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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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124 天秤棒が無ければあぶなかった

本編再開です。よろしくお願いします!

 五人の男たちを相手にして、俺は剣を構えながら相手の様子を探った。
 同時にパンストライクとその一味たちもまた、自らの剣や武器を片手に広く散開しながら俺を攻撃する隙を付け狙っているのが分かった。
 なかなか周到な具合で、剣を素人丸出しに気取って構える様な事はしない。
 つまりコイツらはかなり場慣れした連中ってこった。
 それが証拠に、剣を正面構えに持つんじゃなくて腰だめにして突き刺す様な姿勢だった。
 棒切れをもった連中についてはその半歩下がった位置で、彼ら突き込むつもりの連中をサポートするように位置している。

「大人しく降参する気がないのなら、ここで痛い目にあってもらったほうがいいな。おい野郎ども手加減するな」
「「へいっ!」」

 パンストライクを含む剣が三人で棒切れがふたり。
 リーダーの言葉を聞いた連中たちが、ジリジリと距離を詰める様に足をにじりよせている。
 掌をナイフで貫かれた男は、這いずる様にしてそのいくらか後ろに逃げている。
 俺はどうすべきか。
 武器は右手にサルワタの開拓村で新調した刃広の長剣であり、これは荒々しく振り回しても簡単に折れる代物じゃない。
 左手は、例の掌を刺されたスリの男を脅すのに使った短剣だ。

 つまり二刀流!

 むかし俺は二刀流の役をいつかやりたくて、斬られ役仲間たちと熱心にその二刀操法を研究した事があった。
 見た目からしてかなりの厨二病成分たっぷりのスタイルだが、実際にはかなり扱いが難しいのである。
 何しろ本来は両手で構える事を基本にしている剣を片手で振り回すのだからな。
 筋力も相応に求められるし、攻守のバランスが肝要なのでその分スキも大きく出来る可能性があるのだ。

「野郎ぶっ殺してやる!」

 だから相手の攻撃は出来るだけ回避する様に努めるか、受け流す。
 じれて唐突に飛び出してきた敵のひとりを、俺は体を入れ替える様にして避けながら長剣を振るった。
 受けに徹したうえで二の手を長剣のひと振りでけん制して、左手の短剣か別の敵が飛び込んできた時の構えとするのだが、

「ちょこまかと!」
「死ねや!」

 次々と連携の取れた敵がふたり目、三人目の突貫を繰り出してきたのだ。
 黒っぽい三連星かよ!
 俺は慌てて振り広げた剣を引き付け気味に構えて、くるくる体を入れ替える様にして避けた。
 三人目はパンストライク本人の突殺を狙った一撃だったけれども、辛くも脇腹あたりを斬りかすめられながら避ける事が出来た。
 じわりとヒリヒリする感触が伝わる。

「お貴族のボンボンかと思ったら、お前ぇ騎士の心得でもあるのかっ」
「うるさいよ、戦闘中は黙ってろ!!」

 突きに徹する連中に苛立ちを感じながら、俺は出来るだけ壁を背にするように剣を振り回してけん制した。

「お頭、揉め事ですかい?!」
「おうお前ぇら、いいところにきたな! こいつをブチのめしてやろうってところだったんだ」
「何かやらかしたんですかコイツ」

 突然割って入った声の方向を見たら、さらに数名の悪相浮かべてそうな男たちの姿が見えた。
 ここからは中途半端に暗がりで顔まで確認は出来なかったけれど、悪党は悪党面をしているに決まっている間違いない確信。

「このお貴族さまぁ騎士か何からしくってねえ、俺たちも手こずってたのよ」
「だったらいい身代金が取れるってもんで、ボコボコにして金儲けといきましょうや」

 ざっと見たところ増えたのは五人、全部で十人!
 いったいこんな小さな街に何人の悪党がいるんだよまったく。
 これ、勝てるのかね?

「おらよそ見してるんじゃねえよ!」

 側面からいきなり飛び出してくる敵に、俺は慌てた。
 それも次々にだ。やってられねえ!
 体当たり気味に突きを繰り返してくるこの連中、かなり場慣れしているので恐れ知らずに飛び込んでくる。
 そのうちのひとりの肩をどうにか長剣を振り回してばっさりとやってやったが、それを見ても他の連中は体を張って、次の体当たり。
 捌きながら肩で押し返してやると、またパンストライクが迫っているのが見えた。
 やばいと思った時には大きく振り込んできたパンストライクの一撃が目の中に飛び込んでくる。

「ぐおっ」

 完全に油断していたぜ。
 相手は必ず突きで攻めて来ると思っていたら、パンストライクの一撃が俺の目の前をすくう様に斬り上げたのだ。
 安っぽい麻布で出来た貫頭衣がバッサリ斬りめくられて焦ってしまう。
 俺もあわてて短剣を突き出してパンストの肩口に刺し込んでやったけれど、また次の瞬間には棒切れを持った別の男が飛び込んでくるじゃないか!

