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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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157 触滅セヨ! 4

 しっかりと股を締め付けながら、馬上で俺は剣を振り上げ構えた。
 仮面の男二号は相対する位置から加速しつつ、水平に剣を突き出しながらこちらへと疾駆してくる。

「ご主人さま!」
「呼吸を合わせろ、同時に行くぞッ」

 仮面の男二号は俺たちふたりを相手にしてもその疾走を緩める事も無く、ひゅんと剣を振り上げて俺に斬りかかる態度を見せる。
 きっとベローチュと俺とを瞬時に見比べた時に、どちらがより倒しやすいかを判断したのだろう。
 癪に障る事この上ないが、いいじゃねえか。だったらやってやる!

「行くぞ!」

 そのすれ違い様に斬りつけられた剣をどうにか受け流して見せた時、ギャンと刃広の剣身が悲鳴を上げる。
 隣でぶんと振り抜かれたベローチュの剣は、どうやら仮面の男二号の硬い手甲によって弾かれてしまったらしい。
 俺は馬の操法が未だに得意ではない。
 馬速は勢いそのままに大きく半円を描きながらターンさせる俺と、手綱捌き巧みな男装の麗人とでは、この瞬間にも連携が崩れはじめていた。

「くそっ。無理に単騎で向かうなよ!」
「そうは言われましても!」

 相対しての一撃を終えた後は、もつれる様に並走してベローチュと仮面の男二号が数撃にわたって撃剣を交わす姿が見える。
 エルパコも援護射撃の一撃を入れてどうにか仮面の男二号に損傷を負わせようとしているらしいけれど、これが高速で移動している相手となると難しいらしい。
 けん制の一射にはなった様で、仮面は一瞬だけ身をのけぞらせた。
 俺も馬を落ち着かせながら、どうにか反対側から仮面の男二号に接近し、背後からの一撃を狙う。

「おい、ケツががら空きだぜ!」
「フウン、ヌウンッ」

 余計なひと言だったかもしれない。
 俺がまともな攻撃もかなわないと早めに諦めて囮役を買って出ようと挑発してみたのだが、騎乗でブンブンと長剣を振り回して見せる仮面の男二号は、滅茶苦茶強かった。
 ベローチュの攻撃を剣の勢いに任せて弾き飛ばしたかと思うと、そのまま頭上で山を返した長剣が俺のブリガンダイン鎧をギャインと切り裂いた。
 もちろん肉体まではには届いていないが、肝が冷えた事は間違いない。
 のけぞってはみたものの、その勢いで危うく馬上から転げ落ちるところだったのだ。

「残念だったな、俺はまだ無事だ!」
「おのれ」

 不利な姿勢から数合の打ち合い。
 だが俺の攻撃はことごとくいなされてしまう。

 馬に跨り疾走させながら白刃の切り口を安定させるのはかなりの至難だ。
 妖精剣士隊の出身であるベローチュは、上下する馬の揺れに合わせて腰を浮かせながら剣を引き上げながら片手で構えを取る姿勢をしていた。
 このファンタジー世界の長剣は両手持ちも可能であるが、基本的に片手で操るために工夫されて作られたものである。こういう馬上戦闘の時には確かにそれが役立つのだろう。
 しかし今の俺では馬上なら両手持ちでなければ剣の切り口を敵に正しく向けられないし、かといって両手では走る馬の上で安定した姿勢を維持できないという情けない有様だった。

 斬り口が多少ずれていても、こうなってしまっては強引に叩きつけるやり方しか方法はない。
 いや、チャンスはそれほど無い事を考えれば、転げ落ちる事も覚悟で両手持ちの一撃を見舞ってやるか。

 そんな事を考えた瞬間に、ベローチュも似た結論に思い至ったのだろう。
 身を乗り出しながら馬の操法を捨てて両手持ちに剣を構えた俺の反対側で、同じく身を乗り出す様に姿勢を取るベローチュ。
 一瞬だけ褐色の奴隷と視線が交錯した。
 今度こそ連携をとるぞと互いに暗黙の了解を交わしたのだ。
 俺が強引に並走状態から大上段の一撃をぶちかましたところ、仮面の男二号は剣で受け太刀をするでもなく右手からビームを発射した。

「魔法かよ?!」

 予定では俺の剣を受け太刀してやり過ごそうとした背後から、馬上のタックルを男装の麗人がかけてくれるはずだったのだが。
 俺は悲鳴にならない悲鳴を上げながらブリガンダイン鎧に火炎の魔法を射ち込まれて、そのまま落馬する。
 転げ様に足が何かを蹴飛ばした様な気がしたが、自分の事で精一杯で何が起きたかまでは把握していなかった。

