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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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136 階段の白き嶺城 3 (※ イラストあり)

 近くに地元のお貴族さまが足しげく通っているという食堂があるというのをようじょが聞きつけてきたらしく、俺たちはさっそく団体さまでその食堂に向かう事にした。
 今では三〇人あまりの大集団になっている俺たちではあるけれど、こういう高貴な身の上の人間を受け入れる食堂は、広々としていてお貴族さまのご一行を収容するのもわけが無いらしい。

 石造りの立派な二階建て食堂の名前は「果実とオリーブ亭」だった。
 食堂と言うと失礼かもしれない。レストラン、あるいはリストランテとでも言うべきかもしれない。

「わたしたちの村にも、何れこういう食堂が出来る日が来るのでしょうか?」
「ねえさま、もちろんです!」
「領地経営の先には必ずこういう施設も必要になって来るわね。当たり前の生活が出来るようになったら、その先に求めるのは娯楽ですもの」
「おーっほっほっほ、そうですわねえ。わたくしの故郷ですと、領内にはたったひとつの食堂しかありませんでしたけれども、領地が繁栄して村が発展すれば、何れはこの城下で商売をしてみたいと考える料理人が出て来るに違いありませんわ」
「自分はやはり、小間物や雑貨のお店などが出来たらいいなと思いますよ。生活必需品だけを扱った商店があるなんてのは、やっぱり味気ないですしねえ。ご主人さまの村はどのような土地なのですか?」
「なんもない村だな。あるのはサルワタの森とゴブリンばっかりだ。何しろ人口の半分がゴブリンみたいな開拓村だからな」
「でもサルワタにはシューターさんがいるよ。だからぼくはそれ以上望まないよ」

 女子が三人集まれば姦しいというけれど、七人の女たちが占拠したテーブルは誰かひとりが口を開くとこの通りにぎやかだ。
 そんなカサンドラ奥さまと愉快な姉妹たちの盛り上がるテーブルの隣は、俺たち野郎専用の辛気臭い食卓である。
 誰が俺の席の隣に座るかと言って揉めだしたので、面倒くさいから女性陣だけで座る様に言って逃げてきたのである。必ず上座の左隣はカサンドラと暗黙の了解があるけれど、その反対の席は誰が座るのかと密かに問題となったのだ。

「どうしてシューターさんは隣に行かなかったのですか?」
「え、どうしてって。何か居心地が悪そうだし……」

 小さな声で修道騎士ハーナディンがそんな質問をしてきたので、こちらも小声で返事をした。
 ナマズの親戚と果実を煮込んだ料理が大皿で運ばれてきて、苦虫を噛み潰した顔で俺は二又のフォークとナイフでそれを切り分ける。

「居心地が悪い? それは節操もなく奥さんを次々に増やしたツケが回って来たというものでしょう。僕は賢くもッヨイさまを眺めていればそれでいいというのに、あなたまるで王族の様なハーレム大家族っぷりですよ」
「ようじょはまだ未成年だ。その発言こそ女神様への冒涜というもんですよ。俺なんて街に来ればモテモテだってッワクワクゴロ兄さんに言われたから外交団に志願したのに、まだ女の子の手も握っていないんですよ。あんたもシューターさんもみんな嫌いだ」

 ハーナディンの変態発言にッジャジャマ君が不平を漏らした。
 そういえば村にいた時もッワクワクゴロさんところの三人の弟たちは、女の子を紹介してくださいよと言っていた気がする。その約束は未だ果たされずじまいだ。
 ッジャジャマ君の非難をかわすために会話の矛先をあわてて変更しなければならない。

「そんな事よりもハーナディンさん、ここの聖堂から何か有益な情報は引っ張り出してこれたかな?」
「それなんですがね。リンドルの子爵家というのはかなり利に敏い人間なご様子で」

 泥臭い味を連想してちょっと躊躇しながら口に運んだナマズは、割合と美味かった。果実の甘みと酸味が加わって、白身はなかなかぶどう酒に合うじゃないか。
 利に敏い。なるほど、ここの土地は交易も盛んな場所だからな。すると袖の下でも要求してくる系のお貴族さまかな?
 俺は脳裏に強欲な脂ぎったデブのお貴族オヤジを連想した。

