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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第1章 気が付けばそこは辺境の開拓村だった

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15 鱗裂きのニシカとオマケ俺


「おいお前、オレに付いて来い」

 班決めをしている最中、俺はひとりの猟師のご指名を頂いた。
 その猟師は村の周辺集落で生活をしている、普段は単独で狩りをするソロハンターだった。
 名前は、ニシカ。
 紫がかった様な異世界独特の黒髪をショートカットにして活発な印象がある。ついでに言うと片眼にアイパッチをしていた。
 狩りで負った傷なのだろうか。なかなか勇ましい顔つきだが、十代の通る幼い表情もできる。
 そして黄ばんでしまった古いブラウスの上から革ベストを纏っていて、こちらも革製なのだろう、ホットパンツの様なものを履いていた。
 ただし、腕や太ももの見えるところを保護する様に、こちらも革製の手甲と脚絆を付けている。ちょっとしたガーターみたいな格好を連想するとよいだろう。
 エロいな。
 そう。
 この猟師ニシカは、女だった。
 女村長の長髪に隠れている耳も先端が尖っていたが、彼女のそれは完全なる長耳というやつだった。

「それはもしかして俺の事かな?」
「他に誰がいるよそ者の戦士。あの左翼を割いたのはお前だろう」
「はあ、そうですが」

 腰に手を当てた猟師ニシカは「お前変なやつだな」と言った。
 その瞬間にベストをおもいりき押し上げていた胸がばるんと揺れた。
 でかい確信。

「いいか、抜け駆けするぞ」

 猟師ニシカは俺にすっと近づくと、そう囁いたのだ。
 彼女のプランはこうだ。
 今、手分けして班決めされた捜索隊は、放射線状にサルワタの森へと入る予定だ。
 水先案内人は地元の人間たる村の猟師であり、土地勘のある彼らを先頭に四、五名で森に入るのだ。
 武器はこの際、新兵器が投入される。スパイクと呼ばれる、大型獣を仕留めるために使われる、槍の刃に螺旋状の溝が掘ってある武器だった。
 スパイクの螺旋には毒が含まれていた。抵抗して引き抜く際に、毒が肉にまぶされるという優れものである。

 これを持ち込んでいた冒険者たちに、こんないいモノがあるならさっさと出せよ! と思った。
 だがこれは重量があるので、ある程度ワイバーンが弱らない限りは使えないと、先ほどの襲撃では二の武器に指定されていたのだ。
 使いどころが難しく、今回こそトドメを差すために有効である。という触れ込みだったが、

「あんなものは重いばかりで使い道が無い。そんな事よりシューター、だったか?」
「はい、俺がシューターです」
「お前は武器は、何でも使いこなせるのか?」
「ええまあ大概は、槍やたぶんハルバートも、剣もそこそこなら使いこなせます」

 ただしそれらは道場剣法か殺陣のはなしだ。
 スポーツチャンバラの地域大会で優勝した事があるが、あれがせいぜい相手をチューブの(エア)剣で実際に斬りつけた唯一の経験だ。

「なら弓はどうなんだ。ん?」
「弓ですか。引き絞って射つだけならできますよ」

 ただし命中はお察しだったと言い添えた。

「それは構わなねぇ。オレが仕留めてやる」
「?」
「お前は力も強そうだから、遠くまで飛ばせ。そしたらオレが後は当ててやる」
「ご自分の弓でしょう? 俺よりよほどうまく扱えるんじゃないですかね」
「馬鹿野郎、オレは矢を導くのに集中したいんだ。速射で弓を射てそれで矢を的に当てるという作業は、想像以上に大変なんだよ。だからお前がオレの代わりに矢を放て」

 おっしゃる意味がまったくわからなかったが、俺はハァと返事をしてその場は納得しておくことにした。

     ◆

 というわけで、俺たちは抜け駆けに出た。
 先ほども言ったように追撃隊は村から放物線上を描く様に追手をかけていた。
 だいたいの方角は嫁が指示した森の左側、外れに位置する湖がある方向だと言っていた。
 なのでその方向に向かって捜索隊が放たれたわけである。

