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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第6章 対ブルカ同盟の模索

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159 戦後処理の行方


 わずか数日ぶりであるというのに、リンドルの街へと帰還した俺たちは安堵の心でいっぱいだった。
 何しろ、出陣はあわただしいもので不眠不休の強行軍である。
 俺たちが田舎道の終着点に半ば乗り捨てる格好になっていた作戦指揮用の馬車に乗り込んだ後、いつもは規則正しい生活をしているカサンドラやようじょは、それこそ泥の様に眠ってしまっていたからな。
 戦場での生活が当たり前だった雁木マリや、猟師として野外活動に慣れているはずのエルパコですらもその辺りは同じだったので、この短い期間に俺たちは随分と消耗を強いられていたのだ。

 この中で、たぶん意外にも平気な顔をしていたと言えるのは、普段は優雅な生活をしているはずのマリアツンデレジアやオゲインおじさんたちだったと言えるかもしれない。
 ふたりはリンドルの領地経営する、言わばお貴族さまである。
 逆を言えば戦後処理という戦い以外の様々な事を一手に引き受けて決裁しないといけないという意味では、本当の戦争はこれからはじまったと言えるのかもしれないね。
 つまり平気なのではなく、ある意味において彼らは休んでいる場合じゃないという事なのかもしれない。

「……シューター閣下、何を他人事の様にぼんやりしているのですの? あなたもその貴族のひとりなのですわよ」
「いやあ、すいませんねえ。しばらく寝不足が続いていたので、体を残して魂が異世界に旅立っていました」

 黄昏色の心に包まれてお貴族さまを眺めていたところ、マリアツンデレジアにそんなご指摘を頂いてしまった。
 すっかり忘れていた俺であるけれど、俺ってば上等なおべべを着たサルワタ領主の旦那さんでした。てへぺろ。

「しかし、思いのほか戦死者が出たのもあってわしは頭を抱えている。遺族に対して補償金を出さねばならんのでな……」
「捕虜たちの問題もありますの。これが兵士という事であれば国法に従って領主間の人質交換という事になるのですけれども……」

 オゲインおじさんも、マリアツンデレジアも現状その点に頭を抱えていたのである。

 ここはリンドル郊外にある御台マリアツンデレジアの別邸だった。
 もともとは御台になる以前のマリアツンデレジアが先代子爵ジョーンから与えられていた、いわば彼女の引きこもり先であったわけだ、
 ここに俺たちサルワタ領の人間たちと、ダアヌ派のオゲインおじさんたちが招き入れられて、戦後処理に関わるあれこれや今後の協議が行われることになったのである。
 場所はマリアツンデレジアが以前は先代子爵を歓待するために用意したという居間の様な空間だ。
 ほんの少し前までは敵対関係だったダアヌ派の人間がやってきたり、実際にここを先代子爵のために使った事はほとんどなかったというから、皮肉なものである。

「特に捕虜の問題は扱いがやっかいなのよね、ブルカ辺境伯が国王に対して明らかな反意をもって、独立の意志を持っている事が明白となったのですもの。命と引き換えに証言をする者たちを、国王のもとに何としても届けないといけないんだけれども」

 そう口にしたのは雁木マリである。
 カサンドラをはじめ、サルワタの主だった人間はどういうわけかこの御台の別邸に勢ぞろいしていたけれど、マリは騎士修道会の利益代弁者として参加していると言った方がいいかもしれない。ちなみに、元はセレスタのお貴族さまとして男色男爵に仕えていたベローチュは、セレスタの利益代弁者という側面もある。
 サルワタ領側の人間がどこかしらの利益代弁者を兼ねているというのも不思議な話だね。

「ブルカには王国の兵団が確か駐屯しているのではなかったですの? そこまで、この街を強制退去するブルカ公商会の人間と一緒に送るというのが最善の方法だと思いますの。送還のルートは河川で船を使うのが、万が一の襲撃を考えれば理想だと考えますけれども」
「そうね、船を使うのが一番理想だと思うけれど、オッペンハーゲン経由で王都に人質を送る事も考えておいていいかもしれないわ。ブルカに向かう人質たちが、また別の触滅隊みたいな連中に襲われたんじゃ問題だから」
「国王陛下に歯向かって独立の意志を考えるなどと、不忠にも程があるというものですの」

 マリアツンデレジアと雁木マリのやり取りを聞きながら、俺は微妙に肝が冷える思いがした。
 何しろここでは大っぴらに言えないけれど、サルワタの女村長も、立場と背景は違っても王国からの自主独立を考えているのも確かだったからだ。

「それに、ドロシアねぇさまに状況報告のためにもサルワタに行きたいというのもあるのです。触滅隊の討伐は成功しましたけれど、ッヨイたちが動き回っている事がブルカ伯にも明確に伝わったと思うので、ゆっくりと外交を辺境諸領としている余裕がなくなったのです」

 そんな折、ハーブティーのカップを両手で握ったッヨイさまがそんな言葉を口にしたのである。
 何より、この場に集まっている全員がその事で一番頭を抱えていると言うべきかもしれない。これまでの外交はあくまでも「立場に窮したサルワタが周辺の辺境領主たちに助けを求めている」程度に思われていた可能性があるが、直接的にブルカ辺境伯に繋がっている組織に攻撃的な介入をしたんだからな。
 触滅隊の連中もしかり、リンドル駐在のブルカ公商会の商館しかり。

