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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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祝クリスマス記念SS 鱗裂きかく語りき (※ 挿絵あり)

メリークリスマス。

 それじゃあオレの相棒の話を聞いておくれよ。

 なあに、相棒つったってさほど長い付き合いがあるわけじゃねえンだが、あいつは強いのなんのってそりゃ頼りになるぜ。
 名前はシューターって言うだろ。意味は弓使いという古い言葉なんだってな。
 けど笑っちまうぜ? あいつは弓がど下手なんだ。
 猟師の癖に弓の練習をひとつもやらないものだから、鹿を狩るのに仲間たちと森に出かけた時も、ひとりだけ矢を外しちまったんだ。
 情けないもんだろう? あいつの嫁だってその時は鹿の尻に矢をぶちこめたんだぜ。

 けどよう。
 そんな奴のどこが強くて頼りになるんだって思うだろ?
 シューターの野郎は、棒切れ一本で相手を制圧しちまうんだ。
 それがもう魔法みたいなもんでな、ちょいちょいと振り回して見せると、足をかけて転がして見せるわ、したたかに打ち付けて昏倒させてみせるわ。
 あいつはたぶん長い棒を持たせていたら最強だね。
 嘘じゃねえ、今度機会があったら勝負してみな、お前さんがどれほど強くてもたぶん瞬きする間に半殺しだぜ。

 やめとくって? 
 そりゃそうだな、芸術家の腕が折れて後遺症が残ったら大変だ、やめときな。アッハッハ。

     ◆

 オレが用便を足しに草むらに踏み入った帰り道の事だ。
 この辺りは山の中とは言っても少しは開けた場所で、街道から少し外れた場所あたりにオレたちサルワタの人間はキャンプを張って野営をしていた。
 帰り道からでも幾つかある焚き火の明かりが見えていたのだが、あれじゃあオレたちのいる場所を触滅隊の連中にわざわざ教えてやる様なもんだなと、ついついそんな事を思った。

 野郎(シューター)の話じゃ、わざとそうしているらしい。
 ここはまだオコネイルの領内だから、ここで襲撃を受けたとしても妖精剣士隊がいるのであれば挟み撃ちに出来ると踏んでいるらしいんだ。
 けどそう上手くいくのかどうか、オレ様には甚だ疑問だったね。
 何しろ触滅隊の連中がどこから姿を現すのかわかんねえんだから、オレたちを餌にして獲物をおびき寄せても、ハンターである剣士隊をいい場所に伏せておかなくちゃ囮をやる意味がないってもんだ。
 むつかしい事はオレにゃわかんないが、少なくともオレがリンクスなら、簡単に餌だけかっさらって逃げるぐらいはわけないぜと思ったもんだ。

 すると気が付いたことがあった。
 試しにどういう風に自分なら奇襲をかけるのか考えて草むらの中を静かにうろついていると、近くに何かの気配を感じたんだよ。
 それこそ最初はリンクスか何かの動物の気配かと思ったんだが、どうもそうじゃねえ。
 捕食動物にしては色々とマヌケな奴で、やれ枝をパキパキと踏んだり、土をほじくり返す様なジャリジャリと音を立てる歩き方だ。
 そいつが気付いていないのをいい事に後をつけてみるとな。男のケツが見えるわけだ。
 いや別に半ケツで歩いているわけじゃないぜ? 腰をかがめて低い姿勢で、風向きの下手に移動しながら野営に近付いているわけだ。
 見た目はどこぞの農夫みたいな格好だが、農夫がこんなところを夜中にうろついているのはおかしい。

 ひとついい事を教えてやるぜ。
 人間な、何かに集中している時は周りが見えなくなるだろ。前だけに意識が囚われてるんだよ。
 してみるとだ。こいつは獲物の状況がどうなってるのかと、熱心に俺たちの仲間を観察している。
 そしてどうやらこの男、仲間も引き連れていないらしいな。
 猟師は単独で狩りをするのも結構だがお前は猟師じゃねえ、山賊だ。
 仲間がいるのなら、仲間と行動を共にしなかったのはいただけねえ。ふたりでペアの行動をしていれば、背後にも気を付けていられたのにな。

 オレはしばらくその男の様子を観察した。
 ひとの事に難癖をつけておいて、自分がケツを気にしていないのでは問題なので、もちろん背後はしっかり確認だ。
 ばっかおめぇケツってオレ様の尻の事じゃねえ。助兵衛な眼で見てたら眼帯暮らしにしてやるぞ!!

