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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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161 この情報は取扱注意です


「よう相棒。あの女、どこまで信用できると思う?」

 女魔法使いの取り調べの途中で挟んだ休憩中、鱗裂きのニシカさんがそんな質問をしてきた。
 教化部屋を出たところで水差しをダイレクトに口へ運びながらの事である。
 相変わらず上品とは言い難い仕草であるけれど、ニシカさんらしいと言えばニシカさんらしいふるまいだ。

「金で動くというのは、まあ目的が明確なのでわかりやすい人間ではあるかな。ただしこちらが金を払い続けないと言う事を聞かないという意味では厄介だ。敵が俺たちよりも多めに払えば簡単に裏切るわけですしね」
「ふうん。じゃあ金の切れ目が縁の切れ目なのは、お互い様だな」
「そういう事ですね。必要な情報だけ聞き出した後は、マリアツンデレジアさんに判断は委ねましょう」

 俺は思うところを口にして、同じく休憩のために教化部屋から退出してきたッヨイさまに視線を向ける。

「ッヨイ様お疲れ様です」
「おつかれなのです、どれぇ、ニシカさん」
「おう、お疲れさん」
「捕虜に関する取扱いは、どういう風にする予定になってましたっけ?」
「そうですねえ。今回の作戦をどういう風に見るかにもよるのですが、ブルカ辺境伯の軍隊と戦争したという位置づけにするのであれば、まどーしさんや仮面のひとは戦争捕虜という扱いになります。逆に盗賊団の一味という扱いにするのであれば、犯罪奴隷です」
「それを決めるのはマリアツンデレジアさんという事か。何とかあの女を永久に拘束していられる道具でもあれば別なんですが。奴隷身分(へそピアス)にしたからと言って、果たして意味があるのかどうなのか……」

 ニシカさんが気を利かせて水差しをようじょに差し出してくれたけれど、直前に口に直接運んでいた姿をチラっと見ていたようじょは、それを嫌そうな顔をして見返していた。
 いらないのです、と微妙な顔をして俺の話に乗っかって来る。

「へそピアスと言えば、触滅隊の捕虜の中にも何人かへそピアスをした奴隷身分の人間がいたのです」
「すると逃亡者かな?」
「きっとそうなのです。犯罪奴隷に身分堕ちされた人間の中で、脱走して触滅隊に加わったひとたちがいたのですねー」

 つまりは犯罪奴隷だろうが戦争奴隷だろうが、よくあるファンタジー世界でお馴染みの魔法の刻印か何かで、奴隷を強制的に拘束したりいう事を聞かせたりする様な便利な呪いみたいなのはないんだろう。
 いや、ある。あるにはあるぞ……

「ッヨイ様、確かゴルゴライ領主の嫡男だったナメルシュタイナーが、巨大な猿人間を使役するのに拘束する魔法道具か何かを使っていましたね」
「そう言えば、確かにそうなのです。ナメルシュタイナーはそういう道具を持っていた気がします。まどーしさんに、それを装着するのですか?」
「付ければいう事を聞かせられるなら、まあそういう手段も」

 そこまで言っておきながら、ふと俺はこの魔法の拘束具があるのならどうして奴隷たちを使役するのに普及していないのかと思い至る。するとようじょが、

「残念ながら、魔法道具というのはとても高価なものが多いので、いちいち犯罪奴隷なんかに使うのは普通もったいなくてやらないのです。例えばどれぇにプレゼントした魔法のランタンは、お値段がブルカ辺境伯金貨で一〇〇枚ぐらいするのです」
「一〇〇枚!」

 そりゃ魔法使いであるッヨイさまが俺に拘束の魔法道具を付けていなかったわけだ……

「じ、じゃあ俺にあの魔法のランタンを下さったのは、よろしかったのですかね?」
「あれはもう、どういうわけかどれぇの血にしか反応しなくなってしまったので、しょうがなかったのです。それにあれは母さまが、ドロシアねぇさまに貰ったものだったので、プライスレスなのです」
「な、なるほど……」

 じゃあ現実路線として女魔法使いに拘束の魔法道具を付ける線は無しだな。
 そんな風に思っていたところ、ニシカさんがたゆんたゆんな胸元からワイバーンか何かの干し肉を取り出してクチャクチャやりながら俺たちを交互に見比べている。
 便利だね、そのおっぱいの谷間ポケット!

「何ですかニシカさん。俺はその干し肉いりませんからね」
「そうじゃねぇ! 巨大な猿人間に付いていた拘束の道具なら、オレが持ってるぞ?」
「持ってるんですか?!」
「ああ、巨大な猿人間を解体した時に、何かに使えるかもしれないと思ってもらってきてたんだよ。いつかあのバジリスクのあかちゃんが言う事を聞かない反抗期になった時に、オレ様が教育してやろうと思ってな」

 ニヤリと悪い顔をして見せたニシカさんが、腰に吊るしたフィールドバッグの中をまさぐって、首輪みたいなものを取り出した。
 巨大な猿人間の首にこんなものは付いていなかったはずであるけれど……

