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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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173 デート・サバイブ 2


 この街にやってきて二〇日余りも滞在していると、市街地や繁華街の土地勘というものは身に付いてくるものだ。
 いくつかの店でサルワタへのお土産品を購入した俺たちは、外交団随行員の野牛兵士に荷物を預けると、そのまま次の目的地へと向かった。

「ガンギマリーさんたちは下の繁華街が中心でしたよね?」
「そうだな。確か医薬関係のギルドをまわるという話をしていたはずだぜ」
「マリアツンデレジアさまがお調べになられた、町医者に関する聞き込みでしたっけ?」

 単純にショッピングをしている様に見えて、俺たちにはそれなりの目的があった。
 そのうちのひとつがリンドルの街に未だ楔を食い込ませているらしいブルカ側の情報を集める事。
 それから、つい数日前にダアヌ夫人主催で開かれた晩餐会で顔つなぎした、商会の主たちの店を訪れる事だ。

「町医者といっても、結構な数がこの領内にいるらしいじゃねえか。サルワタなら司祭と助祭のふたりが医療を担当しているだけだったぜ」
「リンドルはサルワタと違って大きな街ですからね。ブルカ聖堂の医療従事者だけで、全ての領民の怪我や病気の治療をする事は出来ないんですよ」
「そうなんですか? 大きな街は大変ですね」

 カサンドラを挟む様にして、ニシカさんとベローチュが俺の後ろを並んで歩きながら、そんな会話をしていた。
 今日は俺を守るフォーメーションと言うよりも、カサンドラを護衛の第一目標という風に定めているらしい。
 だから今日の俺は先頭を歩いているというわけだ。

「んで、オレたちはこの後どこに向かうんだ?」
「冒険者ギルドです。カラメルネーゼさんだけ向うのメンバーから抜けて、昼頃にこちらに合流する予定になっているので。冒険者ギルドで用事を済ませたら、次はご主人さまだけ別行動で奴隷商会です」

 男装の麗人が紙片を確認しながら今日の予定をつらつらと述べていく。
 カラメルネーゼさんとわかれた雁木マリやッヨイさまたちは、その足で職工ギルドと両替ギルド、その後には確か農業ギルドまで足を運ぶ予定になっていた。
 とってもタイトなスケジュールだが、そのあたりは分業体制でこなしていくしかない。

 しかし前々から疑問に思っていたんだけれど、

「魔法使いが参加する様な魔術ギルドみたいなものはないのかな。そういうのをサルワタに招聘したら、魔法使いを大量育成出来るんじゃないんですかねえ」

 ふとそんな事を考えたのである。
 するとニシカさんが例によって、適当な発言をするではないか。

「魔法なんてンなもん、普通は独学で勉強するんじゃねえのか?」
「それだと、あの女魔法使いのマドューシャが、借金をしてまで魔法を教える塾に通っていたというのが、おかしなことになりますよ」
「そうなのか? ようじょなんて親からちょっと手ほどきを受けたら出来る様になったと言っていたぜ」
「いや、ッヨイさまの場合は特別なんですよ」

 ようじょは天才ってはっきりわかるんだね。
 俺がそう言う風にいうと、ニシカさんもその点には納得した様だった。

「オレ様も天才だったら、風の魔法以外が使えたに違いない。魔法使いニシカ、ん? いい響きだろう」
「何か、ッヨイさまみたいにフリフリのワンピースを着て、魔法少女になったニシカさんのイメージが想像できませんねぇ。バサバサの短髪で眼帯を付けて、オレ様とか言う魔法使いは、魔法蛮族の間違いでしょう」
「蛮族じゃねえ! オレは結婚適齢期のレディだぜ!」

 フォーメーションを崩して前を歩く俺に肩を回してきたニシカさんを、とりあえずからかっておく。
 ニシカさんは大層憤慨して、俺の首を蛮族の腕でぐいぐい絞めてきた。
 乳圧と腕の締りで昇天しそうです。タスケテ奥さん……

「そう言えば奥さま、ニシカ夫人は第何夫人なのですか?」
「いいえニシカさんは、自由恋愛をするそうですよ」
「自由恋愛。まだそんな事を言っているのですか。リンドルでいいひとが見つかるといいですね」
「うふふ、ご自分に素直になればすぐ見つかりますよ……」
「やだーまた自分の番が後回しになりますよ」

