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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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170 俺たちは熊を狩ります 後編


 逃げた男の正体は、どうやらデブに金をつかまされた人物だったらしい。
 この屋敷に仕えている家臣は数多くいるとは言っても、ほとんどが身の回りの世話をする使用人たちである。
 給仕役の人間や料理人、それから女中といったところだろう。
 市中警備や軍事向きの事は御台のマリアツンデレジア夫人とオゲイン卿が分掌していたから、ここにはまともな警備の兵などは数名いる程度だった。
 してみるとこの逃げた男は、普通にこの屋敷に仕えている下男のひとりだったようだ。
 ダアヌ夫人に確認したところ「こ、こなたの家中のものじゃ」と証言したのでそれは間違いない。
 しかしどういうわけだと聞いてみたところ、

「お、おらは頼まれて、匿っていただけだ。なんにも知らねえ」
「その匿っていた場所というのがどこか、聞いているのです」
「ほげぇ!」

 ようじょがテニスボールほどのファイアボールを、下男の男に近付ける。
 腕は背中に回されて女だてらに剛腕のニシカさんに押さえつけられていたから、簡単に逃げられるものじゃなかった。
 頬がチリチリと焼けるのを恐れて、男はあっさり白状した。

「しょ、食糧庫だす。あすこなら、今夜は食料あらいざらいを引っ張り出して空っぽだから、かくまえるって。ほんのひと晩、ハチミツを売る行商人の旦那をかくまっただけでさあ!」

 ハチミツ売りの行商人。
 考えてみればいかにもナメルシュタイナーが変装していそうな格好である。

「今ならまだまだ間に合うじゃろうか」
「わかんないのです。たぶん相手も、アンチどれぇ魔法を仕掛けたので、ッヨイたちが探し始めている事には気付いているのですが、逃げたのか罠を仕掛けて待ち構えているのかまでは……」

 食糧庫のあるという場所に向かう直前、全員で装備の点検をする。
 ニシカさんは俺が本来着ていたのと同じ男装風のサーコートに白タイツ姿だからいいとして、ようじょはリボンドレスのままにグリモワールを持った姿である。ちょっと戦闘には心もとない。
 雁木マリと入れ違いに呼び出されたエルパコにいたっては、夜会に出席するために今宵はドレス姿をしていた。優雅に淑女めいている場合じゃないので、無造作に俺の持っている剣の柄に手を置いた。

「シューターさん、借りるよ」
「お、おう?」

 白刃を抜くと、ビリビリとドレスを切り裂いてしまった。
 みるみるうちにとってもレディなスタイルから、キャバクラのお姉さんみたいなきわどい長さのミニドレスになってしまった。
 シャキン、カシャ。俺の剣を鞘に納めながら満足そうな顔を浮かべた。
 きみはそのまま俺の剣を持っていなさい。

「も、もったいないですね。豪華そうなドレスが……」

 女魔法使いはビリビリ裂かれたドレスのふりふりだった部分をエルパコに押し付けられて、とても残念そうな顔をしていた。
 俺なんて毎回戦闘の度に上等なおべべをボロボロにしているからな。女魔法使いがこの事を知ったら、きっと発狂するか憤死するんじゃないだろうか。
 肝心の女魔法使いは武器らしい武器を持っていなかったが、こちらは使い捨ての護符の様なものを魔法の発動媒体にしている。剣やナイフの類は無用だろう。

 そして俺はというと、台所から拝借してきたモップを握りしめていた。

「俺の剣はエルパコが持っていなさい」
「でも、シューターさんは?」
「長柄の武器ならば俺は何でもいいんだよ」

 むしろ剣よりも上手く扱って見せる自信があるぜ。
 静まり返った台所の裏手口側にある食糧庫を前にして、俺は白い歯を見せてみんなを安心させた。

 正面から踏み込むのは俺とようじょにニシカさん、それに女魔法使いだ。
 エルパコが後方に回り込んで、通気口代わりの板窓から逃げられない様にと待機する。
 ダアヌ夫人は戦闘に寄与しないだろうから最後尾でおまけである。

