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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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閑話 謎解きはディナーの前に 後編 (※ イラストあり)

「こ、これが領主さまのお屋敷なのですか?」

 カサンドラさんはセレスタの領主館を見上げて驚いているみたいだった。
 それもそうね。石造りでも木造建築でもない物珍しい建物だもの。この世界、というか少なくとも辺境地域ではほとんど見かける事がないものだ。

「ピンクで出来たレンガのお屋敷なのです」
「そうね。漆喰(しっくい)まで顔料でしっかり着色してあって、建設には相当にお金がかかっていると思うわ」
「はい、当家セレスタ男爵の家系は芸術に造詣が深く有りまして、特に当代はたいへんオシャレであらせられますので。わざわざ本土より資材を仕入れて趣を凝らした当館を建設なさりましたのです」

 黒い長耳の家令が朗々と説明をしてくれた。
 シューターの弁によれば、かつて辺境進出に軍事拠点だったセレスタのまちにあって、この建物だけが違和感というか異彩を放っている。
 黒長耳の家令の手を借りて、カサンドラさんとッヨイが馬車を降りる。
 あたしだけは差し出された手を丁重にお断りして領主館の玄関を潜った。特にそうした理由があったわけではないけれど、あたしだけはこの優しくない世界の摂理に逆らって聖少女修道騎士という地位まで成り上がった自負がそうさせたのかもしれない。

 そして領主館の中も、パープルというのか明るい薄紫の壁が一面に広がっていた。
 いよいよセレスタ男爵のセンスに呆れてしまうあたしである。

「すごいですねえねえさま」
「本当です。こんなに顔料を贅沢につかったお屋敷なんて、いったい幾らぐらいかかったのでしょうか」
「それにしてもすごいあたまなのです」
「ほ、本当に」

 黒長耳の家令に誘われて、カサンドラさんと、手をつないだッヨイを先頭にしてあたしとカラメルネーゼ卿が続く。
 ッヨイはカサンドラさんに身を寄せるとひそひそと耳打ちをしていた。家令の男の髪がまるでブロッコリーみたいだったからである。ダークエルフの彼はアフロだった。
 これもセレスタ男爵の趣味なのかしら。

「大使閣下、こちらでございます。当家の主人がお待ちしております」

 エントランスを抜けて渡り廊下の下を潜り、そして奥まった客間まで足を運ぶと家令はあたしたちに向き直り一礼した。
 あたしたちの緊張が高まる。
 ドロシア卿のために、そして夫となるシューターのためにも、あたしたちはここでセレスタ領主とは交友関係をきっちり築き上げなくちゃいけないの。
 そして無言の内に開かれた扉の中に進んだとき、あたしたちはさらなる驚きを目撃したのだ。

「あらぁ、お待ちしていたわぁ。遠路はるばるお疲れさま、あなたたちがサルワタ領主の大使なのねぇ!」

 迎え入れてくれたのは、背の高いスキンヘッドの褐色エルフだった。
 その長耳には宝石を散りばめたピアスをいくつもしていて、領主館と同様に紫色の長袖上着(サーコート)、そして白のタイツ。厚ぼったい唇には光沢のあるルージュが引かれていた。

「アタシはセレスタ領主、オコネイル男爵よぉ」

 長身の褐色エルフ貴人は、妙に腰をくねらせるようにして自己紹介する。
 このひと、もしかしてオネエ系なのかしら……

「お、お招きくださりありがとうございます。わたしはサルワタ騎士爵アレクサンドロシアの卿配、シューターの妻、カサンドラでございます」
「あっらぁ、かわいらしいお嬢さまねぇ。あなたのお子様ぁ?」
「いえ、そういうわけではなくて……」

 ずいと数歩前に出たオコネイル男爵は、高貴な身の上の人間がやる挨拶にならってカサンドラさんを抱擁した。

「ッヨイは、カサンドラのようじょ、ッヨイハディ・ジュメェなのです」

 本当のところ、ッヨイはドロシア卿の姪にあたるのだけれども。
 サルワタ領内では説明をはぶくためにドロシア卿の妹という事になっていたし、外交使節団の中ではシューター夫妻の養女という事になっていた。
 いちいち説明するには、あたしたちの旦那の家族構成はややこしいのよね。

「あら、ッヨイ子ちゃんは養女だったのねえ。アタシもおかしいと思ったの。だってあなたの齢にしてはこの子、大きいんだもの」
「ひぅ、ッヨイ子ではなくて、ッヨイはッヨイなのです」
「で、そちらのレディは?」