 女子ふたりが後ろで何事かヒソヒソ話をしていたけれど、ニシカさんにホールドされているのでよく聞こえてこなかった。

「つまり魔法ギルドをお前ぇは作りたいのか?」
「いやギルドがないなら、魔法塾というのはどこかから招聘すればいいんじゃないですかね。あの女魔法使いを使うとか」
「なるほど、でもアイツは信用なんねえだろ、金がないと言う事を聞かないぜ。借金の肩代わりにするか、例の魔法の拘束を使っていう事をきかせるかだな。どっちにする?」

 察しのいいニシカさんは、俺がふと考えていた事を代弁してくれた。

「その辺りの事はッヨイさまに相談してから決めないと、何ともなりませんねぇ」
「ッヨイちゃんはお子様ですが忙しい身の上ですし、来年には成人なさいますからね。村長さまがどこかの高貴な方との結婚を考えるかもしれません」

 すると背後から、カサンドラが思案しながらそんな事を口にした。
 つい時々忘れてしまう事なのだけれども、ようじょだっていつかはようじょじゃなくなるのだ。
 ゴブリンは幼く見える種族でしばらくようじょの外見かも知れないが、法的にそうでなくなってしまうと、婚姻外交の手駒として女村長が利用する可能性はあるのだ。

「あの村長ならありえるぜ」

 そのノリでオレ様の嫁ぎ先も世話してくれればよかったのによう。とニシカさんは憤慨して鼻息を荒くした。
 さて、俺たちが到着したのは次の目的地である冒険者ギルドだった。

     ◆

「開拓移民を募りたい。若い人間、出来れば家族ではなく独身の者がいいが、男女比は均等であることが望ましい」

 お貴族さまスタイルのカサンドラと、それを取り巻く帯剣した俺たちを見て、冒険者ギルドの受付に座ったおじさんは圧倒されていた。

「か、かしこまりました。それではご相談を承りますので、こちらの相談窓口へお越しください。ええと、冒険者登録されている方はおいでで?」
「オレ様が持ってるぜ、ほらシューターも出せよ」

 受付のおじさんに促されて、ニシカさんがシャツの胸元を開きながら恵み豊かな山々の谷間から、冒険者タグを引っ張り出して外した。
 そんな仕草と、きっと人肌に温められているであろう金属のタグを行方を見ながら、俺と受付のおじさんは生唾を飲み込んだ。

「セレスタのものですが、自分も持っています」
「ええと、確か俺のはブルカで作ったものだったよな」

 男装の麗人の、ニシカさんと同じく胸の谷間で暖められた冒険者タグと、俺の胸板で焦がされた冒険者タグ。
 そのふたつを、ニシカさんを見習ってカウンターに俺たちは置く。
 するとおじさんは、とても嬉しそうな顔をして鱗裂きと男装麗人のタグをありがたそうに、俺のそれだけは汚いものにでも触れる様に扱うではないか。

 おい、この受付のおじさんは差別主義者だ。俺を誰だと思っているんだ!
 男の人肌は触りたくないと言わんばかりの扱いに憤慨した俺が文句を言ってやろうと思ったところ、

「ほほう。ダンジョンの攻略履歴のある猟師さまと、セレスタ家中のお貴族さまですか。それに奴隷、と……」
「おう、よくオレ様がバジリスク討伐のために洞窟に潜っていた事がわかったな!」
「ここにですね、ダンジョン攻略を達成すると印を入れるのですよ。それから職業が書かれていますからね」
「どれどれ……」

 受付のおじさんは黄色と褐色の長耳女子ふたりに、懇切丁寧に説明をしてくれた。
 俺の事は完全に無視である。
 カサンドラも興味深々だったのか、みんなで顔を突き合わせてタグを覗き込む。

「本当だ、ここに奴隷と書いてますね。ご主人さま、これはいつ作成されたタグなのですか?」
「ええと確かッヨイさまの奴隷になった後、その足でブルカにいくつかある冒険者ギルドに足を運んで作ったんだったかな」

 その時は全裸の奴隷だったので、きっと職業は奴隷としてタグの中に刻まれていたのだろう。
 金属のタグにはニシカさんならば猟師とあり、ベローチュには貴族階級と書かれていた。
 仮にもお貴族さまの俺が奴隷と表示で、本物の奴隷であるベローチュがお貴族さまの扱いとはこれいかに。
 不愉快な気持ちを胸いっぱいに膨らましていると、カサンドラが横で苦笑を浮かべてなだめてくれた。
 表情が、しょうがありませんよシューターさん、とでも言っているみたいだ。
 大正義ヒロインの奥さんかわいい。許す。

