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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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120 回廊の街 前編

 俺の名は吉田修太、三二歳。
 サルワタ領からやって来た兵隊さんである。

「まるでセンター街かショッピングモールに来たみたいだ……」

 無事にセレスタの城門を潜り抜けた俺たちは、これまで見た事もない街の造りに驚きを隠せなかった。
 俺の感想をひと言で表すならば、まるでショッピングモールだなと思ったのだ。
 まず、門から街中に進入すると丘があった。その丘をくり抜く様に回廊状の大通りが反対の門まで続いているのだ。
 その回廊に沿って商いをやっている建物がひしめき合う様に連なっているのである。
 さらに、左右の建物の背後の丘にも建物が密集していて、回廊の上をいくつも石橋がかけられているのだった。
 してみると、このひどくごみごみとした街並みは、その敷地面積が狭いゆえに上へ上へと延びていることが分かった。アーケードを覆う天井こそ存在しないが、それを取っ払うとイメージ的にはショッピングモールが近い気がする。

「この街はもともと小高い丘だった場所をくり抜いて街道を通したんだな」
「なるほど、言われてみれば立体的な建物ね。それにしても、何だか懐かしい気分になるわねえ」

 馬を引きながら宿屋を探して歩いている俺に、雁木マリも同意する。
 ひとまず城門を抜けた場所はちょっとした広場になっているけれど、市壁の中は俺たちが思っていた以上に往来がごった返していた。

「思ったよりひとが多いな。城門の外の街道は待機列もさほどでもなかったのになあ」
「もしかすると別の門からの往来が多いのかもしれないわ。さて、宿に行きましょ」

 俺がそう口にすると、マリが興味なさげに先を急いだ。
 しかし俺たち外交団は二〇人あまりの大人数だ。どこかに纏まって収容出来る宿屋はあるんだろうかね。

「なあマリ、どうしてさっき番兵が宿泊所の手配してくれるといった時、お断りしたんだ?
「そんなの決まってるじゃない。外交相手の用意した宿泊施設なんて、何が仕込まれてるかわからないわ。もし領主館に泊まる事にでもなってみなさい、情報が筒抜けになってしまう可能性があるんだから」

 さも当然の様にマリが返事をした。
 なるほど言われてみれば、セレスタ領主が用意してくれた宿泊所の使用人なんて簡単に信用できるわけがない。
 ニシカさんもそれには同意らしく、エルパコの背中を叩きながら口を開く。

「んだなあ。オレたちの安全はオレたち自身で確保すべきだ」
「ぼくはシューターさんと同じ寝台ならどこでもいいよ」

 あまり関心がないのかけもみみは俺の方をぼけーっと見上げながら個人的見解を口にしている。
 先頭を歩きだした雁木マリに迷いがない。
 どこにいくのかと不思議に思って後に続いていると、回廊の大通りには向かわず直ぐに左へ折れて坂を上がろうとしていた。
 バリアフリーではないが、馬車の往来を考慮しているのか坂道は急こう配ではないのがありがたい。
 そんな事を考えながら坂道の先に視線を向けると、石造りのしっかりした建物がいくつか集まっている方向を目指しているのがわかった。
 なるほど、雁木マリの考えている事が俺にはわかった。

「おいガンギマリー、宿のアテでもあるのか?」
「ふふふ、黙ってついて来ればわかるわ。ちょっとお前たち、馬車の後ろに回って押すのを手伝いなさい!」

 ニシカさんの質問に上機嫌に笑って見せたマリは、振り返って男どもに命令を飛ばした。
 街道を移動中は御者台の横や荷台で揺られていたゴブリンや野牛の兵士たちは、その言葉であわてて馬車の後ろに回り込んで、坂を上るのを手伝った。
 気が付けば、ついつい俺も無意識に命令に従って馬車を押すのを手伝っているじゃないか。

「シューターさんがやるなら、ぼくもやらなきゃ」
「けもみみや、いつもすまないねえ」
「うん。だったら、今日は一緒の寝台がいいかな」

 今日のエルパコは何だかいつもより押しが強いぜ。だけど押すのは馬車だけにしろよな!

