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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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155 触滅セヨ! 2

 突然の高威力魔法攻撃を受けた俺は、バリケードを吹き飛ばす強烈な衝撃波を受けながら咄嗟に受け身の姿勢をとった。
 やっててよかったスタントマン。
 長剣を左手に持ったままで肩から倒れる様にして手を付きながら地面を転がり、そのまま衝撃の勢いを使ってゴロンと起き上がった。
 幸いにも頭をぶつける事は無かったけれど、不意にバリケードの木片をまともに喰らっていた雁木マリはもろに張り倒されたような格好になっていた。
 カラメルネーゼさんはというと、器用に刃広の剣の腹を使って飛んできたイスか何かを強引に叩き飛ばし、八本の触手を花びらの様に広げる事で踏ん張っている様だった。
 雁木マリもふらふらとしながらも片膝を突いてどうにか立ち上がろうとしているので、致命傷には至らなかったらしい。あるいはポーションで予防処置でもしていたんだろうか。
 とにかく急いでマリの手を取って立ち上がらせた。

 バリケードの向こう側には、ひとりの女が立っていた。
 その人物こそがバリケードをただの一撃で吹き飛ばして見せた大火球魔法の使い手であるのだ。

「ちっ、まだ生きていたか」

 女であることは間違い無いが、その女は全身をすっぽりと包むローブを纏っていて口元もストールの様なもので隠しているので容姿をうかがい知る事は出来ない。
 女と判断出来たのは、その声と長い髪の毛からだった。
 この世界の男はだいたい長髪といっても背中にかかるほど伸ばしている人間は少ないからな。
 だが今はそんな情報を手に入れたところで、何か意味があるわけじゃない。

「次の攻撃が来ますわよ!」
「!!」

 カラメルネーゼさんの警告があった直後、そのローブの女魔法使いが手に何かの紙片を突き出した。
 あれは魔法の発動体だろうか。ッヨイさまでいうところの魔導書(グリモワール)に当たるものかもしれない。
 咄嗟に構えを取りながらそれを一瞬だけ目撃する。その紙片はボッと炎が付いたかと思うと丸い枠の中にある何かの記号が光って異様な圧迫感を放出しはじめた。
 あそこから魔法が発射されるのか。

「させないわ! 喰らえッ」

 雁木マリはそれに対抗する様に手をかざしたかと思うと、ニシカさんの豊かなドッヂボールなみの水球を出現させて打ち出した。
 あの魔法発動体の護符か何かの攻撃を妨害するつもりらしい。
 俺もそれを見ているだけで終わらせるわけにはいかない。
 明らかに始末に負えない相手をしているという危機感は俺たちの中に確かにあって、マリの行動に連携して俺とカラメルネーゼさんがほとんど同時にサイドからバリケードのあった扉の向こう側に向かって駆け上がろうとしていた。

「フィジカル・マジカ――まじかよ!」

 ドッヂボールは炎上する護符に吸い込まれてはじけ飛ぶ。
 威力はそれほどでもなかったはずだが見事に護符の魔法発動のための準備行動を台無しにして、少なくとも護符をお湿りさせてくれた。
 発狂した魔法使いは大威力の魔法発動を捨てたらしく、護符を放り出して反対の手で指先を雁木マリに向ける姿が見えた。
 発射される小さな火球が、雁木マリを襲った。
 それとほぼ同時に俺は剣を引き上げながら、女魔法使いのやわらかな胸に斬撃を与えようと急襲する。
 一拍の間を巧く調整しながら、反対側から剣を水平に走らせる重たそうな一閃の構えをカラメルネーゼさんがとった。

 雁木マリがここで上手く回避してくれる事が出来れば、間違いなくこの女魔法使いを始末できる!
 例えようじょ級の魔法が使えようと、隙のデカいこいつを始末する事は余裕だと思ったその瞬間。

