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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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167 バイト戦士は全裸の夢を見るか 前編

旧167話改題前の「続、我に服従せよ」は大幅な加筆修正を行ったため、3分割とさせていただきました。

 後になって雁木マリに聞いたところ、俺は鎮静ポーションと自白ポーションをキめまくられて強制的に夢落ちをしていたらしい。

 ちょっと待て?
 自白ポーションというやつは、本人が思っているもっとも恐ろしい夢を見せられるというはなしをサルワタの司祭さまから聞かされたことがあるぞ。
 その悪夢がなんであるのか、自白ポーションの恐るべき効能を俺は身をもって体験したのである。

     ◆

 俺の見たひとつ目の夢はこうだ。
 かつて俺の生活していた日本という場所。
 沖縄空手を教える古老の家にお世話になっていた頃の生活を思い出した。
 まだこのファンタジー世界に飛ばされた頃に住んでいた単身者向けマンションでの生活をする前で、古老の家に居候をして内弟子をしていたんだよね。
 当時高校生になっていた古老の孫娘と、家族の買い物のために学校帰りの彼女と駅前で待ち合わせをしていたらしい。
 ひどく不機嫌な顔をしていた古老の孫娘は、どうやら周囲を気にしながら俺が姿を現すのを待っていた様だった。

 孫娘は俺にひと言つぶやいた。

「遅い!」
「ご、ごめんちょっと遅れちゃった」
「ちょっとどころじゃないわよ! 待たされる身にもなってちょうだいよ、もう」

 わけもわからず俺は夢の中でそれに謝罪した。
 そうして駅の裏手にあるスーパーで、古老のご家族全員分の食材を買って回る。
 一階で生鮮食品をカートに入れながらいろいろと物色し、ついでに足りなくなった日用品を二階で買い求めた。
 スーパー内に併設されている百円均一ショップによったところ、孫娘の同級生という女子とばったり遭遇した。

「なんだ、早苗じゃん。何してんのこんなところで?」
「……あっ。えっとこれは」

 会いたくない場所でクラスメイトに鉢合わせしてしまったという顔をした孫娘である。
 古老の孫娘は年頃の娘だ。

「もしかしてカレシ? 結構年上じゃん」
「そんな事あるわけないでしょ、ただの居候よ居候ッ」
「居候って?」
「ウチの家、道場やってるでしょ空手の」
「そうだっけ?」
「そうなの、そこの門下生で、おじいちゃんの弟子なの」
「何それマジうける。そうなんだ? どうもー早苗の同級生ですー」

 ひどく嫌な顔をされている事をひしひしと空気で理解していた俺は、一応ペコペコと同級生さんに頭は下げておいたが、余計な自己紹介はしない。
 むしろ、あくまでも夢の中での出来事なので、相手の名前はわからなかった。

 これで同級生ちゃんとの会話は終了だ。
 けれども何もかもが気に入らない様子の孫娘は、こんな短いやりとりだけでも大変ご立腹だった様だ。
 こんなところで同級生に遭遇して、ずいぶん年上の男性といるところをみられてとても嫌そうだったのだろう。
 何しろ俺はバイトをしながら内弟子をしているフリーターの残念な空手師範代だからな。
 彼氏と思われたら最悪だし、翌日学校で噂にでもなれば眼も当てられないと思ったのだろう。

「何かムカつく」
「何がだよ」
「全部よ全部、あんたと一緒にいたところを見られてもう最悪!」
「アヒィ!」

 だから、同級生ちゃんと軽く会話をして別れた後、ふたりきりになったところで俺は無意味にローキックを食らった。
 とてもふとももに重い、しなるムチの様な一撃だった。
 たまらず夢の中で「アヒィ!」と悲鳴を上げてしまったとしてもしょうがない事なのだ。
 もしかしたら現実の、晩餐会の控室で横たわる俺も悲鳴を口にしていたかもしれない。

 まあ、そのローキックは的確に俺の脚に深刻なダメージを与えて、帰りに買い物袋を持って帰るのに大変苦慮したのである。

「お、おい。どこで習ったんだその技。先生からはそんな場所を蹴る様に指導されていないだろ」
「どこだっていいじゃないのよ。古臭い空手なんかより、もっと効果的な技はあるのよッ」

