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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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156 触滅セヨ! 3


 旧領主館に一番近い場所にあるアマノンという集落の前では、ハーナディンが率いている傭兵隊と野牛の兵士たちが、異変に気が付いて領主館に向かおうとしていた触滅隊の悪党どもと交戦を開始していた。
 俺も雁木マリの疲労がポンと回復するという怪しいポーションをキめた後に、それに合流すべく向かう。
 足取りはかなりふら付いているという実感があったので、無理に交戦中のただ中に斬り込む様な事はしない方がいいだろう。

 そんな事を考えながら小走りに徒歩で向かっていると、すぐ側にいつの間にか追走するエルパコの姿があった。
 どちらかというと俺よりも少し前を駆けているという元気な有様だ。
 そして途中で足を止めたかと思うと、愛用する短弓を構えて一射してみせる、という繰り返しだ。
 けもみみは速射性に優れたこの短弓を使って、かえる跳びの要領で数人の悪党をみるみるうちに仕留めて見せたのである。

「敵の数が思ったよりも多い様に見受けられますわ!」

 すると今度は反対側をいつの間にか並走していたらしいカラメルネーゼさんから怒声めいた悲鳴が上がった。
 彼女は蛸足のぶんだけ、あまり武装しての全力疾走がお得意ではないらしい。
 少しハアハアと荒い息をしながら剣を構えて、こちらに飛び出してくる槍を持った悪党の一撃を振り払った。
 ニシカさんの報告が過小だったと言いたいのかもしれない。
 けれどもおそらくそれは眼の錯覚だろう。

「敵が入り乱れて交戦しているので、数が多く見えるのでしょう!」
「そうだといいのですけれども!」

 戦場経験というわけではないけれども、俺も似た体験をしたことがある。
 むかし俺が参加した歴史ドラマの合戦シーンを撮影の時、大多数の役者とエキストラ、スタントマンが集まって敵味方にわかれた合戦をした事がある。
 数としては一〇〇人だか一五〇人だかという、今この戦場の数よりもたぶん少ない兵隊が集められていたはずにもかかわらず、実際に草ぼうぼうのロケ地を全力疾走しながら騎馬やら鎧武者やら鉄砲足軽やらが入り乱れて戦ってみると、これはもう脳味噌に血が足りないからか、ものすごい大軍同士がぶつかり合ったような感覚に陥ったものだ。

 ついでに言うと、映画やドラマの撮影スキルというのだろうか、シャッターというものがある。
 これはカメラフレームの中を、周辺に散らばった戦闘員(例えば戦隊モノの雑魚敵)が右に左にと交互に移動してみせるだけで、視覚的に実際の戦闘員の数よりも多く錯覚してしまうのである。
 撮影の時はこの方法を使って臨場感を出そうとと創意工夫をしているわけだけれども、実際の戦場においてもこれは有効なのか、敵味方が入り乱れているとそういう風に感じてしまうのも、しかたのないものだった。

「シューターさん。かなり、押されてるよ」

 わずかな間隔で二度にわたり弓を射かけたエルパコが、俺に一瞬だけ向き直ってそんな事を言った。
 確かに、アマノンの集落周辺の俺たちはどうにか旧領主館を目指していた触滅隊の連中を寡兵(かへい)で押しとどめていると言えるかもしれない。

 けれども、後方遮断のためにみっつの集落の背後から(とき)の声を上げて踊り込んで来たオゲインおじさんの領兵連中は、数ばかりは多いくせにあまり優勢だとは言えない様だ。
 事実、旧領主館のあった小高い丘から目撃した時には、奇襲効果もあってゴリゴリと集落に攻勢をかけていたオゲイン隊のみなさんが、いつまでたっても近づいてきているという印象を感じないのである。

「たぶん、押し返されてるな」
「どうしますの?!」

 目の前に飛び出してきた炭鉱夫みたいなすすけた顔の男に向かって、俺が土を蹴り上げて目潰しをしてやる。
 するとその直後にカラメルネーゼさんがバッサリと斬りかかって、質問を飛ばしてきた。

「思ったよりオゲイン卿の軍隊は弱いらしいですね」
「弱すぎますわ。これでは軍隊というよりも烏合の衆!」

 そんな事をいまさら言っても仕方がないので、ここは俺たちが踏ん張るしかないというわけである。

「ここはみんなにまかせて、オゲイン卿の方に援軍に向かった方がいいでしょうか」
「可能ならそうするべきですわね! ただ、少人数で動いていると孤立する可能性がありますわッ」

