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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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144 そしてその毒は踊りだす 前編

更新お待たせいたしました!
 控えの間を通り抜けて夜会の行われている大広間に飛び出してみると、人々は騒然としていて凍り付いた顔をしていた。
 真っ先にすぐ側に身を寄せてきたニシカさんは、いつもの山刀を抜き放っていた。

「何があったんですか」
「けもみみが剣を抜いたんだ」

 それは尋常ではない言葉である。
 俺もニシカさんとの短い会話の中で気が付かないうちに左手が長剣の鞘を握りしめていた。
 そしてふたり揃ってカサンドラの側、輪になって集まっている人々の中に飛び込んだ時、俺は赤い血の絨毯の中で倒れている男と、深紅に染まった長剣を握りしめるけもみみを目撃したのである。

「シューターさん」
「え、エルパコお前……」
「この男が義姉さんを刺そうとしたんだよ。ぼくがんばった……」

 曇りなき瞳を俺に向けたけもみみが力なくそう言葉を口にすると、けもみみを萎れさせたままけもみみが倒れたのである。
 それだけではない。
 けもみみの向こう側では、壇上のリンドル子爵シェーンの手がかざされていて、そこから白煙がくゆっていたのだ。
 当然、俺たちサルワタの外交団、そしてリンドルの武官たちは抜剣して互いに白刃を突きつけ合っているという異常事態だ。
 だが、そんな事よりも倒れたエルパコが最優先だ。

「おい、エルパコ、しっかりしろ?!」

     ◆

 俺の名は吉田修太、三二歳、殺人事件を起こしたハイエナ獣人の夫である。

 エルパコは夜会の最中、俺の妻カサンドラに従って、リンドルのダアヌ夫人派に属するオゲイン卿との談笑に加わっていた。
 ちょうど楽団の奏でる舞踏の曲に乗ってオゲイン卿とカサンドラがダンスを楽しんだ。
 はじめて舞踏をするカサンドラをリードしたオゲイン卿によって、それは恥をかかずに済む程度に盛り上がった後に無事終了。
 そのままダアヌ派の集まる人々のところに接触のキッカケを掴むために向かったカサンドラのところに、エルパコは付き添った。

 俺はというと、ちょうど周囲から自分の奥さんたちが姿を消してぼっちだったのであるが、そのタイミングにこちらはこちらでマリアツンデレジア夫人からの接触を受けていた。

 聞けば事件はこの様に起きたらしい。
 舞踏を終えたカサンドラは、オゲインおじさんに手を取られながら、ダアヌ派の集まる人々のところへと誘われた。
 ドレスを着たご夫人がたは、城内に出仕する数少ないダアヌ派の女官や官憲の妻たちだった。
 カサンドラをひと通り紹介してもらった後。
 談笑の際オゲイン卿に、地元で採れるという度数の高い極めて高価な蒸留ぶどう酒をカサンドラは勧められたらしい。

「大使閣下は蒸留された酒というのをご存じですかな」
「それは焼酎の様な?」
「さよう。これはブランデーと言ってぶどう酒を蒸留した焼酎だと思って頂ければよろしい。不純なものを取り除き、手を加え味を調えたものがこうなるのです」

 オゲイン卿は地元リンドルで作られているというブランデーの瓶を手ずから酒杯に注いでみせると、ひとつを自分に、もうひとつをカサンドラに渡したのだった。
 傍らには使用人の男が控えていた。

「度数は非常に高いので、呑む量はお好みにあわせてといったところですかな。わしはこの酒に眼が無くて、妻がたまに許してくれる時は、晩酌にこれを嗜むのです」

 そんな講釈を口にしたオゲインおじさんは酒杯をひと息に煽ったそうだ。
 このファンタジー世界のブランデーがどの程度の度数なのか俺は知らないが、まあかなりキツい酒なのは間違いないだろう。
 カサンドラはその事を口に含む前の匂いで察したのか、少しためらった後にオゲインおじさんに続いて口に運んだらしい。
 こちらは舐める様に舌に含むといった感じだったとか。
 キツく鼻に抜ける感覚があったと、カサンドラが俺に回想してくれた。

