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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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135 階段の白き嶺城 2


 奇しくもリンドルの繁華で出くわした俺たちの面子を確認してみると、揃って戦闘職を担任するメンバーだった。

 俺は言わずもがなサルワタの騎士であり、領内の警備責任者である。今は外交使節の大使であるけれど、冒険者カムラにはじまりゴルゴライ兄弟と巨大な猿人間、引き続きセレスタのパンストライク一味や触滅隊のニコラといった難敵とも勝負を続けてきた。

 鱗裂きのニシカさんは飛龍殺しの猟師であるけれどこれもゴルゴライではフェーデ、セレスタや街道では共に難敵に対峙した俺の相棒格である。

 雁木マリは聖少女修道騎士として軍事訓練を受けたいわば戦のプロフェッショナルであるし、猟師のけもみみも俺の護衛役を自認している騎士見習いという立場でもある。

 カラメルネーゼさんはと言えば実家が奴隷商をやっていていつの間にか旅に引っ付いてきたよくわからない立場ではあるけれど、彼女も元をただせば貴族軍人であり気が付けば護衛の騎士さまだと周りに認識されていた。

 ベローチュは……まあどうでもいい。男装の麗人は自前の立派な装備(おっぱいの事)を身に着けているが、どういう風に扱っていいのか俺も未だにわからない。まあ元妖精剣士隊の一員だから戦闘職と言えばその通りだが。

 してみると、装備は何れも自前で持ち込んだものや、サルワタ出発時に用意したものばかりだ。
 俺などは、よくよく考えてみると防具らしい防具など、ブルカで購入した小盾(バックラー)すらも村の屋敷に置いてきたという始末である。
 あの時に購入したメイスとバックラーは、今頃はタンヌダルクちゃんの護身用の道具として寝室に置かれている事だろう。

 そしてふと街角で出くわした俺たちは、ちょうど武具防具を商っている店の前に立っている事に気が付いたのである。
 リンドルと言えば鉱山都市であるとともに、それら産品を加工した武具や防具もまた盛んに生産されている街らしい。
 目の前の商店だけでなく、隣もその反対隣もまた武器屋防具屋なのである。

「どうしたんですかねニシカさん?」
「いやな、オレ様の装備もずいぶん使い込んでいるなあと思ってよ。ここ防具屋なんだろう?」

 少し気になっているのか、装具屋の入り口から中をチラリと覗き込んだニシカさんが俺たちに振り返ってそう言った。
 確かにサルワタの鍛冶場に置かれている武器に比べてもバリエーション豊富なものが並んでいるし、ついでに村には無い多数の防具も取りそろえられている。

「猟師をやっているのなら今のままの装備でもいいんだがよ、口臭(くちくさ)のニコラ野郎みたいなのにまた出くわした時の事を考えると、もう少しまともな防具も取りそろえておいていいんじゃねえかと思ったんだよ」
「言われてみれば確かにそのとおりね。あたしたちは仮にもサルワタの外交使節団なのだし、あたしも、いつまでも修道騎士の正規装備のままというのもどうかと思っていたのよ」

 ニシカさんに続いて、雁木マリも自分の法衣の端をひょいとつまみながらそんな感想を口にする。
 俺もその言葉を聞いて考え込んでしまった。
 普段、出くわした敵と命がけの戦闘をしたあげくに身ぐるみ刻まれて引き剥がされるのは、まともな防具を身に着けていないからに違いない。
 そう結論付けた俺は、せっかく街に繰り出しているのだし装具店を覗いてみようかと提案した。

「そういう事ならちょっと寄っていこう。エルパコはどんな装備が欲しいんだい?」
「シューターさんとお揃いのものがいいな」
「じ、自分もご主人さまと同じ装備を所望するであります!」

 質問してみたところ、けもみみに対抗してか男装の麗人まで同じ様な事を口にした。
 するととても嫌そうな顔を浮かべたけもみみが、男装のおっぱいを睨み付けるではないか。