 ッヨイの頭をなでると満足したのか、さっそく興味の対象があたしに伸びた。
 今あたしの中では、先ほどまでとは違った緊張感で支配されている。

「あ、あたしの名は雁木マリです。騎士修道会における枢機卿にして聖少女修道騎士、今はサルワタ卿配シューターの婚約者として、大使閣下の補佐をしています」
「マぁあなた、生きた教会堂の守護聖人サマだったのねぇ。お会いできて光栄だわぁ」

 お、オネエ系男爵の抱擁は力強かった。
 最後に、背後に控えていたカラメルネーゼ卿にチラリと視線を送ったオコネイル卿は彼女に微笑を浮かべるだけ浮かべると、ひとり満足したみたいだ。
 褐色エルフというのも辺境では珍しい人種であるけれど、蛸足の女騎士という存在は褐色エルフからしても珍しいのかしら。

 あたしたちは簡単に自己紹介を済ませ終わると、そのまま応接室のソファに腰を落ち着けた。
 今回の外交使節の大使として、話を切り出すのはカサンドラさんの役目だ。本来、大使であるシューターなのだけれども、彼はここに入る時に兵士扱いをされてしまったのでここにはいないのだから。
 大筋のところはカサンドラさんがまず話して、その補足をするのがあたしとッヨイの役目という事は事前に取り決めてあった。
 カサンドラさんは少し緊張した面持ちで、晩餐会の準備を待つ間を利用して会話を進める。

「わたしたちは領主の命によって、辺境の諸侯さま方との友好親善を目的に送り出された使節です」
「辺境の終着地と言われているサルワタ領からわざわざ難儀な事ねぇ。これからどちらに向かわれる予定なのかしらぁ?」
「リンドル子爵さま、オッペンハーゲン男爵さま、それから使節の時間が許すならドワーフの王様がおられる岩窟都市やそれに至る諸侯のみなさまの土地を巡ろうと思っています」
「それじゃ外交使節の歴訪は、まだまだはじまったばかりじゃない。今夜の晩餐は豪華なものを用意したから、ゆっくり生気を養ってちょうだいな」
「はい。ありがとうございます、ありがとうございます」

 ソファーで向き合ったあたしたちのところに、使用人の若い褐色エルフの男性によって洒落たティーカップが運ばれてきた。中身は紫色をしたハーブティーか何かだった。
 ちょっと口にするのを躊躇するカラフルさに、あたしたちは閉口した。呑む勇気がわかない。

「ところで開拓の最前線にいるサルワタ領主さまが、この時期にどうして諸侯との友好親善を思いついたのかしらぁ?」
「仰る通り、わたしたちの村は辺境の中でも僻地にあります。それがどうしてかと言うと、新しい開墾に着手して多くの移民と資金を集めているのです」

 姿勢を正したカサンドラさんは、意を決した様にまっすぐオコネイル卿を見据えて言葉をつづけた。

「そこで領主アレクサンドロシアの命によって辺境を歴訪し、資金調達のための辺境諸侯さまとの交流のために、わたしたちが派遣される事になりました」
「なるほどねぇ、支援を仰ぐための交流ってわけね。けれども大使閣下、あなたはただ諸侯と挨拶をするために辺境を歴訪しているのではないのでしょう? サルワタ騎士爵さんは、何かの商売を持ちかけるために使節を送り出したはずよぉ」
「はい、わたしたちは交易を求めています」

 目ざとく会話の流れから真意を探り出そうとしたオコネイル男爵は、整えられた片眉を吊り上げた。
 このままカサンドラさんに任せておいて大丈夫だろうかと少し心配になる。緊張に呑まれて、対ブルカ伯包囲網について口を滑らせなければいいけれども。

「交易。交易というからには、サルワタ領からは何を輸出しようとしているのかしらぁ。サルワタ領の産物、それは何?」
「冬麦、たろ芋、トウモロコシ、ひよこ豆の他に、狩猟が盛んなので獣皮が多く獲れます。また秋には近くの湖でマスがよく獲れるのでこれは冬を越すために貴重なたんぱく源になっています」

 カサンドラさんは探りを入れるオコネイル卿の真意には気が付かずに、生真面目な顔で村の収穫物をつらつらと並べ始めた。これではサルワタ領は何の魅力もない僻地の片田舎と認識されてしまう。
 交流しておいて損はない領地だと思わせるには真逆の行為になってしまう。
 だからッヨイとあたしがあわてて会話に割って入った。

