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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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163 呪いの言葉(字が汚い)


 やあみんな、君たちは自分の体にタトゥーを入れようと思った事はあるかい?
 俺はないかな。むしろ怖い方面のひとが付けているイメージなので、考えた事も無かったよ。
 ところが俺は今、背中にモンモン背負っているんだぜ?
 どうしてこうなった……
 俺の名は吉田修太、三二歳。背中に謎の魔法陣らしき入れ墨を持つ男である。
 いったい何がどうして、こんな事になったんだろうね。

 背中にタトゥーが入っている事に気が付いたのは、その日の夜に行われる晩餐会に備えてお着替えをしていた時の事である。
 普段、俺は奥さんたちと寝食を共にしている。
 装備を装着する時はカサンドラかエルパコが、率先してそれを手伝ってくれるのである。
 してみると、いつの間にか存在していたタトゥーに俺の奥さんたちが気が付いたのは、夜会の準備でお着替えをしている最中の事だったのである。
 少なくとも触滅隊の討伐に向かう際、ブルカ商館で体を火傷して全裸になった時には存在していなかったはずのタトゥーだ。

「おかしいわね。あなたの背中のやけどを治した時には、あたしも紋様なんて気が付かなかったはずなんだけれども」
「そうですね、わたしも触滅隊の討伐が終わって帰ってきた時、シューターさんのお着替えを手伝ったタイミングでは、背中に何もなかったと思うのですが。あ……」

 雁木マリとカサンドラが、何やらいつの間に紋様が浮かび上がったのかと思案していた。
 けれど、会話の途中でカサンドラが口に手を当てて、そのまま言葉を濁してしまったのだった。

「義姉さん、どうしたのかしら」
「い、いえ。その。討伐が終わってリンドルまで戻って来た時は、お部屋に戻った時は夜も遅かったのですが……」
「それで?」
「そ、それで。そのままシューターさんが魔法のランタンは消しなさいとご指示なさったので……」

 そしてふたりは抱きしめ合い。熱い口づけを交わしたのであった。
 最後まで言わずとも、その辺りの雰囲気を察したのだろう。雁木マリは少し顔を赤くして驚いた顔をした後、俺の方をジロリと睨み付けてきた。
 べ、別に夫婦なんだから後ろ指をさされる様な事をしたわけじゃないだろ!
 ちなみにその夜エルパコは、念のために襲撃を警戒して不寝番に立っていたのでその事は知らない。

「と、と、という事は、その時には確認をしていなかったのですね」
「はっはいそうです。それにシューターさんは家族の中で一番に目を覚まされるので、旦那さまの朝のお着替えをお手伝いした人はいなかったと思います」
「ぼ、ぼくもその日は遅くまで不寝番明けで寝ていたから……」

 エルパコはちょっと俺とカサンドラの夫婦生活を羨ましそうに視線を送りつつ、自分も見なかったと証言した。

「他に誰かシューターの背中の紋様を見たものはいない? ベローチュは?」
「ええと、自分もその紋様を見たのは今が初めてです。何というか、今朝はニシカ奥さまにお酌をするように命じられて二日酔いで潰れていましたので……」

 凱旋したニシカさんは、例によって酒を呑んで管を巻いていたらしい。その犠牲になったのが同室のベローチュという事なのだろう。

「じゃあ、いつこのタトゥーというか、紋様がシュターの背中に浮かび上がったのか、見ていないという事なのね」
「そういう事になります。申し訳ございませんシューターさん、旦那さまの身の回りのお世話を取り仕切る正妻でありながら、こんな事にも気づかなかったなんて……」

 気落ちしたカサンドラが、確認を取っていた雁木マリに申し訳なさそうな顔をした後、今度は俺にペコペコとするのだった。

「いや、いいよ別に。それよりこれ、魔法陣なんだよね? 文字も勅令と書かれている」
「書かれていますねーどれぇ。勅令って……」
「そ、それにしても汚い字ね。魔法陣なんだからきれいな字で書けばいいのに……。貴族の文字みたいな角ばった他人が読むことを考えていない字面だわ……」

