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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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祝300万PV感謝&記念SS 正妻の矜持 前編

気が付けば異世界村八分の総PV数が300万に到達しておりました。
読者のみなさまに支えられて、こうして楽しく更新させて頂いております。
総ブックマーク数5000到達とあわせて、あつく御礼申し上げます!

 小さな頃のわたしにとって、世界はとても小さなものでした。
 父と過ごした猟師小屋とその側に広がる四面の畑。それから庭先の作業台があって、井戸や小川に水汲みに行くぐらいが、子供の頃の私にとってのすべてだったのです。

 そんなわたしが小さな世界から飛び出したのは、大人たちに連れられて村の裏手にある里山に出かけた時の事でした。
 猟師のひとり娘であるのだから、父や猟師のみなさんとともにいつかは猟に出る日が来る事は覚悟をしていました。
 はじめて与えられた短弓を持って里山で射的をするのです。
 握り方をまねし、狙っても狙っても届かない矢に業を煮やした父はよく不機嫌に「貸してみろ」と言ってやりかたを見せてくれました。
 いつまでたっても上手くならないわたしは、本当に父の血を引いているのだろうかと落胆したものでした。

 けれども、猟師見習のお勉強をする中でもひとつ楽しみがありました。
 こんな事を言ってしまうと父に怒られるので黙っていましたが、従兄のオッサンドラ兄さんに連れられて、里山の中を散策して歩くのは、とても楽しかったのです。
 兎を見つけて追いかけたり、蛇を見つけて驚いたり。
 狐を追いかけて雑木林をさ迷っているうちに、迷子になったのはとても良い思い出です。
 泣きべそをかいたわたしをオッサンドラ兄さんが慰めてくれて、陽が暮れていくのを見てまた泣いて。
 気が付けばマイサンドラ姉さん、オッサンドラ兄さんのお姉さんが怒った顔をして迎えに来てくれたのを今でも覚えています。

 そうしてサルワタの森と村の間に広がった雑木林の里山が、わたしの新しい生活空間になりました。
 何度かですが鹿や狐、兎を捕まえに出かけたことがありますが、それより先の深いサルワタの原生林には、狼やリンクスが出没するので、子供の頃のわたしが近づく事はありませんでした。
 かわりに山菜をとったり薬草をあつめたり、木の実や花を摘んだり、里山で猟師の子供たちは生計の足しにするのです。
 マイサンドラ姉さんが小型の動物を狩る指導をしてくださったり、山菜取りでこれは食べられる草、これは毒のある草と教えてくれました。

 けれども。
 やがてマイサンドラ姉さんは大人たちと長い狩猟の旅に出る様になり、やがて単独で大物を追って狩りをするようになりました。
 そしてマイサンドラ姉さんは、自分が猟師になったけれども、オッサンドラ兄さんには猟師になる事は許さないと言っていました。
 不安定な狩猟生活と、村からは鼻つまみものに見られる日々は、やはり幼い頃のわたしでもとても辛いものがありました。
 信心深いマイサンドラ姉さんはそういった村の雰囲気をよく知っていて、女神様に祈りをささげる時も決まって早い時間に出かけて、教会堂の中には入らずにいました。
 わたしも何度か姉さんに連れられてお祈りに行きましたが、その時も同じ様に教会堂の前まで来るとそこで膝を折って女神様に祈ったのです。

「あんたはいずれオッサンドラと結婚するんだ。そうすればおじさんみたいに苦労してあんたにひもじい思いをさせる事はないからね」
「どうしてですか?」
「オッサンドラには手に職をつけさせる。今、村長に掛け合って鍛冶職人の弟子になる事は出来ないかと願い出ているところよ。そうすればオッサンドラは食うに困る事はないし、あんたも一生何不自由なく生きていけるさ」

 まだ十になるやならずだったわたしには、難しい話だったので理解できていませんでした。
 けれどもそう口にしたマイサンドラ姉さんの顔はしごく真面目で、わたしの思い出に深く残りました。

 猟師にはふた通りの狩猟のスタイルがあるのだと父に教えられたことがあります。
 ひとつは猟師仲間で集まって、獲物を追い込むスタイル。
 普通それは集団の獲物を追う時にやる猟の仕方なんだそうです。鹿やマンモス、ドラゴンの群れを狩る時にやるんだとか。
 もうひとつはリンクスやワイバーンを狩る時などの様に、単独の大きな獲物を襲う時は仕掛けを張り周到な準備をして、何日も森に籠って仕留めるのです。
 例えば鱗裂きのニシカさんは、一年を通して単独で大物の獲物を追いかけている方ですが、マイサンドラ姉さんもこうした狩猟のスタイルをしておられました。

 むしろ、ニシカさんにこのやり方を指導したのがマイサンドラ姉さんなんだそうです。
 思い出してみれば、マイサンドラ姉さんとニシカさんが、ずいぶんとむかしはよく一緒におられたのを思い出しました。
 わたしとオッサンドラ兄さん、そしてニシカさんとマイサンドラさん。
 そんな思い出がサルワタの里山には詰まっていました。

 けれども、そうした小さなころの思い出は、突如として終わりを告げる様になります。

 鍛冶職人の見習いとして鍛冶場に出入りするようになったオッサンドラ兄さんは、少しずつ疎遠になっていくようになりました。
 わたしとは違い、大の大人たちとワイバーンやマンモスを狩るために森に入る様になったニシカさんも、やがて長く集落を離れるようになったのです。