 食糧庫はダアヌ夫人の邸宅の敷地より一段下がったような場所にあって、ここから市中に出入りできる普通の家で言えば勝手口の様な場所になっていた。
 なるほど、ここならば作戦に失敗してもすぐさま街の中に逃げだす事が出来る。

 果たしてデブことナメルシュタイナーは、この食糧庫の中に未だ隠れ潜んでいるのだろうか。
 ニシカさんが静かに聞き耳を立てながらゆっくりと扉の側まで接近した。
 静かに扉に手を置いたニシカさんの顔が、わずかに歪んだ。

「中からは気配がしねえ」
「マジか、逃げられた後かな」
「踏み込んでみなくちゃわかんねぇ。猟師は気配を消す事が出来るからな、あのデブも出来るかもしれないぜ?」

 俺もこのファンタジー世界にやって来て、ずいぶんと遠目や気配というものが敏感になってきたという自覚がある。
 けれど、それでもニシカさんやけもみみほど優れた領域でない事はわかっているつもりだ。
 だからその「どうも様子がおかしい」というのがどういう事なのかよくわからなかった。
 不用意に中に侵入すると、またブルカ商館の時みたいに火あぶりにされるのではないかと俺の脳裏にそんな思いがよぎった。

「けもみみはどう思うんだ!」

 同じく猟師であるエルパコに向かってニシカさんが叫んで見せた。

「中に、気配はないよ!」
「よし押し入るぜ、扉を蹴り開けるから下がってみていろッ」

 そう叫ぶと同時にドカンとニシカさんが扉と蹴った。いち度、二度とガンガン蹴ったところで、扉はバリバリに破れて中がのぞき見えた。

「まだ入るな」

 ニシカさんが、俺にチラリとだけ視線を送った。
 ダアヌ夫人はおっかなびっくりという具合に後方に下がる。隣の女魔法使いは、いつでも対応出来る様に身構えている。
 ゆっくりとニシカさんだけがまず扉を覗き込む。
 しばらく暗がりの中で周囲を見回したニシカさんが、振り返って手招きをした。
 続いて俺とようじょが手を繋いで中に入り、女魔法使いがその後に、最後に不完全ロリババアが中に入った。

「俺が夢の中で見た光景と同じだな……」

 気を利かせたようじょが発光の魔法を使って見せると、一気に食糧庫の中が明るくなったではないか。
 室内の隅にいくつかの木箱があって、確かに行李も放り出されている。
 それから使用済みの包帯と食べ散らかした食器の跡。最後に中央に置かれた布の魔法陣である。
 まだ消えていない一本の蝋燭だけが、頼りなくゆらめいているばかりだった。

「シューターさん裏には誰もいなかったよ」
「逃げられた後かな……」
「どうでしょうか」

 裏側を一周まわって報告をしたエルパコに、俺とようじょが顔を見合わせた。その直後である。
 背後でダアヌ夫人がホッと安堵をしたような声でため息を漏らした。

「何じゃ、誰もおらぬではないか。おどかしよって……」
「いいや待て。こいつを見ろ、変な箱があるぞ」

 広げられた布の魔法陣の横に木箱があって、その上に紙片が置かれている。
 ニシカさんが何かの紙片を拾い上げて光にかざして見せる。

「何て書いてあるんだ」
「この単語は知りませんね、俺も」

 残念ながら読み書き習いたての俺には、あまり難しい文字は読めなかった。
 ただ、俺が知っている単語がひとつ使われている。間違ってなければ「殺す」という意味だ。
 その事を思案していると、ようじょとダアヌ夫人も覗き込んでくる。
 エルパコと女魔法使いはその間も周囲を警戒している様子だったので、そっちは任せておく。