 ようじょと雁木マリが顔を見合わせる。

 そう、俺の背中には魔法陣だけではなく、勅令どうのこうのという言葉が書かれているらしいのである。
 魔法陣はッヨイさまが使っている魔導書(グリモワール)みたいな八芒星のものが書かれていて、その中に古い字体だという文字が書かれているのだ。
 モノの本によれば勅令というのは、国王や皇帝など主君が発する法的拘束力を持った命令、といったニュアンスだったはずである。
 俺や雁木マリの元いた日本を例にするならば、天皇陛下が直接的に発布するものがこれにあたるだろう。

 してみると、これは絶対君主から俺の背中に対して、強力な拘束力を持った命令として具現したという事になる。
 それはこの国の王様によるものなのか、はたまたこの世界で信仰されている女神様のものなのか。
 考え方によっては、陰陽道か何かの呪文と言う可能性はあるだろうか。

 勅令 急々如律令。

 とかなんとか、中国の霊幻導師か何かが出て来る映画で、子供のころに見た記憶がある。

「意味が分かりませんね。偉い人の命令でしょうかッヨイさま?」
「これだけでは、わからないのです……。誰か、これと似た様な紋様を見た事があるひとはいませんか?」

 キョロキョロと大人たちを見回すようじょであるけれど、だれも答えない。
 もし仮にこれが女神様の聖痕か何かであるならば、きっと雁木マリが知っていそうなものであるけれど。
 それを期待して俺とようじょが視線を向けても、彼女はやはり首を横に振るしかしなかった。

「あ、あたしも見た事がないわ。第一そんなものがあたしの背中に浮かんでいるのなら、騎士修道会の人間が何か教えてくれるんじゃないかしら」

 雁木マリはそう言って否定したのである。
 そうこうしているうちに、時間は押してくる。このまま着替えも中途半端にしていると、ダアヌ夫人の主催する晩餐会に間に合わなくなってしまうのである。

「と、とにかく先にお着替えをしてしまいませんと。そろそろ時間ですよ奥さまがた!」

 慌てた男装の麗人が、自分の着替えるべき男装服を手に取って俺たちを急かした。
 確かに、誰かが時間を確認するためにこの部屋に持ち込んでいた砂時計が、そろそろ落ち切る頃合いだった。
 魔法の砂時計は教会堂やお貴族様の家には用意されている事もあるが、個々の部屋に置かれるほど普及していない高価な代物だ。この部屋に置かれているのは魔法の砂時計の刻む時間に合わせてセットした、ただの砂時計である。
 砂が落ちきるまでに一刻を知らせてくれるそこそこのお値段でお買い求めできる砂時計だった。

「わ、わかった。これについては後で調べてもらうしかないな。ッヨイさまお願いできますか?」
「了解したのですどれぇ。時間がたったらそのタトゥーの模様がまた、変わるかもしれません」

 そんなやり取りをしているところに、マリアツンデレジアの元へ闇の奴隷商人の情報を調べに行っていたニシカさんが帰って来たのである。
 彼女も晩餐会には出席するので、当然身支度を整えなければならない。

「おう、今帰ったぜ。オレの服も用意できているか?」

 何も知らない鱗裂きのニシカさんは、大胆に服を脱ぎ散らかしながらこちらを見やって眼を丸くした。
 ちょうど俺が貫頭衣に袖を通そうとしていたところで、まだ背中は丸見えのままだったのである。
 そこを目ざとく目撃したニシカさんが、どんぐり眼の片目を丸めて俺に声をかけるのだ。

「何でシューターが、巨大な猿人間の背中にあったモンモンと同じモンを背負ってるんだ?」

 モンモンというのは入れ墨、つまりタトゥーの事であるけれど。
 何だって? つまり俺は、巨大な猿人間と同じタトゥーを背中に入れているっていう事か?!
 その巨大な猿人間というフレーズに、雁木マリがまず反応する。

