挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

157/574

130 新月の夜に俺たちは奇襲をかけます


 俺は鱗裂きのニシカさんの言葉にまんまと乗せられてしまった事を激しく後悔した。

「さ、三五人!」

 多すぎるぜ……
 それが街道から久しく外れた猟師小屋の周辺に潜んでいた盗賊どもの総数だった。
 その数は俺とニシカさんで個別に数えた後、ちゃんと最後に答え合わせをしたものだから大きく外れる事はない。
 つまり俺たちの目の前には、完全武装した所属不明の武装集団が存在している事になる。
 これは当初、用便中にニシカさんが発見したという怪しい農夫の向かった先を追ってきた時には予想していなかった数字だ。

 ニシカさんは新参の褐色エルフのベローチュと、ある程度怪しい農夫の行先の当たりをつけていてくれた。
 最初俺は、連中が野営地を襲撃してくるようなら待ち構えて迎撃態勢を取ろうと思っていたのだが、やるならば先手を打った方がいいというニシカさんの言葉に乗せられて、マンマとここまで来てしまったのが運の尽きである。
 こんな数の相手を俺たちふたりで誘い出して、雁木マリやようじょたちが潜伏している場所まで引き付ける自信はないよ。
 失敗したら絶対死ぬ確信!

「何だおい、ビビってるのか?」
「はは、まさかそんなわけがないじゃないですか」

 ビビるというより、ニシカさんの豪胆さに俺は呆れたね。だから味方のところまで、どうやってこいつらを引っ張り出すのか確認しておかなくちゃいけない。ビビるのはそれからだぜ……

「さすがに予想以上の数だと思うんですけど、どうやって連中を釣り出すんですか。接近して数人寝首をかいてこいというのは勘弁してくださいよ」

 するとニシカさんはニヤリと不遜な笑みを浮かべてきた。それでもいいがよ、と切り出した眼帯長耳は「何のために弓を持ってきたかわかんねえだろ」と自慢の長弓を示してくる。

「オレ様の得意技を言ってみろ」
「一撃必倒の強弓ですからね、よしそれでいこう。近づくやつは俺が排除すればいいんですね」

 弓で釣り出すわけか、まあそれが順当なところだろうな。

「けど、こいつらただの盗賊連中じゃないですよ」
「ん? どういうこったシューターよう」
「あそこの、ボロボロの法衣を纏った連中の集団を見てください。あれはどこかの軍隊に所属していた連中なんじゃないですかね。何となく動きに統一感があるし、着ているものは汚らしいが、装備も体の動きもどこかに規則性を感じた」

 俺たちが潜んでいる森の中から、監視中の半壊した猟師小屋までの距離はおおよそ二〇〇メートルぐらいといったところだろうか。
 ここは暗がりの中だったけれども、ありがたい事に猟師小屋周辺では松明がいくつか掲げられていて、小屋の前では焚き火も行っている。ぼんやりと連中の表情や仕草を観察するぐらいの事は可能だった。
 ついでに俺の視力は、このファンタジー世界にやって来てから日が経つにつれて、ますます良くなっている気がするのだ。

「言われてみれば貴族くさい動きだな。あれは村長が野営の時にやる様なポーズだ。みんないつでも飛び出せるように片膝を抱いて休憩し、剣を側において体を休めている」
「そうでしょう。だからたぶんブルカ辺境伯の軍から引き抜かれた連中を、触滅隊に参加させていたんでしょうね。盗賊にしてはよく統制が取れているのもうなずけるってもんだ」

 見るからに農夫みたいな格好をしているのは、たぶん斥候を専門にしている偵察兵か何かなのだろう。
 逆に猟師みたいな、ひと昔前の俺みたいな恰好をした連中は本物の盗賊あがりだ。度胸は備わっていそうだが、警戒心という意味ではニシカさんやエルパコが持っている猟師独特の注意深さや、雁木マリやハーナディンにあるような落ち着いた規則性がないからな。
 恐らくこの地域に触滅隊がやって来てから合流したような、地元の野盗連中だろう。

 おや?

