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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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168 バイト戦士は全裸の夢を見るか 後編

旧167話改題前の「続、我に服従せよ」は大幅な加筆修正を行ったため、3分割とさせていただきました。
 今の俺の気分はもちろん最悪で、夢の中だというのに妙にズキズキと体中が痛みまくっていた。
 何しろおかしな話である。首と体が切り離されて、無くなったはずの体が痛いというんだからな。

「最悪の気分だね、せっかくの夢の中で、俺は首から下が無くなってお前を見上げている」
「そうだろう。俺はお前との戦いに勝ったんだ、当然の権利というわけだな」
「どういう事だ」

 聞くまでも無い事ではあるけれど、俺はそう質問した。
 タトゥーがこの男ナメルシュタイナーの仕業である事は、背中に文字が浮かび上がった事で証明されている。
 何しろナメルシュタイナーの名の下に命ず、と明確に魔法陣の中に文字が浮かんだのだからね。
 恐らく腹を刺されて苦しい状態のまま、俺を操って騒動を起こす算段をどこかで実施していたのだろう。

「もうすぐ支配の術式は完成するぞ。そうすればお前は俺にとって手駒に等しくなる」

 俺は眼玉をぐるりとまわして周囲を見回した。
 夢であるというのに妙にリアルな風景な気がしたからだ。
 ここはどこかの倉庫みたいな場所だった。いや、倉庫というには荷物らしいものがそれほどおかれていない。
 行李のようなものが部屋の隅にいくつかある他、糞壺と思われるものや、食べさらしの食器が転がっていて、何かの治療に使われたらしい薬の空き瓶と包帯の様なものも部屋の隅にあった。
 薬の空き瓶という事は、きっと聖堂や教会堂の医療従事者からしっかりとした治療を受けていないという事の証左だろう。
 町医者に診てもらったのかもしれない。とすれば、騎士修道会の医療とは技術体系を異にするのだろうか。

 本当に、本当に不思議なもので、首だけの状態で俺はそんな考察を続けていた。

「もしかすると、すでに首から下は魔法陣の力で支配を完了したから、俺は首だけの状態でお前を見上げているとでも言うのか?」

 ふと思いついた何となくの発言をしたところ、とても悪い顔をしたナメルシュタイナーが顔を歪めて笑いやがった。

「ご名答だな。お前は全裸を貴ぶ部族の出身というから、筋肉一辺倒の蛮族だと思っていたが。少しは考える知恵があったらしい」
「とんでもない、俺はこれでも文化人を気取っているんだ」
「フン、父と兄を殺し、ゴルゴライの領を掠め取った様な蛮族が、適当な事を言うな!」

 首だけの俺は、サッカーボールの様にデブによって蹴り飛ばされた。
 とてもリアルなもので、太くて短い脚が俺の頬を掬い上げる様に蹴った瞬間、すさまじいインパクトを感じたのである。
 痛い、というか頬骨が陥没する様な苦しみだった。
 そのまま当然の様に、頭から壁に叩きつけられた俺は、見える視界を目まぐるしくさせながら、ふたたび床に転がった。
 落ちた姿勢が悪かったのか、鼻から床の絨毯につんのめる様な格好になる。

 絨毯。
 違う、絨毯の上に何かの布が敷かれている。
 近すぎて何かわからないが、何かの紋様みたいなものが見える。

 俺は髪を掴まれて持ち上げられた。
 脳震盪でも起こしているのか知れないが、夢の中にも関わらず眼の中をチカチカさせながら大きなクマをたくわえた熊獣人に俺はギロリと睨まれる。

「騒がしくしてしまうとまずいからな。俺としたことが」
「俺の支配が完了したらどうなる?」
「もちろん、このナメルシュタイナーの命令をもって使役できる忠実な全裸戦士の完成だ。全裸を貴ぶ部族の出身らしくこれからは一年中、もちろん冬も全裸で過ごさせてやる。ゴルゴライを取り戻して、サルワタをお前の家族から奪い取るまでは、ちゃんと生かしておいてやるよ」
「…………」
「それからカサンドラと言ったか、貴様の妻だったな。あいつをカフィアシュタイナーの墓前で犯し殺すぐらいはしてやりたいな。売女(アレクサンドロシア)は父の墓前で」

 腹の立つ顔をいつまでも見ているのは不愉快だぜ。
 しかし、ひとつわかったことがある。
 視界の端というか、ナメルシュタイナーが立っていた場所はやはり布の敷かれた場所だった。
 下には俺の背中に描かれている様なタトゥーと同じ紋様が墨か何かで書き込まれている。

