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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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154 触滅セヨ! 1

 いくつかの小休止を取り、馬車が乗り入れられる田舎道の終末までを強行軍で走破した俺たちは、いったんそこで除虫菊を煮詰めた汁を肌に塗りたくってから、馬を引き松明を消して深夜行を開始する。
 やがて太陽が山々から姿を現すとともに、俺たちは布陣を完了した。

 そこは起伏に富んだ山野の中にある、小さな谷間の土地だった。
 川に沿って川下からタマラン、アマナン、アマノンというみっつの集落の跡地が存在し、その先にせり出した小高い丘に、谷間にあるわずかばかりの平地を見下ろせる館が見えるという地理である。

「見ると聞くとは大違いなのです。こうしてみると館を攻撃するのはかなり至難なのですどれぇ」

 朝陽を強く浴びながら領内全体を見渡せる木々に覆われた森の中で、ようじょはそんなつぶやきを漏らした。
 地図の情報はずいぶんと古いものだった。
 当時のこの村がどの様な姿であったのかを想像してみると、きっとここに至るまでに見てきたリンドル領内の村々と同じ様に、伐採によって間引きされたまばらな木々があるばかりの、土地だったに違いない。
 わずかばかりの平地には冬麦畑か芋の水耕畑があったのだろうか。
 それらも今は人手を介する事なく荒れ放題になっていて、見た眼はただの草原だ。
 何よりもかつては痩せた山野だった場所もうっそうと樹林が広がっていて、ここを走破して攻め寄せるのは大変だろう。

「大丈夫だよ。そのぶん、相手にも気づかれない、から」

 俺たちを安心させる様にエルパコは振り返って言葉を口にした。
 そして背後を俺が振り返ると、覚悟を決めてすでに抜剣ずみの野郎たちがうなずいてみせるのだ。
 セレスタで雇い入れた傭兵のみなさんである。
 ようじょが手を上げて軽く振って見せると、その先に見えるベローチュさんも同じ様に手を振る。
 最後に横列の最端に集団に付いていたカラメルネーゼさんも同じ行動をしたかと思うと、ひゅんと風を切り裂く音が渓谷を貫いた。

 ニシカさんだ。
 サルワタ隊のみなさんが戦闘準備完了をした事を知って、戦いの火ぶたを切られたのである。
 ニシカさんが放った矢は、彼女の剛力と風の魔法によいって勢いを加速させながら目標に向かって行ったのだ。

     ◆

 触滅隊に加わっていた汚らしい蛮族風体の男は、大きなあくびをしていた。
 きっと昨夜遅くまで酒でも食らっていたのか、それともニシカさんの報告にあった様に街からかどわかしてきた娼婦の相手でもしていたのだろう。
 不揃いな歯を大口開いて見せびらかしながら小便をしようと崖の上に立ったかと思うと、ズボンをずらして息子を開放した。
 ジョビジョバを開始したところで、そこに鱗裂きのニシカさんの放った強弓に襲われることになったのだ。
 汚い男は小便をまき散らしながら「ぎゃあ」とひと声鳴いて見せると、そのまま崖から下に一直線へと滑落していった。
 残念でした、小便の続きはまた来世!

「突撃ですの!」

 マリアツンデレジアが細剣を天に付き上げて、声高に叫んだ。
 その号令直下、ニシカさんに加えてエルパコとベローチュ、そしてカサンドラが弓射を開始する。
 ニシカさんやけもみみは当然として、妖精剣士隊出身の男装の麗人は弓も得意らしい。ひとまず格好だけは付くカサンドラまでも短弓を手に取って、ここから姿の見える触滅隊の人間めがけて弓を射かけるという具合だ。
 その間に俺たち抜剣した徒歩の戦士たちが、奇声をまき散らしながら林から飛び出し小高い丘を目指した。
 走る、もうそれは全力疾走という感じで走る。

 現状で旧領主の触滅隊の連中がどういう反応をしたのかわからないけれども、見ている限り俺たちの奇声を耳にして次々と汚い顔をしたおっさんどもが飛び出してくるのがわかる。
 そして俺たちの直上を時おり矢が飛んでいき、その度に出てきた悪党が射抜かれた。

 領主館に続く急こう配の道を走っている時、向こうからも応射らしきものがあって矢がトストスと突き立てられた。

「姿勢を引くしろ! 固まって行動するな!」

 鎖帷子で防御を固めた全力疾走の野郎どもに叫びをあげながら、俺自身も剣を引き上げながら腰を落として周囲を見回す。
 まだ戦いは始まったばかりなので脱落した人間はいない。
 とたん、領主館の壁面で大きな爆発があった。
 どうやらッヨイさまが特大の攻撃魔法でもぶち込んだらしくて、ガラガラと領主館の壁を構成するレンガが破壊されて急こう配を転がり落ちていくのが見える。