「どうですかの。こうして不純なものを取り除いたものは、味もしっかりとしていて匂いも澄んだ強さがある」
「ええ、大変おいしいお酒です」
「領地経営もまた同じことが言える。内政を整え領民を集め、産業を興してこれをしっかりと育てる。その過程において外的な要因は極力と蒸留していかなければなりません。わしはいくつかの村と集落の代官をしているのですが、近頃はこの領内に多くの人間たちが出稼ぎにやって来たり、職能を学ぼうと弟子入りするものがおるのです」
「…………」
「あるいはリンドルの富を求めて他領からも商人たちがやって来る」

 オゲイン卿の視線は、カラメルネーゼの方向に顔けていた。
 彼は領地経営に携わるダアヌ夫人派の重要な人間であるだろうから、自らの手勢を使って俺たちの素性についてはしっかりと調査をしていたのかもしれないね。
 だからサルワタの騎士然と過ごしているカラメルネーゼさんの正体が、市壁の検問を通過する時は商人としてやって来た事を知っていたんだろう。

「蒸留酒の味の決め手は、どれだけじっくりと熟成させたかだ。出来栄えはどうかと、途中で焦ってしまってはこれはいけない。酒はじっくりと寝かせてはじめて美味くなるのですぞ」
「ええ。そうですね」

 暗にそれは、俺たちサルワタの人間に対する警告であったらしい。
 何しろ鉱物資源とその加工品というのは宝の山だ。
 リンドルはたまたま痩せた山間の土地に鉱脈が発見されたから今日の発展を手に入れた。
 おそらく前子爵がリンドルへ入封した時には、とんでもない痩せた領地だったに違いなく、ブルカ辺境伯もリンドルが宝の山には見えなかったんだろう。
 だが今は違う。

「近頃は他領の人間たちが、酒樽の中身を味見をさせろとこうるさい現状では、わしらも樽をしっかりと守らなければならない。その上、触滅隊などという物騒な連中も往還で跋扈しておりますでな」
「はい、わたしたちも道中で襲われたので。その事は理解しております」
「果たしてそれはどうかな?」

 オゲイン卿は太り肉を揺さぶりながらもカサンドラを見据えてそう言ったそうだ。微笑のまま言葉をつづけて、

「自作自演という事もある。わしらリンドルの人間は交易と鉱物によって領地を富ませてきた。まだそれは志半ばで、酒に例えるなら熟した状態になったとはまだ言えない。外敵をはねのけるにはまだまだ力が足りませんでな」

 困惑したカサンドラは「自作自演」という言葉を聞いて驚いた。

「触滅隊という連中は、わしらの交易品を阻害している。リンドル往還でこれが頻繁になるという事は、わが領の経営に直結する被害だ。商人どもの間での評判も、当然悪くなる」
「そ、それはそうですが。わたしたちが触滅隊をけしかけているなんて、ありえません」
「ブルカのやり口は非常に露骨でしてな、城下に商館を作りわしらの酒を味見させろと言ってくる。オッペンハーゲンもまた商館を開設した。そして御台さまはその辺りの守りが弱い。そして今度はサルワタだ。触滅隊の跋扈著しいこの時に大使閣下、あなたたちの目的はどこにあるのですかな。ん?」

 気が付けば俺が姿を消している事を指さして、オゲイン卿がそう言ったらしい。
 その頃ちょうど、マリアツンデレジア夫人に誘われて奥の控室に消えていったタイミングだろう。

「今でこそ御台さまであるが、あの女はほんの近頃までは別邸に引きこもってリンドルにある酒樽を片っ端から味見し放題だった女でしてな。あの女に近付くという事は、わしらが大切に熟成させている酒樽を次々に台無しにしてくれるのかと、わしらも気が気ではないのですよ。時期があまりにもドンピシャリだ。誰もかれも疑わしく見える」
「わ、わたしたちはこのブランデーの味見をしにこの街へやってきたわけではありません」