「え、ちょっと。あたしはそんなの知らない」
「俺ももちろん見た事がないんだが……、カラメルネーゼさんは決闘の時に猿人間の背中に、こんなのありました?」
「無かったですわ。というか毛むくじゃらですもの……」

 カラメルネーゼさんに確認したところ、やはりそんなものはなかったと言う。というかけっこう毛だらけで確認のしようもないと言うべきか。

「ばっかそりゃお前、解体する時に毛をむしったら、出てきたんだよ。確かハーナディンに確認させたら、軽やかにオレ様の命令に従えみたいな事が書いてある魔法陣があったろう。ほら、ようじょの落書きノートの表紙みたいなやつ」
「落書きノートじゃないのです! グリモワールなのです!」

 ぷりぷりようじょが怒ったけれど、そこはいい。
 いまとっても大切な事を言いましたよね。巨大な猿人間の背中に「軽やかにオレ様の命令に従え」と書かれていたと。
 同じことを思い至ったようじょが、素っ頓狂な声を上げて俺に言った。

「こ、これ、どれぇ! どれぇの呪いなのです!」
「つまりあれか、これは魔法拘束の呪文か何かが書き込まれているという事か!」
「そ、そうなのです。おデブシュタイナーが使った使役魔法か何かなのでしょう。拘束具をもういち度見せてください!」

 拘束具というのは、ニシカさんが保持していたという巨大な猿人間の腕に巻かれていた首輪の様なものだ。
 俺はあわててニシカさんを見やると、ゴソゴソとソファに放り出していたフィールドバッグから牛革か何かの首輪を取り出した。

「よくよく観察してみると、魔法のちからを全然感じないのです。これはただの腕輪なのです!」
「という事はですよ。魔法の拘束具なんてものはそもそも存在していなくて、どこかのタイミングでデブに魔法による呪いをかけられたという事ですか?!」
「そうなのです。呪いの類や魔法の道具を使うためには普通、人間の血を使うのです。ほら、魔法のランタンにも使用者の血を使うでしょう」

 そんな事をようじょが必死の形相で俺に説明する。

「どこかでおデブシュタイナーの血を、使われたことはありませんか?」
「血ならあのデブに毒霧よろしく、口から吹き付けられました……」
「その時です!」

 その時にどうやら俺はナメルシュタイナーの罠か何かに陥れられていたというのである。

「ニシカさん。この魔法陣と、巨大な猿人間の背中にあった魔法陣と見比べて、何か違いがあったりしませんか?!」
「んんと、ちょっと待て。オレに聞くよりハーナディンの方が詳しいと思うが……確か魔法陣の中身の文字がもう少し色々書いてあったと思うんだが……」

 この魔法陣のタトゥーとやらは、時間の経過とともに完成していくものなのかもしれない。
 デブに血を吹き付けられたのが一昨日の夜の事だ。それから二日で半分ぐらい完成したという事だろうか。
 あまり状況をよくわかっていないニシカさんだけがちょっと呑気な口調で言い放つ。

「これ、あと数日もしないうちに完成するんじゃねえか?」

 どうしてこうなった。
 思い返せば、ナメルシュタイナーは腹にブスリと剣を刺し込まれた人間とは思えない様な、余裕の表情だった気がする。もちろん苦悶は浮かべていたけれど。
 最悪だ。どうして、どうしてこうなった。

 俺はこんな状況のまま、ダアヌ夫人の主催する晩餐会にあわてて出かける事になった。
 時間は差し迫っていたしこれは欠席するわけにもいかない重要な顔合わせの場であるからな。
 けれども心の中はこの呪いか何かのタトゥーの魔法陣をどうにかしなければ、俺もあのデブによって巨大な猿人間みたいに使役されてしまうのではないかと恐怖したのである。
 俺はウホッホゴリマッチョとか言いたくなんかないんだからね!

ごぶりん(ようじょ)。
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