 冒険者や猟師たちは焦る必要はないと思っていたらしい。何故ならば傷を負っているワイバーンは失血でさらに体力を落とす可能性もあるし、夜になればいかにワイバーンと言えど活動が停滞するらしい。
 夜が明けると同時に追撃隊の包囲網は完成、というわけである。

「だがそんなのを待っていたら、たぶん余計に手が付けられなくなるぜ」

 意味ありげに男口調の長耳猟師娘が言った。

「何でそんな事がわかるんですかねぇ」
「お前、オレを知らないのか? オレはこの地域ではちょっと名を知られたニシカさまだぞ!」
「いや俺、よそ者なんで」
「チッそうかい。ッサキチョからは何も聞いてなかったんだな」
「というかッサキチョさんとはひとことしかお話しした事ないんですよね」

 追撃隊が隊列を整え終えないうちに、俺たちはさっさとニシカに従って森に分け入った。
 ほんの数日前までリンクスを仕留めるのに仕掛けていた罠の辺りを通過して、さらに奥へ奥へと進んでいく。
 女村長が俺たちが抜け駆けに気づいた時は、もう後の祭りというわけだ。
 俺は先ほどの遭遇戦でそこそこの活躍はできたと自負しているが、地元の猟師や冒険者たちもわれこそはと自分たちの事に集中しているはず。
 激しい攻防が予想される手負いのワイバーンへのとどめともなれば、よそ者の俺は外されるかもしれない。
 そこのところは想像でしかない。
 しかし長耳猟師娘は、深い森を分けて先々と行く。

「何か、ワイバーンの行き先がわかっているみたいな足取りですね」
「当然だねえ。この森はオレ様にとっちゃ庭みたいなもんだからなあ」
「そうなんですか?」
「当たり前だ! オレを誰だと思っている?」
「男口調のガサツな女?」
「ばっかちげぇ! そうじゃなくてだなあ」
「女だてらに猟師さんをしている気丈なところもある巨乳」
「何言ってんだお前。ちょ、何で股間隠してるんだよ!」

 からかい甲斐があったので、ちょっと調子にのってやった。
 けれども、そんなやり取りをしながらも絶対に周囲への警戒心を解いていなかったのは理解できた。俺の空手経験でそれはわかる。
 この耳長巨乳はできる。俺は確信した。

「オレの二つ名を教えてやる」

 周囲を見回しながら手槍を杖代わりに森へと分け入っていく。
 自分で二つ名とか言い出すとか、こいつは中二病でも患っているのか。アイパッチつけてるしさもありなん。などとは言わずにその先をうながす。

「うかがいましょう?」
「オレの二つ名は鱗裂(うろこさ)きってんだ。鱗裂きのニシカ様とはオレ様の事だ」
「鱗裂き、それはまた強烈な二つ名だ」

 まさか魚さばきの名人という事はないだろうから、俺はこれ以上茶化すのをやめた。

「オレはこれまでに、猟師になって冬を越した数だけワイバーンを仕留めてきた。冒険者どももなかなか経験を積んだ連中みたいだが、オレは常にそれを単独でやって来たんだ。この土地のワイバーンの事なら何だって知ってる」
「だから迷わず森を進んでいるというわけですね」
「当然ここはオレのフィールドだからな、この森である限りはオレが一番ワイバーンを上手く相手にできるぜ」

 村の中なら別だがね。
 そんな風に白い歯を見せて可愛い顔が言って見せた。

「じゃあワイバーンはどこに向かってるんですかね」
「お前の嫁が言ったろう、湖の方向だって」
「嫁! 見ていたんですね俺たちを……」
「公然と腕を組んでいる様な人間は目立つからな。イチャつくのもほどほどにするんだ」

 別にイチャついていたつもりはないのだが、俺は黙り込んでしまった。あれは嫁がたぶん周囲の人間に注目されてオドオドしていただけだからな。

 鱗裂きのニシカか。
 彼女がたすき掛けにして背中に背負った長弓は、およそ和弓なみの大きさがあった。強烈に胸元を強調しているが、胸は弓を放つのに邪魔にはならないのだろうか。