     ◆

 果たして雁木マリが宿泊所にアテをしていたのは、セレスタの街にある教会堂であった。
 よくよく考えてみればマリやハーナディンは騎士修道会の人間なのだから、普段の旅中はこうして教会堂の宿泊所を利用するのが当たり前なのだ。
 しかも聖少女修道騎士という立場でもあるのだから、彼女が命令さえすれば教会堂でいちばん上等の部屋を要求する事も出来るのである。
 まあマリは冒険者をしているぐらいだから、普段はみんなと雑居部屋の吊り床で寝るのも気にならない立場ではあるけれど、今回は外交使節団なので枢機卿たる聖少女修道騎士の立場を活用しようというのである。

「ガンギマリー、お前頭いいな! しっかし自分の身内がどの街や村にいっても居るというのは、素晴らしい事だぜおい」

 いたく関心したニシカさんは、長耳をひくつかせながら教会堂を見上げていた。
 カサンドラやようじょが教会堂の前で馬車を下りるのをお手伝いすると、俺たちは騎馬組は厩へと向かった。

「確かに厩は完備されているし、宿泊所も併設されているからな。しかもここならセレスタ領主の手の者が入り込んでいる可能性は低くなる」
「そうでしょう? シューターは女神さまと、いい婚約者(フィアンセ)を得られたことを感謝するべきね」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

 心を込めて俺がその言葉をフィアンセに捧げると、雁木マリは心底嫌そうな顔をしてそっぽを向いた。
 ボソリと「もう少し気の利いた言葉はないのかしら」と聞こえたかと思うと、蛸足姫が「婿殿はドSなのですわ」などととんでもない事を口走っていた。

「シューターさん、そうなの?」
「ちがわい!」

 何の疑問もなく聞き返してくるけもみみに、俺は力いっぱい否定しておいた。

     ◆

 教会堂はとてもいいところです。
 何といっても、寝泊りする場所も完備されている上に、ブルカ聖堂会の身内がいるのだから情報収集までここで出来ちゃうんだからね。

 旅荷を宿泊所に持ち込んだ俺たちは、セレシタの司祭に挨拶を済ませて街の情報を簡単に聞き出した。
 すると挨拶に行っていたハーナディンが難しい顔をして戻ってきたのである。

「どうやらこの先の街道で、野盗が出没しているらしいですね」
「マジかよ。さっきマリと話していたところなんだよな……」
「聞けば、それなりに規模の大きな盗賊団がいるらしく、セレスタからリンドルにかけての往還を根城にしているらしいです」

 規模は三〇人あまりは確認されているらしいというから、かなりの大規模だ。
 サルワタの開拓村などは、野牛の兵士がいなかった頃にこの盗賊団に襲われでもしたらひとたまりもなかったんじゃないだろうか。

「ただし片っ端から襲うという様な事をしているわけでもなくてですね、点々と襲撃する場所を変えながら移動しているという事で、足取りがまだつかめていないんだとか」
「さかしらな連中ね。だから街にひとが足止めを食らってごった返していたのかしら?」

 少女らしからぬ舌打ちをしてみせた雁木マリが不満を口にした。

「いや、そういうわけでもないんです。どうも街道は襲われる可能性があるというので、川を使って商人たちは行き来をしているらしいですね。あっちはさすがに専門外と見えて、野盗の連中も手出しができないみたいです」

 ハーナディンの言葉にフンと鼻を鳴らしたニシカさんが、さっそく地図を広げて確認する。

「面倒くせぇやつらだなオイ。盗賊なんざコボルトと一緒で、じっくり足取りを観察すればとっちめられるのによ。オレたちも船で移動するわけにはいかねえのか?」
「それは無理なのですニシカさん。何しろどれぇさま御一行は馬車を持っているのです。ここに預けて移動するにしても、リンドルから先の足が無くなってしまうのです」

 もっともな提案をしたニシカさんに、こちらももっともな意見を口にするようじょである。
 そうなれば、この先に盗賊がいる事がわかっていても街道を進むほかはない。
 困ったね。
 ようじょを抱き寄せながらカサンドラが俺の顔を見上げる。