 モノの本によれば合戦時の騎馬の時速は十八キロ程度という事を見た記憶がある。
 自転車からアスファルトの地面に転がる事を考えれば、かつては耕作地だった草ぼうぼうの場所に転がり落ちるのははるかに安全である。はずだ……
 俺は接地面積を出来るだけ確保する様にしながら尻から落ちて背中をまわって回転し、起き上がった。
 激しく叩きつけられてその瞬間に息をするのも苦しかった。その瞬間に旧領主館での戦闘でアバラを一本折るかひびが入るかしていたのを思い出してめちゃくちゃ痛くなった。
 この痛みはまだ生きている証だ。まだ痛みを受け入れられる余裕のある証だ。
 まだいける。
 ここでくじける理由がない。
 放り出された時に剣もどこかにいってしまった様で、俺は予備の短剣を引き抜きながら視線をさ迷わせた。

 どうやら俺を攻撃した背後から、予定が外れてしまっていたもののベローチュが飛びついていたらしい。
 男装の麗人が強引に仮面の男二号にぶら下がる様にして、騎馬から引きずり降ろそうと暴れている姿が見えた。

「シューターさん!」
「俺は大丈夫だ、上手くあの馬の体を射抜け」
「うん……!」

 近くまで疾走して駆け寄ったけもみみに向かって俺の健在ぶりを示しながらすぐに命令を飛ばす。
 エルパコは走りながら弓をつがえると、瞬間的に足を止めてそれを打ち出した。
 また駆けながらこちらへ寄り、俺と共に走り出す。
 矢は放物線を描いて男装の麗人が取りついた仮面の男二号の乗った馬の尻に刺さった。
 当然馬は暴れ、棹立ちになってふたりを引きずり落とすではないか。

「エルパコいくぞ!」
「うん、シューターさんチャンスだよっ」

 落馬したベローチュはなおもゴロンと体を回転させながら剣を手に立ち上がろうとしていた。
 その闘志はまだ失われていないらしい。
 問題は仮面の男二号も、癒しの魔法でも使えるのかすぐにも身を起こして剣を構えようとしている。
 いや、仮面の男は仮面の鉤鼻を破損して、仮面の半分から顔を露出させているのだった。

 こいつだって化け物じゃないんだ。
 仮面も割れれば、殺せない相手じゃないはず!

「おら、俺が相手だぜ!」

 叫びながら短剣を懐に押し付ける様に構え、そのまま体当たり気味に脇腹へ一撃突き込んでやる。
 立ち上がったところを、剣の構えを改めて俺への警戒をしようとしているところを、ほとんど強引な勢いで俺が突貫したものだから、仮面の割れた場所から見えた表情は驚いている様子だった。
 そのまま地面に重なり合う様にして倒れ込む。

「グフッ! 何者だ貴様は……」
「サルワタの騎士シューターだ。悪いな、俺たちの勝ちだ……?!」

 口から血を吐き出しながら苦悶の表情を浮かべる仮面の男二号に、俺が勝利宣言をしようとしたところ。
 倒れた姿勢のまま右手をすっと俺に向けようとするのがわかった。
 魔法だ。俺は咄嗟にブーツでその構えた手を弾き蹴ってやる。
 するとそこに、脇から疾駆して来たエルパコが素早い動きで、仮面の男の右手をブーツで踏み潰した上で剣で貫いた。

「ぐおおおおっ。やめろ」
「魔法を使われると、厄介だから」

 エルパコは、仮面の男二号が潰された右手を庇う様に左手を差し向けた瞬間、仮面に向けてブーツのかかとをグシャリと押し込むじゃないか。そのまま二発、三発と、口周りを執拗に蹴った。
 戦場で油断は禁物だとは言うけれど、これはちょっとえげつない……

「ぐばッ。ゴホッ」
「シューターさん、人質に取るんだよね?」
「う、うん。そうしようか……」

 しばっちゃってちょうだいと俺が言うよりも早く首肯してみせたエルパコは、腰後ろに手を回してロープを引っ張り出し、手際よく拘束をはじめるのだった。
 ぜえぜえと走りながら駆け寄って来た野牛の兵士タンスロットさんも、周辺の触滅隊の数人を相手に戦闘したらしく、茶色い顔にいくつか返り血を浴びている。

「ご無事で何よりです閣下」
「タンスロットさんも無事でよかったな」

 短くやり取りをしているとそこに警戒姿勢を崩さずベローチュも合流した。それを見届けてからタンスロットさんがしごく真面目な表情で俺たちをさっと見まわしていった。

「ひとつ、悪い知らせです」
「?」
「オゲイン卿が敗走したのでしょうか、ご主人さま」
「いえ、まだ混戦状態ですがオゲイン卿は戦闘継続中です。その交戦している中でですね、他にも仮面の男がいましたよ。あそこと、向こうのあたりにも」

 まだいるのかよ! 何人いたら気が済むんだ!
 お前ら六つ子か何かか?!
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