 もちろんカサンドラは自分たちがそのつもりのない事を弁明した。
 何しろ俺たちはブルカ辺境伯の圧迫から自主独立を維持するために、暗中模索をしているのだ。
 もしもオゲイン卿の言葉、立場を考えるのならば、サルワタもリンドルも似た様な位置づけにあるのだから。
 だから、カサンドラはその事を訴えようとした。

「では何を目的にリンドルへとやって来たのですかな?」
「交易です!」
「交易? 交易。交易という事はやはり酒樽をくれと言っているのと何も違いはありますまい」
「そ、そうではありません。わたしたちサルワタの人間は、今ブルカ辺境伯の圧迫に晒されている立場なので……」

 本来の目的は、これまで大きく依存していたブルカとの交易を脱却しようというものだ。
 ここに来て思わぬ形でゴルゴライを奪取したり、女村長の人脈からセレスタ領と交友が深まったりしたものの、最終的に俺たちは対ブルカの包囲網を形成するカタチで周辺諸侯に圧迫をかける辺境伯へ対抗しようというものだ。
 その事をカサンドラが言葉を選びながら語ったそうだ。
 目的はあくまでもブルカに代わる輸入品の購入先はどこかと探している事と、可能であれば余剰に輸出が可能な農産物を送り出したいという事。
 カサンドラも必死になってその事を訴えたのだが、残念ながらそれは叶わなかったのだ。

「大使閣下。なるほど閣下のお言葉はよくわかりました。しかしわしは言ったはずだ。わしらの酒樽は、わしら自身で守るつもりですと。このブランデーを作る材料をよそから手に入れるつもりはありませんとね」

 酒樽の様な腹を抱えて微笑のままオゲインおじさんはそう締めくくったらしい。
 お説はごもっともであるが、だからといって交易をするつもりはない。
 いや、交易そのものは鉱物と加工品を売る事で利益を上げているリンドルの事だからするのだけれど、今リンドルで不足をしている農作物をブルカであったり、あるいはブルカを避ける目的で俺たちサルワタであったり、そういう場所から求めるつもりはないのだと。

「もちろんこれはわしと、わしの妹たちの考えている事で御台さまは違うお考えでしょうけどなあ」
「その点にわたしたちは期待したいところです。けれども、やはりオゲインさまやダアヌさまにご理解いただけない中での交渉は心苦しい限りです……」
「わしらにも、わしらの立場がありますのでな。ご理解いただきたい」
「ええ、わかっています。けれどそれが時代に逆行していても、でしょうか……」
「そういう風に見る向きもあるだろう。しかし、わしはそう思ってない。わしらの背後にはドワーフの岩窟都市がありますからなぁ。そことしっかりとした関係があれば、ブルカなど恐れるものではない。自力で押し返して見せますぞ」

 きっとカサンドラは、とても嫌そうな顔をするのをぐっと我慢をしながら言葉を聞いていたんだろう。
 俺もその話を聞いて、オゲインおじさんの認識はことごとく甘いものだと思った。
 まだこのリンドルの中ではそれほどブルカの暗躍を感じる事が無かったのだろうか。
 それとも、交易で繁栄するリンドルの街と言えども所詮は辺境の片田舎気質なのかもしれない。

「まあ、何はなくともわしの口から妹に今日の話はしておきましょう。大使閣下らの目的がどこにあったのかという事は」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

 そうして改めてブランデーの瓶をオゲインおじさんが手に取った時、事件は起きた。

     ◆

 その男は何者でも無かった。

 リンドル武官の様な正装でもなければ、俺たちが城下で揃えたお揃いのサーコートでもない。
 しかしたぶん俺たちがしている様な正装に似せているつもりだったんだろう。
 今夜は舞踏会なので、多くの人間がリンドル城の大広間に出入りしていたし、男はきっとサルワタ外交使節団の一員のふりをしてこの会場に潜り込んだのだろう。

 そうしてしれっとした顔をして夜会の中を行き来しながら、リンドルの人間にはサルワタ外交団のふりをして、サルワタ外交団にはリンドルの人間のふりをして。
 その上で、襲うのに最適な人間を探して見つけ出したのが、たぶんカサンドラだったのだろう。

