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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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158 触滅セヨ! 5


 会戦の様は著しく変動していた。

 この戦場を俯瞰(ふかん)してみた時、次の通りだった。
 旧領主館を制圧した勢いを駆ってアマノン集落周辺に在陣していた触滅隊と戦うサルワタ隊の他に、後方遮断のために背後の林に伏兵していたオゲイン隊が戦闘中であった。
 この他に僅か十騎前後と少数ながら騎士たちだけで組織した騎兵小隊が、側面からの一撃をかけるべくもはや無意味となった騎兵突撃を実施した。
 領主館正面の戦力は二〇強といったところなのに比べ、対する後方を突いたオゲイン隊は一〇〇を超える主戦力であるにも関わらず、今となってはいつ総崩れになってもおかしく無い具合に押されている。
 時機を逸して投入された騎兵小隊にいたっては組織行動も不可能なほど、仮面の男二号の奮戦でズタボロにされてしまったが、このやっかいな二号はすでに戦闘不能であるのが唯一の幸いだな。

 そして俺たちとは行動を異にしてた鱗裂きのニシカさんであるけれど、彼女は単身に仮面を付けた指揮官級の男を仕留めるべく、隠密行動をとっていたのである。

 彼女はサルワタの優れた猟師である。
 その戦い方は猟においてそうである様に、単独行動を旨とし、相手が油断した瞬間を仕留めるものだ。
 いわば現代的な言い方をするならば狙撃兵(スナイパー)というやつだな。
 混戦する会戦場の中を草原を潜り抜ける様に移動して、ひとつの目標を定めつつあった。
 ちょうど俺たちが剣魔一体の攻撃で暴れる、難敵仮面の男二号を相手にしていた頃の事だった。

 狙うはやはり仮面の男。

 ニシカさんが目標と定めた野郎を、以後仮面の男三号とする。
 こいつは他の仮面ズと違って、筋肉ダルマみたいなプロレスラー体系だった。ちょっと仮面が小さすぎて、丸い顔に食い込んでいたから俺がそう思ったんだけどね。
 その男は、仮面の男たちの例に漏れず戦闘力は訓練を受けた軍隊上がりの触滅隊どもの中でも動きがかなり出来る強者の具合だった。

 今となっては確認のしようもないが、恐らくニコラだかニコルだかという口の臭かった男も、襲撃作戦などを実施する時にはこの仮面を付けて悪党働きをやっていたはずなのだろう。
 しかし、あの時はその暇も無く戦闘に入ったので、たまたましていなかったというわけだ。

 この仮面の男三号は長大な槍を風車の様に振り回す、一対多数を得意とする最悪の野郎だった。

 ニシカさんは仲間であるオゲイン兵が散々に蹴散らされている姿を見ても決して安易に助けようとはせず、じっと姿勢を低くしながらブッシュの中を接近し、じりじりと弓をつがえたままチャンスが来るのを待っていたらしい。
 そしてバッとオゲイン兵たちが蹴散らされた瞬間を狙って弦を引き絞り、強弓の勢いに風の魔法を乗せて首筋一発を狙い定めたのである。
 発射されたその矢は放物線を描きながら一度空高く舞ったかと思うと、魔法のコントロールを受けながら仮面の男三号の首筋にズドンと刺し込まれた。

 長弓の有効射程距離は男の身長なら八〇歩、短弓ならばその半分の四〇歩程度。
 これがこのファンタジー世界の一般の弓兵が弓を狙う距離とされているらしいが、ニシカさんは違う。
 ニシカさんが愛用する長弓の射程は実に一五〇歩以上というから、一〇〇メートル以上の距離を殺傷範囲に捉えている上、その射出された矢の速度も風の魔法によって通常の倍近くだったらしい。

 そんな一射を首筋に受けた仮面の男三号は、さんざんオゲイン卿の領兵を蹴散らすだけ蹴散らした後にもんどりうって倒れ込んだのだ。
 動き回る敵に狙いを定めようが、風の魔法でコントロールされたニシカさんの射撃の前には、手を伸ばせば届く位置にある酒瓶も同然の扱いだったというわけだ。
 お酒が大好きなニシカさんにしてみれば、目の前に酒瓶があれば手に取るのは当然だ。
 同様に、獲物が射程圏内に入れば、的を外すことなく射抜く事が当たり前に出来るというわけである。