 俺たちはさらに駆けた。
 作戦は成功だ。
 領主館の攻撃を担当する俺たちの役割は、言わば戦いがはじまった事を全軍に知らしめることが目的だった。
 派手であればあるほど、領主館とみっつの集落に散らばった触滅隊の連中の注目を集める事が出来る。
 そうして注目が領主館に集まれば、集落の敵さんが異変に気が付いて、領主館の味方を助けるために援軍に向かってくる。

 今回の作戦はその背後を、集落周辺に伏せていたオゲイン卿率いる一〇〇の軍勢が突くという作戦になっていたのである。

 もうひとつ大きくドカンと爆発音が響いた。
 ふたたびレンガをまき散らしながら領主館の壁面を崩したらしく、悲鳴と怒号が周囲に響き渡った。
 気が付けば弓による援護射撃も止まっている。
 恐らく俺たちが領主館の入り口広場あたりに取りついたのを確認して、エルパコやベローチュたちも前進を開始したのだろう。
 ニシカさんはたぶん、まだ俺たちからは場所の確認できない山の中に潜伏していて、狙撃兵よろしくスナイピングに専念しているはずである。

「おらあ一番乗りだぜ!」

 鎖帷子に太陽光を反射させながら、ぶっとい剣を振り回すモンサンダミーの姿がチラリと目撃できた。
 荒ぶるサルワタ傭兵の隊長は、ほとんど三国志に出て来る武将の様に剣を右に左にと振り回しながら、領主館から飛び出して来た敵さんに斬りかかっていった。
 俺も負けられない。
 すぐにもその後に続いて剣を低く構えながら駆け出すと、飛び出してきた触滅隊の連中と交戦する事になった。

 こうなってしまえば誰が敵で、誰が味方なのかひっちゃかめっちゃかである。
 敵も悪党の集団と侮る事が出来ないのは、こういう時にブルカだろうか軍事訓練を受けた人間らしく小集団で固まって俺たち攻め手に対処してくるのだ。

「貴様たち、何者だ!」
「つわものに決まってるだろう!」

 そんな馬鹿みたいな発言を堂々と言ってのけるモンサンダミーは、元は国軍の兵士で経験者が故の余裕だったのだろう。
 ふたりを相手にしても右に左にと剣を振り回してけん制しながら、片方を蹴り飛ばして壁に叩きつけている間に反対の相手の腕を斬り飛ばしていた。
 モンサンダミーさんかっこいい!

「シューター卿、中へ入られますわね!」
「援護してくれ!」
「お任せくださいなッ」

 俺と共に先頭集団に参加していたカラメルネーゼさんが飛び出して来て、領主館の歪んだ扉をいっせいのうで蹴り飛ばした。
 ドガン、ギイイイイ。
 完全に開かない。敵はバリケードを築き上げて俺たちの侵入を防ぎたかったらしく、ドアの内側にはテーブルやらイスやらが散乱していた。
 そのイスや机の狭間から槍を刺し込んでくる敵の一撃に驚いた俺は、あわてて剣を引き上げて弾き飛ばす。
 カラメルネーゼさんは器用なもので、触手をひとつ使い槍を絡めとったかと思うと、あべこべに兵士をこちらに引きずり込んで見せた。
 ブスリと横から飛び出して来た雁木マリが、躊躇無く首根を斬った。
 だがそれにもめげずに他の敵さんは槍を刺し込んでけん制の攻撃を緩めない。
 一瞬後退した蛸足美人は、

「このバリケードをどうなさいますの?!」
「外からの侵入を図ってエルパコ夫人が取りついたわ!」

 雁木マリがカラメルネーゼに叫びながら返事をする。
 バリケードに構っていたら敵に混乱から回復させる余裕を与えてしまうので、だったらという事でマリは短くこう付け加える。

「燃やすわよ! 下がって」

 言うが早いかテニスボールほどの火弾を出現させた雁木マリは、俺たちに備える様に指示を出しながらそのファイアボールを出来そこないのバリケードにぶつけてやる。
 ドゴンと激しく木片をまき散らしながら燃え盛った。
 ここを突破するよりも蓋をしてしまって、逃げ口をふさいだ方がいい。

「見張りを付けて他手を回るぞ。ッヨイさまや、下の連中はどうなってるんだ!」
「ッヨイにベローチュを付けているわ。安心して! 下はまだ背後を突いてないわ」
「わかった、こっちからもこの火に燃料をくべてやって盛大に燃やしてやれ」

 確認の会話をしながら雁木マリとカラメルネーゼさんにそう話しかけた瞬間。
 俺がバリケードに背中を見せていたわずかの間に、強烈な殺気を背後に感じた。
 何だ?!

「フィジカル・マジカル・エクストリーム!」

 触滅隊の中にどうやら魔法使いの人間がいたらしい。
 紅蓮の大火球によって吹き飛ばされる俺は、受け身の姿勢をどうしようか考えつつ、対魔法使い対策をまるでしていなかった俺自身を呪った。
 ッヨイさま以外の魔法使いとか、想定外だよ!
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