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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します

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119 俺たちはセレスタの街へやってきました

今回より五章開始です、よろしくお願いします。
 宿場街セレスタの市壁が見えるところまでやってくると、下馬した俺たちはゆっくりと検問の待機列へと並んだ。
 こうして市壁を見上げてみると、本格的な城郭都市というわけではないのがよくわかる。
 ゆるやかにカーブを描いた市壁の外苑はあまり高いものではなく二階建て、三階建ての屋敷がその向こう側に見えているのだから、防御力という意味ではささやかなものしかないだろう。

 道中は荷馬車の荷台に座って警戒にあたっていたけもみみが、気が付くと俺に身を寄せていた。
 エルパコはぽかんと口を開けた顔で周辺をひとしきりキョロキョロした後、俺の袖を引っ張って言葉を発する。

「セレスタは、街という割に人口が少なそうだね」
「ざっと見たところ五〇〇人ぐらい収容出来る街なんじゃないか。どちらかというとここで生活をしている人間よりも、一時滞在している人間の方が多そうだ」

 俺の四人目の奥さんが知っている街と言えば、たぶんブルカぐらいのものなんだろう。
 ブルカは人口一〇〇〇〇というこのファンタジー世界では大都会であるから、これは街と言っても俺や雁木マリにとっても違和感がない。
 一方のセレスタは形式的に街と呼ばれているが、実際にはサルワタの森の開拓村の人口の方がはるかに多いんじゃないだろうかと俺は予想した。
 街と村を明確に区分するものは市壁・城壁の有無であるから、サルワタの森の開拓村は現代人的な感覚で言えばサルワタ市といったところだろうか。
 もうひとつ区分を無理やり作るとすれば、たぶんそれは家屋の密集具合だろうか。
 セレスタの街は家屋が身を寄せ合って並んでいる事がここからでもよくわかる。してみると、セレスタはあくまでも宿場街以上でも以下でもないのだ。
 一方、モノの本によれば散居村というのは、一軒ずつの家々が散らばって点在する集落の形式なのだが、サルワタの開拓村はまさにこれである。
 そして、そこからわかる事もいくつかあるのだ。

「ここはむかし、たぶん軍事的な拠点だった場所だな」
「どういう事?」
「こうして見てみると、城壁がずいぶん苔むしているだろ。辺境の歴史は開拓の歴史そのものだろうけど、たぶん開拓当初は周辺諸部族と諍いが絶えなかったんだろうな」
「そうなんだ」

 かつては王国の軍隊が駐屯していた宿営地が、用途廃棄になった後にそのまま宿場町になったのではないか。そういう風に俺は見当を付けたのだ。
 逆にサルワタの森に出来た開拓村は、王国が周辺部族を平定した後にさらなる領地拡大のために成立したという事になる。
 少なくともサルワタの森の人々にとって外敵は周辺部族ではなく、災害にも似たワイバーンである。
 その辺りの事を得意げになって説明していると、けもみみがけもみみをピコピコさせながら身を寄せて来た。

「シューターさんは、物知りなんだね」
「そうね、この男はもともと大学で歴史の勉強をしていたそうだから。ただし中退だけれども」
「うるさいよ!」

 せっかくけもみみが尊敬の眼差しを向けてくれたところ、雁木マリが俺たちの肩に腕を回しながら余計な事を突っ込んでくれた。

「シューターはアカデミックな男じゃないけれど、経験の塊みたいな男だからね。一見何の役にも立たなさそうな無駄知識も、いざという時に活用出来るかもしれないし。まあ所詮、大学中退程度の知識だけども」
「そういうマリは高校中退だろ」
「あっあたしは騎士修道会の学舎で学んだんだから、転校したみたいなものなの!」

 高校途中で転生してしまった事を実は気にしているのだろう。
 俺がひとつ指摘してやると、マリはむくれ顔をした後に俺の脇を手甲付きの肘で殴りやがった。
 とても痛い。
 悲しくなった俺が腹いせに尻をペシリと叩いてやると「ひゃん」と黄色い声を上げて逃げていった。

「後で覚えてなさいよ!」

 続きは床でまたどうぞ。
 暴力メガネの恫喝なんかに俺は屈しない。
 気分を害したマリはそのまま馬車の方へ行って、カサンドラから何かの書類を受け取ろうとしていた。
 たぶん俺たちがサルワタ領の外交団である事を証明するための書類を取りに行ったのだろう。馬車の扉を開けたカサンドラが、いくつか羊皮紙の巻物を渡していた。
 入れ違いにニシカさんが頭で両手を組んだ格好でやって来る。