 仮面の男三号がニシカさんによってあっさりと無力化した後に、俺と周囲を固めているエルパコやベローチュ、タンスロットさんが、オゲイン卿の軍勢の中に駆け込んだのであった。

     ◆

「オゲイン卿、加勢に参りました!」
「おおっ、シューター閣下ではござらんか。アジトの本拠は陥落したのですな」
「こちらは予定通りに行きましたよ。それにしてもこちらは苦戦されているみたいで!」

 不慣れに長剣を振り回している太り肉のオゲインおじさんは、体全身をつかってゼエハアやりながら俺の肩に手を置いて、素直に救援を喜んでくれた。
 高貴な身の上の嗜みで馬に乗って戦場に突入をしていたはずだけれど、どうやらいつの間にかそこから落馬して、少数の兵士たちと逃げまどっていたのが現状らしい。

「我が軍はもうこれ以上踏ん張り切れませんぞ。わしは撤退を進言する」
「そんな事が許されるわけがありません! 督戦ですよ督戦!」

 弱気な発言をするオゲインおじさんに対して、俺に付き従って来た男装の麗人は真逆の事を言い立てた。
 当然だ、ここで尻尾を巻いて逃げる様な事になってしまえば、何のために領内から兵隊をかき集めて、俺たちまで犠牲を払って触滅隊を包囲したのかまるでわからない。
 さらにこちらを目指して進撃中の男色男爵の軍勢はどうするのだというはなしだ。

「しかし、すでに戦線を維持するのが難しい状態でのう。何とかしたいのはわしも山々なんだが。ぐわあぁぁ敵兵だ!」

 言い訳をしていたオゲインおじさんに向かって、動きのいい触滅隊の数名たちが槍を突き出しながら接近してくるのが見えた。
 オゲインおじさんはそれを見て、情けない悲鳴を上げながらあとじさってみせたが、その場所に入れ違いになる様に俺が飛び込んで、槍を自分の剣で巻き上げてやる。
 その瞬間を呼応してベローチュが触滅隊のひとりを斬り、タンスロットも槍を突き込んでくれた。
 体躯もあるミノタウロスであるタンスロットさんの槍は、その突きの一撃も体重の乗った重い攻撃である。悪党はあっさりと懐奥深くに槍の穂を沈み込まれて悶絶していた。

「ここで逃げれば、呼応しているオコネイル男爵の妖精剣士隊が出馬損になってしまいます! あと少し、あと少し耐えれば戦場に到着するのです!」
「しかし、それはいつなのだね。この討伐軍の指揮権は御台さまにあるはずだが、その御台さまもこの乱戦でお姿が見えない。あの女、まさか逃げたか戦死したのであるまいな……」
「マリアツンデレジアさまは旧領主館から、作戦の全体を指揮しておりますよ。オゲインさん落ち着きましょう、俺が側にいますから」

 当初の作戦予定ではオゲイン卿の包囲網が完成し、敗走に移った触滅隊の兵士たちが、ッヨイさまのわざと逃げ口を残していた場所から撤退行動に入るはずだった。
 その敗走経路に、進撃する男色男爵の率いる妖精剣士隊が出くわすという寸法だったのである。

 現実は未だ男色男爵は現れず、包囲網とは名ばかりの混戦の様であった。
 戦を知らず長く平和を享受していたオゲイン卿が、かなり疲労困憊の様子で弱気な発言をするのもわからないではない。
 形勢不利なのは見たまんま事実だからな。

「いったん軍勢の体制を立て直すために、後方に下がるというのはどうだろうか」

 しかし弱気な指揮官を鼓舞するのも俺たちの仕事である。
 触滅隊の連中も考えたもので、デブの豪華な鎧姿をしたオゲインおじさんを仕留めてしまえば、この討伐軍はあっさりと壊走してしまう事を知っていたのかもしれない。
 だから散発的であるけれど、数名がひと塊になった決死隊たちが俺たちに向かって捨て身の特攻をしてくるのだ。
 中には街で雇われていた娼婦の女たちまでが、武装して剣をつむじ風の様に振り回しながら突撃してくるのだからたまらない。
 彼女たちは娼婦であると同時に、元は傭兵か冒険者だったのか、触滅隊の確かな戦力の一部に組み込まれていた様である。