「サルワタ領と言えば何といってもワイバーンなのです!」
「そ、そうね。毎年冬には村の漁師たちがワイバーンを少なくとも一頭は仕留められていると聞くわ。この春にはとても大きな飛龍を、大使閣下の夫であたしの婚約者が倒したのです」

 ややこしいあたしたちの家族構成に内心で舌打ちしながら説明した。
 ここで外交交渉の切り札たるワイバーンの素材について触れるべきか躊躇しながらも、すでに話してしまったものは仕方ない。焦りながらあたしは続ける。

「サルワタ領としては今後、そのワイバーンから取れる素材の取引先を探しているわけです。これらは貴重品ですもの、信頼できる相手とだけ取引したいと」
「ふうん、なるほどねぇ」

 品定めをする様にあたしたちを見比べるオコネイル卿。きっとあたしたちが女ばかりの外交団であるから、どこかに付け入る隙がないものか探りを入れているのだろう。
 そう思っていたところでさっそくオコネイル卿が切り出してくる。

「どうしてブルカにそれを持ち込もうと思わなかったのかしら。単純に安定して供給する事が出来るのなら、あそこは辺境随一の大都会よぅ。あそこで店を構えている商会に卸すのが一番の利益になるはずだけれども?」
「確かにブルカは大都会なのです。ッヨイもそこで育ったので、ものを売るならお商売相手に困らないブルカは魅力的なのです。ただ、」
「ただ?」
「それについても、ッヨイたちに考えがあっての事なのです!」

 勢いで押して、別の話題にもっていこうと思ったのか、ッヨイが強気で言い切った。すると、

「考え? それは何かしら」
「それは取引先を多く持つ事で、主導権を自分たちで握ろうとするからなのです。ひとつの取引先とお商売をやっていると、どうしてもその取引先に言いなりになってしまうからです。サルワタ領はこれからはひろく、辺境をまたにかけてお商売をする時代になったのです!」

 いい返しね。ッヨイがオコネイル卿の質問に上手く切り返してくれた。
 元いた世界の言葉なら、リスクヘッジとでもいうのかしら。これならあたしたちが辺境を歴訪している理由になるのじゃないかしら。
 ここでわざわざブルカ辺境伯と対決するためだと本音を言う必要はない。けれども、

「その解答、気に入ったわぁ。なるほどブルカ辺境伯に頼らない領地経営の自立と言いたいわけねぇ」

 あたしたちの真意はアッサリとこのオネエ男爵に見透かされていたらしい。
 どうしてそれがわかったの!?
 カサンドラさんだけではなく、あたしもしてやられたという顔をしたけれど、ッヨイはそれでも動じない。
 必死に抗弁の言葉を探りながらこの子は盛んに言い返す。

「さ、サルワタ領はなにも、自立の道を探ろうというわけではないのです。辺境の領主が開拓の促進のために、より資金を必要とし、周辺領主と交友を深める事はひつぜんなのです!」
「でもおかしいわねえ。アタシたち辺境領主にとって、ブルカ辺境伯さまは辺境州の旗頭ですもの、それなのにアナタたちはあえて辺境伯さまを避ける様にしているわ。これからの歴訪先はどこなのかしらぁ?」
「ぶ、ブルカにはすでに販路があるのです。だから新たな取引先を探すために、向かうのはリンドル子爵、オッペンハーゲン男爵といった諸侯のみなさんになるのですッ」
「苦しい言い訳ねえ、この動きはきっと辺境伯さまにも察知されるわよぉ?」

 その言葉と同時にあたしたちの中に緊張感が走った。
 今はあたしもッヨイも武装はしていない。カサンドラさんは護身の懐剣も持っていない。
 あたしたちのソファの背後に控えていたカラメルネーゼ卿だけが護衛として剣の柄に手を掛ける音がした。

「セレスタの男爵さまは、お戯れが過ぎますわよ」
「どうかしらねぇ。アタシにはアナタたちの目的の真意が、どうやってもブルカ辺境伯さまとの決別を決意したようにしか見えないのだけれども」

 剣を抜いてしまえば大変な事になるのがわかっているのか、カラメルネーゼ卿がそうした抜剣のそぶりを見せたとしても、オコネイル卿はご自身の部下が同じ行動をしようとしたのを手で制止した。

