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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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114 ハチミツの村の事情


「傷口は、小指の爪先ほど刺された程度で特に問題はないわ」

 ようじょの怪我はワンピースこそ裂かれて血に染まってしまったけれども、大きく騒ぐほどの傷ではなかったらしい。
 俺は治療にあたってくれた雁木マリの言葉を聞いて心底安心した。

「だから言ったのです、ちょこっとだけ刺さっただけだと言ったのです」

 応接室のソファに寝かしつけられて裂けたワンピースを脱がされたようじょは、苦笑気味に力なくそんな言葉を俺たちにかけてくれた。
 そんな事を言われたって心配なものは心配だ。
 俺とカサンドラはソファを囲む様にしてようじょを見下ろした。

「しかし剣の刃に毒が塗ってあるという可能性だってある。そこのところはどうなんだマリ?」
「心配性ね。しっかり舌の確認と、念のためにポーションを腕に塗って毒気の反応も見たわ。どちらも問題はなかったから安心して」
「そうか、本当によかった。よかったですねッヨイさま」
「はい、どれぇ」

 俺とカサンドラはようじょの手を取って安堵した。
 カサンドラの時にも一瞬の目を離した瞬間にこういう事が起きたものだ。
 四六時中一緒に行動するという事が出来ればそれに越した事はないが、そんな事は事実上不可能だ。

「これぐらいの傷は冒険者をやっている時にはしょっちゅうだったのです。それにどれぇのおかげでこの程度で済んだのですから、どれぇもねえさまも、そんな顔をしないでください」
「そうですね。シューターさんのおかげで助かったんですもんね」

 ようじょとカサンドラは口々にそう言ってくれたけれど、俺は釈然としないものを感じた。

     ◆

「あの女は領主の次男カフィアシュタイナーの母親であったらしい」

 傷口はたいしたことはなかったけれど、念のためにと雁木マリがようじょの側についてくれる事を応接室前の廊下にあつまった仲間たちに報告すると、女村長がようじょを襲った使用人の正体について説明をしてくれた。

「ハメルシュタイナーが手を付けたという使用人の女のうちのひとりで、次男を産んだ後も屋敷に仕えていたのだそうだ。すでに実家も無く身寄りのないものであったゆえにここに残っていたそうだが、最後まであの熊面は妻として迎える事が無かったそうだの」

 あわれなものだ。
 俺がその腕を斬り飛ばして命を奪った女は、そんな立場であったらしい。
 この村に頼る身寄りも無くて唯一の救いというのか、自分の大切な息子を殺された事を知った下女の女は、その復讐を決意したというわけである。
 もちろんその行動に何かの計画性があったとは思えず、復讐できる相手がいるならだれでもよかったんだろうな。
 そしてッヨイさまがちょうど彼女の目に留まったという事だろう。
 あの時はたまたま俺とようじょのふたりきりで応接室にいたところだったし、他の人間は食事のために食堂に集まっていた。
 おあつらえ向けとばかりに襲われてしまったのである。

「しかし油断ではありました。申し訳ありません……」

 女村長の身辺警護にあたっていたエレクトラが、とても申し訳なさそうに俺たちに頭を垂れる。
 けれどもそれを言うならば、村の警備責任者は俺なのでこちらも申し訳ない気分であることは間違いない。

「いや、あれは俺ももっと警戒しておけばよかったんだ」
「それにしても大事なかったんだから、まあよしとしよう。その方たちもッヨイハディの二の舞にならぬ様、しっかりと身辺には注意をしてくれろよ? あの男は女たらしではあったようだが、施政については存外真面目にやっていた様だ」

 女村長は俺たちをなだめる様にそう言いつつ、注意を促した。

「この領内の特産はハチミツらしい」
「ハチミツですか?」
「そうだ。熊面の猿人間と言えば、養蜂を盛んに行う部族で知られておるからな。ここでも領内の集落のあちこちでは濃くて甘いハチミツを良く産していて、これを王都に納めているらしい。わらわもその事だけは我が領内で聞いたことがあっての」
「ほう……」

 熊面だけに養蜂ってわけか。
 しかし支配者としては真面目に養蜂に取り組んでいたという事であれば、なおさらこの村と周辺集落を俺たちが統治するのは至難かもしれないぜ。

「そういう事なら、今回の使用人の女みたいな事が今後もあるかもしれませんね。出来るだけみんなは固まって行動をする、なるだけひとりにはならないぐらいの心がけは必要かもしれない」
「そうだの。お前たちも油断なき様にするのだ、使用人や村人だからと言って隙を見せる事が無い様に」

 女村長の言葉に、配下のみんなは一様に頷きを返した。
 そしてぞろぞろと廊下を歩いて食堂に向かいながら、もうひとつの懸案事項を女村長が口にする。

「ところでナメルシュタイナーの足取りはつかめているか」
「いや、ひとを使ってニシカさんとエルパコが山狩りをやっているのですが、夜になったところで打ち切りだ。そろそろ帰ってくるんじゃないですかね」
「こちらも、屋敷の人間に心当たりはあるかと聞いてみたものの、何も知らないと使用人たちは怯える一方で……」

 冒険者ダイソンも難しい顔をして返事をした。
 まあ、俺がカフィアシュタイナーの母親をあっさりと斬り殺してしまったので、屋敷に仕えている人間たちは縮こまってしまったらしいからな。
 食堂までたどり着いて、本来ならばみんながそろって食べるはずだった、冷えた夕食を前に悩み顔を突き合わせていると、