「あの猿人間野郎はデカすぎるからよ、腕にはめられていたんだ」
「まああの首に巻くには確かに小さすぎるかもしれない。普通の動物用のサイズなんでしょうね」
「使い方は知らねえぞ。ようじょなら知ってるんじゃないか?」

 自信満々に俺に差し出してきた首輪を受け取って、俺はあいまいな返事をした。

「普通の魔法道具なら、利用者の血を使ってやると思うのですが……調べてみようと思います。ドロシアねぇさまや、母さまなら詳しいと思うのです!」
「あの魔法使いは滅茶苦茶強かったですからね。敵に回さずに手元に置いていく手段があるのならいいことです。宝石よりも貴重な魔法使い、でしたっけ?」
「そうですねぇ、それが可能なら提案してみるのもいいかもしれません」

 特にリンドルの領兵は今回の戦いでかなり被害を出しているからな。強力な味方を引き入れるのに、手段がある事はいい事だ。
 そんなこんなで休憩を挟んだ俺たちは、ふたたび女魔法使いマドューシャの取り調べを再開するのだった。

     ◆

 女魔法使いから新たに引き出した情報がふたつある。

 ひとつは次の触滅隊による襲撃作戦がいつだったのかという事。すでに触滅隊の本体には討伐軍によって壊滅的な打撃を与えていた。
 逃走を図った連中も、男色男爵ご自慢の妖精剣士隊の騎兵集団によって追撃がかけられたので、おおむねの敗残盗賊たちは打ち取られるか捕縛されるかしているはずだろう。
 しかしどういう作戦手順を連中が取っていたのか知る事は、ブルカ辺境伯軍の戦い方を理解しておくという意味で重要なのである。
 どうして雁木マリではなく、ようじょが自ら尋問に立ち会っているのかという事にはそういうわけがあったって事だな。

 してみると、触滅隊という連中が何者であるのかがおぼろげながらに見えてきたのである。

「確かに、触滅隊の基幹メンバーはブルカの兵隊上がりだったと思うよ。お互いの事を隊長とか騎士さまとか言っていたわ。ひとりは何でも、王都における工作にも従事していた経験があると言っていたから」
「そいつの名前は憶えていますか、まどーしさん?」
「ええと、尖突のニコラだったかしら。猪みたいなごっつい男だったと思うけど、言葉に王都訛りがあって、お貴族さまの暗殺をしたこともあるって自慢していたもの。凄腕の護衛を何人も斬り伏せて、最後にお貴族さまのお命を頂戴したとか」

 おおう、あの峠の沼で死闘をした口の臭いヤツだな。
 色々と命がけだったことを思い出して背筋がヒヤっとする思いだぜ。確かにお貴族さまの暗殺を手掛けた事があるというのなら、さもありなんというところだ。

「それから、ダックスシットさんというのは聞いたことがないかしら。わたしと領主館にいた男で、蛸足のお姉さんに抱き殺されたひと。彼は国境警備任務のために、隣国と国境争いで武勲を上げた事があるんだと聞いたことがあるわ」
「ほう、詳しく」

 俺がたいした見せ場も無く、あっさりと背骨をカラメルネーゼさんにへし折られた仮面の男を思い出しながら身を乗り出した。

「彼は武勇のひとと言うより、隊の知恵袋みたいな人物だったわね。隣国との国境線の策定をするのに陣取り合戦をやっていた時に、こちらの国土である事を示す国境石碑をあちこちに敷設する作戦を担ったのだと言っていたのよねえ。彼はあれで知恵者だったから」

 惜しい人を無くしましたね、ブルカ辺境伯さん。
 モノの本によれば、むかし大陸で日本軍が諸外国の軍隊と国境争いをしていた時には、この手の国境策定のために誰の領地であるかを示す標識や千里塚、石碑なんかを、あちこちに敷設していた事があったと記憶している。
 戦闘でここまで進出しましたよー。という証拠を、軍隊を引き揚げる前に残して行くというわけだ。
 ブルカ辺境伯が、国王の命令で軍隊を国境に派遣していたのだろうが、ダックスシットさんとかいうひとが、戦場における地道な裏方作業を担任する賢い人間だったというのはうかがえる。
 きっと、触滅隊が暗躍するための作戦をアヒルのクソ野郎が色々と指示していたんだろうね。

「次に行う作戦は、確かどこかでかどわかしてくる予定のお貴族さまのご婦人がたを、奴隷として売り飛ばすという内容だったと思うわ」

 どこかのお貴族様。そのご婦人。
 俺とようじょとニシカさんが交互に顔を見合わせる。たぶんそれは俺たちサルワタの外交使節団の事だろう。
 詳しく女魔法使いに聞いてみると、尖突のニコラが襲撃して得た女たちを、闇の奴隷商人か何かを経由して売買する予定だったんだそうだ。
 その商取引の仲介を行うのが、リンドル市中にあるとある商会。

「ニシカさん、ただちにその事をマリアツンデレジアさんに伝えてきてもらえますか」
「おう、じゃあちょっくら行ってくる」
「夕方までには聖堂に戻って、晩餐会の支度しなくちゃいけませんからね」
「わかってるぜ!」