「染みったれた街だなおい。待機列に並んでいるのは農夫ばかりじゃねぇか」
「そうですね、陽が暮れる前に街に戻ってきたんでしょう。商人たちはもう少し遅い時間に街に到着するんじゃないかな」
「つまり、このあたりは比較的治安がいいってわけだな」

 納得の顔をしたニシカさんである。
 見れば農夫が十数人、特に何か検問に引っかかる事も無く番兵の検問を通過して門の中に吸い込まれていった。
 幾人かは荷馬車を持たず、馬の背中に直接旅荷を括り付けた様な行商人の姿が見える。たぶん連中は周辺の村や集落をまわって商売をしている人々で、この往還でブルカやリンドルを行き来する商人ではないんだろうな。

「この調子だと、さほど待たされずに街に入れそうですねえ」
「ブルカの番兵はしつこい調べをするところだったからな、あれは最低だったぜ」

 待機列の前進に合わせて馬を引く。
 ニシカさんはあのいやらしい視線のブルカの番兵を思い出した様で、とても嫌そうな顔をした。

「ここでも同じことをしやがったら、ぶち殺してやる」
「まあ俺たちはサルワタの外交使節団ですからね、免税特権と治外法権が認められているから大丈夫でしょう」

 すると門の少し前あたりにバイキングみたいな鎖帷子を着込んだ連中がいるのを発見した。
 ちょうど番兵から検問作業を受けている様で、両手を頭に挙げて身体検査を受けている。
 あれはたぶん冒険者のみなさんだ。特に護送対象になる様な荷馬車もいない事から、仕事を探して渡りをしている冒険者パーティーなんじゃないだろうかと勝手な想像を働かせた。
 この辺りにダンジョンでもあるのかな?

「おいシューター、あの連中は何か見覚えがねえか」
「冒険者たちですか?」
「そうだ。春に村を襲ったワイバーン狩りの時に、街から来た連中だ」
「顔までは覚えていませんねえ。冒険者のみなさんはみんな似た様な格好をしているし、けど、言われてみれば確かにそうかも」

 あまり時間をかけずに冒険者のみなさんは検問をパスしてセレスタの街に吸い込まれる。
 それから農作業具を背負った農夫たちがほとんど顔パスで門を潜っていくと、いよいよ検問は俺たちの番となる。

「次!」

 番兵の吠える声に、俺たちは一歩前に出る。
 とは言っても軍馬を連れる者、背中に弓矢を背負っている者もいれば、続きには馬車の一団もある。
 それを見て、すぐにも番兵は同僚たちに目配せをして人数を集めた。

「セレスタの街へようこそ、どこから参られた。目的は?」
「オレたちはサルワタの森の開拓村から来た。領主アレクサンドロシアの命令で周辺諸領とお近付きになりたくてな、外交使節団というやつだ」

 俺が先に説明するよりも早く、腰後ろに吊っていたフィールドバッグを探ったニシカさんがごそごそとゴブリン人形を引っ張り出して、番兵のひとりに渡した。
 あんたは何をやっているんだ。袖の下のつもりですかね?

「ずいぶんと賑やかなご一行の様だが、これらはみんなあんた方のお仲間かね?」
「そうだぜ。領主に派遣された大使さまとそのご一行というわけだな」
 得意げになってニシカさんが俺をチラ見しながら説明したので、同意しておいた。
 言葉はだいぶ粗野だけれど、言っている事は間違ってはいないからな。

「ふむ。では領主の委任状を拝見したい」
「おいガンギマリー、こいつに村長の委任状とやらを渡してやれ!」

 背後を振り返ったニシカさんは、雁木マリに声を上げる。マリはそれにうなずいて返すと、自分の馬をハーナディンに預けながら小走りにやってきた。

「こ、これは修道会の騎士さま。セレスタの街へようこそ!」
「サルワタ騎士爵アレクサンドロシア卿から預かった委任状よ。確認してちょうだい」
「了解いたしました。ただちに確認させていただきますッ。おい、領主さまに報告しろ。それと書記官を連れてくるんだ!」