「たぶんあのデブは領内にはいないと思うぜ」

 鱗裂きのニシカさんが、けもみみを連れて食堂に入ってくるではないか。
 ニシカさんはまっすぐ俺たちの側までやってくると、遠慮なく食卓のイスにどっかりと座って言葉をつづけた。

「シューターに言われた通り、農業ギルドというのに顔を出してみたんだがよ。この村に詰めているという冒険者が何人か見当たらねえ」
「どういう事だ?」

 女村長が俺とニシカさんの顔を交互に見比べる。

「いやあ。ナメルシュタイナーが以前から村にいる冒険者たちとモンスター狩りに出ていたという話を耳にしたじゃないですか、だからもしかして裏でつながっているのではないかと」

 俺はそんな話を女村長にした。
 ただやみくもに山狩りをやっていても、統治者が変わった場ばかりの村でどれだけ村人の協力が得られるかもわからない。
 欲しいのは目撃情報のひとつでもというところだったけれど、やはりあのデブが懇意にしている人間の動向を探るほうがいいんじゃないかと俺は思ったわけだ。
 たまたま、俺たちの村には無い農業ギルドの事が頭に残っていたのでニシカさんに話をしていたのだけれど、やはりその線が脱走ルートだったかと俺は歯ぎしりしたものである。

「恐らくそいつらの協力でも受けて、村から逃げ出したんだろうよ。冒険者なら野営の装備ぐらいはすぐにでも用意できるだろう。逃げ込んだ先が農業ギルドか冒険者の家で、そこから街道を避けて逃げたと考えるのが一番早いんじゃないのかね。村長さまよ」

 ニシカさんはひととおりそんな事を口にした後で、勝手に手酌でぶどう酒の入った瓶をそのまま口に運んでごくごくとやった。
 すると女村長はそんなニシカさんのそんな態度も気に留めずに、その隣に腰を落ち着けた。

「そうか、ナメルシュタイナーは逃げたか」
「どうするよ村長さま」
「放っておけ。この村を離れたという事は、もはや頼る相手はブルカ辺境伯しかおらぬであろう。そしてそれは最悪の愚策だろうしの」

 こうして考えてみると、この村の冒険者もきっとブルカ辺境伯の息がかかっている人間だったのだろう。
 俺たちの村にやっていたのと同じことを、恐らくゴルゴライにもやっていると考える方がいい。
 女村長は俺たちを見回すとこう言った。

「戦争はもうはじまっている。わらわはもう後に引く事は出来ぬ、であれば、腰を据えてブルカ辺境伯と事を構えるしかないからな。さあお前たちも、すっかり冷めてしまったが食事にしよう」

     ◆

 夜になると、女村長はッヨイさまを連れて村の宿屋に戻った。
 領主の館に泊まるという事も最初の内は考えていたのだが、誰が信用出来て誰が信用できないかわからない状態では警備上問題がある。
 その事を俺たちは話し合って女村長に納得させると、食事を終えてそそくさと引き上げてきたのである。

 ただし統治者として領主の館に誰かひとは残さないといけないだろうという事なので、雁木マリがその役を買って出てくれた。
 マリならば武芸の心得がひとしきりあるし、修道騎士ハーナディンも側に控えている。
 それに護衛の野牛の兵士を数名ほどつけておいたので安心というわけだ。

 俺たちは改めてカサンドラがもともと泊まり込んでいた宿屋の寝所に戻った。
 昨晩までは多人数でひと部屋を占拠していたのだけれど、分宿する様になったので、部屋に余裕が出来たというわけだ。

 そうしてみると、俺はカサンドラとふたりきりの夜を過ごすわけである。
 いろいろとツダ村に出かけている間に目まぐるしく俺を取り巻く環境が変化していたので、これについてしっかりと報告と相談をしておかなければいけない。
 ゴルゴライに戻ってきてからしばらく、その事は延び延びになっていたからね……

「さてまず、どこから話したらいいかな?」
「そうですねえ。もちろんシューターさんは全部お話しくださいますよね?」
「も、もちろん包み隠さず、ツダ村でどのようなお話合いがあったのか、お話ししようね」

 寝台の上にふたりで並んで向き合うと、カサンドラはニッコリ笑って俺の顔を見た。
 奥さんの顔はとても怖かった。

「村長さまとは、どこまでお話が進んでいるんですか? それからガンギマリーさんとのご婚約でしたっけ? あと、エルパコちゃん」
「まず村長さまとマリの件だけれど。騎士修道会との同盟を結ぶにあたって、姻戚関係を結びましょうという事になったんだ」
「はい」

 俺の言葉に身を乗り出して聞いてくる正妻である。

「それで、聖少女の雁木マリと俺とが結婚すれば身内になるんじゃないかと」
「はい」
「けどそれだけじゃ足りないのでアレクサンドロシアちゃんと俺も結婚した方がいいんじゃないかと」
「エルパコちゃんは?」
「それはですね、エルパコがぼくだけのけ者は寂しいと……」

 結婚をする順番はどういう風にするのがいいのか、アレクサンドロシアちゃんの扱いはどうすべきか。
 何で俺は奥さんにこんな相談をしているのだろうと思いながらも、言われるままに「はい、はい」と首を垂れるしかなかった。
 きっと鏡を見れば、さぞ俺は恐妻家の顔をしているんだろうなと思いながら、長い夜を費やしてカサンドラにしどろもどろになりながら説明をするのだった。
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