 孫娘は空手家の孫娘だ。
 あれは沖縄の古流空手にはない、彼女の独自スキルに違いない。
 古流空手を学んだ俺にはわかるね。

     ◆

 ……。
 …………。
 次に俺の夢はこうだった。

「という事があったのさ」

 そんな孫娘にされたむかしの思い出を、サルワタの家で鍋をつつきながらカサンドラに話していたのである。

「その戦士の先生の孫娘さんは、サナーエさんというのですね。かわいい方なのですか?」
「どうかな。齢はちょうどカサンドラと同じぐらいで」
「ええ……」
「顔はもう少し怖い感じだった。ちょっと眼の端吊り上がった感じで」
「こうですか?」

 指で両目の外側を、引っ張って持ち上げて見せるカサンドラかわいい。

「そうそう、そんな感じでいつも怒ってる」

 この家は、まだ俺がカサンドラと新婚ほやほやの頃に住んでいた、前の猟師小屋の事である。
 家にはタンヌダルクもいなければ、けもみみの姿も無い。もちろんバジリスクのあかちゃんの姿も無くて、ただふたりだけの空間だった。
 今思い返せば短い期間に過ぎなかった、正真正銘の新婚時代だ。

 カサンドラはこの話をすると、例によってとても嫌そうな顔をしていた。
 特に孫娘の話になると、とても微妙な顔をしてこう言った。

「それで、そのサナーエさんとはどういう関係だったのですか」

 どうもこうもなくて、沖縄古老の内弟子で道場を手伝いながらバイトをしていただけなので俺は説明に困る。
 古老の孫娘は確か当時は高校生で、学校で空手部に入るのを嫌がって、同級生の女の子と楽しく時間をすごす方を選んだ、どこにでもいる年頃の女の子だったはず。

「先生の家で居候をしながら戦士の訓練をですね、受けてたんですよ。仕事に出かけつつ」
「野良仕事をやりながら、戦士の訓練ですか。それで?」
「早苗は学校に通っていたからな、普段はほとんど顔を合わせないよ。朝と夜、ご飯を一緒に食べるぐらいで、あとはちょっと遊んだぐらいかな」
「でも、わたしと同じぐらいの年齢だったんでしょう?」

 そうだな。彼女から見ればまだ中学生にあがる頃までは、親戚のお兄さんぐらいの扱いで俺と接していたはずである。
 時々だが勉強の分からないところを見たりした事もあったし、あとついでにゲームの相手をした事もいくつかあった。

「確かあの頃は十七だったからなあ。まあ、子供だよ」
「こっ子供……」

 モンスターをハントするゲームや、キノコのおっさんがカートを走らせるレーシングゲームとか。

「そうだよ、だからカサンドラは安心しなさい。せいぜいそんな関係で、もちろんはっきりと言っておくが、恋愛感情に発展する事は間違っても無かった」
「し、シューターさんはわたしの事も、子供だと思っているんですか?!」
「えっ、いやそういうわけでは……」

 俺は夢の中であわてふためき釈明した。
「まず年齢がひどく離れていた事もあったし、そもそもこの孫娘、確か高校にあがったころに同級生なのか、男子と駅前近くを歩いている姿を目撃した事があったぐらいだからな」

 してみると俺が妙な妄想を働かせて「彼女は俺に気があったはずだ」なんて事にはなるはずがないのである。

「だから早苗とは何もなかったし、相手にもされていなかったんだよ。むしろこの世界の人間はみんな俺たちの住んでいた場所の人間の年齢よりもずっと大人だよ。俺はカサンドラの事は一度だって子供みたいに思った事はないから」

 その事をカサンドラに説明したところ、けれどもなかなか彼女は信じてくれなかった。

「本当、ですか?」
「うん本当だ。カサンドラは大人ってはっきりわかんだね」
「それで電話やメールというのは?」
「ええと、魔法の伝書鳩や手紙みたいなものだと思いなさい。向こうの世界の魔法みたいなもので……」

 あわてて深夜も遅くまで男子と電話かメールか、音声チャットか何かをしていたという話も説明したんだけれどね。
 そもそも電話もメールも、音声通話チャットもその概念を理解してくれなくて、やはりカサンドラは信じてくれることはなかった。
 それどころか。
 どういうわけかそこから話が脱線して、カサンドラに次の様に迫られたのである。