 番兵の主任か何かなのだろう、ちょっと偉そうな八の字ヒゲを生やした男が、いかにも横柄な態度で返答する雁木マリにかしこまりながらペコペコやっていた。
 領主さまに報告するというのは、わかる。書記官を呼び出すというのは、この番兵どもが文字を読めないからだろうか?
 そういう風に思っていると、門の内側にある小屋みたいな番所から、ローブ姿の若い男性が、何かの本を持って飛び出してくるのがわかった。
 してみると、本を開いてページをめくり雁木マリが渡した委任状とやらの署名を確認している様だった。
 待たされている俺も暇なので、興味本位で書記官の手元を覗き込もうとしたところ、気が付いた書記官が嫌そうな顔をして隠してしまう。
 チラリと見たところ、どこかで使われた署名と印証を記載したページが見えた。コピー機なんて便利なものがないこの世界の事だ、わざわざ石板に転写でもして発行されているのだろうか。

「あんなもの、俺たちの村にはなかったと思うんですがね」
「これまではね。サルワタ領は言わば辺境の僻地にある場所だから、これまでのやりとりはブルカと王都ぐらいしかなかったんだわ」
「それならアレクサンドロシアちゃんだけが理解していればいい事だからな、署名の見分け方を」

 どうやら確認がとれて問題なしと判断されたらしい。
 かしこまった番兵の八の字ヒゲと書記官が、直立不動で雁木マリを見やった。

「問題ありません。ところで騎士修道会の騎士様が、どうしてサルワタ大使の使節団にご同道なさってるのですか?」
「それはお前が知る必要のない事だわ」

 いちいち説明するのが面倒だと思ったのか、雁木マリは冷たい顔をして八の字ヒゲを睨み付けた。

「失礼しました! た、ただちに領主との謁見ならびに宿泊所の手配をさせていただきます」
「宿屋の手配は必要ないわ」
「よろしいので?」
「どこの宿も部屋が取れないという事もないのでしょう? それならこちらでそれはやるから」
「はッ。かしこまり!」

 緊張のせいか、番兵の応答がやや怪しい。
 俺の方に振り返ったマリが、どうするかの確認を求めてくる。

「領主との面会は予定にあったかしら」
「いやないけど、まあやっておいていいんじゃないかな?」

 本来の外交使節団の目的はリンドルの子爵家とオッペンハーゲンの男爵家と交渉を持つことだ。
 けれども少し前の話では岩窟都市まで足を延ばそうと話し合っていたぐらいだし、ここはひとつサルワタのアレクサンドロシアちゃんがブルカ伯大包囲網を作ろうとしている事を宣伝しても悪くはないな。

「り、領主の謁見もお受けにならず素通りされてしまっては、我らが領主よりお叱りを受けてしまいます。我らの顔を立てると思って是非。サルワタの大使さまをご歓待出来なかったでは、我が領主が周辺諸侯の笑いものになってしまうので」

 あわてふためく八の字番兵に続いて、書記官も声音を裏返しながら訴えた。
 だそうだぜ? と俺が雁木マリとニシカさんを見比べる。
 ニシカさんは俺の肩に肘を置きながらニカリと笑って見せた。ご歓待のひとことに何かを期待したのだろう。
 俺と身長がさほど変わらないニシカさんなのでこういう事が出来るのだが、これでは俺がその外交団の大使にはまるで見えないだろう。俺たち一行の関係はよその人間から見ればとても複雑なものだからな。
 女村長の旦那が俺で、俺とその正妻カサンドラが大使、俺の婚約者が雁木マリで、ニシカさんは形式上俺の部下という事になっているけれど実際は先輩猟師だし。

「俺は賛成しておくよ」
「んだな。相手を見てどこまで踏み込むかを考えればいいんじゃねえか。必要なければ接待を受けるだけにとどめておきゃあいいんだ。タダ酒が飲めるぜ」

 案の定、困り切った番兵は俺とニシカさんを見ながらこう言葉を口にする。

「そちらの兵隊さんがたもそう言っている事ですし、ぜひセレスタの街で逗留なさりませ。街には旅の疲れを癒す公衆浴場もございますよ!」

「そうね、ニシカさんの言はともかく、シューターの意見はもっともだわ」
「んだよ、酒だぞ酒!!」

 暴れるニシカさんを押しとどめると、雁木マリは「手配してちょうだい」とうなずいてみせた。
 ホッと安堵したヒゲ番兵と書記官はすぐにも点呼をはじめた。

「では確認させていただきます。修道騎士さまもご同行を」
「わかったわ」
「兵士のみなさんが、ひいふうみい。修道騎士さまが、ひいふう。それに護衛の騎士さまがおひとり、と」