 まあその男がとった行動は単純だったね。
 草むらの中をごそごそ移動して、いい獲物はいないのか見て回るホラアナライオンみたいな仕草だ。
 ホラアナラインというのは獲物を集団で襲うやつらだからな。最初に斥候がそれを見つけると、仲間を呼んで囲むんだ。あれとやり方が似ている。
 熱心に女の数を数えていたからよう。やっこさん、ニヤついた助兵衛顔で引き上げていったぜ。しっかりと顔も確認したね。
 シューターの嫁さんどもを頂く寸法だよ。
 何も知らないというのは哀れだね、野郎は自分の嫁たちとキャッキャ楽しそうにさえずりあっていたのさ。
 あいつはキレると手が付けられねぇ様な蛮族だからな、オレ様の事を「黄色い蛮族」などと小馬鹿にしてくるが、どっちが蛮族だってんだ。
 前なんか野牛のダルクを嫁取りする時はよ、兄貴の族長様を半殺しよ。
 しかもカサンドラが出来の悪いマイサンドラの弟に手籠めにされた時なんかは、尋常じゃなかったね。
 迷わず喉笛をこう、ひと突きよ。死ななかったのが不思議なもんで、飛龍殺しのオレ様でもちびりそうになっちまったね、あれは恐ろしかった。

 ああ話が脱線しちまったな。
 ビールをおくれよ、オレぁこの発泡酒が大好きなんだ。
 これも野郎(シューター)との思い出ばなしでな、あいつと呑みにいった時はじめて口にしたんだぜ。
 だがそれは次の機会だ。シューターから金を巻き上げて酒樽を頂いた時に、続きな。

 助兵衛顔の斥候野郎が引き上げていくのを見て、オレはちょっぴり悩んだんだ。
 何がってそりゃお前、このまま付けていくのか誰かに知らせるかだ。
 大きな獲物を狙う時は、ひとりでやるのは出来るだけ避けるってもんだ。
 ワイバーンだってそうなんだぜ?
 オレはこれまで猟師になって冬を迎えた数だけ単独でワイバーンを仕留めて来たんだがね、何も好き好んでそうしていたわけじゃねえ。
 一匹狼を気取るとロクな事にならねえんだ。カサンドラの親爺がそうだった。
 ユルドラのおっさんは腕のいい猟師に間違いなく、多分腕だけならオレ様よりよかったはずだが、おっさんはおっさんだった。齢には勝てねえ。
 オレだっていい相棒がいたら、これまでだって間違いなくペアになる事を選んだね。
 そしてオレには今は相棒がいるわけだ。ああ、シューターのこった。

 それで野郎を呼び出すか、それとも先に助兵衛顔の斥候野郎を付けるべきか迷ったんだが、たまたま黒い同胞が目に留まった。
 ああ、ベローチュとかいうオコネイルの旦那んとこからもらってきた奴隷だ。
 あいつは見てすぐにわかる様な戦士の訓練を受けたいい人材だ。本当ならオレがもらって育ててやろうかと思ったんだがシューターが助兵衛心を出したもんだから嫁候補よ。
 けど黒いのがいるなら連れて行こうとオレは思ったわけだ。あいつがいた妖精剣士隊というのはオレ様をぶっ飛ばした癪に障る連中だが、たぶん斥候の訓練も受けてるしこういう時は使えるとピンと来たね。
 だから、草むらをうろつきながら立哨しているのを見つけたんで、背後から捕まえてやった。

     ◆

「もご、フガ。ひゃん、何するんですか」
「見回りをするのなら早く来いってんだ、もう斥候野郎が帰った後だぜ?」
「な、何をするのですか黄色い蛮族」
「蛮族じゃねえ! おい、触滅隊と言ったな。怪しい野郎がこの野営地を探りまわっていたぜ。確かめるから付いてこい」

 ちょっと待ってください黄色い同胞、とかそんな事を黒いのが言っていたが、そんなのは無視だ。
 あまり騒がしく後ろでぴいちくぱあちく言うので、山刀を突き付けて黙らせてやった。
 少しばかり斥候野郎が去ってから時間があいちまったが、そこは問題なかったね。