 確かに、俺たちサルワタ側の兵隊は作戦開始時点でもせいぜいが三〇名程度しかいない小集団だった。
 モンサンダミーも戦死したぐらいで、今となってはその数も減らしている事だろう。
 いつの間にか旧領主館の丘から前進してきたようじょが、俺たちの方向に歩み寄って来る。

「散開! 固まると巻き添えを食らうわよ!」

 ようじょの側にいた雁木マリが、頭から血を垂らしたままの豪快な姿でそう叫んだ。
 どうやら、ッヨイさまの特大魔法を敵のど真ん中に打ち込んでやろうというつもりらしい。

「フィシカル・マジカル・どっかぁん!」

 すぐにその攻撃は実行に移された。
 ようじょの叫び声が始まった瞬間に、俺の前で交戦していた傭兵たちが敵の攻撃をいなして散り散りになった。そこに得意としている火の魔法でドカンと一撃かましてやったのだ。
 激しい音と煙を上げて紅蓮は爆散した。
 けれどもあまり効果が無かったのだろうか、その煙の向こう側から悪相をした男たちが飛び出してくる。
 けれどもようじょはめげない。

「フィジカル・マジカル・いっけぇ!」

 その飛び出してきたところを狙う様に第二撃がぶち込まれたのであった。
 さらに雁木マリとハーナディン、それにエルパコまでが加わって、残りの兵士の打ち漏らしを仕留めていくじゃないか。
 そうこうしているうちに、苦労してオゲイン卿がこの奥地まで連れて来ていた騎乗騎兵の小集団が、果敢に敵の集団の中に林から飛び出してくるのが見えた。

「まずいわね。敵が固まっている状況なら小集団でも騎兵突撃の効果はあるけれど」
「やはり戦馴れしていないのが見て取れますわ」

 戦場経験豊かな雁木マリとカラメルネーゼさんが、口々にそんな事を言っている。
 大丈夫か、予定では騎士のみなさんももう少し早く突入していたはずだと思うんだが……

「どれぇ。何人かを連れて、オゲイン卿を救出してきてください!」
「了解しましたッヨイさま」

 それで誰を連れていくのかと思ったところ、当然の様に志願したのがけもみみとベローチュ、それから野牛の兵士タンスロットさんである。
 カラメルネーゼさんは蛸足を振り回して走るのがしんどいのか、手を上げてくれることはなかった。

「ッジャジャマくん。君も男だ。一緒に来るか」
「遠慮しておきますシューターさん」

 ッワクワクゴロさんの末弟も誘ってみたところ、とても嫌そうな顔をしてッヨイさまの側を離れようとしなかった。
 この戦場で確かに一番安全なのは、偉大なる魔法使いのッヨイさまと雁木マリに守られているこの場所かもしれんからね。

「では行ってきます。みんな付いてきてくれ!」

     ◆

 走るというよりも、大股で歩くと言う方が正しいかもしれない。
 ブリガンダイン鎧を着用したところ、思った以上に重量を感じているのがわかった。
 それは一緒に行動をしてくれているけもみみも同じ様で、あまり足早に移動しようとはしていない。
 その点を行くと、俺やエルパコと同じ格好をしているベローチュや、兵士の訓練を受けている鎖帷子のタンスロットさんはまだまだ余裕があるみたいだった。
 本当は駆け抜けて移動したいところだが、それがなかなか出来ない。
 とはいえ、戦場で無暗に走っていてもいい事はない。
 出来るだけ省力モードで行動しながら、ここぞという時に瞬発を見せないといけないというのが、どうやら戦場の掟ではないかと俺は少し思いつつあった。

「シューターさん、あそこ」

 誰が味方で誰が敵なのかもよくわからない戦場の入り乱れようを目視しながら低い姿勢で移動を(これでもコソコソしているつもりだった)していると、エルパコが一点を差してそう叫んだのである。