 俺は連中を観察している時に、ちょっとやばそうなオーラを纏っている人間をひとり発見した。
 兵隊然とした雰囲気でもなければ、盗賊真っ盛りの風貌でもない。
 例えて言うならライオンの群れの中にいるオスのリーダーみたいな感じだろうか。テレビでやっていた動物番組で見た事がある様な、狩の中心的存在であるメスライオンに囲まれた、ボスライオンみたいだった。
 あれはヤバいね。
 周りの連中も気を使っているのかちょっと距離を置いている。
 時折、何かを話しかけたり報告を受けている態度からすると、あいつがこの集団のリーダーで間違いない。

「ニシカさん、小屋の壁に背中を預けている男が見えますか」
「ん? あれだな。胸甲を付けている野郎か」
「それです。たぶんあいつがやっかいそうだな」
「腕が立つのか?」
「わかりませんが、だいぶ落ち着き払っているところを見るとあいつがこの集団のリーダーだ」

 実際にどのくらい強いのかはわからないが、貫禄だけは間違いなくあった。リーダーである事は間違いないので、この際しっかりと殺しておくのは必要かもしれない。
 と、そこまで考えたところで俺は自分に驚いた。
 気が付けばあっさりと殺傷を当たり前に受け止めている自分がいるのだ。罪悪感というものもあまりなく、義務的にこれはやっておかなくちゃいけないと脳味噌が処理しているのも恐ろしい。
 そしてたぶん。あいつを捕まえるという選択肢は無理だろうな、と薄々感じたのだ。

 そう感じた理由は、ずっと観察していたら、ふとそのライオンのボスみたいな男がこちらに視線を送って来た様な気がしたからである。
 こちらを見て、部下を呼ぶ。そして何事か会話したと思ったら野盗のひとりが何かを叫んでひとを周囲に走らせる。

「見つかったりしてますかね」
「それはねぇだろ。こっちは風下だし暗闇の中だ、見つかった気配もねぇな」

 だったら気のせいか……
 野盗たちは見張りを命じられたらしく、数名が半壊した猟師小屋の周辺に配置に付く。

「おいおい、本当にバレてないんだよなあ。風の知らせで警戒を厳重にするつもりになったのか…?」
「いや、そうじゃねえ。月だ、今夜は月が出ていない夜だからな。こういう夜は視界がいよいよ悪いので、警戒しているんだろうぜ」

 星が散りばめられた黒々とした空を差してニシカさんが小さく言った。
 なるほど。むかし俺が読んだモノの本によれば新月の夜は夜襲に警戒すべしというシーンがあった気がする。確か戦記小説だったか特殊部隊員の実録体験談だったか。
 そして今俺たちがやろうとしているのも、まさに特殊部隊の隊員めいた作戦だね。

「星の位置から判別すると、まだ夜明けまでは相当時間がある。やるなら連中が油断している今だぜ」
「了解だ。接近しよう」

 互いに装備の状態を確認しながら、接近を開始した。
 ここから先は極力無言だ。
 ある程度は猟師たちの使うハンドサインがあれば意思疎通は出来るものだし、そもそもやるべき事は決まっている。
 釣り出して、誘い込む。

 最初は二〇〇メートルほどの地点で観測していた俺たちだったけれど、じわじわと草をかき分けながら小屋を半周する様に接近した。
 だいたい一〇〇メートルあたりまで近づいたらニシカさんがいったん動きを止めて、俺がしっかりと付いてきているかを確認した。
 服を着ていていてよかった。
 変な羽虫が纏わりつく様に俺の周辺を飛び回っているけれど、これが全裸の夜ならば虫刺されも酷い事になっていたかもしれない。

 さらに接近する。
 だいたい数十メートルそこらまでやって来たところで、不用意に小屋周辺の明かりが届く距離を外れた場所で立哨しているヤツに眼をつけた。

「ニシカさんあいつをやる」
「わかったぜ。他の連中が動かないか見張っていてくれ」

 ここからならニシカさんの腕をもってすれば確実に相手を必殺出来る。
 必ず殺すと書いて必殺だ。
 おもむろに片膝立ちをしたニシカさんは、その強弓に矢をつがえて解き放った。
 見惚れる様な流麗な動きであくびをした野盗の立哨はあっさりと倒れる。肺臓をひと貫きとはこの事で、抵抗らしいものもなくおしまいだ。