 蹴り飛ばして背後を見れば、また突きを見舞ってくる男がいる。
 辛うじて長剣でその剣先を叩き落してやったのに、それが下にずれたと思うと、そのまま俺の股間の下を突きやがった。
 やめて、息子の将来はまだ始まったばかりなの!
 ギリギリで体を切り刻まれずに済んだが、あわてた瞬間にパンストライクに刺した短剣を手放してしまった。

 絶体絶命である。
 手放してしまったものはしょうがないので、俺の股間を刺そうとした男の髪を左手でつかんでこいつを盾にしながら、次々と襲ってくる連中の攻撃を凌いだ。

「ぐわっ! やめてくれ俺は仲間だっ」

 盾にされたそいつは味方に必死で懇願したけれど、そんなものは俺も連中も聞いちゃいねぇ。
 ぶすぶすと刺されたこいつをパンストライクに付き返してやると、俺は改めて肩で息をしながら連中を睨み付けてやるのだった。
 最悪だ。こいつらヤクザだ。
 こいつら死ぬのも覚悟で肉薄してくる(俺に盾にされたヤツは情けなく懇願していたが)ので、普通の試合や戦闘をする時の間合いを簡単に崩されてしまい、俺はとてもやりにくい。

「いい格好だな、ええおい?」
「あんたのせいでこうなったんだがね。裸一貫でここまで来たのに、ズタボロにされて振り出しにもどっちゃったじゃねえか」

 俺はパンストライクに指摘された。
 気が付けば体中をズタズタに切り裂かれていたらしく、ズボンなどはいつの間にかずり落ちていた。
 しかも貫頭衣は貫頭衣じゃなくなって、胸開きのシャツの出来上がりだ。
 股間も破けているのでぱんつ丸見えだぜ。

「それならいっその事、全部脱ぎ捨てちまったらどうだい? お貴族の旦那よう」
「くっくっく、ザマァない格好だぜ」

 笑われてムカッ腹が立った俺は、言われるまでもなくそうするつもりだったのでボロ布と化した貫頭衣を引きちぎって、ズボンも引き裂いた。

「いいぜ。俺はこれで全裸だ、どこからでもかかってきやがれ!」
「野郎ども、もう手加減無用だ。生きていればそれでいい、死にぞこないにしてやれ!」

 覚悟を決めて連中の渦の中に飛び込もうと剣を肩担ぎに構えた。
 そして飛び込む。
 相手が体当たり気味に突撃してくるよりも前に、本来の間合いを無視して乱戦に持ち込んでやる。
 長剣を水平に振り込んだ瞬間に、ひとりがのけぞって逃げようとしたところ頭を掴んで飲食店の塀に叩きつけてやった。
 その隙に背中を浅く斬られたのを感じながら、それを無暗に後ろ蹴りでぶっ飛ばしてやる。
 突きが突然俺の腹を襲った。大丈夫だ、内臓まで達する前に俺の剣もお前の腹を刺してやったぜ。
 そのまま敵の塊にそいつを放り出してやって、別のひとりを片手で袈裟斬りに捌いてやる。
 と思ったら、剣が腕からすっぽ抜けてしまった。
 だいぶ血が体から減っているらしい。
 だが俺は負けない!

「おい、お前ら人数そろえてそんなもんか! 俺の身代金で金儲けするんだろ?」

 負け惜しみじゃない。
 進退窮まったのなら、ここで意地汚く何人でも道連れにしてやろうってんだ。
 まだ空手家の武器、拳があるぜ。
 エルパコの応援まだかな……

 そう思った瞬間の事である。

「おいおい、オレ様のいないところで楽しそうなパーティーやってるじゃねえか?」
「ニシカさん?! 遅いじゃないですか、駆けつけ三杯に決まってるでしょう」
「もちろんシューターの驕奢りだよな。ん?」

 遅れて登場したファッション眼帯の女エルフは、おっぱいのついたイケメンだった。

     ◆

 颯爽と俺のピンチに登場した鱗裂きのニシカさんは、開幕早々に風の魔法で竜巻を盛大にぶちかました。

「うわっ。眼が、眼がァ!」

 そう叫んだのは誰だろうか。
 とりあえず俺じゃない事は言っておく。ニシカさんが得意にしている風の魔法で、こういう攻撃をしてくる事は予想できていたからね。
 何しろブルカの裏路地で名前の長い奴隷商人の報復を蹴散らした時も、危険な竜巻の魔法で一方的に制圧していたぐらいだ。

