商人は、

「しかし、こうして御台さま直筆の紹介状までご持参なさったという事は、やはりブルカ辺境伯との戦争は近い、という事なのですな」

 物腰静かに、だが覚悟をする表情でこうつぶやいたのである。

「そうですわ。そのためにも労働力となる借金奴隷と、それらを世話する性奴隷だけは、まとまってご用意出来ます事?」
「もちろん、出来るだけよい商品を当たってみましょう。期限はいつほどで?」
「開拓移民をリンドルから送り出すタイミングで、最初の受け渡しをしていただきたい。数はそれほど多くなくて構わないので、いい人材がいれば定期的に頼む」

 最後だけは俺の言葉でそう説明する。
 紳士商人やカラメルネーゼさんは奴隷を商品と口にしたけれど、妙な抵抗感のある俺はあくまでも人材と置き換えてそう言った。
 何しろ俺は奴隷だった経験があるからな。今も奴隷の呪印みたいな支配魔法のタトゥーが背中にある手前、あまりいい気がしないのだ。

 それにこの世界では、奴隷も人材派遣会社から派遣されてくる人材みたいなもんだと感じた事が以前あった。
 いい働きをして奴隷奉公の年季が明ければ、奴隷解放したっていいんだ。そのままサルワタの住民になってくれたら一石二鳥だからね。
 いい労働環境を提供する事も領地経営者の基本だろう。よし、今度女村長に意見具申しよう。

「なるほどわかりました。ではその際に商品をご覧いただくという事で」

     ◆

「ふう、やっぱり奴隷商会に顔を出すのは、あまりいい気がしないものだな」
「しょうがない事ですわ。何事も慣れは大事ですわよ?」

 ふふっと笑ったカラメルネーゼさんに俺のしかめ面を見られてしまった。

「モノの本によれば、異世界に転生した人間がかわいい奴隷の女の子を奴隷商会で買い求めるというものだが、俺はようじょに奴隷として買われたんでね。軽くトラウマなんだよ」
「まあ。おーっほっほ」

 紳士然とした商人相手だったから俺も大人しくしていたが、ブルカの奴隷落ちした名前の長い男の様ないけ好かない人間が相手だったら、間違いなく俺は不機嫌な態度で接していたような気がする。

 そんなやり取りをしながら奴隷商会の入り口を出たところで、いかつい傭兵のみなさんのお出迎えである。

「大使閣下の旦那、カラメル姉さん。ご苦労様であります!」
「君たち、もう少しお貴族さまのお付きだという事は理解した方がいいと思うぞ。男は黙ってセバスチャンだ」

 俺はヤクザの親分を出迎える様に腰を落として頭を下げた傭兵の皆さんに、付き人の心得というものをこんこんと説明する事にした。
 執事の様にとは言わないが、もう少し上品にいこうや。そう思ったのだが、駄目だった。

「へい、旦那! 失礼しやした」
+注意+
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