「側面に敵だ!」

 これは罠だ。
 俺は短くカラメルネーゼさんに警告を発する!
 旧領主館の内側、扉のすぐ両脇の入り口からは見えない場所には、伏兵が存在していたのだ。
 俺が女魔法使いの側面に回り込んだ瞬間、女魔法使いの向こう側にニヤリとしてみせる悪相の悪党が剣を構えているのが見えた。
 たぶん反対側にも別のヤツが潜んでいる気がする。それは果たして事実で、咄嗟に振り返ろうとしたところに槍が突き出されるのを見やった。
 もちろん、その槍をとっさの判断で捌き避ける事は出来なかった。
 強引に体をひねりながら避けようとしたところ、その突き出された槍が黒焦げのブリガンダイン鎧の脇を滑る様にえぐった。
 防具があるという事は安心だ。完全に避けなければ傷を負ってしまう今までと違って、鎧を防御の一部として利用できるありがたさがあるのだ。
 全裸じゃなければ怖くないもん!
 かわりに振り込んだ俺の剣が相手の肩口に深々と叩きつけられたけれど、これで俺は一瞬の行動を完全に封じられてしまったのだ。
 全裸ならば体はもっと自由に稼働できたかもしれない。関節の自由を一部規制されているのも事実なのだ。

 背後でも「ギャン」というカラメルネーゼさんの発する不思議な悲鳴めいたものが聞こえたけれど、俺はこれをこの眼で確認する事は出来なかった。

 何故なら、次の瞬間にまた俺たちは吹き飛ばされたからである。

「邪魔よ!」

 ただの怒声ひとつで俺たちは衝撃とともに宙を舞った。俺の斬った敵兵と一緒にそのまま文字通り館内の壁まで叩きつけられたのである。
 こうなってしまっては受け身もへったくれも無い。
 俺は胃の中のものをぶちまけそうになる様な圧迫とともに叩きつけられ、ごろんと転がる。
 たぶんあばらが折れたんじゃないだろうか。
 まありにも痛くて体を動かすのがおっくうになりそうだった。
 すでに事切れているらしい先ほど俺が斬った相手が上にかぶさって、立ち上がろうとする俺の行動を阻害する。
 マリは、カラメルネーゼさんはどうなったんだ!

 薄ぼやけがちな視界の中に、俺とカラメルネーゼさんを交互に一瞥くれる女魔法使いの姿が見えた。
 カラメルネーゼさんも、どうやらぐったりと蛸足の一本をぬるりと動かして見せただけで、体そのものを動かす気力がないらしい。
 ここからは確認できない雁木マリの姿が気になる。上手く回避できていたのなら俺たちに女魔法使いが攻撃したタイミングを突いて突貫の一撃を喰らわせていてもおかしくないはずだ。
 つまり、マリも倒されたのだ。

 こぶしを握りつけながら、何とか体を起こそうとするのに動かない。
 どこがやられた、もしかして出血がひどいのか。
 必死の形相で女魔法使いを睨め付けていると、そのぼやけた視界の中に帽子をかぶった仮面の男が駆け寄って来る姿が見えた。

「証拠物はすべて破棄したぞ。撤退だ」

 仮面の男と女魔法使いの周囲を走り抜けて、触滅隊の悪党どもが数名外に飛び出していくのが見えた。
 やがて表の側でサルワタの傭兵たちと斬り結ぶ怒号と金属音が響く。

「ええ、ここを一点突破で斬り抜ける破孔だけは作っておいたわ。あとはあなたしだいだけれども、余力はあって?」
「俺を誰だと思っているんだ。ん?」
「ふふっ。わたしはどちらでも構わないけれど……」

 そんなやり取りがあって、ふたりは外に出ていこうと扉の向こう側に歩き出す。
 待てよ、行かせてたまるか。
 俺は立ち上がる。
 ほとんど最後の力を振り絞ってという気分で体に覆いかぶさった死体を押しのけ、そして壁に足を押し付けて我武者羅にタックルをしかけてやる。
 ほとんどこれは賭けも同然だ。
 俺ひとりでこんな化け物じみた女魔法使いを倒す事は出来ない。
 魔法がやたらめった強力だというだけでなく、体の反応速度が尋常ではないのだ。
 ッヨイさまは小さなようじょの体躯で強力な魔法を発揮する天才ようじょ軍師だったが、あれは強力な魔法を発動するとその反動でリロード時間がかなりある様子だった。
 それに比べればこの女は変な護符みたいなものを燃やしながら大威力魔法を連発しようとした。ほとんどリロードタイムなしにそんな事が出来る上に、適度な威力の魔法で俺たちをあっさり一撃無力化だ。
 最悪だ。
 俺ひとりで出来なくても、カラメルネーゼさんが呼応して飛びついてくれれば、あるいはこの化け物なり仮面の男なりを一撃くれてやる事が出来るかもしれない。
 雁木マリが復活していれば、さらにチャンスは拡大する。
 しかし失敗すれば……

