挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

136/564

祝300万PV感謝&記念SS 正妻の矜持 中編

感謝&記念SSの続きになります。
いつも異世界村八分をご愛読いただき、本当に感謝です!

 こんな事を言うのは少しためらいがあるのですが、シューターさんと夫婦の愛を確かめ合う事が出来たのはブルカから戻って来ていち度きりの事でした。
 それからしばらくは、息を付く暇も無かったからです。

 何しろシューターさんはバジルを村に連れて戻ってきたから大変です。
 すぐにもエルパコちゃんが家族に加わってしまい、それからダルクちゃんも新しい奥さんとなりました。
 ひとりわたしばかりが幸せを確かめさせて頂くわけにもいかないので、しばらくは我慢の毎日でした。

 わたし独りきりの時は、そういう寂しい気持ちになればシューターさんの事を思い出して自分を慰めていればよかったのですけれども。
 シューターさんは大人の男の方ですし、辛抱していただくのも大変です。

 するとダルクちゃんやエルパコちゃんたちが用事でお出かけをする機会に、わたしの事をジロジロと見てくるのです。ジロジロ見て、その後に「俺の奥さん」と言って側に寄って来るので何を考えているのかはすぐにわかりました。
 そしてそれが嬉しかったのも事実です。

 タンヌダルクちゃんは、シューターさんにとってふたり目の奥さんです。
 とても魅力的な女性で気の強いところはありますが、よく気の利く可愛いお嬢さんですし、そういうところはシューターさんがいつもの様にチラチラと彼女を見ている事からもわかります。お胸が好きなんですね。
 それからエルパコちゃんは、いずれシューターさんの奥さんになる事は目に見えています。
 一緒にお風呂に入るとエルパコちゃんは自分の事を男の子だと言って拒絶反応を示すのですが、シューターさんはエルパコちゃんの体を洗ってあげる時に、そわそわしているのがわかるのです。夫と同じものが付いている事に興味津々なんですね。

 奥さんや奥さんの候補が一気に増えてしまったので、わたしは危機感を募らせていたのでした。
 だってそうでしょう。
 わたしはシューターさんに最初に嫁いだ奥さんなのだから、やっぱりシューターさんにはもう少しの間だけでいいので、わたしだけを見ていてほしかったし、そうして欲を言うなら夫の子供が早く欲しかったのです。
 確かにバジルはわたしとシューターさんの子供みたいなものですし、可愛い事は間違いないのですけれど、わたしにとって「妻であっていいのだ」と思える確信が欲しかったのです。
 だから、家族が留守のうちにそうして求められる事は嫌ではありませんでした。
 早くシューターさんとの間に子供を授かる事が出来れば、きっとわたしは後ろめたい気持ちを他の家族に向ける事をしなくて済むからです。

 夫もそのことを理解していたのか、辛抱しきれなくなるとわたしだけに求めてくださいました。
 申し訳ない気持ちもある一方で、その事実にとても嬉しくなりました。
 わたし、男の子と女の子のふたり欲しいなあ。

     ◆

 もしかしたら、わたしは浮かれていたのかもしれません。
 自分ではあまりそういう認識はしていなかったのですけれども、家族のみんなにもそう見えていたのかも。
 後々になって思い返してみると、シューターさんを独占したい気持ちの焦りと、それから家族がいっぱい出来て頑張っていこうっていう張り切りと、そういう気持ちが外に出ていたのかもしれません。
 だから、わたしたちの家族がどの様に見られていたのか、あまりご近所さまが見えていなかったのかも。

 猟師小屋で肩を寄せいあいながら、新しくできた家族と過ごす。
 こうして口にしてみると、何だかとっても楽しい生活の様に聞こえてくるから不思議です。
 けれども現実には家族が四人にバジルちゃんが、この手狭なひと間の狭い小屋の中で生活するのだから、それはとても難儀です。
 この頃に夫は、村長さまのご命令でサルワタの騎士さまになりました。
 騎士と言えばお扶持(ふち)を村長さまから頂ける特別な立場で、わたしたちは今までの様に猟だけで生計を立てる必要がなくなったのです。
 サルワタの森の開拓村はこの様に何もない辺境の果てにある場所ですから、夫が「扶持はお給金の形じゃなくて現物支給なんだってさ」と言った時はそれで構わないとわたしたち妻は思ったものです。
 それなら何はさておいて、お家をどうにかしましょうとわたしは夫に提案しました。