 まあ触滅隊は国法に照らし合わせてもこれは明らかに越境による違法行為を働いているという事だったから(道徳的にも俺の元いた世界の国際法に従っても間違いなく違法だろう)、何のかんのと言って言い訳をしてくる可能性はある。
 けれども、同じ何のかんのと言い訳をするにしても、リンドルのブルカ商館の撤去については不当な行いだと言いがかりを付けて来るのは眼に見えているのだ。

「結果的にブルカ商館では死者も出たしのう。もう戦争準備にむけてわしは領内に動員をかける時期にきているんじゃないかと思っておる」
「動員なんてとんでもありませんの! 関係する各領主と同時に連携をしないことには、わたしたちリンドルだけがブルカ伯と敵対する事になりますのよ」
「むむ、確かにそうだ。しかしではどうすればいいというのだ! ブルカ伯はあまりにも強大だぞ」
「岩窟王に救援を求めるしかありませんの」
「そ、それを誰がやらんといけないと思っておるのだ。なれば、わしが頭を下げなければならないんだぞ!」

 元々仲の悪かったオゲインおじさんとマリアツンデレジアは、今は顔をそろえて会議をする仲になったと言っても、終始こんな有様である。

「どれぇ、もうドワーフの王様が支配する岩窟都市まで外交使節を送り出す時間的な余裕はないと思うのです」
「確かにそうですねえ。オッペンハーゲンに向かうのも余裕がないかもしれない」
「だから、オッペンハーゲンへの外交使節団は、ッヨイとカサンドラねえさまに任せてもらいたいのです」
「俺たちを幾つかに分けて、行動するという事なのですか?」

 そうなのです、とようじょは俺の顔を見上げながらそう言った。

「カサンドラねえさまもサルワタ大使さまなのです。名分としては十分に外交使節団の体裁はととのえられるのです。だからどれぇはドロシアねぇさまに現状をお知らせして、戦争の準備に取り掛かってもらった方がよいと思うのです」
「むむむ……」
「それに、人質をブルカに護送するためには強力な護衛も必要なのです」

 ブルカに送り返す予定なのは以下の通りである。
 リンドル在中のブルカ公商会の商館職員と、それからリンドル城府で勤務していたジェイソンスコットミーといったスパイだった文官たち、それから触滅隊討伐戦で捕虜とする事になった複数の人間たち。
 人数にすれば五〇人にもなる大所帯であるし、これにもそれ相応の人員を割かなければいけない。

「俺がサルワタに戻るとして、マリかニシカさんにでも護衛についてもらうのがいいだろうか」
「そうですねー。ニシカさんとリンドルのみなさんから兵隊を付けてもらって送り出すのがいいとッヨイも思うのです」

 俺の言葉にようじょがうんうん首肯した。
 すると、話を聞いていた雁木マリが口をはさんでくる。

「ブルカに駐屯する王国の兵団に訴え出るのなら、あたしが行った方がいいんじゃないかしら」
「それをすると、オッペンハーゲンとの交渉に支障が出るんじゃないか。マリは騎士修道会の人間として、ブルカの専横に対抗する同盟関係に騎士修道会が参加するんだという証言を、彼らに対してしてもらわなくちゃいけないだろう」
「むむむ、ままならないわね……」

 すごすごと雁木マリが引っ込んでしまった。
 こんな話をしている最中に、俺たちはさらなる危惧に思い至ってしまう。集団をつくるという事は、誰がリーダーシップをとるんだという問題もそこに存在するのだ。

「しかし、そうなると誰がこの対ブルカ同盟の盟主なんだという事で揉めるような気がするんだですどね……」

 その点について修道騎士ハーナディンが指摘をすると、

「当然、それは子爵であるシェーンさまを盟主とするべきですの。家格の上でもどの領主方より爵位は上なのですもの」
「いいや、この際は騎士修道会の枢機卿にして聖少女修道騎士の婚約者であるシューターがその盟主であるべきだわ。どこかの領主さまがそれをするよりも、バランスの取れた人選であると言えるわ」
「しかしオコネイル男爵さまのお立場もございますよ。自分としては軍人出身であるオコネイルさまを指導者とするのがいいのではないかと愚考する次第であります」
「そ、それはいけないのです。やはりここは辺境における一方の雄であるオッペンハーゲン男爵を担ぎ上げるのが政治的に妥当なのです。ッヨイがそれを条件にオッペンハーゲン男爵を説得してみせるのです、あいぼー」
「待て待て、待ってくれ。勝手に盟主を決めたらアレクサンドロシアちゃんが激怒するんじゃないか?!」

 マリアツンデレジアの提案にはオゲインおじさんがうんうんと同意を示した。
 雁木マリの発言にはエルパコが無条件にこくこく頷いて見せた。
 男装の麗人ベローチュの意見は同意者がいない。
 賢くもようじょは私情を挟まない政治向きの発言をした。
 そして最後に俺があわてて言った言葉には、カサンドラがそうだという顔をして俺を見てくれた。

「そういう事もあるので、ブルカ伯との対決を前に、いち度は諸侯たちを集めた会議をする必要があるかもしれませんね」

 当初この場に漂っていた安堵の気持ちなどどこへやら。
 修道騎士ハーナディンがそんな提案をしなければ、口論はまだまだ続いたかもしれない。
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