「どきな! このフニャチン野郎っ。あたいに殺されたくなかったらね!」

 娼婦の女が剣も巧みにオゲイン卿を殺さんと草むらの中から飛び出した時、もはや戦闘の意志が微塵も感じられていないオゲイン卿は剣を弾き飛ばされてしまった。
 あわてたのは俺である。
 こんなところでダアヌ派の重鎮に死なれてしまっては、例えここで触滅隊を討伐成功に導いても、リンドルのお家騒動をまとめる交渉相手を失ってしまう事になるのだ。
 二の手で剣を引き下げながら、脂肪の詰まった肉の塊を斬り伏せようとした娼婦。
 この動きに合わせて俺は素早くオゲインおじさんを押しのけると、その剣尖を殺すつもりで肩から娼婦にぶつかっていった。
 まともに剣でいなすには、咄嗟の事で余裕がなかったからだが、武装娼婦にはこれで十分だったらしい。
 具足ではなくサンダルばきに過ぎなかった彼女はその場でずるりとこけてしまい、俺を見上げて唾を吐く事しか出来なかった。

「殺せ! あたしを殺せ!」

 エルパコが容赦なく武装娼婦の剣を蹴り飛ばして無力化させると、尚も暴れようとするその娼婦に飛びついた俺は、そのまま首をひねって絶命させる。
 仕方が無い事だ。
 ここには武装解除した捕虜を確保しておける戦力的な余裕もないし、むしろこちらは押されているぐらいなのだ。
 これ以上、妻のひとりが残酷な行為をする姿を見たくなかった俺は、けもみみがそうするよりも早く自分の手でそうしたのだ。
 つまらないフェミニズムの皮を被ったエゴイズムなのかもしれない。
 だが、手を汚すなら出来るだけ自分の方がいいに決まっている。

「ご主人さま、どうされます?」

 この形成を逆転させる方法は、残った指揮官級――仮面の男たちを潰して敵を混乱させる他はない。

「指揮官を集中的に狙うぞ。敵の、仮面を付けた指揮官の姿は見えないか? 探し出して俺たちで打ち取るしかない」
「そうですね、指揮官級の人間がまだ何人か残っている様です。組織的な動きをしている連中があそこと、あの向こう側に見えます。あの隊は動きがいいので、自分と同じ軍事訓練を受けた兵士の集団でしょう」

 ベローチュが戦場を素早く観察しながらそんな言葉を口にした。
 優秀な剣士出身の奴隷が自分の手元にいる事に感謝しなければいけない。
 それに引き換えると、

「誰が行くのだ。わしの部下たちをこれ以上危険に晒すわけにはいかんぞ……」

 オゲインおじさんはこれ以上期待できそうも無かった。
 これはこの戦いが終わった暁には、雁木マリかベローチュあたりにリンドルの兵隊を教育してもらった方がいいかもしれないな。
 そう、そのためにも生き残らなければ……

「指揮官のひとりは、オレ様が仕留めてやったぜ」

 不意にそんな声がしたかと思うと、ゴロンと俺たちの前に生首がひとつ投げ込まれた。
 見ればデカくて丸顔に仮面の張り付けられたそれを放り込んだのは、鱗裂きのニシカさんだったらしい。

「に、ニシカさん……」
「それと、勝負は決したらしいな。あれを見ろよ」

 ギョっとした俺たちの事など無視して、ニシカさんは血まみれのマシェットをある場所に指し示すではないか。
 示された方向を見れば、激しく爆炎が複数回上がったかと思うと、勢い(とき)の声をがなり立てる集団が突撃を敢行しているらしかった。

「妖精剣士隊です! 妖精剣士隊が到着したみたいですね!」
「それに向こう側でも、魔法攻撃がはじまったよ。シューターさん」

 馬蹄を響かせる騎馬剣士の集団が、容赦無く触滅隊の側面を突いたのだ。どこからか風に乗って「チャージよ!」と叫ぶ頼もしくも野太い声を届けてくれる。
 そして、恐らくッヨイさまや雁木マリ、あるいはハーナディンの魔法攻撃で支援を受けたサルワタの軍勢が、ついに逆襲のために一転攻勢に移ったらしいのだ。

