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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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171 晩餐会の続きです

 マリアツンデレジア夫人とダアヌ夫人がご対面する出来事があった。
 聞けば、こんな事はこのリンドルでも一年に数度あるかないかという貴重な出来事らしい。
 もちろん、それはふたりがそれぞれの派閥の首魁であり不仲だからだ。
 事実上のリンドル支配者であるマリアツンデレジアは、少しでもダアヌ夫人を蹴落とそうと政治的に後ろめたい事も色々やっていたし、ダアヌ夫人はダアヌ夫人でマリアツンデレジアのあら捜しに余念なく足を引っ張っていた間柄だ。

「そなた、我が邸宅に何をしに来たのだ!」
「もちろんそれは、シェーン子爵さまに仇なすブルカの影どもを捕縛するためですの! リンドルの施政権はわたしが持っておりますの。邪魔だてしないで頂きたいものですのねぇ?」
「な、何じゃと! 都の箱入りジャジャ馬風情が御台などと偉そうに、大使閣下も何か言ってやれ!」
「わっわたしはこちらのシューター閣下に呼ばれて馳せ参じたのですの! ねえ、シューターさま?!」

 放っておけばさらに酷い事になりそうなふたりの罵倒が、ダアヌ夫人邸の裏口前で繰り広げられてしまった。
 ニシカさんはそんなご夫人がたの喧嘩を、例によって暗がりの中でニヤニヤしていたけれど、俺の名前を持ち出されて喧嘩をはじめられては、止めないわけにはいかない。

「ど、どれぇ、止めた方がいいのです」
「そうですよ、大使閣下さん。あ、でもお賃金を頂いたら、お手伝いするのもやぶさかではないわね。フフっ」

 ようじょがアワアワとあわてふためいた顔をしていたので、頭をなでなでして落ち着いていただいた。
 女魔法使いは暗に金を要求してきた節があるので、こちらは尻を引っぱたいておいた。すると「アヒィ!」と景気の良い黄色い声を出して悲鳴を上げたので俺は満足である。

「ご夫人がた、今は争っている場合ではありませんよ。マリアツンデレジアさんは、ただちに足跡を追って、市中に衛兵を配置していただくのがいいでしょう。ダアヌさんは、汚れた衣装を改めて、晩餐会にもどりませんとねぇ」

 忘れてはいけないのが、今が晩餐会の真っただ中という事である。
 いつまでも夜会の主催者たるダアヌ夫人と、賓客たる俺とが留守にしていて良いものではない。
 すすけた顔でケツをボリボリとかいている場合ではないので、逃走したデブの追跡はマリアツンデレジアに任せて身支度を改めるために俺たちは急いで控えの間を目指す事にした。

「シューター閣下、ひとつよろしいですの?」
「何ですか改まって」

 俺たちが去り際に、衛兵を従えたマリアツンデレジアは妙に不安そうな顔をしてモジモジしている。

「お恥ずかしいはなしですけれども、我がリンドルの衛兵はあまりこういう事に不慣れなのですの。当地の取り締まりと言えば主に税金逃れと違法商売の摘発が主で、あまり荒事を行う事もありませんの。それに衛兵の絶対数もおりませんの」
「…………」

 リンドルの領兵がすさまじく弱兵である事は、触滅隊の討伐作戦でも痛いほど見てきた事だ。
 オゲインおじさんが率いたリンドル隊など、数では盗賊集団の触滅隊と伍する兵士を揃えておきながら、指揮官級の仮面の男たちにやりたい放題をされていた弱兵具合だ。

 モノの本によれば冷戦のただ中にあったアメリカの軍隊は、国民一〇〇人あたりに一人という比率で軍人さんがいたそうであるけれど、リンドルの領民あたりの兵士数はもっと少ないはずだ。
 アメリカの例を出すならばこれには警察や州兵は含まれない数だから、実際には警察や軍事組織の国民当たりの比率は多いはずだからな。
 リンドル領内の総兵力がどれぐらいなのかわからないが、ごっそりかき集めても三〇〇人程度いればいいぐらいだろう。

「それに今のリンドルは、まだまだブルカ伯と繋がっている人間が、わたしたちが思っている以上に多くいるはずですの」
「それは考えられますよね。逃走したナメルシュタイナーは怪我の治療をどこかで受けていたはずだ。つまり医者の協力をどこかで受けていた可能性がある」
「町医者ですのね……」

 弱気なマリアツンデレジアの言葉に、ッヨイさまがひとつ知恵を授けてくれた。

「そうですね、同じブルカの名を持っていてもブルカ聖堂会はッヨイたちの身内なのです。ここの医療従事者に協力を受けていないとなれば、街で医療従事しているやみ医者か何かに見てもらっている可能性があるんじゃないかなー。やみ医者を当たれば、どこかで足取りにたどりつけるかもです」

 わかりましたの、と了承したマリアツンデレジアは、最後の最後までダアヌ夫人に「あっかんべー」みたいな顔をして満足したのか、遺留品を調べるべく食糧庫の焼け跡を吟味しに足を向けたのである。

