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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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閑話 ぼくは口数が少ない

投稿まで間が空いてしまい申し訳ございません!

 ぼくは口数が少ない。
 言葉を口にしてしまうと、幸せがぼくの手からこぼれ落ちてしまいそうな気がするから。
 黙っていれば、そうはならないんだ。
 余計な事を言って、誰かを傷付けるかもしれないしね。
 里親だったゴブリンのとうさんもはとても寡黙なひとだったよ。かあさんもいつも笑っているひとだったよ。
 とうさんやかあさんと一緒にいる時は、あまり会話をしなくても、ちゃんとぼくのキモチは伝わったんだ。

 でも、そんなぼくでも。
 ひとつだけシューターさんに言った言葉があるよ。

「ぼくも結婚したい。ひとりだけのけものは寂しいよ……」

 勇気を出して言ったんだ。
 今まで自分の事を男の子だと思っていたぼくが、男の人に結婚したいっていうのはおかしい事かな?
 ぼくはでもね。
 シューターさんの事が大好きなんだ。
 ゴブリンで里親のとうさんとかあさんの事はもちろん好きだし、とっても感謝しているんだ。
 けれど、いつまでもとうさんとかあさんの側にいたら、心配を掛けちゃうからね。
 猟師として立派になるために、ぼくは自立する事に決めたんだ。

 ひとりはずっと寂しかったよ。
 冒険者ギルドでその日暮らしのお仕事を探して、宿屋の吊り床でひとり寝をするんだ。
 こんな事なら、とうさんとかあさんの側を離れなければよかったのにって思った。
 だから移民を募る募集に、ぼくは手を上げたんだ。

 いつまでも、とうさんとかあさんの住んでいる街で生活をするからいけないんだ。
 とうさんとかあさんは市壁の郊外にある猟師小屋で生活をしているから、ぼくは稼いだお金とお土産を持ってよく里親の元に通ったんだ。
 離れ離れになるのは寂しいけれど、きっとこれも親離れをする大事なチャンスだと思った。
 この事をとうさんとかあさんに話すと、寂しがったけれど「お前の決断を尊重する」と喜んでくれたよ。

 今度会う時は、新しく出来た家族を紹介するって宣言したんだ。
 ぼくだって、一人前の男の子になるんだって思ってたからね。

 でもぼくは女の子だった。
 とうさんや、シューターさんと同じものがついてるから、きっと男の子だと思ってたのに。
 ガンギマリーさんに言われるまで、疑いもしなかったんだ。
 この事を知ったら、とうさんとかあさんはびっくりするかな?

     ◆

 けれど、ぼくもおかしいかなって思った事はあったんだ。

 サルワタの村の開拓村にやって来ると、ぼくは村長さまの命令でシューターさんのお家で一緒に暮らす様に言われたんだ。
 住める家が少ないから、これはしょうがない事なんだと説明されたんだけれど。
 そうしたら、シューターさんがぼくをシューターさんの家族として扱ってくれたんだ。

 一緒に生活をすれば当然、一緒に寝起きするよね。
 そうして、シューターさんと一緒にお風呂に入ったり、シューターさんのたくましい背中を見ていると、何だかキモチがドキドキする事があったんだ。

 ぼくの体は貧相で、筋肉たくましいシューターさんみたいにモリモリしてないし。
 背丈だって、シューターさんの奥さんの義姉(カサンドラ)さんとかわらなかったんだ。
 義姉さんなんて、ぼくが貧相な体をしているから女の子の扱いだったもんだから、ぼくは憤慨しちゃった。

「身綺麗にしておかないと、シューターさんの立派なお嫁さんになれませんよ」

 でもぼくは口数が少ないから、強く言い返せなかったんだ。
 義姉さんやダルク義姉さんがお風呂の時にぼくの体をべたべた触って、とっても困惑しちゃった。
 けれどね、ぼくは義姉さんたちに触られてもそんなにドキドキはしなかったんだよ。
 シューターさんに頭を撫でられると、キモチがとってもフワフワするのにね。
 それで義姉さんがぼくに言ったんだ。

「どうしてエルパコちゃんはそんなに恥ずかしがるのですか?」
「ぼ、ぼく。お尻のあながふたつあるから、恥ずかしくって……」

 そしたら義姉さんとダルク義姉さんが顔を見合わせたのを覚えているよ。

「女の子なんだから、当たり前でしょう」
「そっちはお尻の穴じゃないですよ。エルパコちゃん」

 それで義姉さんがぼくに身を寄せるとこう言ったんだ。

「そこは、旦那さまからお情けを授かる場所なのです」
「?」
「あなたがシューターさんのお嫁さんになるでしょう」
「う、うん? えっと……」
「そうしたら、とても幸せになれるのです」

 義姉さんはひとりでウンウンと納得して「あなたも何れそうなりますよ」と言ったんだ。
 ぼくには意味が分からなかった。
 すると今度はダルク義姉さんが怖い顔をして、義姉さんを見たんだよね。

「義姉さん。わたしはまだお情けを頂いていませんよう」
「何事も順番ですよ、ダルクちゃん。ここではちょっと、ねえ?」
「そうですねぇ、早く大きなお家に引っ越しをしなくては……」

 女のひとは、男のひととそうなるんだって。
 その時は義姉さんたちも大変だなって思ったんだけれど、今ならダルク義姉さんの言葉も少しわかるかもしれないな。

     ◆

 小さな猟師小屋でシューターさんと義姉さんと、ダルク義姉さんと一緒に生活をしていたぼくだけれど、村長さまの命令で新しい家に引っ越す事になったんだ。
 その家はとっても立派で、村でも村長さまのお屋敷に次いで大きなところだった。