「シューターお前ぇ武器はどうした」
「そんなもん、戦ってるうちにどっかへ行きましたよ!」
「じゃあこれを使え!」

 投げて寄越されたのはホウキか何かだった。
 ちょうど長さは俺の背丈ぐらいある。ホウキにしてはちょっと長めだが天秤棒だと思えばいい具合の長さじゃないかね。

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 剣よりも天秤棒。一体多数で戦うならばこっちの方が圧倒的にリーチもあるし、持ち手の位置をかえれば縦深の長さも調整できる。
 俺は暴れた。

「見てないで何とかしろ!」
「し、しかし砂埃が舞っていて」

 焦る連中のひとりに棒先を突っ込んでこかしてやると、そのまま柄の端を持ってロングリーチで振り回してやった。
 みんなが慌てて避ける瞬間に駆け出した俺は、すぐにもニシカさんと合流する。
 彼女はいつもの山刀(マシェット)を片手にして、俺の背後を守る様に背中を預けてくれた。

「いつもの切り裂き風は使わないんですか」
「ばっかお前がいるから使えなかったんだろう。乱戦の時はこっちの方がいい!」

 酒臭い吐息が俺のあらわになった肩にふっとかかったけれど、今は酒臭い彼女の吐息も心地よい。
 ニシカさんは宣言した通りに空いていた左手をかざすと、見えない風の塊を打ち出して攻撃してきたひとりの顔にぶち当てた。
 次の瞬間には俺も呼応して飛び出して、とりあえず目の前の連中を打ちすえてやる。

 それからの乱闘は圧倒的だった。
 やはり味方がひとり駆けつけてくれたという安心感は俺の戦う意思を補強してくれたし、ニシカさんも猛獣を相手にサルワタの森で頂点捕食者をやっていたようなアブナい女だ。
 躊躇なく相手の腹にマシェットを刺し込むし、隙があれば首根の動脈をすいと削いでやる恐ろしい事も平気でやってくれる。
 おかげで十人いた連中はあらかた制圧されるか、息も絶え絶えに片膝を付いているという有様だった。
 死んだ奴も転がっている男たちの中にいるだろう。

 俺も体中あちこちを切り刻まれ、ホウキの先端もカットされてしまった。
 だが生きてる。
 生きていて、ホウキは天秤棒にクラスチェンジしていた。
 天秤棒がなければ危なかったぜ……

「あ、ありえねぇ。鉄火場(てっかば)慣れした俺の手下たちが、こうもあっさりとやられるなんて……」
「そりゃお前ぇ、この男はサルワタが誇る全裸最強の戦士さまだからなぁ。残念だったな、相手が悪かったぜ!」

 鱗裂きのニシカさんは、何が嬉しいのか悪党のリーダーに大笑いしてみせると、元ホウキの天秤棒でギリギリ姿勢を維持していた俺の背中をバシリと叩きやがった。
 痛ぇよやめろ!

「大丈夫かおい」
「あんたが叩いたから転げそうになったんですよ!」

 血が足りなくてふら付いている俺を支えてニシカさんが腕を回してくれた。
 大きすぎる胸が俺の地肌に密着したけれど、今は喜んでいる場合じゃないね。
 聞くべきことを聞き出しておくべく、俺はパンストに向き直った。

「あんた、パンストライクさんと言ったか。裏の世界に詳しいんだったら、この先の街道の事を聞かせてもらいたいんですけどねぇ」

 ピッピッピー!
 だがその瞬間に俺の質問タイムは終了した。
 気が付けば呼び笛か何かの不愉快な高音が夜の繁華裏に響き渡り、俺たちは困惑する。
 するとドカドカと完全武装した法衣っぽい羽織姿の黒い男たちが飛び出してきたではないか。
 頭はキノコみたいな連中だった。人間か?

「おい新手かよ。この街に悪党は何人いるんだよまったく」
「いやわかりませんねえ、とりあえず様子見で」

 あっけにとられているとその黒いキノコ連中が剣を引き抜いて俺たちを包囲する。
 ニシカさんはいつでも風の魔法を発射できるようにと身構えていたけれど、どうやら大丈夫そうだった。
 新手かとも思ったが、どうやら服装からして騎士か従士という感じだったのだ。

「我々はセレスタ男爵オコネイル卿の直轄部隊、妖精剣士隊だ! 大人しく武器を捨てろ!!」

 パンストライクも残った一味も大人しく武器を放り捨てると、両手を上げて万歳だ。
 助かった。
 エルパコが走り回ったのだろうか、官憲のみなさんがご到着したのである。
 いい気になって悪党どもの顔を睥睨していた俺に、

「貴様、我ら妖精剣士隊に逆らう気か!」

 え? 何で俺?
 そう思った次の瞬間、俺は黒いキノコの男に剣の柄で思いっきり殴られていた。
 俺の意識はあえなく暗転した。
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