「見た目が農夫みたいな格好なら、言葉通り農夫かもしれませんよね」

 当然考えうるだろう疑問をベローチュは口にしたね。
 別にオレを疑ってかかっている様な口ぶりじゃなかったんで憤慨する事も無かったがね、あれは色々と可能性を探っている時の独り言みたいなもんだ。
 シューターもよくやってるが、野郎はおっぱいとかケツとか俺の奥さんとか、そんな事しか言わねえからな。

「その可能性はあるが、そいつを確かめるために後をつけるんじゃねえか。お前はどっちだと思う?」
「その口ぶりだと、ニシカさんは触滅隊の斥候だと決めつけているみたいですが」

 だからオレはあれが農夫のわきゃねえと思ったんだが、内心ではこの女も同意していたという事だ。
 そこのところを正してやると、黒いのは暴露した。

「お前はそうは思わないのか?」
「すごく、怪しいと思います……。自分らが二年間ずっと掃討作戦をやってきたんですが、ひとつも尻尾を掴む事が出来ませんでした。何か見落としがあるからなんじゃないかと、オコネイルさまも考えていまして。昨日もそういう可能性があるんじゃないかと、シューターさまとニシカさんを拘束してしまいました」
「その事はこの際どうでもいい。だが、オコネイルさんも何を考えてお前をシューターのところに送り込んできたんだ。どう考えたってわざわざ奴隷に志願してくるなんておかしいぜ」

 斥候野郎の足跡をたどってゆっくり移動している時に、そんな会話をしておいたのさ。
 距離もかなりあるのがわかったしな。逆にこっちは風下だから離れていても相手の動きが微かにわかる。

「シューター卿に大変失礼な事をしたお詫びですよ」
「そんなもん誰が信じられるかっていうんだ。本当は裏があるんだろ。ん?」
「…………」

 言っちゃあ何だがシューターは顔は人並みで嫁さん持ちだ。嫁さんもオレの幼馴染カサンドラに野牛の娘、けもみみに村長さまと来たもんだ。これにガンギマリーが婚約者とくれば、今更こんな男に嫁いだところで、旨味があるはずもないからな。
 考えれば誰でもわかる事だ、明らかに怪しい。

「貴族の結婚とは、親や上司が決めるものです」
「そうだろうな、オレの村でも一緒だぜ」
「田舎の村と一緒にしないで頂きたい。自分はこれでも王都出身の騎士の娘ですよ」
「どっちも一緒だろうがおい、結婚は上のモンが決めるのが普通の事だ。してみるとやっぱりオコネイルの旦那の命令だったんだな」

 オレがきっぱりそう言ってやると、ベローチュは草むらを静かに歩きながら考え込んでいたね。

「はい、それはもちろんあります。しかし奥様もたくさんおられる方ですし、嫁にせよ奴隷にせよ、彼の元に行ったところで自分はたいして求められないだろうと考えました。奴隷から成り上がったと聞きましたし、奴隷を無下にもしないでしょう」
「打算だな」
「結婚とはそういうものなんじゃないでしょうか? 少なくとも自分ら貴族の家ではそれが当たり前です」

 その辺の事はよくわからんね。
 お前さんのところはどうだい、芸術家だって平民だろう? ならオレたちと一緒さ。
 街の人間は恋愛結婚をするのが上等なんだろう?
 何だ、自由に恋愛できるという事は、相手を探すのも自己責任って事か。
 上等じゃねえか。オレも是非そういう事をしたいものだね。村長さまはオレの結婚相手を世話できなかったので言うに事欠いて何と言ったと思う?
 貴様も猟師ならば獲物は自分で捕まえて見せろと言ったんだぞ!
 信じられねえ女だ。自分はちゃっかり再婚相手を見つけたっていうのにな、お笑いだぜ。
 あ、これはナイショだかんな。誰かに言ったらぶち殺してやるから覚えておけ。
 そいでちょうどその話になったんだよ。

「そういうニシカさんのお相手はどうなんですか」
「村長さまは結婚相手を世話しやがらないあげく、オレ様も猟師なら自分で獲物は見つけてこいと言いやがった」
「ご自分でですか、じゃあシューター卿を狙っておいでで」
「馬鹿を言うんじゃないぜ。あいつは相棒だ、それ以上でも以下でもないんだよ」
「じゃあ結婚したら人生の相棒にもなれますね」
「ばっか言ってろ」