「あっ、仮面の指揮官に率いられた集団がこちらに突撃してきます!」

 ぼんやりと作戦の終末を見届けていた気分だった俺たちの方に向かって、ここからの脱出を意図したのか、サルワタ隊や妖精剣士隊からの攻撃を逃れていた一隊がこちらに指向したのだ。
 ここならば、あまり戦上手とは言えないオゲインおじさんの本隊がいる場所で、ここを潰せば逃走が可能だと思ったのかもしれない。
 だが、させるか。

 直ちにこちらに向かう仮面の指揮官に向けてエルパコが矢をつがえて狙う。

「エルパコ、必要ねえ。オレがやる!」

 マシェットを持った手でけもみみをけん制したニシカさんが、不敵な笑みを浮かべながら一歩前に出ると、彼女がお得意にしている特大の竜巻魔法を撃ち放ったのである。
 俺はこの魔法を知っている。
 以前、奴隷の譲渡契約を終えて名前の長い奴隷商人の元から帰る途中に、ニシカさんが使ってみせたものだ。
 ただ暴風が渦巻くだけのまやかしではなく、鋭利な刃物で斬り刻まれる様にズタズタにされるものだ。
 それに、ニシカさんは馬の性質をよく理解しているのか、急に激しい攻撃にさらされた馬というヤツは驚いて棹立ちになるのだ。
 当然、見ている目の前で突撃してきた馬は、突然現れた竜巻におおいに驚いて仮面の男を振り落としてしまった。

 あわれにも、したたかに叩きつけられた仮面の男であるが、そこは趨勢が決しつつある中でのことだ。
 数騎の傭兵剣士を従えた男色男爵によって包囲されてしまい、仮面の男四号は捕まる事になったのである。
 残念でした。
 悪党働きは世の習わしで、長く続ける事は出来ないと相場が決まっているんだよ。

「おイタをする子は、お仕置きよぉ!」

 男色男爵がそう言って、ムチで抵抗しようとした仮面の男四号を折檻している中で、俺の指示を受けたニシカさんが状況終了を告げる信号矢を上空に射ち放った。

     ◆

 敗走する残敵の掃討は、当初の予定通りに妖精剣士隊の主力によって行われることになった。
 山岳騎兵というちょっとかわった兵科のみなさんは、リンドルやセレスタ周辺の起伏にとんだ地形をものともしない騎兵である。
 普通の俺たちならこの山道を移動するなら馬を下りて進軍するところだけれど、山岳騎兵たる妖精剣士隊のみなさんなら、そこはお手の物だ。
 ではどうして男色男爵が、予定に反して戦場に姿を現していたかというと、

「虫の知らせよぉ」

 という、元貴族軍人としての経験からくる予感に従ったものだったらしい。
 戦闘捕虜の集められた旧領主館での事だ。

「作戦が計画通りに進まないのは、戦場を知る者なら当然の結果なのよぉ」
「と、とてもくやしいのです……」

 ぐぬぬ顔をしたようじょかわいい!
 ッヨイさまが緻密に立てた計画は、図上の上では完璧だったと俺も思う。
 けれども、ここまでオゲインおじさんの領兵が弱兵だとは思わなかったし、マリアツンデレジア傘下の部下もリンドルを発つまでに使い物にならなくなるとは思ってすらいなかった。

「ッヨイ子ちゃんもよく頑張って作戦を考えたけれど、これからはもっと経験を積んで、机上の空論に終わらせないようにしましょうねぇ~」

 そんな風に男色男爵がようじょの頭を撫でたものだから、悔しい顔をしたッヨイさまは俺にしがみ付いてきた。

「男爵、それはあんまりというものですよ。ッヨイさまだって、何も情報がない状況で、よく作戦を練って実行してくださいました。戦力が足りないところは、ッヨイ様自らが先頭に立って戦ってくださったんですからね」
「どれぇ……」