「どうしましょうシューターさん」
「こりゃお手上げだ」
「他人事みたいに言わないでよね! まあ? シューターがいれば盗賊の如きは恐れる必要もないけれども?」

 どうしたもんかと前途多難を嘆いて見せると、雁木マリに怒られてしまった。
 しかし上目遣いにメガネを押し上げて見せるマリの視線には期待感が込められている。
 いや、俺は確かに一対一ならそこそこやってみせる自信もあるし、今のところタンクロードバンダムにもフェーデにも辛くも勝利しているけれども。
 同時にブルカでチンピラ冒険者にやられた事もあるのだ……

「まあ、情報収集をするしかないな。相手が来るとわかっているなら心構えもできる、情報があるなら対処も出来るだろう。それに盗賊に襲われるかどうかは行ってみなくちゃわからないからな」

 などと心の内を披露したところ、けもみみだけがコクコクと返事をしたものの、その他のみなさんは呆れた顔をしていた。

「前から思ってたけどシューターって能天気よね」
「いけませんよ聖少女さま、将来旦那さまになられる方をその様に言っては」
「は、はい義姉さん。訂正するわ、楽天的なのよね」

 年下のカサンドラにたしなめられて、雁木マリが言い直した。
 あんまり意味が変わった気がしないのだが、そのやり取りを見てニヤニヤしているニシカさんの事は無視する事にした。

「そ、そうだ。情報集めと言えば、セレスタの領主から晩餐会の時にでも盗賊の話を聞いておくのがいいかな。ついでに領主のところに俺たちの宿泊場所を伝えておかないといけませんね」

 いたたまれない気分になった俺が小さく手を上げて提案をすると、ニシカさんが反応した。

「よし、それならオレに任せろよ。な?」
「ニシカさんは駄目ですよ」
「どうしてだよ! なあ大使さまよう、オレとお前ぇの仲だろ。ワイバーンもバジリスクも弓を並べて仕留めた仲だろッ」
「弓を使ったのは俺かニシカさんのどちらかだけでしょう」

 そういう問題じゃねえ、オレ様を行かせろよとさわぐニシカさんである。

「……魂胆は何です」
「お、オレはシューターの部下だろ? 部下なら上司のために働くもんだぜ」
「あんたは俺の先輩猟師でもあるんだなあ。あやしいなあ」

 赤鼻のニシカさんをジト目で見やると、途端に視線をそらしやがった。
 きっと領主館に報告ついでに、街をほっつき歩いて酒でもどこかで飲むつもりなのだろう。
 だが俺はそんなおっぱいエルフの野望には手を貸さない。

「ッジャジャマくん。君が行ってきなさい」
「何でだよ!」
「はい、わかりましたシューターさんッ」

 不貞腐れたニシカさんの代わりにッジャジャマくんを送り出すと、大使さまの寝所としてカサンドラのために用意された部屋に俺たちは集まった。

「いい? 領主館から謁見に呼ばれるまでの間に、他の情報収集についても話し合っておきましょう」
「そうだな。あまり時間がないしな」

 雁木マリの言葉に俺は仲間たちを見回した。
 ところで俺は、ここの番兵から兵士に間違われてしまったわけだが、その件をマリがこの段階で切り出したのだ。

「あたしとしてはシューターのこの状況を上手く利用したいと思うわ。あたしとカサンドラ夫人、それにッヨイという面子ならセレスタの領主も油断すると思うのよね。人数もふた手にわけられるし、どうかしら?」

 これが雁木マリの提案である。もともと俺は兵隊さんと勘違いされた時点で、そのつもりがあったので構わない。

「了解だ。うちの奥さんが大使という事にしておけばいいんだな?」
「わたしは構いませんけれども、本当にわたしだけで大役が務まるのでしょうか……」
「心配ないのですねえさま、困ったことがあれば事務的な話はガンギマリーに一任していますと言えばいいのです」

 心細そうにしているカサンドラに、ようじょが声をかけていた。
 雁木マリは騎士修道会の人間として交渉事には慣れている様だし、ッヨイさまは賢くもようじょであるから問題ない。
 ついでに女だらけの外交団と侮って、何かの譲歩を引き出せたのならしめたものである。
 だったらという事で俺が口を挟む。