 まったくお貴族さまは何を考えているのかさっぱりわかんねえな。
 オレ様にまるで野郎を勧めて来るような口ぶりで、こういう話をしてくるんだからな。シューターはいいヤツだがカサンドラの夫だ。あいつはオレの幼馴染だぜ?
 ハーレムは家族、ハーレムは姉妹。冗談を言うな! 
 カサンドラの事を義姉さんと呼ぶなんてのはまっぴらご免だぜ。なあおいそう思うだろうが。

 そしてある程度行ったところで会話はおしまいだ。
 オレたちは停止した。
 臭いに薪を焚いたものが混じったので、これ以上近付くのをやめた。
 オレたちの野営でも言える事だが、いち度火をつけてしばらくするとな。木の中に混じった樹液やらが蒸発して混じる臭いが風に乗って長い間滞空するんだよ。
 そうすると例え火を消した後でも風の流れをたどっていけば大体の位置がわかる。
 たぶん触滅隊はおおよそオレたちの居場所に見当を付けていたわけで、そこまで来て臭いでオレたちの場所を発見したんだろうね。
 そして逆の事をオレたちもやったんだよ。相手が出来る事はこっちも出来るってもんだ。

「これはもう村人ではないですね」
「ンだろ」
「自分もそう思います。この先までいきますか?」

 うんにゃやめとこうとオレは引き上げる方を提案した。
 村人じゃないと判断した理由は簡単だ。
 集落で使う薪は半年寝かせて乾燥させたものを使うから臭いが違う。木炭もあれは独特だからな。
 してみると、そこいらで拾った枝を使って燃やしているからこの悪臭だ。
 だいたいの位置と、人数も何となくわかったのでさっさとキャンプに戻った。
 ベローチュは育てればそこそこ使い物になると思うが、オレ様の相棒が務まるほどじゃねえからな。

「どうして踏み込まないんですか。今なら奇襲をかけられるかもしれない、この二年、自分が受けてきた屈辱を返してやる事が出来ます」
「お前ぇは優秀だろうけれど、背中をあずけられるほどの信頼があるわけじゃねえ。そういう事が出来るのは相棒だけだ」

 興奮する黒いのをなだめすかして、俺は言ってやったね。
 お前は見込みがあるけれど、野心があって見え隠れしているからな。シューターに近付いたのだって楽をして嫁なり奴隷なりの身分で収まっていられるかじゃねえのか。
 よそに嫁げば下級の貴族なんてオレたち平民と何も変わらねぇ生活だ。それよりいくらかましだろうし、オコネイルさんの命令で結婚するんだからな。

「自分は羨ましいですよ」
「何がだよ」
「もちろんニシカさんがです。シューターさまという相棒がいるんですからね、背中を預けられるなんて言われてみたいものです」
「……そろそろ黙らないとその舌を引っこ抜くぞ」

 チッ。酒が無くなっちまったぜ。
 なあおいおい、もう一杯ビールを持ってきてくれないか。
 これが最後で構わねえからよ、オレは気持ちよくなりたいんだよ。

     ◆

 オレたちが斥候野郎の足取りを追いかけていた頃な。
 シューターは呑気に馬車のソファで寝っ転がっていたわけだよ、扉を開けていいご身分さまだぜと言ってやりたくなったね。

「おい、(くせ)ぇぞ」

 事態を説明してやるのもまどろっこしくて、野郎にひと事言ってやったんだ。
 これだけ言えば察しのいいシューターの事だ、わかると思ったんだがね。でも駄目だった。
 オレの説明が短すぎたんだろう、それどころか野郎はとんでもねぇ失礼な返事をしやがったぜ。

「ウンコの臭いかな?」
「違うそっちじゃねえ! 怪しい奴が野営をこそこそ見張っていたから、ベローチュと付けて来た。したら生乾きの枝を焚いた臭いがこの先で充満していたぞ」

 さすがにこれだけ言えば寝ぼけた野郎にも伝わったぜ。
 何しろオレたちは相棒だからな、そのあたり阿吽の呼吸というのがあるんだ。何?
 半年足らずでそんな事がわかるかって? もちろんわかったさ、あいつはオレの言葉を聞いたとたんに真面目な顔つきになったね。女の胸やら尻を見て喜んでいる時とはえらいギャップだ。