「必殺と、書いてあるのじゃ」
「ひっさつ? それはアレか、わたしはあなたを必ず殺しますという意味の、必殺ですか」
「そうじゃ。汚い文字で書いてあるのじゃ。クセが強くて字の端が跳ね上がっておるのう……」

 汚い文字で書かれた俺のタトゥーと同じで、こいつはナメルシュタイナーの仕業で間違いないだろうな。
 ニシカさんとエルパコは、警戒は怠らずに食糧庫の天井の梁に視線をやったり、地面に何か隠れる場所がないかと注意を向けている。

「木箱を開けますか」
「ッヨイは、何かのトラップの様な気がしてならないのです」
「……そうですね、ここを出ましょう。絶対に罠ですよね」
「そうなのです。気配がないのに違和感とか、絶対におかしいのです」

 俺とようじょの会話の最中の事、チリチリと蝋燭が燃える姿が視界に映り込んだその刹那。
 ほとんど俺とニシカさんが反応した。
 これはあれだ。硫黄の粉だ。
 俺たちが室内をごそごそした時にばら撒かれた粉が舞い上がったんだろか。
 燃え尽きかけ、倒れかけていた燭台のろうそくが傾いた姿を見た時。

「やっぱり罠だぜ!」
「そ、外に出ろ、急いで!」

 これはアカンやつや! ニシカさんと俺が同時に叫んだ。
 俺はあわててようじょを抱き上げて、反対の手でダアヌ夫人の手を引っ張る。
 ニシカさんも、女魔法使いたちとほぼ同時に飛び出す。

 食糧庫を飛び出した瞬間に、業火に見舞われたのである。
 激しく耳を震わす爆発とほぼ同時に、グリモワールを抱きながら手をかざすようじょと、護符と突き出した女魔法使いである。

「フィジカル・マジカル・どっかーん!」
「フィジカル・マジカル・エクストリーム!」

 異口同音の呪文、いや語尾だけ違う似た様な魔法を叫んだ魔法使いのふたりが、制御を忘れた様な大水球の魔法を食糧庫にぶつけたのである。

 倉庫は大炎上から家屋そのものを焼き落すよりも早く、ふたりの魔法使いによって一瞬で火を消し止める事が出来たのだけれども。
 結局、その場所からナメルシュタイナーの存在を発見する事は出来なかったのである。
 ちなみにその正体不明の木箱の中身はというと、

「何じゃこれは、誰か説明してくれぬか……」

 炎上を辛うじて免れた木箱をニシカさんが注意深く開けてみたところ。

「ゴブリン人形か」
「ゴブリン人形だね」
「ゴブリン人形なのです……」

 中から出てきたのは、グサリとナイフが胸元に刺されたゴブリンの木彫り人形だった。サルワタの何の変哲もないお土産品だ。
 それを見て意味が分からないという顔をしている不完全ロリババアと女魔法使いのために俺が説明する。

「ああこれは、俺の村で生産しているゴブリンの人形ですね」
「そんなものは見ればわかるのじゃ! どういう意味か説明せいと言っておる」
「悪魔の人形かと思いました」

 たぶんあれだ、紙片に書かれた「必殺」の文字から考えるに、こういう事を言いたいのだろう。
 わたしはサルワタの人間を絶対に許しません。必ず殺します。

「だから地獄の底まで追いかけてやるっていう意味なんじゃないですかねえ」

 俺がそうやってみんなに説明すると、

「根に持つデブってヤな感じですよね」
「お前ぇの元同僚だろうがよ……」

 ポツリとこぼした女魔法使いの言葉に、ニシカさんが突っ込みを入れていた。
 ちなみに、妙に股間が寒いなと思って息子の位置を確かめようとしたら、いつのまにかひもぱんが失われていた。
 騒動の最中に脱げちゃったのかな?
 だが安心してくれ。俺は今ちゃんとローブを着ているからな。
 ぱんつが無くても恥ずかしくはない。
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