「身だしなみは重要ですものね。リンドル子爵との面会の予定まで日もまだありますし、この機会に装備を改めるというのはいい事だと思いますわ」
「カラメルネーゼさんもそう思いますか。じゃあ入ってみますか」
「支払いはどうなさるのです? それなりの見栄えと実用に耐えるものを全員分整えるとなると、それなりに予算が必要になると思いますわ。それぞれの手持ちのお金では難しいのではなくって?」

 わたくしは大丈夫ですけれどとカラメルネーゼさんが言った。
 確かにそうだ。奴隷商人の彼女や、ブルカの金持ち街に住んでいた様な雁木マリはともかくとして、ニシカさんが金目のものを持っているかどうかは非常に怪しい。
 ブルカで稼いだ金がいくらか残っているかもしれないが、もしかすると酒場通いでそれも消えつつあるかもしれない。
 けもみみはそもそも俺の家族だから、俺の財布の中身から支払うしかない。
 男装の麗人も元はセレスタの官憲であるけれど、俺の家族もとい奴隷という意味では俺の財布と一心同体である。

「必要経費という事でいいんじゃないの? みすぼらしい格好で諸領主に謁見するのは外交上も不利益だわ」

 うんうん悩んでいた俺に向かって雁木マリが提案してくれた。
 まあそうだよね。
 じゃあみんな自由に買いなさい。と声を掛けようと思ったけれど、すでにニシカさんを筆頭にけもみみや男装の麗人は店の中に突撃(チャージ)を決行していた。
 これはもう止められない。

「おいこれを見てみろ! こいつは多機能チョッキというやつじゃないか」
「商品タグに猟兵チョッキ(タクティカルベスト)と書いてあるよ」
「おおお、格好いい名前だぜ気に入った!」
「ニシカ奥さま、見てくださいこのナイフ、真ん中で屈折してて超イカしてますよ! 自分には似合わないかな、でもニシカ奥さまには」
「奥さまじゃねえ!!」

 ……これはもう止められない。

「さ、わたくしたちも行きましょうか。公費でお買い物が出来るなら、遠慮なく」
「おっお手柔らかに」

 カラメルネーゼさんに促されて、雁木マリと顔を見合わせて苦笑を浮かべながら俺も店内へと入る事にした。
 店内へ入ってみれば色々と驚かされる事でいっぱいである。
 手前側には売れ筋品がずらりと並んでいる様で、奥は右に防具、左に武器といった感じに並べられている。
 俺はすでにサルワタの騎士が帯剣するという刃広のそれを持っているので、武器についてはあまり食指は動かない。
 けれどもチラリと見た感じだと同じ肉厚刃広の剣という商品でも、研ぎの入っていない長さも微妙にまちまちなそれが、束ねられて置かれているではないか。
 きっとサイズ選びをして気に入ったものを、加工するというスタイルを取っているのだろう。
 この世界の剣は耐久度重視なので、もし武器をどうこうするにしても今は研ぎを改めるぐらいで十分だろう。
 なので自然とマリとともに左奥の防具が揃っている場所に向かう事にした。

「あなたはいつも激しい戦闘に見舞われる事が多いから、しっかりとした防具を身に着けるべきね」
「お説ごもっともです」
「それに加えてサルワタの大使、つまり外交官でもあるのだから礼装と一緒に身に着けてもおかしなものじゃない必要があるわ」

 この世界の儀礼的な正装がどういったものかいまひとつ理解出来ていない俺は、転生者の先輩である雁木マリにその辺りの事を任せておく事にする。
 マリは片っ端から吊るしの鎧を手にとっては、右と左に持ち並べて首をひねっていた。
 黙って横で見ていると、どれもマリが身に着けているのと同じ鉄革合板の鎧というやつである。値段的にはなかなかお高い代物らしい。
 俺自身はこれまで機動力が落ちる事を懸念して防具の類は食指を示してこなかったけれど、いざ着用するという事ならしっかりしたものがいい。

「隣には鎖帷子があるけれど、それは駄目なのか?」
「チェインメイルは駄目よ。シューターは体を張った白兵戦をする事が多いんだから、あまり重くてかさばる防具は困るでしょう?」
「確かに。尖突のニコラを相手にした時も、組討ちしてようやく倒したぐらいだからな」
「でしょう? だったらあたしと同じ鉄革合板の鎧コート・オブ・プレートにするか、隣のブリガンダインにする方が合理的というものよ」