「シューター、この野営は朝方たぶん襲われるぞ」

 あいつの反応は早かったね。やはり俺の相棒が務まるのかシューターだけだ。

「わかった。みんなを起こしますか? 守りを固めて待ち構えよう」
「いやそれはやめておいたほうがいいな、単純に相手にオレたちが待ち構えているとバレちまったら、ここじゃない別のどこかで襲われる事になる。こっちから先制攻撃をかけないか」
「じゃあどうするのがいいんですか」
「お前とふたりだけで奴らを釣り出してやればいい。こっちがふたりしかいないとわかれば、あわてて数を頼みに出てくるだろうさ。そこで罠の張っている場所まで引っ張って来るんだ」

 これは冬にオレたちがワイバーンを仕留める時に使う狩りの手法だ。
 ワイバーンみたいな空を飛ぶ獲物を捕まえる時は地上に引きずり降ろさねえと話にならないからな。
 そこで餌で釣ってサルワタの森の中に下ろしたら、木々の多い場所に引き込んで、ワイヤーやらトラバサミやらを使って怪我を負わせるのさ。
 ワイバーンは賢いぜ? 何せどいつもこいつも魔法が使えるからな。
 そこらへんの人間なんざ魔法も使えないんだから、そこをいくと雑魚みたいなもんだ。触滅隊は空を飛ばねえ。

「やりようはあると思うんだがな。待ち伏せ場所まで引き込んでしまえば、後はお貴族さまの妖精剣士隊さまの出番だ。ん?」

 オレとお前なら出来ると思うぜ。春に村を襲ったワイバーンの抜け駆けをやってのけたじゃねえか。
 野郎にそう言ってやったら渋い顔をしやがったが、しばらく考え込んでわかったと言ったね。
 今までだって受け身で過ごしてきたから、オコネイルのおっさんは触滅隊にやられたい放題だったんだぜ。
 だから今度はこっちから仕掛ける出番だ。
 念のためにエルパコとガンギマリーを呼んでな、使える人間だけ呼んで待ち伏せをさせる事にした。
 猟師が森の中で頂点捕食者でいられるのはな、常にこちらが主導権を握っているからなんだ。
 触滅隊にそれを奪われる前に、こちらがやればいい。

 それで来た道をまた戻ってシューターの野郎を案内してやった。
 あいつは戦士の訓練を受けていただけあって、街のへなちょこ傭兵どもと違って文句を言わねえ。
 黙って静かについてきたさ。多少はバキバキと枝を踏んで音を立てていたが、その程度だ。風下選んで進んでいる間は気付かれることはないからな。
 それでずいぶん街道を離れたところにやってきたら、小屋を見つけた。
 猟師小屋というやつだね。知ってるか? オレや野郎もほんの少し前まではそこで寝起きしていたんだぜ。

「妙に懐かしいものを見かけた気分だ」
「サルワタの森の開拓村が恋しくなったんじゃないですか?」
「馬鹿言えよ、そんなんじゃねえ」

 連中は半分崩れかけた猟師小屋を出入りしていた。きっと昼間の内はここで日差し避けをして仮眠を取り、今になって起きてきたんだろうな。
 小屋は半壊しているので中身は丸見えだ。
 ふたりで互いに敵の数を数えたところ、示し合わせると三五人前後というところだった。
 三五人という数が多いか少ないかわからんが、セレスタの街でお前さんがいい気になっている時にシューターは十人相手に大暴れしていたからな。
 オレはやって出来ない数じゃないと思ったんだが、野郎ここにきてビビりやがった。

「さすがに予想以上の数だと思うんですけど、どうやって連中を釣り出すんですか。接近して数人寝首をかいてこいというのは勘弁してくださいよ」
「それでもいいがよ、何のために弓を持ってきたかわかんねえだろ。オレ様の得意技を言ってみろ」
「一撃必倒の強弓ですからね、よしそれでいこう。近づくやつは俺が排除すればいいんですね」

 物分かりがいいのは助かるね。ッワクワクゴロじゃこうはいかねえ。

     ◆

 手始めに、小屋の外で見張りについているヤツを狙う事にした。
 ちょっと他の連中と距離が離れていて、気付かれるのに時間がかかりそうだったからな。
 だいたい目標と俺たちは、五〇歩離れた程度の遠さだ。普通に狙ってだいたい当たるが、風の魔法なら部位を狙ってしっかり射抜ける。