「右の外れのヤツ、次はアレを」
「おう」

 すぐさま左手にかけていた予備の矢をつがえて、無駄のない動きで射ち放つ。
 またあっさりとひとりの男が死んだ。
 この調子なら、セレスタとリンドルの往還を騒がせている触滅隊の連中も入れ食いだ。
 もちろん油断をしたわけじゃないぜ? 油断しているのは相手の方だぜ。
 だがこれ以上は不注意にかがり火の外苑に離れているマヌケは存在しなかった。

 けれども、ふたり目が倒れた時にドサリと音を立てたのだろう。
 仲間の誰かがそれに振り返り、あわてて他の連中に大声を上げているのがこちらにも聞こえる。

「何事だ?!」
「敵襲! ショリンドのヤツが殺られた。弓だぞ」
「全員姿勢を引くしろ、相手はどうせ寡兵だ。総員警戒態勢!!」

 こっちは風下だからな、まだバレていない。
 そして口調から察したところ、やはり連中は軍隊あがりか現役からかき集めた兵士を主力にしているらしい。こういう予想は当たってほしくないね……
 しかしこれで動きが激しくなったので特定の誰かを狙って射つのはやめにする。
 うまい具合に騒ぎ出してくれたものだ。

「次、どうするよ」
「釣り出すぞ。あそこの焚き火の中に魔法攻撃を仕掛けて混乱させるの可能ですかね」
「任せろ、魔法の風弾(かざだま)を打ち出したら、こっちに向かって走ってくるやつをひとり仕留める」
「そしたら背中を見せて一目散ですね」
「出来るだけ騒がしくやってやろうぜ。オレたちは敵に見つかってビビった挙句、逃げ出したという設定だからな」
「盛大にあわてて逃げてやりましょう」

 ニヤリとしたニシカさんを見届けながら、俺も静かに刃広の長剣を引き抜いた。
 いいぐあいにキラキラと輝いている白刃は、きっと振り回せば連中のかがり火に反射してくれるんじゃないかな。

「そらよ!」

 左手に弓と矢を持った状態で右手をかざして見せるニシカさん。
 そのまま眼に見える事が無い風の渦巻きを発生させたかと思うと、それをキャンプファイアの中に盛大にぶち込んでやった。
 火を焚きつけていた薪が飛び散って、驚いた連中があわてふためく。
 そしてめざとく魔法の方角を察知したらしい先ほどのライオン野郎が叫んだ。

「敵襲の方向はあっちだ! 野郎ども急げッ」

 いい反応だ。だが俺たちもただ待っているのは嫌なのでおさらばだ。
 ニシカさんが、置き土産とばかり俺たちを最初に見つけて飛び出してきた山賊スタイルの男の頭蓋を貫通させた。

「ずらかるぞ」
「蛙飛びで行きましょう!」

 ニシカさんは木々の切れ目から黒々とした空に矢笛を打ち上げた。
 間の抜けたヒョーンという音が森の中を駆け巡っていく。
 俺たちはすぐにも走り出したけれど、走っている最中に何度か別の矢笛の音が響くのを耳にした。

「ひとつ目のはエルパコの矢笛だ!」
「二度目のは誰ですか!」
「手前ぇの嫁さんだよ、ありゃキャンプにいるカサンドラのだ!」

 そのまま松明を持った連中がぞろぞろと森の中に飛び込んでくるのが見える。
 俺たちは、蛙飛びよろしく全力で走っては足を止めて弓を打ち出す。そしてまた走り出すを繰り返すわけだ。
 このままッヨイさまを主力とする伏兵の場所まで引っ張っていかないといけないのだが、その距離が途方もなく遠くに感じられた。
 まず暗闇の中だからな、息せき切って背後の松明を気にして距離がどのくらいかを確認してニシカさんの射撃を見舞うのだが、