 ほう、マリが着ている鎧の名前はコート・オブ・プレートというのか。
 鉄の鎧の型をプレスするように表面と裏地を革で挟んでいる防具なのだが、あまり激しい戦闘を肉薄してする様だと、形状によっては腕の可動域が狭まる様な気がするな。
 隣の、マリがブリガンダインと呼んで差した防具の方は、同じく鉄と革を張り合わせた胸部装甲防具であるけれど、こちらは見た目が防弾チョッキみたいな形状をしている。
 貫頭衣よろしく被って着用する胸の防具なのだけれど、腰まで長いものもあれば、本当に胸部だけを守る様に作られているものもある。
 ついでに言うとこのブリガンダイン、短冊状の金属を繋ぎ合わせて作られているらしく、機動性がとても良いのが気に入った。
 たぶんコートなんとかよりも俺の装備にピッタリな気がする。

「あら、ブリガンダインにするの? いいわね。デザインが色々あるから、あたしもそれにしようかしら」

 そんな事を言いながら、手に持った鉄革合板の鎧を吊るし直すと、隣のブリガンダインのコーナーにマリは移動した。
 気が付けば俺の後ろにけもみみと男装の麗人がいる。

「お前たちはお揃いの装備がいいのよね。三人が着てもそれぞれおかしくないものを選びましょう」
「そうですね、でしたら自分はこれがいいんじゃないかと思うのですが、ガンギマリー夫人もせっかくならお揃いにしますか?」
「べ、別にあたしまで同じにするには文化の多様性が無い連中みたいに見えるじゃない。嫌よ」

 ベローチュの提案はあっさり否定されたらしく、とても悲しそうな顔をしておっぱいを腕にこすり付けてきた。こらやめなさい!
 するともうひとり、無言で悲しそうな顔を浮かべるけもみみだ。
 もしかして対抗して同じことをやるのかと思ったら、それをやったのは意外にも雁木マリの方だった。

「ほらシューター、これなんてどうかしら。あまり大きなものでもないし、体にフィットするものだからチョッキを羽織ってもサーコートの上からでもおかしくはないわ」

 俺の胸にブリガンダインを押し当てて「うんいい男に見えるわ」とひとり納得したりする雁木マリを見て、果敢にパイタッチを挑んできたベローチュも厭戦気分になった様だ。
 おっぱいなんて飾りなんです。大切なのは愛情なんです。

「うーんでも。馬子にも衣裳とは言うけれど、あなたが防具を固めてるのって違和感ぬぐえないのよね」

 愛情は無かった。
 やっぱり全裸がお前にはお似合いよなどと言われかねない空気を感じたので、俺はたまらず逃げ出した。

「まずはお揃いの装備もいいけれど、自分の身にあったものを探しなさい。命を預ける防具だからね」
「わかったよ」
「ご主人さまの命令とあらば、そうさせていただきます」

 みんなそれぞれ思い思いの装備を買い、俺も雁木マリが勧めてくれたものを購入する事になった。
 とは言っても、ニシカさんがへんてこなナイフと猟兵チョッキというのをこの店で購入した他は、みんな似た様なブリガンダイン鎧の購入で落ち着いたんだけどね。
 この鎧のいいところというのをカラメルネーゼさんが説明してくれたけれど、

「たいへん高価な代わりにメンテナンス性が非常に優れているのですわ。何度も補修をして使い続ける事が出来ますし、表面の革の上にベルベット生地で装飾を施したり、家紋を入れたりする事もよく行われていますわね」

 という事らしい。
 俺に雁木マリにけもみみに男装の麗人、それからカラメルネーゼさんのものまで購入して、この表面の加工までお願いしたところ、お値段なんとブルカ辺境伯金貨三枚と、騎士修道会銀貨五枚というとんでもない額になった。