「それでその弓は、短弓じゃないんですね」
「ふん。あんな命中だけがいい弱弓でワイバーンを仕留める事はできないぜ」
「鱗も貫けないかもしれません」
「そうだ。寝ているところを一撃で射ぬくなら、この弓じゃないといけないからな」
「寝ているところを?」

 俺は質問をした。
 するとニヤリとして鱗裂きのニシカが白い歯を見せた。

「ああそうさ。知っているか、ワイバーンは魔法を使えるんだぜ」
「魔法を使えるんですか。獣なのに」
「獣だろうが、人間だろうが、世に生を受けたものなら、誰だって使える可能性がある」
「もしかしてあれですか、長生きしたワイバーンの成獣は、エンシェントドラゴンとかになるんですかね?

 そしたら人間の言葉をも理解できるようになるとか」

「そんなわきゃないだろう。馬鹿かお前は」

 手槍をグサリと地面にさして、ニシカさんは振り返った。

「ヤツらはあの巨体だろう。あれを維持するためにとんでもない大きさの獲物を食べる必要があるんだ。そのうえ空を飛べば運動量も多い」
「そうですね」
「だから、自分の体力を維持するために普段は大物を襲う」
「なるほど理解できます」

 ふんふんと俺はうなずいた。

「だから、相手に毛むくじゃらのマンモスやら、巨大な猿人間選んで襲うわけだ。当然、相手も体が大きいから自分が返り討ちにあったり、手負いになる事もある。そこで自分で治癒の魔法をかけて、傷を癒す事ができるという次第だ」

 どういう理屈かはわからないがな、とニシカさんは言う。
 ただ人間ができる事を、ワイバーンができないとも限らないとも言う。
 なるほど、ロープレゲームのボスみたいなヤツだな。
 いや考えてみればこのファンタジーな世界ではボス並の存在で間違いない。

「湖の畔に、あのワイバーンが身を隠せるサイズの洞窟がある。あそこがヤツの休眠時のねぐらだ」
「その口ぶりだと、元からあいつの事を知っていた様な口ぶりですね」
「知っているさ。オレはこの森の事なら何でも知っている」
「そうなんですか」
「ここいらの村が開拓をはじめてオレたち人間も同じ獲物を狙う様になって、ヤツらも餌が不足しはじめた。だから連中は森の外に出て来はじめた」

 だから嫁カサンドラの父ユルドラもまた、ワイバーンと遭遇して合い果てたのだという。
 ふたたび手槍を杖にして前進しはじめた鱗裂きのニシカに、俺はあわててついて行った。

「背中の弓はお前が射かけろ。命中なんて気にせず、力いっぱい放ってくれ」
「命中しなけりゃ意味が無いでしょう」
「そうだな。だからオレが魔法で、当ててやる。お前は貫通させる事だけを考えて力いっぱい引き放ってくれればいい」

 これで手柄は等分だぞ。悪い話じゃないだろうとニシカさんは言う。

「ん? 乗るか」
「乗ります。乗らせてください」
「さあ、もうすぐ湖の近くに出るぞ。風下に回る」

 たのもしニシカさんの後について、俺はつばを飲み込みながら緊張感を高めていった。

     ◆

 ワイバーンは傷ついたその身を湖畔に横たえていた。
 力なくぐるぐると時折小さな唸り声を上げているが、恐ろしい咆哮の事を思えばかわいらしく感じてしまうそれに、俺は驚いてしまった。

「翼と射かけられた眼を再生する魔法を使った後、しばらく休眠する必要がある。ただヤツらはすぐに魔法は使えない、時間をかけてそれを再生するのだ」
「時間というと、どれぐらいですかね」
「半日という事はないだろう。もっとだ。だから今が狙い目だ。明日になればあいつは回復している可能性がある。休眠に入る前がもっともやっかいだ。気が立っているからな」

 まだ、他の猟師や冒険者のグループは誰もたどり着いていない。
 ニシカさんはこの森が自分の庭先だと言った様に、地元の猟師すらも知らない抜け道を通って、ここまでたどり着いたのだ。
 ッワクワクゴロさんがリンクスを獲物にしていた様に、ワイバーンは彼女の普段から得意にしている獲物なのだ。