 外にはベローチュに守られたッヨイさまや、俺の大切な妻であるカサンドラが、ほとんど無防備な姿で存在しているのだ。
 無防備だ。
 あんな強烈な魔法を前にすればカサンドラなんてひとたまりもないだろうし、ようじょをもってしても張り合うのは限界のはずだ。

 そんな思考を僅かのうちに巡らせながら、俺は駆け出した。
 狙うは女魔法使いの膝裏に向けてタックルである。
 プロレスの技で言えばスピアとでもいうのだろうか。すでに武器を取りこぼしている俺にしてみればこれが唯一の攻撃手段だった。
 仮に仮面の男が呼応して俺を斬り伏せたとしても、いち度勢いの付いた俺を止める事はもう誰にもできない。
 ぶっ倒れろ、クソ女魔法使い!

「?!」

 駆け出した俺の事を視界に納めたのだろう。
 女魔法使いは咄嗟の事で驚いた顔をしてこちらの方を向いた。
 馬鹿め、見えるぞ。
 後ろから触手をぐんとぬめらせたカラメルネーゼさんが、扇のようにそれを広げたのだ。

 俺のタックルが女魔法使いの膝へと強烈に刺し込まれる。
 同時に、サーベルの様な細くそして反り返った刀剣を振り上げようとした仮面の男の腕に脚にと絡みつく有様を目撃する。
 激しい衝撃とともに女を掬い上げる様な格好で俺のスピアが貫いた。
 女はたまらず転倒し、カラメルネーゼさんに死の抱擁をされた仮面の男はギシギシと鎧ごと抱き留められながら喚き散らしていた。

「ぐおおお、ぎさま。何だこの化け物女は……!」
「失礼、ですわね。未婚の熟れたレディに対してそんな口の利き方をしている様では、その魂が異世界に旅立たれた後も永遠に童貞の呪いが女神様によってかけられますわ……よ!」

 俺が捨て身のタックルからようやく体を起こそうとしたその時。 
 死の抱擁によるものだろう、バキっという不気味な音が聞こえた。
 そして振り返ると。
 血まみれになった雁木マリが、片眼をつむりながらも鬼の形相で女魔法使いを見下ろしながら剣を突き立てたのである。

「ちょ、待って……」
「ずいぶん手こずらせるわね」
「ごぎゃ!」

     ◆

 満身創痍というのはこの事だろう。
 旧領主館を急襲した俺たちサルワタの戦士たちは、多数の犠牲を払いながらこの場所を制圧完了した。
 鬼神のごとき形相で女魔法使いに剣を突き立てた雁木マリであったけれど、殺す気はさらさらなかったらしい。
 何故ならその剣は腸の収まった下腹部に深々と刺し込まれたからである。
 こうしておけばあまりの苦しみから、魔法使いは魔法を発動できないらしい。
 腹に力が入らなければ、魔法の詠唱にも問題が起きるというわけだ。
 その後この女はさるぐつわを口にぶち込まれて拘束された上で、止血の応急処置を施された。

 化け物じみたこの女に一瞬の隙をついて無力化出来た事は幸甚中の幸甚であるのだけれども。
 問題はこの拠点ひとつだけで戦場のカタがついたわけではない。

「どれぇ、オゲインおじさんのぐんだんが後方遮断に成功したのです!」
「おお、やった……」

 これでひとまず敵を大混乱に陥れる事が出来るはずだ。

「けれども、野牛のぐんだんが旧領主館の襲撃に気付いた集落からの増援の一部と交戦を開始しました!」

 それは非常にまずい。
 よれよれの体でようやく回収したばかりの自分の剣を杖代わりに立っていた俺は、マリアツンデレジアの肩を借りながら眼下に広がる交戦風景を見やった。

「ニシカさんとエルパコを向かわせましたか?」
「はい、すでにニシカさんとエルパコねえさまは移動済みなのです」
「それとハーナディンが傭兵隊を引き連れて援軍に向かっているから、ひとまず安心よ」

 ん? 傭兵隊を率いているはずのモンサンダミーはどうした。
 俺がその事を疑問に思って質問をしてみると、

「シューターさん、モンサンダミー隊長は戦死されました」
「…………」

 傷だらけの悪相の傭兵は、すでに異世界へと魂の旅立ちに出た後だったのだ。
 戦いはまだ続く。
 ポーションで回復をした後に、集落の敵と交戦しなければならない。
+注意+
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