「シューターさんの過去の女性遍歴が知りたいです」

 過去の女性遍歴と言われたら、そりゃこう言うしかない。

「も、もちろんはじめての相手は、カサンドラだよ」

 するとカサンドラは夢の中で上気して、とても嬉しそうな顔を一瞬だけ見せてくれた。

「そ、そんなわけがありません。だってシューターさんはとっても素敵な旦那さまですし、ダルクちゃんやエルパコちゃんだって。それに村長さまも……」

 だがそれは文字通り一瞬で、そんなはずはないとプリプリ怒り出したのである。

「いやいやいや、俺が元いた世界では女性に色目を使っている余裕がなくてね。そう、戦士の訓練が忙しかったから」
「信じられません。滅び去った全裸を貴ぶ部族の中で生活していた時に何かあったはずです」

 夢の中のカサンドラは決して俺を許そうとせず、厳しく追及をしてくるのだ。
 これが雁木マリの言っていた、拷問のための自白ポーションの恐ろしさなのだろうか。
 その本人にとってもっとも恐ろしい悪夢を見せつけられるのだと、そういう風に俺は聞かされていたんだからな。

「バイト戦士は大変なんだよ。本当だ」
「もうひとつ気になっている事がありますが、この際だからはっきりと質問しますね」
「えっ?」
「ニシカさんとブルカに出張した時に、何かよからぬ遊びをしていたのではいでしょうか。例えば妻のわたしに内緒で……」

 とんでもない話だ。
 少なくとも、ブルカの街に出かけて帰ってくるまでに、俺はいち度として不義理な結果になった事は無かったんだ。
 その前に時系列がおかしい。

「新婚さんの俺がそんな事をするわけがないよ。信じておくれよ」
「いつも、ニシカさんと一緒にいるシューターさんは怪しいです」

 釈明すると、それでもカサンドラはとても信じられないという顔をしてさらに追い打ちをかけた。
 俺も男だ、瞬間的な事で言えばよからぬ分不相応な妄想を膨らませた事はあったけれど、そんな事は一度としてない。
 夢の中だからのか、やはり時系列がおかしな事になっているけれど、逆に言えば村で何気ない猟師夫婦をしていた頃の生活が、俺にとってカサンドラにとってあるべき日常だったのかもしれない。

 けれど、ではタンヌダルクは何なのだとか、エルパコとの結婚はどういう事だとか、さらには女村長とまで結婚した事は許せないと言い出したのである。

「ずっとシューターさんの事を独占できると思っていたのに、わたしはとっても怒っています」

 猟師小屋の中で、カサンドラは切れ味の悪そうなオッサンドラソードを持ち出して、腰だめに構えた。
 ヤンデレ化したカサンドラは、そのオッサンドラソードで俺をめった刺しにしたのである。

「だから、これはしょうがないんです」
「ちょ、やめて、許して……」
「ごめんなさいね、旦那さま」

 もちろんこれは夢だけれど、とても怖かった。
 血まみれになりながら俺は「ごめんなさい、ゆるしてください、俺はあなたの奴隷です!」と叫び続けて、ようやく満足したカサンドラはめった刺しにする手を緩めた。

 けれど最後に。

「でも、オッサンドラ兄さんから守ってくださらなかったことは許しません」

 そんな事を言って、俺は首をはねられてしまった。
 首がコロコロ転がったところで、視線を上げると満足そうな表情を浮かべたカサンドラがニンマリしていた。

 これは夢だ。
 鎮痛ポーションにまじってキめられた自白ポーションの結果なのだ。
 絶対にこれは夢に違いないと思ったところで、俺のふたつ目の夢は暗転した。
 薄れゆく意識の中で、俺にとっての悪夢はカサンドラを悲しませることなんだろうかと、自問していた。

     ◆

 みっつめの夢はより明確だった。
 目の前に、ゴルゴライ領主であるハメルシュタイナーの首と、俺が止めを刺したカフィアシュタイナーの首を持ったデブがいた。
 腹を深々と刺された後だったからだろうか、熊耳カチューシャを付けたデブの体はさらしでグルグル巻きにされている状態だった。
 そのさらしにも血が滲んでいる。
 眼の下には大きなクマを作っていたデブが俺を馬鹿にしたように睥睨していたのである。

 この時の俺は、どういうわけかカサンドラに刎ねられた首だけ人間のままだった。周辺は頼りない蝋燭に照らされてゆらゆらと明かりが震えている。
 ナメルシュタイナーはこう言った。

「今の気分はどうだ。ん?」


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