「よし、ここから先は会話は無しだ。お前にこの弓を預けるから、合図で打ち込んでやれ」
「狙うのはどこですかね」
「狙いは眼だ。視界が開けていて、狙いやすい場所にしよう。もう片方の眼を先に射潰して、それから肺蔵か脳髄にぶち込んでやればいい」
「……一発必中で目つぶしですか。いけますかねえ?」
「いけるかどうかじゃねえ。やるんだ」

 そう言って長弓と矢筒を押し付けるニシカさん。
 俺は黙ってそれを受け取ると、うなずき返した。

「オレは風を操る魔法にだけは自身がある。まかせな」
「今度俺にも教えてください」
「機会があればな」

 そう最後の言葉を交わすと、地べたに這いずりながら湖畔の草原を進んだ。
 ここは風下だ。
 仕留めるべき獲物に匂いで悟られないために、風下に立つ必要があるのだ。
 風下にいれば匂いだけでなく、音もまた相手に伝わりにくい。
 捕食獣はかならず風下から獲物を襲う。そして数々のワイバーンを仕留めてきた鱗裂きのニシカは、間違いなくこの森の頂点捕食者だろう。本人の弁が嘘でなければ。

 完全に腹這いになって肘と膝で前進する俺たち。
 ニシカさんはもっとも狙いがつけやすい位置に、じりじりと体を動かしていった。
 俺はそれに続く。
 遮蔽物になる岩を見つけるとそこに俺たちは身を隠した。
 矢筒から石の鏃を一本引き出した。黒曜石の鏃というのだろうか、不揃いな石を叩いて切り出した様な鏃だった。
 俺の引き抜いたそれを見て、ニシカは満足げにうなずく。
 前にッワクワクゴロさんがやっていた様に、速射に対応するためもう数本を矢筒から取り出しておく。
 岩陰に立てかけておいて、いよいよ腰を上げた。

 距離はおおよそ五〇メートルをきっているだろうか。
 ワイバーンがあまりにも巨体であるが故に、実際の距離よりもかなり近く感じてしまう。体感ではほんの二、三〇メートルではないかと思う。
 これは距離を狂わせて、うまく射手が狙いをつけられない。そんな事を考えつつ、考慮しながら矢を握り、弦を絞った。

 やれ。

 ニシカさんが手をサっと振って合図すると、俺はめいっぱい引き絞った弦を放つ。
 素人目にも弓勢だけはあるけれど、当たりそうもない矢が放たれてシュンと空を切り裂いた。
 すると、隣で何か小さく呟いた鱗裂きのニシカが、とても顔に向かっていそうも無かった矢を操ったではないか。
 いや、違う。
 矢はワイバーンの潰れた顔に吸い寄せられる様に飛んでいったのだ。
 なるほど、摩訶不思議な魔法とやらに集中したいために、俺にわざわざ弓を任せたのだ。
 狙撃班で言えば、射手スナイパー観測手スポッターみたいなものかな? いや違うか。

 ドスリと刺さった。
 いや別に音がしたわけではないが、そういう風に俺の脳が補完したのだ。
 次の瞬間にワイバーンはけたたましい悲鳴を上げると、ぐったりしていたはずの頭をもたげ、のたうちまわる。

「次だ、早く!」

 言われるまでもなく俺は矢をつがえ、また放つ。
 ふたたび空を翔けた矢が、今度もまた頭に吸い寄せられていく。
 ドオオオンという地鳴りの様な咆哮を空の王者がまき散らした。

 二本の矢のうち、どちらかは確実に眼を潰していたらしい。
 首を右、左と振りながら、見えるはずのない周囲を見回している。
 三射目を俺はつがえた。

「だいたいでいい、胴体を狙え。まだだ、オレがいいといったら。やれ今だ!」

 ニシカさんの指示に従って矢を放つ。
 三射目もまたワイバーンに吸い寄せられていった。狙ったのは肺なのだろう。
 暴れるワイバーンが都合よくこちらに腹を見せていたからだ。内腹は柔らかいのか、思ったよりもドスリとまた深く鏃が突き刺さった。