「ニシカさんあいつをやる」
「わかったぜ。他の連中が動かないか見張っていくれ」

 それで一射必倒よ。説明が短すぎやしないかって?
 そりゃお前ぇそれは弓なら一撃だからな、説明のしようがないんだ。
 けれども少しだけ細かく言うとだな、立ち止まってあくびをしたところを狙って肺臓を射抜くんだ。声も無く倒れてそのうち死ぬ。
 同じ事を二度くり返して小屋から離れているヤツは始末した。そうこうしているうちに連中が騒ぎだしたのよ。
 そしたら今度は触滅隊を吊り出す番だ。
 騒いでいる連中は蜂の巣をつついた様に偉い騒ぎだ。これはいちいちこの距離から狙って射つのは難しいからな。わかりやすい様にこっちの位置暴露をしておきながらひとりにとどめを刺しておいたら、みんなそろってこっちに駆けてきたぜ。
 夜だからな、連中は松明を持っているからわかりやすい。
 逆に俺たちは魔法で反撃をしながら、仲間の待ち伏せしている場所までうまい事ひっぱっていったんだよ。

 まあ途中で相手も大人数だから、追いついたやつがいてね。
 それはシューターさまさまに任せておけば安心だ。
 距離のあるヤツは俺が暗闇からサクっと射抜いて、側まで来たヤツは野郎が剣でバッサリよ。
 これで距離を稼ぎながら、信号笛を打ち上げてやった。
 キーンと空で音をがなり立てる、鏃が笛になった矢なんだが、遠くの仲間とやり取りする時に使い分ける。
 オレの信号笛を飛ばしてすぐにでも誰かが別の信号笛を使いやがった。それが二度あった。
 たぶんはじめのはけもみみだろうぜ。それからずっと遠くで鳴ったのは、カサンドラが野営で飛ばしたものだろうな。
 これのどちらかが妖精剣士の連中に聞こえていれば、問題なく包囲網が敷けるからな。
 ああ、安心しな。信号笛は犬の耳にもよく聞こえるから、妖精剣士隊が犬を連れているのを知っているからカサンドラたちも使ったんだ。
 わけもなく使ったわけじゃないし、そもそも大混乱の触滅隊さんもそんな事にまで気を使っていなかっただろうね。

「ニシカさん、キリがないぞ!」
「弱音を吐くんじゃねえ、矢はまだ十分にあるぞ!」

 あの馬鹿はよう。仲間を伏せている場所まであとどのくらいあるんだと聞きたかったんだろうぜ。
 けどそれを触滅隊の前で言ったらおしまいだからな。
 少しは変な説明になったが、言いたい事は伝わったろうよ。
 そんでようじょがいる場所まで引っ張ったら、オレたちの大勝利というわけだね。
 何しろ初級の魔法を使える人間だけでもガンギマリーにハーナディンがいる。けもみみのヤツは使えねえが代わりに弓が使えるしな。
 そこに特大の魔法が大好きなようじょが隠し玉にいるから、連中を皆殺しにするのはあっという間だったぜ。

 まあ、それでも生き残るヤツはいるもんだね。
 残りの連中は妖精剣士隊が追撃をしてくれたんだが、どうにも後に残って殿(しんがり)をするのがひとりいたんだ。
 この時に一番貧乏くじを引いたのは、オレ様の相棒だったんだがな。

 ニコラとかいう、触滅隊の副隊長をしているヤツがとんでもなく強いバケモンでよ。こいつがオレ様の弓を弾き飛ばすわ、魔法は掻い潜るわで往生したんだ。あいつはマトモな人間じゃないね。
 たぶん冒険者のカムラの旦那よりも強かったと思うぜ。
 そりゃもうお前、強くてヤバいヤツが出てきた時はシューターの担当に決まっているだろう。
 ガンギマリーも加勢に行こうとしたが、下手に手を出したらシューターが危ない。だから山の中を走り回って殺し合いをしていたふたりを、決着がつくまで遠くから見守るしか出来なかったわけだ。
 もちろん最後は倒したぜ!
 そこんところを聞きたければ、シューターを捕まえて聞くんだな。
 おい、どこに行くんだよ。話はまだ終わってないだろう!