「……そいつはどうですかねぇ。俺の家族や仲間たちは優秀だぜ、お前の呪いとやらがどういう理屈で動いているのか知らないが、きっとこのからくりを暴いて、お前を追い詰めて居場所を見つけ出してくれるぜ」
「呪いだと? お前に施したものが呪いと。くっくっく、無知は面白い発想をするものだな」
「何がおかしい」
「これはな。俺たち熊面の猿人間の部族に伝わる、女王蜂を使役するための魔法だ。呪いとは面白い発想をするヤツだな、全裸を貴ぶ部族のシューターさんよ」
「じ、女王蜂って、ハチミツとるためかよ」
「そうだ。これを少しばかり応用して、モンスターを使役していたのよ。もともとゴルゴライで養蜂しているハチは大ぶりの、人間の拳ほどのサイズがある蜂だからな。これから効率的にハチミツを得るために、ご先祖さまが工夫を凝らしたのがこの使役魔法だ」

 何ということでしょう。
 呪いじゃなかったんですね。
 だがそんな事はどうでもいい!
 怨念で俺を操るというのでなければ、魔法的な対抗手段もあるというわけである。

「呪いであればどれほどありがたかった事か、俺は家族を皆殺しにされ故郷を奪われた事を絶対に許さん!」

 賢くもようじょや、この優しくないファンタジー世界で生き抜いてきた雁木マリならば、対抗策を必ず見つけてくれるはずだ!

「だといいがな。お前の意識統制が首から上まで奪われた時に、お前は完全に俺の支配下になるんだ。ん? チッ……」

 くっくっくと頭の悪そうな笑いを浮かべたところで、ナメルシュタイナーが一瞬身を縮めた。
 どうやら、周囲に警戒を感じたらしい。
 何やらドンドンと誰かが歩く音もどこからとなく聞こえて来るし、意識すれば楽曲まで聞こえてくる。

 するとこのデブ、首だけの俺を床に放り捨てやがった。
 いでぇ!
 もっと大切に俺の顔を扱ってくれ!

 そしてこの薄暗い部屋の外へとつながる扉に耳を近づけて、また様子を伺っている様だった。

「脅かしやがって。大丈夫だな……」
「……ここは何処だよ」
「お前の体があるすぐ側さ、知ればきっと驚くだろうぜ……」

 そんな妙にうれしそうなナメルシュタイナーの声が聞こえたかと思うと、押し殺した笑いがデブの体を反響していた。
 くそったれの熊人間め。
 俺の体が首だけじゃなかったら、絶対にこの場で殴り飛ばしてやるところだぜ。

 ん?
 俺がそんな風に思いながら腕に力を籠めると……
 腕が、存在していた。
 俺の体がいつの間にか、首から下が復活していたのである。
 ちょうどまだ俺の体は上半身だけが存在している様な状態だった。もしかするとデブの術式を妨害しているヤツがいるのかもしれない。

「ん、どういう事だ。貴様何をした!」
「何もしていないが、俺の仲間たちは何かに気付いたようだな」
「そんな馬鹿な事があるか。どうしてこの術式の構造がわかったのだ、これは熊面の猿人間に伝わる秘術のはずだぞ……」
「そりゃあんたが自慢げに、誰かに話した事でもあったんじゃないか?」

 事実、俺の体が腰から下まで復活しつつある。
 脚の指先まで確かに再生されたことを確認したところで、俺はゆっくりと立ち上がった。

「ぐ、どうなっているんだ。おい、近寄るな。俺の術式を妨害するのをやめろ」
「何だ、これは俺の夢の中の事だろう? ならばせっかくだし、好きにやらせてくれよ」

 というわけで自由自在になった俺の体で、デブの顔面に体重の乗った一撃を加えてやった。
 そのまま脇腹にもきれいなフックを射込んでやる。
 さっきはよくも俺の顔をサッカーボールキックしてくれやがったな!

「よう、気分はどうだい?」

 してやったという上機嫌のまま、俺の意識はみたび暗転した。
 ちなみに夢の中で復活した首から下の俺の体は、どういうわけか全裸だった。
 …………。
 ……。

     ◆

 気が付くと俺は、控室の天井を見上げていた。

「ガンギマリー、どれぇの意識が戻りました! 本当によかったのです……」
「そうね、対抗手段が功を奏したのかしら?!」
「おいどうしたシューター、オレ様の顔が見えるか。意識はハッキリしているのか?」

 ニシカさんのおおきなおっぱいがふたつ、よく見えます。
 あと雁木マリと、それからッヨイさまの顔も。

「約束通り、金貨五枚いただきましょうか」
「この守銭奴め。でもいいわ、約束だもの……」
「毎度あり!」

 ついでに女魔法使いの顔が視界の端に映っているのが見えた。
 俺の悪夢は、ようやく終わったらしい。おはよう、俺。

祝500万PV感謝です。ありがとうございます、ありがとうございます!

イラストレーターの猪口墓露マテルドさんから、異世界村八分の500万PV達成感謝イラストを提供していただきました。
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