「何と言えばいいのかな、リンドル子爵のシェーン卿は御年十二歳のお子様なんですよ」
「ショタか」
「はい、ただし早射ちシェーンという二つ名を持っています」

 想像とまるで違う回答を口にしたハーナディンに、俺は興味を膨らませた。
 早射ちの二つ名を持っているという事は、お子様の身の上で、弓か魔法かなにかの名人という事なのだろうか。

「なので現在の家政を取り仕切っているのは、シェーンお坊ちゃまの御母上であらせられるマリアツンデレジア夫人だと言われています。後見人というやつですね」
「そのツンデレのマリアさんは未亡人なのか」
「ええ、たいそう美しいご夫人だという話は街でも知られたお話ですが、かなりの浪費家でもあると。絵画には眼がないという話で、家政・家計はかなりの火の車だという話も聞いています」

 絵画に眼がないという言葉を聞いて、野郎テーブルで忙しくフォークを動かしているヘイジョンさんを俺たちは見た。
 ヘイジョンは午前中、街のあちこちを歩いては門や番兵の詰め所をラフスケッチしてまわっていたわけである。今でこそ情報収集の一環で軍事的に意味がありそうな施設を絵で記録しているが、出会った当初は女村長の肖像を描きたいと熱望していた男である。

「なるほど、それはいい事を聞いた。で、家政は火の車というと、領地経営は上手くいっていないという事なのかな」
「そういうわけではないですぜ」

 俺がハーナディンに質問したところ、代わりにそれに返事をしてくれたのは、顔中傷だらけの傭兵男だった。

「というと、何か情報を持っているのか」
「ええ。俺っちはリンドル往還の辺りを近頃生業にしていたので、リンドルで店を持っている商会とは仕事をしていたんですがね、」

 名前は確かモンサンダミーという本土から流れてきた男である。
 セレスタの冒険者ギルドで雇い入れた臨時の護衛役だったのだが、見た目の荒くれ者具合に比べて読み書きも出来て王国の兵隊をしていた事もあるというので学もある。
 とりあえずガラの悪い連中を纏めるのにと、俺の近くに置いてみようと考えたところだった。

「マリアツンデレジア夫人というのは、先代子爵さまの第二夫人なんですわ。ほんで領地経営を実質的に行っているのは第一夫人だったダアヌさまとその側近という有様で。リンドルは完全に二派にわかれてお家騒動の真っただ中だと思ってつかぁさい」

 何と、リンドルは内紛中の真っただ中であったらしい。

「それで君が懇意にしていた商会というのは、どっちの派閥に属しているのかな?」
「俺っちの出入りしていた商会ですか? どちらでも仕事をした事があると言えばそうですが、払いがいいのはマリアツンデレジア夫人の息のかかった商会ですな。元は王都の何とかというお貴族さまのご令嬢だったらしくて、珍しいものには糸目をつけずに金払いがいい」

 なるほど、浪費家ではあるけれど金の出し渋りはしないと。
 するとぶどう酒の入ったグラスを口に運びながらも、モンサンダミーはもぐもぐしながら言葉を続けた。
 いくら学があるとは言っても、やはり荒くれの傭兵さんなのでマナーはちょっといただけない。

「むしゃ、ゴクリ。逆にダアヌ夫人の方は駄目だね。何といっても古くからご当地に根を張った分限者のお家柄で、岩窟都市とも交流があるんですがね。リンドル子爵家がこの土地にご移封される前からの支配者ですから、質素堅実を地で行くお人柄なんですわ。そしてよそ者が嫌いだ」
「つまりダアヌ夫人に関しては、袖の下が通じる相手ではないと」
「ええ、そうでしょうな。俺っちが鋼材をブルカに運ぶ際は、船を使うのだから護衛の人員は最低限でいいだろうとケチるのが日常で、その癖、例の触滅隊がリンドル往還の界隈を荒らす様になってからは、襲撃されるのは俺たちが仕事をしないからだと文句を垂れる」