「俺はあとこの天秤棒を買っておこうかな?」
「いらないでしょそんなの。必要になればその辺の農家から借りてくればいいわ」

 俺は硬くて丈夫で立派な黒光りする木の棒を見て購入を決意したが、雁木マリに否定されてしまった。

     ◆

 買い物ばかりを堪能しているわけにもいかない。
 あくまでもリンドルという街の情報を集めるのが目的だからな。

 俺たちは装具店で色々と武具防具を買い込んだところでいったん広場の方に移動した。
 近くで街の様子を写生しているヘイジョンがいるはずで、カサンドラたちもこの辺りを買い物して回っていると言っていたからである。

「こうして見上げると、本当にひな壇状に街が積み上がっているんだな」
「そしてその頂点に城府があるというわけね。鉱山を背中に抱いて都市が出来上がったというのも頷ける構造になってるわ」

 前に訪れたセレスタの街は小山を切り崩して十字に回廊が貫き、周囲に市壁を巡らせた高低差をうまく利用した構造をしていた。
 そういう意味で、リンドルは文字通り階段状に街が続いている坂の街なのだ。それぞれの階層を之の字というかジグザグに走りながら城府に向けて道が進むのだ。
 最下層の部分が宿屋と繁華街、それから倉庫などが立ち並んだ地区で、その上の階層が職人たちの工房や市民の居住区、そしてその上が高貴な身の上の人間たちの屋敷が立ち並び、さらにその最上層にあたるのが城府である。
 城府にはリンドル領を治める子爵家が住まわっているのだが、そこまで至るまでには四〇〇〇の市民が住むそれぞれの階層を突破しなければ到達する事は出来ない。
 軍事的にもよく考えられた防御区画を形成する城塞都市なのだろうと俺は愚考した。

「リンドルの聖堂は第二階層にあるんだな。もっと上の階層にあるのかと思ったけど」
「女神様は信徒と共に存在しているのよ、別に金持ちに寄り添っているわけではないからね」

 そんなマリの言葉に、俺とけもみみは顔を見合わせて納得したところである。
 するとその時何かを見つけたらしいニシカさんが、ひと声上げた。

「あいつら目立つなおい」

 買ったばかりのタクティカルベストは、ニシカさんのたわわな果実を思い切り寄せて上げて強調している。
 ゴクリとつばを飲み込みながらガン見していたら、けもみみが腕を引っ張った。

「カサンドラ義姉さんたち、来たよ」

 言われてニシカさんやけもみみの向けている視線の先には、ガラの悪そうな護衛の傭兵を複数人引き連れたカサンドラが、雑多な繁華の道をかき分けながらこちらに来るのが見えた。
 本人は萎縮したような顔をしているけれど、隣に並んでいるようじょは気にしたものではなく、颯爽と歩いているところが愛らしい。
 けれど、あれじゃヤクザの軍団だな。

「大使の姐さん、あすこに旦那さまが見えましたぜ!」
「あのうみなさん、やめてください。わたしは姐さんじゃありませんから……」
「失礼しました姐さん! オイ野郎ども、姐さんの事は以後姐さんと呼ぶんじゃねえぞ?」

 ヘイ姐さんなどと傭兵のみなさんは元気良く返事をしている。
 そんな調子でそこのけそこのけと、傭兵たちが周囲の人間を威嚇しながら歩いているのだ。これじゃサルワタの評判を落としかねないと俺たちは絶句してしまった。

「どれぇ!」
「あのうシューターさん、これじゃあゆっくりお買い物をする事も出来ません」

 俺に駆け寄ったカサンドラは、申し訳なさそうにしながらも傭兵たちを振り返って苦情を口にした。
 そうだな。もうリンドルの街まで無事に到着した事だし、君たちはそろそろ解雇でいいんじゃないだろうか……

「そんな、大使閣下の旦那! 俺たちが何をしたって言うんですかッ」
「うるさいぞお前たち、大使閣下のシューターさまがそう言うのだから善処しますと言えばいいのだ!」

 文句を言った傭兵たちに、ずいと前に出たベローチュが腰の剣に手を掛けながらトドメのひと言を放った。
 とたんにしゅんとする鎖帷子の連中だけれども、少しは上品になってくれなきゃ本気で解雇だからな!

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