 そうして。
 ある時マイサンドラ姉さんは、群れをなして移動する巨大な猿人間を追って猟に出かけました。
 長らく帰ってこなかったマイサンドラ姉さんが結婚すると言い出した時は、父もひどく驚いて、漁師たちのみんなではちょっとした騒ぎになったものです。

 なぜなら、結婚とは常に大人たちと村長さまたちの話し合いによって決めるからでした。
 マイサンドラ姉さんはそういった慣習を無視して、クワズという村で出会った男性と結婚することを、ふらりと村に戻ってきた際に報告したのでした。

 当然の事ですが村長様は激怒して、父もまた難しい顔をしたのを覚えています。
 行動力のあるマイサンドラ姉さんは、父たちの反対には何ひとつ耳を傾ける事無く、わたしたちの村を去っていきました。
 そうした事があったので、女を猟師に育て上げて単独で狩りをさせる事は、ニシカさんを最後にやらなくなりました。
 わたしもまた、そうした理由から猟師見習いの対象から外されて、家に残って毛皮の処理や家事をする事だけに専念するようになったのです。

 わたしにとっての世界は、ふたたび小さな猟師小屋とその向かいにある小さな畑だけになりました。
 この村にいて何ひとつ生産する事のないわたしは、毎日ご近所のみなさんから白い眼を向けられる事になったのです。
 そうこうしているうちにこの冬、父がワイバーンを仕留めにサルワタの森に入ると、そのまま帰らぬひととなってしまいました。

 父は恐ろしい飛龍の命を奪った引き換えに、異世界へとその魂を旅立たせたのです。
 わたしは村人のみなさんから「ただ飯喰らい」という厳しい視線に耐えながら、自分の殻の中に籠ったのです。

     ◆

 そんなわたしの小さな世界の扉をふたたび開けて、外はこんなにも広いんだと教えてくれたのが夫でした。

 はじめはブルカの街から送ってくださったべっこう柄の手鏡にはじまり、肥えたエリマキトカゲのバジルちゃん。
 そして新しくわたしたちの家族となったエルパコちゃんと、野牛の一族から嫁いできたダルクちゃん。
 わたしの知らない雑木林の向こう側のサルワタの森、そしてさらに向こうにある野牛の里。
 新鮮な外の世界は、とても素敵でした。

 ダルクちゃんがシューターさんに嫁いできた時は、本音を言えばとても恐ろしかったです。
 夫は村長さまからとても信任の厚い方で、はじめは猟師見習いからはじまったところを、すぐにもニシカさんとともにワイバーンを仕留めたほどの戦士さまです。
 野牛の一族を率いる族長さまと闘牛をした際も、見事に勝ってみせました。
 きっと夫の事を永遠に独占するのは叶わないんだろうなとは心のどこかで思ってはいましたけれど、その相手は村長さまだと思っていたからです。

 だからダルクちゃんがわたしたちの家にやって来た時、心の中に許せないという嫉妬があったのは事実です。

「結婚というものは村長さまや大人の親戚が決めるものです。わたしもそういう事は理解しているつもりです」

 夫にはそう言って説明したけれども、本心ではとても辛かったのです。
 高貴な身の上の方はたくさんの奥さんを持つことが普通なのは、ちゃんとわかっていたのです。
 シューターさんは全裸を貴ぶ戦士のご出身ですから、故郷ではさぞご高名な戦士だったのだと思います。
 ご出世なさる事は、とても嬉しいのです。
 けれども、やっぱり悔しい。
 だから余計な事を言ってしまったかもしれません。

「でもわたし怒ってます。悔しいです。シューターさんはわたしが独占できると思ってたので……」

 そんな言葉を口にしたわたしに、夫は寂しそうな顔をしていました。
 シューターさんの考えている事はすぐに顔に出るので、夫も本当は申し訳ないと思っている事はすぐにもわかりました。
 それならいいんです。
 ちゃんと、わたしの事もしっかり見てくださるのなら、許します。
 けれど、野牛の族長さまとダルクちゃんを奥さんに迎え入れるために闘牛をする時になって張り切っている夫を見ていると、ちょっとだけ意地悪をしたくなってしまいました。
 ごめんなさいね、シューターさん。

「シューターさんなんて負けちゃえばいいんです」
「ちょっと待った。こら、話を聞きなさい。俺はカサンドラのためにだな、」
「嘘です。じゃあおもいっきり野牛の族長さまに勝ってくださいね」

 齢の離れた夫ですけれど、そういう風に言ってあわてているシューターさんの姿はかわいらしいなと思いました。
 わたし、変なんですかね。
 夫が新しい奥さんを迎え入れるために戦いに挑もうとしているのに、それを応援しちゃうなんて。
 わたしが笑顔を見せると、夫も嬉しそうに顔をほころばせてくれました。

 そして夫は勝ちました。
 夫は、膝に傷を負いながらもちゃんと勝ったのです。
 これがシューターさんというひとなんだな、と。そう思いました。
 ちょっぴり悔しいけれど、やっぱりシューターさんはわたしにとって自慢の旦那さまです。

 ダルクちゃんにも、少しだけおすそわけをしてあげようかなと思いました。
次回は引き続き記念SSの続編をよろしくおねがいします!
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