 まったく、大人げないご夫人がただ。
 そんな事を思っていたところ、控えの間に向かう廊下でけもみみが俺のローブの袖を引っ張るのである。
 やめなさいエルパコ!
 袖をあんまり乱暴に引っ張ると、前がさらけ出て恥ずかしがり屋の息子が飛び出してしまう。

「どうしようシューターさん、動きやすい様にスカート破いちゃったけど」
「むむっ、確かにそうだな……」

 確かに、モップまで持ち出していつでも大暴れ出来る様に準備した俺たちだったけれど、ナメルシュタイナーは間抜け落とし(ブービートラップ)をひとつ仕掛けて退散していたからな。

「こなたの衣装を貸してやるのじゃ。そなたは背格好もこなたとあまり変わりないじゃろうし、問題はなかろう」
「でも、それだと胸の辺りがぶかぶかするよ」

 エルパコが、両手で胸元を丸く作って見せておっぱいを表現した。
 おっぱいがいっぱい。
 ニシカさんほどではないが、不完全ロリババアも肉付きがよいので豊満系女子だしな。

「大は小を兼ねるのじゃ。問題なかろう」
「うん……」

 そんな次第で、エルパコだけが不完全ロリババア専用の衣装室に連れていかれた。
 ちょうど俺たちが埃を落としたり、顔を拭いたりして綺麗さっぱりしたところでサーコートに袖を通していたところ、

「なんじゃぁ! そなた、付いておるではないか!!」

 控えの間の隣にある衣装室からそんな叫び声が聞こえた。
 付いているけど、エルパコはハイエナ獣人の女の子だぜ。そこんところよろしくな!

     ◆

 そしらぬ顔で晩餐会に舞い戻った俺だけれど、どうも不味い噂が広がる事になった。
 ひとつはダアヌ夫人が衣装チェンジをして登場したタイミングと、俺が会場に戻ったタイミングがほぼ一緒だった事。
 これでどうやら、俺と不完全ロリババアがふたりきりの密会をしていたのではないかと、出席した商人どもや文官どもの間でヒソヒソ話をしていやがったらしい。

 ただ密会をしていたというのであれば、まあこれも政治向きの事だから問題はないだろう。
 しかしダアヌ夫人が衣装代えをしたのは、まずかったかもしれない。

「ふたりで助兵衛な事をしていたんじゃねえかって、お前ぇら噂になってるぜ。ほら、カサンドラがこっちを睨んでら」

 ニシカさんがそう報告してくれたので、あらぬ誤解を招いている事は間違いない。
 ま、まってくれカサンドラ。
 俺は何もやましい事はしていないからね?
 お揃いの懐剣を持つカサンドラにめった刺しにされる悪夢を見てまだ時間も経っていなかったタイミングだけに、俺はたまらずへっぴり腰になってしまうじゃないか。
 冷静に説明すればちゃんとカサンドラは理解してくれるはずだけれど、やっぱり怖いものは怖い。

 そしてもうひとつ、こちらを見ている男がひとりいたのだ。
 若く溌剌とした青年だった。
 どうやらオッペンハーゲン商館のエリアにいた人物なので、間違いなくオッペンハーゲン領の関係者なのは間違いないだろう。
 ちょうどカサンドラと談笑をしているタイミングだったらしい青年は軽く会釈をすると、カサンドラとともにこちらに歩みを進めて来るではないか。

 カサンドラは音も無く静かに、ドレスの裾をつまんで粛々と。
 オッペンハーゲンの青年は、長い前髪を揺らしながら堂々とした歩みで。

「や、やあ。こんばんは……」
「お初にお目にかかります、サルワタの大使閣下シューター卿。それにニシカ夫人」
「シューターさん、こちらはオッペンハーゲン公商会のリンドル商館の副館長を務めておられる、クロードニャンコフさんです」
「おう、オレ様は鱗裂きのニシカだ。あと夫人じゃねぇからな」

 ちょっと怖い顔をしている(様に見える)カサンドラの紹介で、クロードニャンコフさんは優雅に一礼して見せた。

「今夜はサルワタ外交使節団の御一行と、リンドル商人のみなさんが親睦を深めるための席ですので、わたくしどもオッペンハーゲンの人間が出しゃばる様な無粋な真似は遠慮しようと思っていましたが。ひとつだけ、」
「?」

 俺とニシカさんが顔を見合わせていると、オッペンハーゲン商館の副館長クロードニャンコフは優雅に笑みを浮かべて言葉を続けるのだ。

「後日、改めてわたくしどもとお話をする機会を頂ければたいへん恐縮です。その際、改めて館長をご紹介させていただきたいのです」

 おお。カサンドラがサルワタの大使として、今後の関係を作るべく外交努力をしていてくれたんだね。
 奥さまありがとうございます、クロなんとかさんありがとうございます。
 嬉しくなった俺は、自分では優雅なつもりで貴人の礼を真似て、頭を下げながら胸に手を置いて見せた。

「願っても無い事です」
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