 金は渋るが仕事はしろと、聞いていて元いた世界のケチなライン工場のバイト時代を思い出してしまった。
 むかし働いていたその工場では、経営の傾きから立ち直るために経費削減のために正社員を出来るだけ減らしたのはいいが、バイトと合わせてギリギリの人員でラインが回る事に味を占めてしまったのである。
 何とか経営が安定化してからも最低限の人間で工場のラインを回しているものだから、正社員と言えども夜間シフトでバイトに混じって残業は当たり前。
 ついでにバイトは長く使い続けると雇用の福利厚生をしっかりしないといけないので、定期的に入れ替える。
 俺は数か月だけ正社員の知り合いに頼みこまれて手伝ったことがあったのだが、バイトも嫌がる過酷なシフト体制で、従業員が次々に逃げ出す様を目撃してしまった。

「従ってですぜ、ダアヌ夫人が経営する商会や関連する商会は金払いが悪いので、みんなあすこの仕事を引き受けるのを嫌がっているわけです」
「触滅隊が暴れまわっている現状では、そうも言ってられないんじゃないですか?」

 ッジャジャマ君がパンをちぎりながら質問をした。
 その通りだよね、輸送している商品を何度も襲われている様では、商売が成り立たないじゃないかという疑問が素直にわく。

「だもんで、ダアヌ夫人の息のかかった商会は、みんなリンドルとオッペンハーゲンを繋ぐ街道での交易に力を入れる様になっていますな。リンドル往還の輸送はもっぱらその他の商会やマリアツンデレジア夫人の息のかかった商会の担当ですわ」
「けれどもそれでリンドルの領地経営が上手くいっているというのもあるんですよ、たびたびの倹約令が発布されて、子爵家そのものの家計はともかく、領内までが不景気というわけではない」

 ハーナディンはそういう風に補足説明を加えてくれた。
 つまり交易ルートごとに、ふたりの夫人が縄張りを分け合っている様な形になっているんだな。
 すると、さっきまで口を挟んでいなかったヘイジョンさんが俺の方を向いて口を開く。

「しかし問題はそこじゃないんだよなあ」
「と言うと?」
「リンドル子爵のシェーン卿というのは、ダアヌ夫人でもマリアツンデレジア夫人でもない、エミール第三夫人のお子様らしいですよ」
「エミール第三夫人」

 新たな名前が登場である。ちょっと俺の頭がこんがらがりつつあるじゃないか。

「何者ですかそのご夫人は」
「それが何の情報も無いところを見ると、たぶんですがどこぞの村娘か何かなのでしょう。今はマリアツンデレジア夫人がシェーン卿の後見人になっておりますけど、そのあたりも村娘出身のご夫人だという事なら理解できるというものです」

 ハーナディンが不味そうにナマズを口に運びながらそう言った。
 何だよリンドル、滅茶苦茶ややこしい土地柄じゃないか……

「つまり話を纏めると、誰に取り入ればいいんだ。領地経営はダアヌさん、シェーン卿の後見人はマリアツンデレジアさん。で、実はエミール第三夫人というのもいるわけだな」

 エミール夫人のところにシェーン卿を取り戻す事が出来て、俺たちがその後見になって盛り立てる事が出来れば、間違いなくリンドルとサルワタの同盟関係は強健なものになるのではないか。
 あるいはマリアツンデレジア夫人とお近づきになって、中央のお貴族さまとのパイプを手に入れるという絵図もありかもしれない。
 ダアヌ夫人はちょっとやっかいだ。王国が辺境を開拓する以前からこのリンドル周辺を支配した土豪でよそ者が嫌いときたもんだ。たぶんそのよそ者嫌いは筋金入りで、ギムルどころじゃないだろうから、取り入るのはかなり厳しい……

「しょうがないな、三方それぞれに接触をする事にしよう。早射ちシェーンとの謁見までに、少なくとも糸口だけは掴んでおきたいものだなぁ」
「情報収集専門のメンバーが欲しいところですね。その点、ブルカ辺境伯は一歩先を行っています」

 ため息をついた俺に、ハーナディンがそんな事を口にした。
 痛いところを突かれた俺はとても悲しい気分になって、けもみみを呼びつけた。

「何だいシューターさん」
「ちょっとぶどう酒を飲み過ぎたんだけど、トイレに付き合ってくれるか」
「うんっ!」

 連れション出来る女の子って貴重だよね!




http://15507.mitemin.net/i176516/

挿絵(By みてみん)
作家の菜波先生にご提供いただきました。ありがとうございます!
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