 ドレス姿をしていたし、側には華奢で小さな騎士見習いの様なけもみみが控えているだけの存在だ。
 同じドレスでも雁木マリの腕を見れば軍人のそれだし、側にはハーナディンもいる。
 ようじょは側にベローチュが控えていてこれも護衛がしっかりとしている様に見えるだろう。
 軍人然とした野牛のタンスロットさんはリンドル武官の輪にいたし、この時はニシカさんも俺を追って控えの間の近くに備えていた。

 そうしてこの男はニコニコを絶やさない様にしてカサンドラの近くにやって来たのである。
 当然、最初はダアヌ派の人々もけもみみも、互いが互いの関係者だと思って気にも留めなかった。
 しかしその実態は、後々調べたところによると、どこに所属する者でも無かったのである。
 俺たちの外交団の人間では間違いなくないし、少なくともリンドルの両派閥もこれを否定した。現状では本当にそうなのかどうかはわからないが、疑い出せば切りがないのでそういう事なのだろうと納得したのだが……

 この男がニコニコ顔のまま、ブランデーを盆にのせた使用人の側に立って、自分も呑もうという仕草からさりげなく懐剣を抜き、一気にカサンドラへの距離を詰めようとしたらしい。

 この時、挙動がおかしい事を目にしたけもみみは、割って入るよりも早く剣を抜いてこの男の行動を妨害した。

「きみ、どういうつもり?」
「…………!」

 ほとんど懐剣を抜くのと同時にけもみみが誰何を唱えながら白刃をきらめかせた。
 何故なら即座にその誰何の瞬間も、カサンドラ目がけて懐剣を突き立てようとしたからである。

 これは俺たちサルワタの人間を狙った暗殺だ。
 男の懐剣はまさに刺す事だけに特化したものらしく、斬りつけるには不適だ。
 それを目ざとく確認したエルパコは、果敢に距離を詰めながらこの懐剣を跳ね上げてみせたらしい。
 当然、誰何に応えないような人間であるから、男はなおも抵抗しようと襲いかかろうとした。
 そこをエルパコが一刀のもとにバッサリと切り捨てたわけである。

 問題はこの瞬間に白刃を振り回したけもみみだけが、そのタイミングでカサンドラが悲鳴を上げてしまった事で注目を集めてしまった点だ。
 目の前で自分が襲われ、しかもそれを阻止するために男が斬られたのだから、カサンドラは責められない。

 そしてエルパコが男を斬り伏せた事とカサンドラの悲鳴で注目が集まったその場所に、リンドル子爵シェーンが、魔法の一撃を撃ち込んだのである。

     ◆

 彼の二つ名は早撃ちシェーン。
 弓か魔法の名手だと予想はしていたが、やはりその名の通りの事だった。
 シェーンは素早い初動で溜めのモーションを作らずに魔法を速射するのが得意な少年だった。
 ようじょとベローチュの挨拶を受けていたシェーンは、悲鳴が会場を響き渡った瞬間にその先に視線を向け、剣を振り回している人間に向けて一撃を放ったというわけである。

「使ったのは風の弾丸だ。命にまでは別状はないはずだけど、後頭部を狙ったからね」

 飛び出して来た俺とニシカさんは、その言葉をシェーン自身の口から飛び出したのを聞いた。
 倒れ込んだけもみみを抱き上げる俺は、シェーン子爵を見やった。すぐ側のベローチュはようじょを庇いながら剣を抜いてシェーンに突き付けていた。
 俺にも気が付けば近くにいた武官が剣を向けているし、ニシカさんもオゲインおじさんに山刀を突き付けている。

「あーあ。つまんない夜会だと思ったら面白い事が起きたね。サルワタのみなさんは、僕たちをこの場で皆殺しにでもするつもりだったのかい?」

 感情のあまり見えない表情でそんな言葉を口にした。
 子爵シェーンの人物像について、俺たちは情報収集はまだできていなかった。
 少年がどんな人間なのか知らない。
 俺は思いのほかシェーンの攻撃的な会話の切り口に、いつでもこの場を斬り抜ける覚悟だけはしながら、けもみみを抱き寄せ、カサンドラを視線の端に捉えた。
 カサンドラもまた状況が理解できずに、当然ながら警戒心をあらわにしている。