「カラメルネーゼさん。連中もあなたを護衛の騎士と勘違いしている様だから、謁見と晩餐には帯同していただいて構いませんかね?」
「ええ、よろしくってよ」

 彼女なら生まれてこのかたお貴族さまであるから、こういう謁見や晩餐だという場には慣れているはずだから安心だぜ。
 微笑を浮かべた蛸足姫は小さな声で「旅荷の中にドレスはあったかしら」なんて呟いているところをみると、まんざらではないのかもしれないね。

「で、残ったオレたちゃ何をすればいいんだ」
「そですねー、ニシカさんは冒険者登録を済ませているし、ハーナディンさんとギルドに立ち寄ってセレスタから向こうの街道情報を集めて来てくれますか」

 ようじょが魔導書を抱きながら言った。
 率先して提案するようじょが軍師に見える。

「どんな情報が欲しいんだ」
「この先、街道の安全情報がいります。それから領主さまの噂を集めてください。何か面白い事がわかれば将来、何かの役に立つかもしれないのです。ギルドの近くの酒場も回ってみるとよいのです」
「おう、任せてくれ!」

 酒場と聞いて嬉しそうな顔をする現金なニシカさん。
 確かに酒場で情報集めするなら、野郎よりニシカさんみたいな大人の魅力(主に豊か過ぎる胸)がある方がやりやすいのは確かだ。などと思っていると、

「こういう役割はおっぱいといいおとこの方がいいのです。酒場に行くからといって、おっぱいエルフはお酒に呑まれてしまってはいけないのです」
「うるせぇ! おっぱいじゃねえッ」

 信用されていないのかニシカさんはようじょに釘を刺されてしまった。
 しかしおっぱいエルフはともかくとして、ようじょの口から「いいおとこ」などという言葉を耳にして、ちょっと悲しい気分になる俺である。
 確かにハーナディンは、もともと猟師だったとは思えないほど垢ぬけた都会人っぽい雰囲気を持っているから、いいおとこかどうかはわからないがイケメン風だ。
 そう思うとなおさら不愉快な気分になった。

「じゃあ俺はエルパコと街の方を回ってみる事にする。ちょっと俺に考えがあるんだ」
「なにをなさるのですか、シューターさん?」
「ヘイジョンさんがいるだろ。彼にセレスタ滞在中に絵を描いてもらおうと思ってね」

 そんな俺の言葉に、質問をしたカサンドラがびっくりしていた。

「ヘイヘイジョングノーさまに、セレスタのご領主さまの肖像画を描いてもらうのですか?」
「いや、今回は風景画だな。セレスタの見取り図をお願いしようと思っている。絵師さんなら街で写生をしていても怪しまれないだろ?」
「シューター、そんな事を考えてあの芸術家を連れてきたの?」
「立ち寄ったあちこちの街でこれからもやってもらうつもりだ。戦争にでもなれば、いつか役に立つかもしれないしな。それにカサンドラが言う様に、お貴族さまの肖像画を描いてお近づきになる方法もあるかと思ってな」

 思いついたのはアレクサンドロシアちゃんだからね。
 それにモノの本で、絵描きが情報収集のために絵を描いて記録していたのを覚えていたので、提案したんだがな。
 写真がないこのファンタジー世界では、城の見取り図があるのはたいへん有利になるはずである。
 そんな俺の思い付きから出た発想に、先ほどまで楽天的だ能天気だと言っていたみんなが感心の視線を送ってくれる。
 カサンドラの尊敬のまなざしは当然として、雁木マリもおやという顔をしているけもみみに至っては眼をキラキラさせているし。いいね!

「ただ飯ぐらいの似非芸術家も使い道があるんだなあ。シューターなかなか学があるな」

 珍しくニシカさんが俺を褒めてくれる。
 するとそのタイミングで、隣の部屋からヘイジョンさんのくしゃみをする音が聞こえて来た。
 びえっくしょい!

「夏風邪かな?」

 いや。噂だよ、君の。

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