「さて。高貴な身の上のご婦人は、相談窓口のカウンターのイスに腰かけて、しばしお待ちくださいませ。しばらくすれば担当の者がやってきますのでな」

 ニコニコ顔を浮かべたおじさんは、カサンドラにイスを勧めて見せた後、タグをトレーに乗せて退出しようとした。
 去り際、俺がイスに腰かけようとするのを見たおじさんが顔をしかめる。

「ご家中のお方々、あまり奴隷を調子づかせてはいけませんぞ。つけあがりますからなぁ」

 俺はズッコケそうになるのをカサンドラとベローチュに助けてもらった。
 ニシカさんだけがニヤニヤしながらおじさんが去る姿を見送っていたけれどね。

「久しぶりに奴隷扱いされた気分はどうだ」
「あんまり気分のよいものではありませんよ、けどまぁ魔法の拘束で今もッヨイさまの命令に絶対服従みたいな立場だからなあ」
「じゃあそのままにしておくか?」

 嫌らしいニヤニヤ顔で俺を見下ろしてくるニシカさんが腹立たしかったので、バシリと尻を叩いておいた。

「ちょっとしたジョークだろ相棒、お前ぇの旦那は話が通じない助兵衛野郎で困るぜ!」
「冒険者タグを更新した方がよろしいでしょう。仮にもサルワタ大使さまの冒険者タグが奴隷のままでは格好が付きません。自分も本来あるべき身分として、再登録されませんと」
「また妙な誤解をされてしまいますよ、シューターさんと」

 姦しい女性陣にそう言われて、俺は「そうだね」と軽く返事だけしておいた。
 俺がさほど腹を立てて事を荒立てなかったのにはわけがある。
 冒険者ギルドのギルド長とは、すでに二度目の晩餐会で顔を合わせていたからね。
 奴隷だと思った俺がサルワタ大使だという事は、すぐにもわかるだろうからな。

 案の定、俺たちの移民募集の申請を聞きつけたらしいギルド長が、受付のおじさんと担当者のおばさんを伴って、あわてて謝罪にやって来たのである。

「大変失礼な事をしてしまいました、大使閣下。この者にも厳しく指導をしておきますので、この事は平にご容赦ください! 御台さまのお耳にだけは……」
「おいどうするよ相棒、無礼打ちにでもするか。ん?」

 ニシカさんが俺の事にも関わらず、面白がって話をややこしくしようとしていたので、みんなして全力で止めた。

     ◆

「お伺いをしましたところ、出来るだけ若い独身の男女の移民をお求めという事でしたが。職業であるとか、人種であるとか、そういう事については何かご要望はありますか」

 冒険者ギルド長がペコペコとしながら俺たちに説明をしてくれている。
 場所は立派な応接セットが整えられた、ギルドの奥にあるギルド長の部屋である。
 俺たちサルワタ村の冒険者ギルドと言えば、元は倉庫だった場所を改装した事務棟と居住区がある程度の安っぽいものだが、ここにあるギルド長の部屋はたいへん立派なものである。
 もしかすると、女村長の屋敷よりも調度品にしたところで立派なものかもしれないね。

「特に人種や職業という事にこだわりはないですねえ。出来れば若い人間で男女比は同じにとしたのは、我が領の主から連絡をもらったところ、これまでの移民というのは、どうにも農民ばかりが主で、しかも男ばかりが多かったのだと聞いています。それから残り半分は家族持ちという事でして」

 子供や老いた親を伴った移民の旅というのは、女村長の寄越した手紙の内容によれば、それはもう過酷な内容だったらしい。
 紙は貴重なもので、魔法の伝書鳩に括り付けられる情報量など知れているものだが、ブルカから人を集めるならいざ知らず、その倍以上距離のあるリンドルから移民を募るとなれば、家族連れの移民の旅は大変になるだろうというものだった。
 老人や子供が途中で怪我や病気でもしようものならば、移民団の一行は足を止めざるを得なくなる。

 アレクサンドロシアちゃんの義息子ギムルとともにブルカからサルワタを目指した時は、せいぜいが五日あまりの行程だった。
 それだとしても、行きがけが三日で走破出来た道のりを、帰りは徒歩や家財を積んだ荷車を引く者もいるとあって、ゆっくりとしたものだったからな。

「ははあ、それ故に若い人間の方がよろしいと」
「そういう事だ。裸一貫、移民で新しい人生を切り開こうという人間は、たいした家財も持っていないだろう。それならばここリンドルからセレスタの街までは、一気に河船を使って移送する事が出来る」
「確かに。それならば道中に野盗と出くわすリスクは極端に少なくなりますからなあ」