 もんどりを打つワイバーンは、やがて今までの暴れっぷりが嘘の様に、どかりとその身を横たえた。
 先ほどまで俺の側にいたはずのニシカさんは、そしてもう俺の側らにはいない。
 いつの間にか駆け出していた彼女は背中に背負っていた山刀マシェットの様なものを引き抜くと、まだ息の根のあるワイバーンの首元に飛びつく。
 大丈夫なのか、と俺は思ったが、そんな事など気にもしていないのか、一心不乱にマシェットを突き立てた。
 逆鱗、とでもいうのだろうか、そこがワイバーンの急所でもあるのか喉仏あたりに深く。

 僅かに抵抗すべく顔をもたげた空の王者も、肺を射ぬかれ眼を潰されて、空しく小さな嘆きを上げて、くたばった。

     ◆

 動脈が断ち切られたのか、すさまじい勢いで血だまりが広がっていく。
 そんな事など気にも留めていない鱗裂きのニシカは、俺に預けていた矢筒から一本の矢を引き抜いて弓を奪うと、空に向けてそれを発射した。

「今のは?」

 質問しているうちに、笛のような響きをキーンとたてながら矢はどこかに飛んでいく。

「見たまんま、矢笛だね。お前ははじめて見たのか?」
「はじめて見ました」
「居場所を教えるための、連絡用の矢だ。しばらくしたら他の追撃隊が集まって来るだろう」

 矢筒を受け取って背負いなおしながら、あっけらかんとニシカさんが言うと、向き直って先ほどのマシェットでワイバーンをごりごり解体しはじめるではないか。

「うっわきつい。臭いっすね」
「歯も磨いていない様なケダモノだからな。当然だ」

 さも当たり前の様に、ふくよかな胸を揺らしながら規則正しく腸にマシェットを差し込んでいく。
 臓器をすばやく抜き取るのは、解体の基本だ。
 ここはすぐに腐り始めるので、さっさと捨ててしまうのに限るのだ。
 それに今回は、食われた猟師たちの遺体を取り戻す必要があった。
 それにしても鱗裂きのニシカとはよく言ったもので、ワイバーンの解体が手慣れてやがる。
 時折、ぶしゃっと血しぶきが腸から飛び出して俺に飛沫がかかったが、ニシカさんは綺麗な顔を血まみれにしながら平気で続けていた。

「食うか?」
「いらねえょ」

 肉を一切れ切り落としたニシカさんが俺にそう聞いてきたが、丁重にお断りした。

     ◆

 都合、六人の犠牲者を出して行われたワイバーン戦は、これにて終了だ。
 最初の襲撃で命を奪われた三人と、二度目の襲撃で重症を負った後に死んだ二人。
 そしてワイバーンを解体した際に胃袋からゴブリンの勇者、猟師たちのリーダーであったッサキチョの遺体が見つかった。
 未消化であった事がさらに悲惨さを誘った。
 今はこの土地の風習に従って清潔な布に巻かれ、棺の中に収められている。
 何れもがこの村と近郊の集落から集められた猟師、あるいは若い労働力だった。
 特に二度目の襲撃に加わっていた村の幹部青年が死んだのは、村としても痛手だっただろう。

「終わってみればあっけないものだな」

 俺は二度目の葬儀に参列している。
 場所は共同墓地の前。今度こそ、村人たちが総出で葬儀に参列していた。
 まあ、そうは言っても手の空いた者たちだけでであるが、それでも一〇〇人を超える大人たちが集まっている。
 そして討伐に参加した冒険者らも。
 俺、嫁、おっさん。身内である三人は並んで手を合わせていた。宗教上の理由で嫁とオッサンは指を組んで手を合わせ、俺は仏教式に拝むスタイルだ。
 何に祈りを捧げようがこの際はどうでもいい。大事なのは犠牲者への哀悼の心だたぶん。
 俺は、俺たち村人のかわりになって死んでいった者たちを懇ろに葬った。
 少し離れた場所には、誰ともつるむ態度を示していない眼帯女がぼうっと立っている。
 鱗裂きのニシカだ。
 血まみれになった服を改めて、やはり黄ばんだブラウスと革のチョッキにホットパンツで、今日はハンドガードと革タイツは履いていないが、代わりにロングブーツを履いていた。もちろん誰もが紅のスカーフを首に巻いている。