「あのう、シューターさん」
「うん?」
「猟師小屋というのは、もともと猟師の家族が夏の一時期に村で過ごすための簡易の小屋なのですよ。農家のみなさまはこれよりも立派な土壁と屋根を持ったお家なのです。こうして家族も増えた事ですし、出来るだけ早く新しいお家に引っ越しできる様にお願いしてもらえないでしょうか」
「そうですよ旦那さま、街から蛮族の移民がやって来て新築ラッシュの今なら、領主さまにお願いするのもチャンスですよう!」

 呑気にしている夫にわたしがそう談判したところ、ダルクちゃんもそう言ってわたしに賛同してくれました。
 エルパコちゃんも「ひとり寝がとても寂しいよ」とつぶやいていましたから、きっと家族そろって一緒に床に就ける寝台で夜を迎えたいに決まっています。

「わ、わかった。村長さまに明日の朝にでも相談してみるよ。みんなでゆっくり寝られる寝室を用意しないとな」

 そんな風に新生活に浮かれていたわたしたちでしたが、お向かいにある農家のご家族は、厳しい視線をわたしたちに向けていたのです。
 新生活がはじまって毎朝、シューターさんとエルパコちゃんが表の畑を手入れするために出かけます。
 そうして物事をあまりお気になさらない夫は、顔を合わせるとご挨拶なさるのですが、大抵はお向かいさんは無視なさるのですね。
 わたしは父が存命の頃からそうだったのもあって、あまり気にしていませんでした。
 以前はただ、わたしの方からは頭を下げるようにはしていたけれど、それを見るだけ見て無視なさるのでしたが、今は違います。
 わたしの家にこうして家族が増えた事で、物珍しさもあったのでしょうか、こちらを見てこられるのですけれど、厳しい視線を少し向けた後に、舌打ちなさるのでした。

 夫はああいう性格ですからあまり気になさらなかった様ですが、野牛の族長の妹という、高貴な身の上のダルクちゃんには耐えられなかったのかもしれません。

「義姉さん、何なのですかあの連中は! とっても不愉快です」
「我慢してください、ダルクちゃん。あのひとたちはむかしから、ずっとそうなのですよ」
「でもでも義姉さん、悔しいじゃないですかあ」
「そ、そうですね」
「どうして蛮族どもはあんな態度をとるのですか。わたしが野牛の娘だからですか? 旦那さまが全裸を貴ぶ部族だからですか? そ、それともエルパコちゃんがハイエナの猿人間だからですか? わたしたちがよそ者だからですかあ……」

 悲しそうな顔をしてダルクちゃんがある時そう言ったのですけれど、それはきっとどれも正しくて、それだけじゃないのだと思いました。

「わたしたち猟師の家族は、ずっと村の鼻つまみものだったのです。猟果が無ければ村長さまのご慈悲に頼って、施しを受けなければいけないわけですし」
「けれども、今の旦那さまは騎士さまですよ! おかしいじゃないですかあ」
「そうですね。今まではずっと鼻つまみものだったのに、急に旦那さまが騎士さまになったから、戸惑っているのですよ」

 夫はもともと村の猟師でしかなく、街から帰ってきた時は奴隷身分にまで落とされていました。それが急に騎士さまになって、ご近所さまもどうわたしたちの家族と付き合っていくのか戸惑っているのでしょう。
 事実、そういう事をサルワタの森の湖畔に出かけてお城の建設作業をしている時にも出くわしました。
 夫が作業現場の監督さんとしてご差配なさっている時に、周辺集落のみなさんがご不満を口にされたのです。

「何で奴隷の分際で、普請作業を取り仕切る様な態度を取っているんだ。貴様はいったい何なんだ、ええ?」

 それは当然の事ですよね。
 おヘソにピアスをした上半身裸のシューターさんは、どこからどう見ても騎士さまという外見には見えず、奴隷そのものです。
 だから、現場監督としてみなさんにご指示を出したシューターさんの事を皆さん誤解したのです。

「争い事はいけません! シューターさんは村長さまに命じられた現場の責任者なのですよ?!」
「そういうあんたは何者ンだ。俺たちは村長さまの命令で、築城を取り仕切る騎士さまの配下で作業するためにここへ来たんだ。ギムルさまはいったいどこにいる。騎士さまと言うのは新たにギムルさまが就いた役職ではないのか?」
「わたしがその騎士の妻、カサンドラです。ギムルさまは野牛の一族の居留地に、お嫁さんを探しに行っています」