 応接室の向かいで、俺の言葉に耳を傾けるギルド長は納得の表情だった。

「触滅隊と言いましたか? 閣下のご活躍で、ブルカから送り込まれていたという悪党連中も成敗できました」
「しかしギルド長。今度は悪党連中を統制していた大きな組織が無くなって、小銭欲しさの悪党働きをする雑魚みたいな連中が増える可能性があると自分は思いますよ、油断召されますな」

 珍しく生真面目な顔をした男装の麗人が、俺の腰かけたソファの後ろで身を乗り出して意見具申をした。
 ちょうど俺とカサンドラの間から身をぐっと突き出したものだから、たわわなおっぱいが俺とカサンドラの間の視界を遮るではないか。
 褐色の官憲は正しい事を言っていると思う。
 落ち着くまで、リンドル往還の道中はしばらく治安が安定しないかもしれないな。

「その辺りは、かえって冒険者ギルドとしても有りがたいところですな。外道の働きをしていた噂の触滅隊を相手にするとなれば、これは護衛の仕事を嫌がる冒険者や傭兵たちがいたものです」

 けれども小悪党相手ならば、冒険者や用心棒がわりの傭兵を少人数率いていれば、それで事足りるという事なのだろう。

「それに、そういう仕事があるのであれば、我々ギルドにもこれまでと違い定期的に護衛関係の手数料(フィー)が入ってきます」
「アッハッハ、適度に小悪党がいた方が儲かるわけか。おいおっさん。お前も悪だね!」
「いえいえ、ニシカ夫人ほどではありませんなあ。そうそう、他に何かご用命はございますかな?」

 もうひとつ大切なお願いがあったのだ。
 ッヨイさまが以前発案したもので、ブルカの息のかかっていない冒険者ギルドから、支援要員を出してもらいたいというものだった。
 俺とニシカさんが顔を突き合わせると、ウンとひとつうなずいてみせた彼女が口を開く。

「オレたちの村にある冒険者ギルドは、ブルカから派遣された人間で立ち上げが行われたのだ。ところがその立ち上げのためにやって来たベテランの冒険者というのがとんだ食わせ物だったんだぜ」
「ほほう……」

 今となってはリンドルも安全ではないかもしれない。
 何しろ城府の奥深くまでブルカ辺境伯の息のかかった人間が存在していたからな。
 だがせめてギルド長の眼で信頼できる人間を送り出してくれるなら、これほどうれしい事はない。

「ぶしつけなお願いという事は重々承知しているのですが、ギルド長であるあなたの眼から見て、信頼に足る人物を、俺たちの村に支援要員として派遣していただきたい」
「信頼に足る、ですか。長くリンドルに貢献した冒険者やギルドの職員数名ならば、ご紹介は出来るかもしれないですな」
「人数はそれほど多く必要ありません。最初の移民の護衛も兼ねて、十名足らずお願いできればそれで」

 仕事もさほどないのに冒険者ばかり何十人も村に集まって来ても、対価もなしに報酬は支払えないからな。
 十名足らずと言っておけばたぶん予定より少ないぐらいに集まるだろうから、そう俺は説明しておいた。

「わかりました、冒険者ギルドの支援要員。それに出来るだけ職業にこだわらず、若い男女を集める様に募集要項を作成しましょう。ただちに掲示板に張り出し、農業ギルドや職工ギルドにも手配する事にします」

 ありがとうございます、ありがとうございます。
 俺とカサンドラは深々と平伏した。

「ところで閣下。男女比を出来るだけ均等にとおっしゃったわけは?」
「前回の移民では、何故か家族持ちと独身の男ばかりでした。その前の時は、ゴブリンの男ばかりが集まったそうです。ええとその前は……」
「いやベローチュ、もういい」

 最後に質問をしたギルド長に、女村長からの文の紙片を確認した男装の麗人であるけれど、俺はその言葉を途中で遮った。
 文字通り未開の地である辺境の終着点、サルワタという開拓村は、未来に夢見る若者には何のうまみも感じられないのだろう。

「我が村への移民は、とにかく女性に人気が無いのですよ」

 ッワクワクゴロさんの兄弟ですら女性との出会いを楽しみにしているぐらいだからな。
 労働力として男性は貴重な存在だが、結婚相手がいない村はきっと滅びる。少子高齢化間違いなしだ。

「では、気持ち多めに女性の移民志望者に声をかけてもらう様、手配させていただきましょう」
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