「いたぞこっちだ!」
「あまり固まるなよ、散開して包囲するんだ!」

 連中は連携が取れていて、犠牲を出しながらも次々と追いついてくる。
 ニシカさんは確かにひとり、ふたりは弓矢でしっかりと射止めてくれたのだが、全員が松明をもって山野の中を追走してくるわけではない。
 追いつかれた数人を目の前にして、つがえた矢を下ろしたニシカさんも山刀を抜く。
 俺はおもむろに飛び出すと盾となって連中と剣を重ねた。
 足場が悪すぎて、互いに数度は大きく振り回すだけで踏み込みが甘い。けれど俺は足をとられてふら付いた瞬間の敵めがけて長剣を差し込んでやった。
 口から血の泡を吹いているのを暗闇で見たものだからギョっとしたけれど、もうひとりの迫りくる相手の動きに合わせて剣を抜くと、勢いそのままに腕を斬り飛ばしてやった。

「うぎゃああああ!」
「うるさいよ」

 叫ぶ相手を蹴り飛ばして首根に剣を刺し込んでやった。
 くそったれめ。この間にも包囲網がじわじわと狭められてくる。たぶん敗残兵狩りはこんな風にやるんだろうなと頓珍漢な想像を働かせながら、どこまで逃げ切れるかを考えた。
 もうたぶんこの暗闇の中を五〇〇メートル以上走っている気がする。
 アドレナリンが噴出している間はいいが、疲労困憊(ひろうこんぱい)なのは隠せない。こんな事なら雁木マリにポーションをお注射してもらってくればよかったと後悔した。
 今日は後悔し通しだね!

「ニシカさん、キリがないぞ!」
「弱音を吐くんじゃねえ、矢はまだ十分にあるぞ!」

 振り返り足を止めてまた迫る敵を狙い撃ちすしようとするニシカさんだ。だがなかなか狙いを定めきれなかったのか、苛立ちがその汗まみれの顔に見て取れた。
 すると鱗裂きのニシカさんはおもむろにファッションアイパッチを外した。

「あんた何やってんだこんな時に!」
「馬鹿野郎、オレ様はこういう時のために眼帯を付けているんだ。見ていろ、こうだ!」

 外した眼帯を俺に押し付けた彼女は、ばるんと暗闇で胸を揺らしながら矢筒から一本を引き抜いた。それは黒曜石の鏃ではなくて鉄のそれだ。
 胸甲を付けた軍隊崩れの野盗に向けて手早い動きで射ち放つ。

「おおっ」
「叫んでる場合じゃねえ。ずらがるぞ!」

 どうやらこの眼帯は、いざという時のために夜眼に慣らす目的もそのひとつだったらしい。
 厨二病をこじらせたファッション眼帯だなって思っていたが、ごめんなさい。
 駆け出したニシカさんの後をすぐにも追う。
 足をもつれさせながらも倒れるわけにはいかない。二度、三度と振り返って集団がこちらに迫って来るのが見える。
 もうすぐだ。もうすぐマリたちの伏せている場所にたどり着くはずだ。
 そこまでくれば特大のようじょビームが連中をまとめて炎の暴力で焼き払ってくれるはずだ。
 だから俺もニシカさんもここまでくれば足を止めずに、とにかく走る事に集中した。
 殺気がもうすぐ背中のそこまで迫っている事はわかっているが、立ち止まらない。
 そして目印にしていた大きな岩がある場所までたどり着いたとき、

「シューターこっちよ!」

 ブッシュの中からそんな声がして、ニシカさんは迷わずその中に飛び込んだ。
 俺もあわてて剣を取りこぼしそうになりながらそれに続いた。
 続いて、その後に頭から受け身を取りながらブッシュの中に身を隠した瞬間、ッワクワクゴロさんの末弟ッジャジャマくんと野牛の兵士タンスロットさんが、ロープを木の幹ごしピンと張り巡らせたではないか。

 もんどりを打って倒れる男たちの悲鳴と防具の擦れる金属音がしたかと思うと、月の無い夜の闇の中に太陽が出現した。

「フィジカル・マジカル・どっかーん!!!!!」

 ようじょが特大の炎の魔法を現出させたのである。
 策は成ったと俺は喜んだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