「どうした、何だあいつは」

 また厄介な強敵が出てきたのかと一瞬だけ思いながら視線を走らせる。
 すると見覚えのある帽子に仮面を被った男が、馬に乗って剣を振り回している姿が見えるではないか。
 そんな馬鹿な。
 あいつは確かカラメルネーゼさんが死の抱擁で背筋の骨をバキリと折ってやった記憶がある。
 まさか死んだ人間がいつの間にか復活して、戦場の別の地点に復活したのかと一瞬だけ混乱しそうになったが、道理で考えてもそんな事は起きるはずがない。
 そうしてみると奴は触滅隊の幹部の正装とでも言うのだろうか、それをした別の誰かであるらしい。
 口の臭い触滅隊の幹部か、もしくは先ほどの女魔法使いクラスの使い手であった場合は、また大苦戦が強いられることになるので、どうしたものかと歩みを寄せながらも相手を観察した。

 してみると、馬に乗ったその男は、遅れて戦場に騎馬突撃をかけてきた騎士小隊の連中を単身で相手にしている。
 駆けながら右に左にと纏わりついてくる騎士たちを剣でけん制しながらも、斬り落とされそうな様子はまるでなかったのである。
 見ているうちに「あっ」とタンスロットさんが悲鳴を上げた。兵士のひとりが仮面男に馬上から蹴り飛ばされて、馬もろとも転倒する姿が見えたのだ。
 うかうかしていられないぞこれは……

「急ぐぞ、エルパコ援護しろ!」
「わかったよ!」

 騎馬戦闘なんてやった事がない俺だけれど、最悪は相手と並走して戦うためには致し方がない。
 俺は駆けながらシュっとけもみみの援護の一射が飛ぶのを視界の端に捉えながら鎧をガチャガチャ言わせつつも向かった。
 ベローチュとタンスロットさんもそれに続く。

 視界の中で、さらにひとりの騎士が体を斬られて落馬した。
 やはりかなり厄介な敵である事は間違いないな。
 ただし、相手が魔法使いでない事はかなり救いがあると言える。あれが相手だと物理の攻撃がまるで通用しないので、接近したら一方的にやられてしまうしな。
 あいつなら、俺の拳なら勝てるかもしれない。

「ご主人さま、馬を!」
「お、応ッ」

 騎士小隊のみなさんを蹴散らせて見せた仮面の男二号は、そのまま勢いに乗ってオゲイン卿の兵士たちが固まった集団の中に、あべこべの単騎突撃をかましているではないか。
 やばいな。こちらの兵士はどちらかというと塊になっていて、触滅隊の方が軍事訓練を受けている(であろう)ために上手い具合に散開しつつもツーマンセルで敵に対処しているという具合だ。
 数は俺たちの方が多いはずというのに、歯がゆいばかりである。

 俺は片膝を立ててみせた男装の麗人のふとももを踏みあげて、強引に主を失った馬にまたがった。
 ブーツでベローチュの足を踏みつけた瞬間に「んくッ」などと場違いな嗚咽を漏らしたのはこの際、聞かなかったことにする。

「すまん」
「いえ、こういうのも好きです」

 褐色の頬を朱色に染めたベローチュは、やはり場違いな態度を返した。
 隣で一瞬だけぼけーっとしていたけもみみだったけれど、すぐにも弓を構えなおしながら仮面の男二号に射線を合わせた。
 ベローチュも転倒してうごめいていた馬を引き起こしながら自ら飛び乗って見せる。

「くるよ、シューターさん」
「わかってる。タンスロットさんはエルパコを守ってくれ!」
「了解です閣下!」

 掬い上げる様に長剣を振るって疾駆する仮面の男二号は、俺たちの存在に気付いたらしい。
 ペストマスクの様な仮面をつけた男が、ニヤリとしてみせた様な気がした。
 仮面をつけているのだから、そんな事はわかるはずもないのだが、不気味な仮面の男が「相手になってやる」とでも言ったような気がしたのだ。
 そして彼に纏わりつこうとした兵士に向けて、まず手からビームを発射した。

「ファイアボールだと?!」

 魔法を使えない相手ならあるいは、などと思っていたけれど、仮面の男二号は魔法も使える剣士でした!

「ご主人さま、ふたりで挟み撃ちにして強引に馬から引きずり下ろしましょう。そうすれば活路はありますよ!」

 本当にそれが可能なのかはわからないけれど、ビシリと鞭を入れて走り出した勇ましい男装の麗人に続いて、俺も負けじと馬を駆った。
 すれ違い様の一撃を互いにぶちかますべく、俺とベローチュは剣を引き上げたのである。

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