 雁木マリと番兵が顔を確認しながら歩いていく。
 やっぱり俺は兵士のみなさんに組み入れられてしまった。
 そのまま八の字ヒゲの番兵は、馬車の御者台に座ってあくびをしていたッジャジャマくんを見て「そっくりだな」などと言っていた。ニシカさんが渡したゴブリン人形と比較しての事だろう。
 どういうわけか俺たちの一団にちゃっかり加わっていたカラメルネーゼさんは、番兵の中で護衛の騎士さまという風に見えたらしい。実際は国王の陪臣たる騎士どころか、国王の直臣たる騎士爵さまなんだけどね、いわば女村長とは同列だし、実家は子爵家なのでもしかしたらそれより上かもしれない。
 無知であるという事は恐ろしい事だね。

「馬車の中を拝見しても?」
「いいわよ」

 番兵は確認を取ると、雁木マリが了解して豪華な馬車のドアを開いた。
 中では緊張の色を顔に表したカサンドラにカンバスを持ったヘイジョンさん、そしてヘイジョンさんと一緒にお絵かきをしていたらしいようじょの姿があった。

「みなさんは?」
「こちらはサルワタの騎士夫人、カサンドラ義姉さんよ。サルワタ外交団全権代表のひとり、それからサルワタ領主ドロシア卿の妹御で、カサンドラ義姉さんの養女であらせられるッヨイハディ・ジュメェさま。後のひとりは気にしなくていいわ」
「どうも芸術家のヘイヘイジョングノーです。本日もうるわしゅう」
 紹介された芸術家ヘイジョンさんは、お呼びでないのにペコリと頭を下げて挨拶をした。
 それを無視してカサンドラを見上げる番兵は朗々と言葉を紡ぐ。

「ようこそセレスタの街へ! 大使閣下ならびにご令嬢さまにおかれましてはお疲れのところ、誠に申し訳ございませんが、しばし検問の諸手続きにお付き合いいただければと思います。また、ただいま領主さまとの謁見の手続きをしておりますので、後程晩餐などお楽しみいただけます。街には自慢の公衆浴場もありますので、そちらもきっとご満足いただけるかと存じます!」

 困った顔をしたカサンドラの視線が俺に向く。
 状況がわかっていないようじょも頭に「?」を浮かべながら口を開いた。

「どれぇ」
「ッヨイさま、少しの間の辛抱ですよ。番兵さんも仰るように公衆浴場楽しみですね」
「はいどれぇ!」

 満足したッヨイさまはニコニコ顔で、こちらに向けていた顔を引っ込めた。
 問題はわけもわかっていないカサンドラが曖昧に俺と雁木マリの顔を見比べていたけれど、俺がうんうんとうなずいておいたら立場を思い出した様に伏し目になり、コホンとひとつ咳払いをした後に言葉を口にする。

「お、お役目ご苦労様です。滞在中、ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いしますね」
「ふぁい!」

 八の字ヒゲの番兵はちょっと上ずった声で、ニッコリした俺の奥さんに返事した。
 まるで高貴な身の上のご夫人を演じきっている様にも見えるカサンドラである。女村長のところで受けていた花嫁修業が生きた。

 そのまま後方に控えていた野牛の兵士たちに驚きながらも、番兵は点呼を済ませていった。
 問題は番兵の後を追いかけながらニシカさんが口にした言葉である。

「お前ぇ、完全に兵士か何かと思われてるぜ、大使さまよう」
「そうみたいですね……」
「しかもようじょがお前の事を奴隷とか言ったからな。今じゃ使徒さまのご身分だってのに、残念なこった。これじゃ聖奴隷修道騎士さまだな。あっはっは!」
「そう思うならひとこと訂正してやってくださいよ。俺あのリストにたぶん、兵隊さん枠で書き込まれているよ」

 ニシカさんは大きな口を開いて何がおかしいのか馬鹿みたいに大笑いをした。
 そうか、そういう事なら今回の謁見では面を割らずに相手の動向を探る事にでもするかな?

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