 俺がそんな風にピシャリと釘を刺しておくと、両手を広げて引き下がってくれた。
 あまり子供をいじめるもんじゃない。
 このファンタジー世界の道理に合わせるならようじょはまだ未成年なんだからな。俺の元いた世界なら、せめて十八か二〇になるまでは責任能力を追及する事すらも問題だからね。

 追撃戦はこうして妖精剣士隊の本隊にゆだねる事になった俺たちは、ひとまずお互いの無事を安堵しながら休息をとる事になった。
 戦うだけ戦った後なので疲労困憊だ。
 飯も食わなきゃいけないし、怪我を負ったみんなは治療も受けなければいけない。
 それに捕虜の確認だってある。

「それにしても。たくさんの犠牲が出ましたね、シューターさん」

 そう口にしたのは、簡易の炊事セットを引っ張り出して、炊き出しの準備をしていたカサンドラだ。
 まさか妻までも引き連れて戦場に出て来る事になるとは思っていなかった俺であるけれど、こうして正妻の無事を確認できたことはありがたいかぎりだ。
 雁木マリもエルパコも、こうして元気でいるのだからな。

「モンサンダミーさんが戦死なさったそうですね」
「うん、彼は優秀な傭兵だったよ。きっと生きていれば、戦争でサルワタの軍勢を率いる指揮官になっていたと思うんだ」
「それに、触滅隊の中には女性の盗賊もいたんでしょう?」
「武装した娼婦や女魔法使いがいたよ。女魔法使いの方は生かさず殺さず、雁木マリが捕まえて尋問すると言っていたな」
「そうなんですか……」

 大きな旅行鍋の中身をぐるぐると木のおたまでかき混ぜている俺の奥さんは、とても気落ちした様子で声をシュンとさせてしまった。
 けれども、落ち込んでいる者たちばかりではない。
 すでに何度も戦場を経験してきたであろうサルワタ傭兵のみなさんや、初の戦場で興奮しているらしいマリアツンデレジア、そしていざ生き残れば肝が据わって来たのかオゲインおじさんたちは違った。
 誰それが何を打ち取ったという自己申告をするたびに勇躍(ゆうやく)して、剣を突き上げて素直に喜びを表現していたのである。
 そんな気分にはなれないとカサンドラの側で見守っていた俺だった。
 けれど、ふと次の瞬間に聖少女でありながら古兵の様な厳めしい顔をした雁木マリとニヤついた顔のニシカさんが、こちらに近付いてくるではないか。

「サルワタ騎士シューター。戦果、触滅隊の指揮官級の男、仮面二名を撃破! 彼は全裸を貴ぶ部族の生まれだというわ、辺境最強の戦士の噂は本当だった様ね!」

 本当は自分と同じ日本の生まれだというのに、雁木マリはそういうところもわかった上で芝居がかった口調で俺の腕を引き上げて見せた。

「おう、オレ様の相棒のシューターは全裸最強だぜ! だが今回は服は無事だったらしいなッ」

 もう反対側の腕を持ち上げるニシカさんの言葉に、サルワタ関係者のみなさんがゲラゲラと笑い出した。
 カサンドラとエルパコまで、視界の端で苦笑をしているじゃないか。カサンドラをしっかり見やると、先ほどまでの少し寂しそうな顔をしていた表情が和らいで、小さく手を振ってくれた。

「さあ、女神様に祝福された全裸の勇者よ。勝利したあたしたちに、ひとこと挨拶をしてちょうだい」

 おどけた調子でそんな事を言ってのけた雁木マリは、ビシリと俺のケツを叩いて車座になったみんなの前に押し出されてしまう。
 突然そんな事を言われても何と挨拶していいものかわからないので「あーみなさん」などと気取ってひと言口にした後、俺はいつもの調子でみんなにむかってペコペコと頭を下げるのだった。

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 戦死者二七名、負傷者六一名。
 うち、サルワタ勢から帰らぬ人となった人間の数は六名。
 その数が多いか少ないかは今の俺にはわからないけれど、血を流す戦争はこの時をもってはじまったのだと、後々になって俺たちは実感したのである。
 妖精剣士隊の掃討作戦を潜り抜けてブルカにたどり着いた触滅隊の残党が、辺境諸侯の対ブルカ包囲網を正式に報告したからである。

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