 シューターさんをそのままにしてはいけないと思って、わたしは気が付けばたまらず叫んでいました。
 夫もわたしの声に驚いていたし、集落から集まった人足のみなさんも、びっくりなさっていました。
 だけれども、言ってしまった以上は続けないといけない、そういう思いでつたないながらわたしは説明を繰り返しました。
 その場はどうにかうまく纏める事が出来たのですが、そういう事があって夫はひどく気落ちしたのです。

     ◆

「あの者どもは、すぐに村の連中に迎え入れられるというわけにはいかぬようだな」

 騎士の嫁として恥ずかしく無い様にと、花嫁修業を受けていたわたしが村長さまの執務室に呼ばれた時の事でした。
 わたしたち嫁いだ女たちの事をたいそうご心配になられた村長さまは、夫婦生活の近況はどうかとお聞きになりながら、そう仰いました。

「はい。先日も建設現場でそういう事がありましたし、シューターさんもダルクちゃんも苦労している様です」
「はっはっは、あの男が苦労をしているだと? あの野牛の娘はともかくとして、まあその場では苦労しただろうが、お兄ちゃんならば引きずる事も無いだろう。きっとすぐに連中とも親しくするであろうからな」
「そうでしょうか」
「そうだとも。わらわもお兄ちゃんを、こうして信頼しておるからな。シューターは使える男だ」

 村長さまは時折、夫の事を「お兄ちゃん」と呼びます。
 理由は知りません。わからないですが、きっと夫と村長さまの間に何かの秘密があったのでしょう。
 わたしはその事を詮索するべきではないとどこかで感じていたのですが、今にして思えばそれも嫉妬のひとつだたのでしょう。
 わたしの知らない夫の事は、やっぱりわたしも知っておきたいと思うのが心情ですけれども、聞くのはやっぱり恐れ多いですし、それに聞いたことで後悔するかもしれません。
 そんなことを考えていたのですが、それはただの杞憂に終わりました。

「ああすまん、お兄ちゃんというのはだな。シューターがわらわの事を自分からすれば妹みたいなもんだとそう言って笑いよったのだ。領主であり村長であるわらわにしてみたところで、あの男からすれば年端もまだ行かぬ童子扱いよ。傑作ではないか」

 村長さまはそう言って、あっはっはと大きく笑われました。

「そう言われてみればシューターさんも時々、村長さまの事をアレクサンドロシアちゃんと……」
「そうであろう。わらわにしたところで、そなたにしたところで、子供扱いよ。ん? そなたも家ではそういうかわいがりをうけているのではないか?」

 村長さまはそう言って意地の悪い顔をされましたけれど、その点だけはキッパリとお応えしておかなければいけません。

「シューターさんは、わたしを妻として立ててくださいます。わたしのお願いした事はよく聞き入れてくださいますし、大事にしてくださいますよ。も、もちろん、ふたりきりの時はかわいがってくださいますが……」
「なるほどのう。わらわの知らぬお兄ちゃんの顔を、正妻であるそなたは知っているという事か」

 村長さまはおやっという顔をした後に少し怖い表情をして、わたしの顔を覗き込んできました。
 むかしのわたしだったら気づかなかったことなのでしょうけれども、今のわたしにはひとつだけ確信できる事があります。
 それは村長さまが、シューターさんに特別な感情を抱いておられる事。
 だってそうでしょう、正妻という言葉には確かに棘が感じられたからです。

「村長さまに花嫁修業をさせていただいて、わたしみたいな女でもシューターさんの正妻でいられます」
「ふむ。女になったな、いや正妻の矜持というものであろうか……」

 棘はあったのですけれども、それでもそれを包み隠すようにして口元を綻ばせて見せた村長さまは、わたしに向き直ってそう言いました。

「わたしに正妻としての矜持を持つようにおっしゃったのは、村長さまですから」

 そうだのうとお応えになられた村長さま。
 村長さまも。お立場が許すならば、これだけ素敵な夫と結ばれたかったのでしょうか。
 そんな埒もない事を考えたわたしに、村長さまは笑って眺め返してくるのでした。

「今後とも、花嫁修業に励むがよい」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
次回で祝300万PVの記念SSは最後になります。
今後とも異世界村八分をよろしくおねがいします!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