 やっぱりあたしたちだけで謁見をする事は間違いだったのじゃないかしら。オネエ貴族の言葉に窮してしまったッヨイは、恨めしそうな顔をしていた。
 こういう場合、シューターならどんな風に切り返したのかしら。あいつならきっと、過去の変なバイト経験で培った話術で丸め込んだかもしれない。
 あたしも何か助け舟を出そうと言葉を必死で探していたところ、

「安心していいのよ。アタシね、ドロシアちゃんとは貴族軍人時代の同期なのよぉ。ね、ネーゼちゃん?」

 あたしたちは、厚ぼったい唇を尖らせてウィンクひとつ飛ばして見せたオコネイル卿に絶句した。
 そしてあわてて応接室の背後に護衛の騎士然と立っていたカラメルネーゼ卿を振り返る。

「そうですわね。ご無沙汰ぶりですわ、オコネイルさん」
「ドロシアちゃんは元気ぃ?」
「お元気過ぎて、少し前に三度目の結婚を決めたばかりですわ」

 旧知の間柄らしいカラメルネーゼ卿の言葉に「あらまお盛ん」と手を当ててオコネイル卿が野太い嬌声を上げたのだ。
 あたしはカラメルネーゼ卿に振り返って、このひとが信用に値するのかを確かめたかった。同じ様にカサンドラさんも向き直ると、そんなあたしたちを交互に見ながらカラメルネーゼ卿は「信用できますわ」と暗に匂わせる様に頷いて見せる。

「ドロシアちゃんにもようやく春が来たのねえ」
「そんな事よりも、ですわ。どうして王都で後宮警護をやっていたあなたが、ここにいますの?」
「しょうがないじゃなぁい、親戚のおじさんから後継者指名されちゃったんだからぁ」
「いつセレスタの街に着任なさったの?」
「二年前かしら、ようやくこの春にこの領主館が竣工したのよぉ」
「まったく、あなたという方は相変わらずですわね……」

 どうやらカラメルネーゼ卿もオコネイル卿がこの土地の領主さまだった事を知らなかった様ね。
 少しだけ状況を理解し始めたあたしたちも胸をなでおろした。
 ところで、あたしにはひとつ疑問があった。

「どうしてあたしたちが、ブルカ伯と敵対しているとお気づきになられたのですか」

 この事を聞いておかないと、次に諸侯と謁見した際に同じ様な失敗をしてしまうかもしれない。

「それは聖少女さまのアナタが、サルワタに付いているからに決まってるじゃないのぉ。騎士修道会の枢機卿たる聖少女サマと言えば女神様の信徒の間ではみんなしっている当代の守護聖人よ。アナタがドロシアちゃんの新しい旦那さまと婚約したという事は、政治的な同盟が結ばれたという事の証左よねぇ?」
「確かにそうだわ……」
「けどホントのところはね、」

 オコネイル卿は急にご機嫌な顔をしてネタバラらしをしはじめる。
 聞いていればそれは、本当にネタバラしの内容だった。

「ドロシアちゃんからアタシ宛にぃ、先ほど魔法の伝書鳩で連絡が来たのよぉ」
「え、そうなんですか?!」
「そんなの聞いてないのです!!」

 ぷりぷりと怒って見せるッヨイはともかくとして、普段は温厚なカサンドラさんまでが驚いた顔をして声音を強めた。

「あ、あの村長さ……アレクサンドロシア卿は何と言ってきたのでしょうか?」
「ウチの旦那たちがセレスタ(ここ)に向かうから、盛大なお持て成しをしてくれって書いてあるのよぉ」
「は、はあ。そうだったんですか……」

 カサンドラさんは安堵したためか、急に肩を落として弱々しい声になってしまう。
 あたしだって驚きだ。そういう事ならば最初から教えてもらいたかったわね。この事、シューターは知っていたのかしら?!