 はじめて知った事だが、このスカーフの紅は、人間の血を模して染めたものなんだそうだ。
 死者の血と糧は、俺たち残されたものに受け継がれていく。
 血は次代に受け継がなければならない。そうでなければ滅びてしまうからだ。

「多くの犠牲者を出しながらも、村の民一丸となって凶悪なワイバーンを討伐できた事をわらわも嬉しく思う」

 女神と犠牲者への祈りと毎度お決まりの聖訓を述べた司祭さまに代わって、女村長がみんなを見回しながら言った。
「何が村一丸だよ。お前らなんにも手出ししなかったじゃないか」
 口の悪い眼帯女が悪態をついたその声が俺の耳にまで届いた。
 まあその通りだ。俺たちが最初の襲撃でワイバーンを仕留め損なった時は、生活の事ばかりを気にして苦情を村長にぶつけていたぐらいだ。最初の葬儀にも参加した村人はいなかった。
 村八分というのは冠婚葬祭を除き無視を決め込まれるものだ、というぐらいに俺は日本の風習から理解していたものだが、ここでの村八分は村九分九厘でいいんじゃないか。
 それでも今回撃退した事で、その中に猟師でもゴブリンでも無い、連中が思っているであろう仲間から犠牲者が出たので、集まってくれたんだろうか。

「特にこの村にとってかけがえのない猟師たちの中から多くの犠牲者が出た事は、わらわはまことに遺憾である」

 女村長は俺たち猟師とその家族の方を向いて言葉を区切る。

「先代から続くこの村の開拓は、道半ばである。ここで村にとって絶対不可欠な猟師を失ったままでは、今後の開拓に支障をきたす。よって、街に向けて、新たな猟師のなり手と開拓団の募集をかける事とする」

 何を言っているのかよくわからないが、死んだ猟師の補充をかけるつもりなのだろう。
 また、よりこの村の発展を続けるために、さらなる開拓団を呼び込むという事か。

「フン、また出来の悪い連中を連れてくるつもりか。態度ばかりデカいデクの棒どもを」

 ひどい文句もあったもんだ。眼帯女は俺たちにだけ聞こえるか聞こえないかという風に巨乳を揺らしながら悪態を吐く。
 だが嫁もおっさんも何も言わない。
 猟師の家族からすれば、また新しく自分たちを虐げる人間がやってくるだけの事だ。
 聞けばここは辺境にある開拓の最前線になる村だ。
 いずれは発展を遂げて辺境の中心地になるかもしれない場所だが、今は何もない寂れた寒村そのものだ。
 してみると、街やその周辺の村から移民してきた人間など、猟師はやはり見慣れないだろう。
 たぶん今いる連中と同じ様に、俺たちを格下扱いで見下すのだ。

「ああまったくだぜ。デカい面をしていいのは、覚悟があるヤツだけだ」

 だから俺も鱗裂きのニシカの弁に乗っかってそう言ってやった。
 嫁とおっさんは驚いた顔をして俺を見たが、それ以上のリアクションは何もしなかった。
 本当に素っ頓狂なリアクションをしてしまうのは、次のタイミングだったのである。

「そこで、開拓団募集のために街へ人を派遣する。ついてはシューターよ、お前が派遣される幹部の護衛を受け持ってもらいたい」

 言われてるぞ? とニヤついたニシカさんが俺を見た。名前が飛び出して嫁とおっさんも俺を見た。

「お、俺ですか?」
「そうだ。お前はまだ森以外の村の外を見ていないだろう。いい機会だから、外の見聞を広げてこい。わらわが工面するぞ」

 女村長アレクサンドロシアが張りのある声でそう俺に命じたのだった。
ワイバーン編終了で一区切りです。
ここまでのお付き合いありがとうございました。
引き続きよろしくおねがいします!
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