 俺の言葉を聞いたニシカさんは、要件をリンドルの支配者に伝えるために飛び出していった。
 まだ、ブルカ辺境伯に協力をする地元の有力者というのは存在しているらしいからな。気を抜かずに得られる情報は何でも手に入れておかないといけない。

 もうひとつ、女魔法使いが残した重要な証言があった。

「わたしの命と引き換えに、面白い事を教えて上げられると思うんだけれど。聞きたいかしら?」
「何ですかまどーしさん、もったいぶると為にならないのです。お薬がいいか暴力がいいか、ッヨイの魔法がいいか選ぶチャンスをあげるのです」
「ちょ、ちょっと待った。どうしてそういう風に怖い事を言うかなぁ……」

 真顔で女魔法使いを見上げたようじょが、雁木マリから預かっていたポーションを両手に持って持ち上げて見せる。
 すると顔面蒼白になったマドューシャは言い訳をする。

「命の保証をしてくれるのなら、触滅隊がこれまでにかき集めた金銀財宝の場所を教えてあげるって言いたかったのよ。欲しいでしょ、お金?」
「残念ながらッヨイたちは貴族なのです。貴族は小銭に困ってるほど落ちぶれてはいないのです」

 実のところサルワタは、湖畔に聖堂を建設するために少しでも資金が多いほうがいいという苦しい立場ではあるのだけれど、賢くもッヨイさまはそんなそぶりなどおくびにも見せず、強気に前のめりになる。

「小銭なんてもんじゃない。いつか来るべき戦争のために溜め込んでいる工作資金ですよ! お貴族さまを買収するために集めたものだから、オルコス五世金貨で数一〇〇〇枚になるって話だから! ブルカ伯金貨なんて眼じゃないよ!」

 オルコス金貨というのはよく知らないが、話の口ぶりからしてより価値のある貨幣なのだろう。

「聞くだけは聞いてもいいのです。命の保証と言いましたが、その隠された金銀ざいほーが証拠として出てきた後ならば、保証する事は出来るのです。いいでしょうか、どれぇ?」
「ま、いいんじゃないですかね。あくまで俺たちが、身元引受人に名乗り出るだけだ。ここはリンドルの統治下だから、御台であられるマリアツンデレジアさんが何というかまでは、わからないぜ?」
「それで構わないわ。構わないです……」

 こうして、女魔法使いはようじょの差し出した地図のある一点を差し向けた。
 廃坑となった鉱山のひとつだろうか、ピッケルを掛け合わせたマークが描かれている。山々の奥深いその場所を指さした女魔法使いに俺たちはゴクリとつばを飲み込んだ。

「また、やっかいな場所に金を隠したもんだな」
「ですねえ、どれぇ……」

 その場所は、リンドルと隣の領主との境界線上にあった。

     ◆

 取り調べを終えた俺たちは、宿泊施設に向かって手をつないで歩いている。

「あのお金はたぶん、リンドルと隣の領主とで揉め事を起こす様な気がするのです」
「見事に境界線上にある鉱山跡地でしたね」
「たぶん、隣の領主さまがこの事を知れば、自分たちの領地にある鉱山跡地だから、分け前は自分たちのものだと言い出すかもしれませんからね」
「ッヨイさま。この事は残念ながら、俺とッヨイさまとの心の中に留め置いておいた方がいいかもしれない」

 正確な埋蔵された軍資金を確認してから、どうするかを考えるべきかもしれなかった。
 隣の領地とは、オッペンハーゲンとの間に存在する、俺たちも詳しく知らない騎士爵さまの経営する土地だ。

「どんな人物が領主さまなのかも、調べておく必要があるのです。それにあれはもともと、商人たちから巻き上げたお金なのです」
「本来ならばその商人たちに返還するべきもの、という事ですか?」
「いえ、そういう事はないのですが……」

 国法に照らし合せるなら、このファンタジー世界において拾得物はそれを発見したものの権利となるとかないとか、そういう風に決まりがあるらしい。

「けど、それはあくまでも国法の問題であって、領内にたくさんの商会を抱えているリンドルとしては、何かしらの補償に充てるんじゃないでしょうか。普通の良識ある領主さまなら、そうするょ」

 なるほど。リンドルの今日の繁栄も鉱山と職工、そしてそれを商う商人たちがあってこそのものだからな。
 領主さまがぽっけないないでは反感を買って、将来の領地経営が傾いてしまうだろう。

「しかし、これからダアヌ夫人の主催する商人たちとの交流晩餐会というのに」
「とっても、頭が重たいのです。疲れちゃいました」

 先行き不安な情報を聞いてしまったせいなのか、ようじょの小さな手がぎゅっと俺の指を握りしめる。
 俺はほんの少しだけ力を入れてそれに応えて上げると、ようじょは俺の顔を見上げるのだった。

「どれぇ、頭をなでなでしてくれますか?」
「はい俺の心のご主人さま。いつでもッヨイさまの頭を撫でて差し上げますよ。あなたはよく頑張った。俺はだれよりもその事を理解していますよ」
「えへへ、ありがとうなのです!」

 ようじょかわいいなあ。
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