 チッ。小便ぐらいその辺に垂らしておけばいいんだよ。
 なあ兄ちゃん、頼むぜ後生だから最後の一杯。な?
 オレは今晩最高に気分がいいんだ。頼むぜおい……

 ヘイヘイヘイの野郎はどこに行ったんだ。酒持って来い!

     ◆

 誰かがオレ様の眠りを覚まそうとしている。
 せっかく気持ちよくなって幸せ気分を味わっているのに、ちくしょうめ。
 肩をゆするのをやめておくれよ、気持ち悪いじゃないか。
 水をくれ……

「まったく、誰だニシカさんにこんなに酒を飲ませたのは!」
「……もう誰にもオレ様は止められない」
「止まれよ、というか止まってください。あとそれは水じゃないですからね」

 手元にあった小樽を口に運んだら、ビールだった。
 不味い。しかも樽底に残った麦粕が口のまわりにへばりつくので痒い。眼をこすった次は唇をこすったらズレたアイパッチがテーブルに転げ落ちたので視界がよく広がった。
 不景気な顔が上等な服を着ている様な男が、オレ様の顔を覗き込んでくる。あんまり見るなよ照れるじゃないか、オレを酔わせてどうする気だい?

 眼の前にはシューターの顔があった。

「よう相棒、景気はどうだい。オレは気分が最悪だぜ」

 今はいったいどれぐらい時間がたったんだ。宿屋の食堂には誰もいねぇ。
 あのインチキ芸術家野郎のヘイヘイヘイはどこに行った?

「そうだろうな、とりあえずニシカさん部屋に戻りましょう。風呂に入るのは明日にして、水飲んで寝てください」
「駄目だ足がいう事を聞かねえ、連れてってくれ」
「嫌ですよ。前にもこういうことがあったんだ、ギムルさんと浴びるほどを酒を飲んであんたを部屋まで運ばされた」
「シューターの顔を見たら、とたんに安心したのか力が入らなくなったぜ」
「うまい事を言ったって駄目だ。奥さんに見られたらとても嫌そうな顔をして後で責められる身にもなってくださいよ」

 野郎、呆れた顔をしながらも肩を貸してくれたね。
 でもおい、そこは抱き上げてくんねえかな。あちこち階段に足をぶつけて痛ぇんだ。
 おうサンキューだぜ、そのまま部屋まで運んでくれ。おっとゆっくり頼むぜおい? 揺れると気持ち悪いんだ。
 意識が飛び飛びになりながら階段を昇っていき、気が付けば部屋の前にたどり着く。
 何だか中に入るのに時間がかかっていたが、どうしてオレは廊下に放り出されなきゃならないんだ。
 早くしてくれオレ様は眠いんだ。あと水をくれ……

「ほら、着きましたよ。ブーツをどうにかしてください」
「脱げねぇ……」

 オレがじたばたして見せると、野郎はあっさりブーツを脱がせる手伝いをしはじめた。
 悪いとは思っているんだが、こいつは出会った時からそうだった。
 オレ様が無茶を言っても聞いてくれるところが気持ちいいね。ワイバーンもそうだったし、触滅隊の時もそうだ。他の奴らじゃ背中を任せられねえが、こいつなら安心だ。
 何しろオレ様の相棒だからな。

「よかったですね今日のところは部屋ひとりで独占出来て。ベローチュがいたら酒臭くて苦情が出ていたんじゃないですかね」
「奴隷の分際であの黒いのはどこいったんだ?」
「隣の部屋で寝てますよ、もともとあんたが泊まるはずだった部屋だ」
「じゃあここは何処なんだよ、お前の部屋か? まさかこのオレを手籠めにするつもりじゃねえだろうな」 

 シューターは少しの間だけ驚いた顔のまま固まっていた、助兵衛な顔をしてオレにこう言った。

「それは結婚の約束してからのお楽しみって、決めてるんですよ。その気になった時は言ってください」
「じゃあ一生そんな日は来ないぜ」

 フン、気を使わせちまって悪かったな。
 ありがとうよオレの相棒(あいぼう)。いつかその時のためにまあ考えておくぜ。


http://15507.mitemin.net/i175473/

挿絵(By みてみん)
イラスト提供:猪口墓露マテルドさん
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