 すると、意外な人物が俺たちに助け舟を出してくれるではないか。

「ご、誤解だ。これはすべて誤解であるぞ。わしが見ていた限り、襲われたのは大使閣下である!」
「へえ叔父御(おじご)、これはどういう事ですか?」

 あまり感情の抑揚の無い具合でシェーンがそう言いながら前に進む。
 手はまだ俺たちの方向に掲げたままで、いつでも風の弾丸とやらを打ち出せる様に警戒は解いてていないらしい。

「この場に倒れている血に染まった男が、大使閣下を襲おうとしたのだシェーンよ。そしてこの騎士どのが、」
「俺の妻のひとりエルパコです」
「そ、そう。エルパコ夫人がそれを防いで切り伏せたのだ。わしが襲われたわけでもなければ、リンドル家中の人間が襲われたわけでもない。これは誤解であるぞシェーン」
「……大使閣下のご夫人?」

 視線は俺とけもみみ、オゲイン卿とシェーン子爵へと、みんなが交互に視線を向かわせている。
 この時はじめて、シェーン少年の顔に感情めいたものが浮かんだのを俺は確認した。
 というか、たぶん俺はこの早撃ちシェーンに明らかな殺意を向けていた事だろう。

「……とすると、僕が魔法を放ったのは誤解だったのか?」
「そうだ誤解だ!」
「なんだ、つまんない」
「ご、誤解で済むような事ではないぞ、シェーン……」

 シェーンは構えた腕をふっと下ろすと、ポスリと彼の安楽椅子へと腰を落ち着けてしまった。
 何というクソガキだ。
 仮にも俺の妻に気絶させただけとは言え、手を上げたのだ。
 子供のやった事と済まされる様な事ではないのだ。

 当然その態度に、事の成り行きを見てあわてて俺の後を追って飛び出してきたらしいマリアツンデレジアが、激昂して叫んだのである。

「何事ですの! 双方ただちに剣を収めなさい。シェーンさま、これはいったいどういう事ですの」
「何でもないんだってさ」
「そんなわけはありません! あなたは何という事をしてくれたのですの!!」

 そう声を荒げながらマリアツンデレジアは、駆け出していよいよ血相を変えながら俺たちの元に向かって来た。
 するとその瞬間にだけひどくシェーン子爵が強張ったのを俺はチラリと目撃した。
 たぶん今までの感情の抑揚がない顔とも、先ほど見せた何かの感情の兆しとも違う別の顔色と言えるものだろう。
 シェーン少年は何かしらマリアツンデレジアに対して負い目の様なものがあるのかもしれない。
 いや違う、恐れているのか? 不満に思っているのとも違うよな……

 俺とマリアツンデレジアがわずかの間この場を抜けている間に、この様なとんでもない事が起きてしまったのだ。
 けもみみはどうやら脳震盪を起こして意識を失っているらしく、周りの剣を抜いて互いを威嚇けん制していた人々も、いったんは白刃を元の鞘に納めた。
 そして「何と謝罪をしていいのか」と俺に謝罪の言葉を口にしていたけれど、すでにその言葉は聞こえていなかった。

「マリ、診てくれ!」
「ちょっと待ってなさい、ハーナディン気付けを!」
「マリアツンデレジアさま、奥の休憩室をお借りしますからね。おいニシカさん、ベローチュ、手を貸してくれ!」
「動かすときはあまり頭を揺らさない様に!」

 意識の無いけもみみを運びながら、完全にリンドルでの交渉は詰んだなと俺は密かに心の中で思った。
 たぶん、あのクソガキと仲良く手を取り合う未来は俺に想像出来ない。
 むしろ機会があれば殺してやるとさえ思ったぐらいだ。

 ブルカ辺境伯の仕込んだ毒に、こうして俺たちは踊らされ始めていたのである。
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