「エルパコさん、あなたに言っておきたい事があるの……」

 そんな新居で、ぼくはガンギマリーさんに声を掛けられたんだ。
 ガンギマリーさんはとっても重たい顔をして、どこかぼくに説明するのをためらっている様な口ぶりだったんだ。

 その時シューターさんは冒険者のおじさんと死闘を繰り広げて、大きな傷を負っていたんだ。
 傷はシューターさんの脇腹に深々と刻まれていて、何日も熱でうなされていたからね。
 ぼくや義姉さん、村長さまやニシカさんまで交代で看病していたんだ。
 ガンギマリーさんがいなかったら、もしかしたら命が危うかったかもしれないんだよ。

 だからもしかすると、ぼくはシューターさんが助からないのかと思ったんだ。

「ぼくに何か……」

 とても嫌な予感がしたんだ。

「シューターにきいたわ。あなた、男の子だって自分の事を思っているらしいわね?」
「う、うん。ぼくはこんな体だけど、ちゃんとした男の子だよ」

 だって付いてるし、その事は疑いの無い事だと思ったんだ。
 シューターさんと同じものがあるんだよ?

「じゃあそれはもう忘れないさい」
「?」
「あなたは自分の事を狐の獣人の男の子だと思っていたらしいけれど、それ間違ってるから。あなたはハイエナの獣人よ。ハイエナって知ってるかしら?」
「え、知らない……」

 ハイエナの獣人なんてぼくは聞いたことも無かった。
 とうさんとかあさんの知らないものは、ぼくが知っているわけもなかったからね。

「でもぼく、おちんち――」
「付いてるのよハイエナ獣人の女の子には、りっりっ立派な、ご子息が!」

 ガンギマリーさんが顔を赤くしてそんな事を言うから、ぼくまで顔を赤くしてしまったよ。

「それにあなた、カサンドラ夫人にお尻のあながふたつあると報告していたそうね?」
「う、うん……」
「そのうちのひとつは、女のひとに付いているものなのよ。あ、あたしにもあるし、カサンドラ夫人にもあるわ」
「じゃあ、ガンギマリーさんには立派なご子息が付いているの?」
「つ、付いてないわ! それはハイエナ獣人にだけ付いてるものだから。あたしも詳しくは知らないけれど、ハイエナ獣人の部族を、本土と辺境の境界線上にある土地で見かけた事があるわ。あそこの女の子たちは少なくとも、みんな付いていたから安心しなさい」

 安心しろと言われても、ぼくはますます混乱するばっかりだった。
 男の子だと思ってたのに、女の子だなんて言われても。
 薄々何となく自分が男の子なのに変だなって思ってはいたんだけれど、シューターさんがかっこよく見えたり、ドキドキするし。
 でもそれは、立派な男のひとに憧れているだけだと思ってたんだ……

「ああもう、どうしてあたしが保健体育の授業みたいな事を教えないといけないのかしら! こんなの、シューターが直接教えればいいのよ……」

 ガンギマリーさんはとっても取り乱していたけれど、ぼくにはその意味がよくわからなかった。

「あなた、シューターの事が好きなんでしょう?」
「す、好きとか。そういうのは意識した事がないから……」
「嘘をおっしゃい。カサンドラ夫人に聞いたわ。いつもシューターの後ろを付いて回っているんだって」
「そ、それは家族だから当然だよ」

 ぼくが抗弁をすると、ガンギマリーさんは眉にしわを寄せた。

「あの男のどこがいいのかしら。新婚だって聞いてたのに、奥さんだってふたりいるし。男か女かもわからないうちからエルパコ夫人を愛人候補に囲っているし」
「し、シューターさんの事を悪くいわないで!」

 まったく、とガンギマリーさんが言った。

「………で、どこが気に入ったのよあの男の」
「ぼっぼくと違って男らしいところ? あと家族として大切にしてくれるし」
「安っぽいわね、あなた」

 そんな事より、ぼくはふと気が付いたんだ。
 ぼくが男の子じゃなくて女の子としてシューターさんの家族になるには、ぼくはどうすればいいんだろう。

「女の子って事は、シューターさんの家族になるためには、どうしたらいいの……?」
「ふ、夫婦になれば家族になるのは簡単ね。みんなあなたの事を奥さんだ、愛人だって言っているから。きっと外聞的には問題ないわよ……何言ってるのよあたし、もぅ」
「夫婦って結婚って事だよね」
「やっぱりあなた、シューターの事が好きなんじゃないの」

 そんな事があったから、ぼくはシューターさんの事を意識しちゃったんだよ。
 ぼくが男のひとにドキドキしたりフワフワしたりするのは、いいんだって。
 シューターさんと結婚しても、おかしくないんだって。

 家族だって言ってくれたのはシューターさんだからね。
 ぼくは家族なんだ。
 家族なら、結婚するのもおかしくないんだよ。

     ◆

 ぼくは口数が少ない。
 言葉を口にしなくても、ぼくはいまとっても幸せなんだから。
 でも、そんなぼくでも。
 ひとつだけシューターさんに伝えたい言葉があるよ。

「ん、どうしたエルパコ?」

 あのね、ぼく今とっても幸せなんだ。
 はじめてふたりで一緒に寝台を共にした日。
 古ぼけた宿泊所の天井を見上げていたシューターさんに、その事をぼくは勇気を出して口にする。

「シューターさんの事が大好きだよ!」

事後です。

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