「ところでそのアナタたちの旦那さまは見当たらないけれどもぉ、お宿でお留守番なのかしらぁ?」
「し、シューターなら歓楽街に繰り出しているわ……」

 言ってしまってからあたしはしまったと思った。
 歓楽街にただ繰り出していると言えば、まるで遊んでいるみたいに聞こえる。それに街や領主の情報収集のためにと言えば、オコネイル卿のご機嫌を損ねてしまわないかしら。
 どう言い訳してもまずような状況になってしまって、あたしとカサンドラさんは顔を見合わせてしまった。

「あ~ら、遊び人の旦那さまなのね。お痛がすぎると、あなたたちもお仕置きをするべきよぅ」
「大丈夫ですわ、シューター卿はあれで、奥さま方一途な方ですもの」

 カラメルネーゼ卿はフォローをしてくれたけれど「そんな殿方にどうしてご夫人がいっぱいいるのかしら」などと言い返された。
 サルワタにはタンヌダルクさんがいて、繰り出した繁華街にはエルパコさんが同伴している事は言わない方がいいわね……

「それにしても。手紙には詳しい事は書いてなかったけれども、サルワタ領ではブルカ伯と何があったのかしらぁ?」

 それまで圧倒されっぱなしだったカサンドラさんが、おずおずとオコネイル卿に向き直って口を開いた。
 もうこちらの本音について言ってもいいだろうと、あたしに向けて視線で確認してくる。

「この夏に、わたしたちサルワタの領が開拓を進める事を嫌ったブルカ辺境伯さまから、その妨害がありました」
「ふうん?」
「開拓のための新しい移民と、周辺の調査のために冒険者ギルドの出張所を招き入れたんですけれども、その時に街からスパイの方がやってきまして」
「あらいけ好かない事をするわね伯爵さまも」
「実は村の中にもスパイの方が潜んでいたのですが……」

 再度チラリとあたしの顔を確認してくるカサンドラさんに、言葉の続きを引き取る事にした。

「あたしたち騎士修道会の人間から、ブルカ伯への内通協力者を出してしまったのです。近頃ブルカ伯の専横は著しいものがあるし、これは看過しえないという事実もあったので、騎士修道会はサルワタ領と手を取り合って包囲網を結ぼうという事になったのよ……」
「なるほどねぇ、アナタたちも大変だわぁ」

 あたしの言葉を聞きながら、我が事のように憐れんでくれたオネエ系貴族を見ながら、とても微妙な気分になってしまった。

「さあさあ。湿っっぽいお話はお開きにして、お食事にしましょう! ッヨイ子はお酒は飲めるかしらぁ?」
「はい! ッヨイはビールが大好きです!」
「あのう、この子はまだ未成年ですから、あまりお勧めなさるのは……」

 さしてお酒も飲めないくせに、みんなと一緒にチビチビやるのが大好きなッヨイが調子に乗って、カサンドラさんを困らせていたけれども。

「いいじゃない無礼講よ! 今夜は晩餐会よぅ、パーティーよパーティー!!」

 オコネイル卿のその言葉に、背後に控えていたブロッコリーの使用人たちがせわしなく動き出した。
 もうすでに支度は出来ていたみたいで、どこからか美味しそうな肉の焼ける匂いもしている。
 家令の褐色エルフに誘導されてあたしたち三人が立ち上がったところ、入れ違いに応接室に鎖帷子の上からサーコートを羽織った騎士らしき男性が入ってくるのが見えた。
 何かあったのかしら。
 やっぱり褐色エルフだったその騎士は、オネエ系男爵にこそこそと耳打ちをすると何やら指示を受けていた。
 少しの間気になっていたあたしだけど、ぱっと満面の笑みを浮かべたオコネイル卿に押し出される形で、この場は応接間を後にするしかなかった。

     ◆

「ところでアナタぁ、その洒落たガラスのアクセサリーは何かしらぁ?」

 晩餐の席で、あたしがズレたメガネの縁を引き上げていると、そんな質問をオコネイル卿から受けてしまった。
 何と返事していいのかわからなかったので、ついあたしは適当な返事をしてごまかす事にした。

「こ、これはメガネと言って、あたしが降誕した時に女神様から与えられた聖具のひとつね。物事をしっかり見据える力があるというわね」
「とても素敵ねぇ。キュートなアナタにすっごく似合っているわぁ。これからの外交遍歴で、アナタのおメガネに叶う商売相手が見つかる事、アタシも祈っているわよぉ」
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」

 気が付けばあたしは、あの男(シューター)やカサンドラさんみたいな返事をつい返してしまう。
 酔ったオコネイル卿は「あたしも今度、街の工房に真似て作らせてみようかしらぁ」などと言っていたけれど、これがこの世界ではじめて登場したサングラスになるとは、この時のあたしが知るよしもなかった。






http://15507.mitemin.net/i174701/

挿絵(By みてみん)

浅葱さんより、カサンドラさんのファンアートを頂きました。
ありがとうございます、ありがとうございます!
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