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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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112 フェーデしました逃げられました


 ゴルゴライ領主親子と俺たちとの間で行われた武力解決手段(フェーデ)は、誰もが予想もしなかった様な形で終了した。
 そして気が付けば当事者のひとりナメルシュタイナーの姿がこつ然と消えていたのである。
 これは非常にまずい結果だ。

「エルパコ、奴を探し出せ!」
「うん、わかった」
「ニシカさんも手伝ってもらえますか。ヤツはあの体だ、そう遠くへは行っていないはずだ」
「おうわかったよ。ったくひと使いが荒いな、お前ぇはよ」

 当初の計画ではこのフェーデを通してゴルゴライ領主の息子兄弟のうち、次男のカフィアシュタイナーを決闘にかこつけて殺害してしまおうというものであった。
 当然その結果に納得のいくはずがない父のハメルシュタイナーが、俺たちが村に滞在中に襲撃を計画してくるだろう。
 けれども計算が狂ったのはこのフェーデ中に、長男デブのコントロールから外れてしまった巨大な猿人間によってハメルシュタイナーは殺されてしまったわけである。
 暴れる巨大な猿人間の被害をどうにか抑え込むために、フェーデを見物するために集まっていた村人たちも避難させている。
 相手の動きを予想しながら、村を掌握してしまおうと画策していた俺たちにしてみれば、まったく予想が出来ない展開になってしまったと言える。

 姿を消したナメルシュタイナーを探すべくけもみみを送り出した俺は、すぐにも広場の中央で陣頭指揮を取っていた女村長の側に駆けた。

「お前たちは、急いで領主の館に向かってあの場所を占領せよ。ガンギマリーどのは聖少女であられるから、領主が死んでしまった事を説明してもらいたい」
「ははっ、了解しました!」
「わかったわ。ドロシア卿はどうなさるの?」
「シューターと今後の話をつけ次第、すぐにわらわも向かう」

 野牛の兵士はただちに女村長の命令に従って駆け出して行く。雁木マリもうなずくとそれを追いかけた。
 入れ違いに近づいた俺を見た女村長は、気難しい顔をして腕組みをした。

「筋書きが大幅に狂ってしまったな」
「ナメルシュタイナーが姿を消してしまいましたからね、けど済んでしまった事はしょうがありません」
「だな、その様なものは些末な事だ。ただちにこの村の通信手段を掌握せねばならん。ッヨイハディよ、お前はすぐにも農業ギルドに向かえ、そこのゴブリンは厩を勝手にさせるな!」
「わかったのです!」
「す、すぐに向かいます!!」

 会話の途中にも配下の人間に次々と命令を下す女村長である。
 不安そうに俺の側に近づいてくるカサンドラを片手で抱き寄せながら、

「お前がナメルシュタイナーの立場であれば、この場合はどうする?」
「そうですね、俺たちがどういう動きをするのかアイツがどこまで想像できるかにもよります。たぶん厩に向かって逃げ出す算段をしますねえ」
「あそこは見ていた通り、ッワクワクゴロの弟に押さえるよう命じた。徒歩での脱走という事はあり得ないか」
「とすれば、隙をついて俺たちの馬を奪おうと考えるかもしれないな。ハーナディンさん!」
「了解ですよ。ただちに宿屋の厩を確認してきます。ひとを何人かかりますよ!」
「お願いします。馬の数に問題が無ければ、そのままブルカ方面の街道にひとが出ていないか偵察に向かってください」
「わかりましたよ婿殿!」

 俺の言わんとしていた事を会話の流れからくみ取ってくれたのだろう、了解すると残っていた野牛の兵士数名に声をかけて修道騎士ハーナディンが飛び出していった。

「でも、フェーデの最中に領主の熊が死んでくれたのは、ある意味で運がよかったのかもしれませんね」

 俺はフェーデによって負傷した腕をさすりながら女村長を見やった。
 たいした傷ではないのだが、カサンドラが気にかけてくれるので、手ぬぐいで腕を縛ってもらう。
 後でちゃんとした治療は雁木マリに見てもらえばいいので、まずは話を進める方が先だ。

「そうだな。だが狂った筋書きはどう修正するべきだろうな」
「こういう時にあわてたら駄目だ、アレクサンドロシアちゃん。堂々と領主の屋敷に入って、領主不在となったゴルゴライの統治を代理すると宣言すればいい。デブを逃がしてしまったというなら、その時はその時だ」
「ふむ。確かにいくら領主と血の繋がった息子と言えども、わらわがゴルゴライの領有を宣言した際に異議を申し立てられないのであれば何を言っても無駄だからな」
「そういうものですか」
「ああ、そういうものだ。辺境の諸侯が領土争いをするのは日常茶飯事の事だからな、いちいち国王がこれに口を挟む事はないし、中央の貴族どもも興味の範疇外だろう」

 つまり今出てくれば俺たちに殺されるのが運命だし、後々出てきてもすでにゴルゴライは俺たちのものになった後。
 なかなかあわれなナメルシュタイナーの運命というわけである。

「爵位の問題はどうなるのです? 確かハメルシュタイナーは準男爵という位を国王より授かっていたのではないのですかね?」
「そこは問題ない。爵位というものは基本、国王によって領地に付与されたものであるからな。わらわが掌握した後にはわらわが準男爵の称号を継承した事になるであろう。爵位いるか、お兄ちゃん?」
「俺が準男爵? 悪い冗談だ……」

 しかめ面をすると、何がおかしいのかあっはっはとアレクサンドロシアちゃんは笑って俺の背中をバシバシと叩いた。
 戦闘終了直後で脱力している俺にはとても響くのでやめてください。

「ひとまず準男爵の称号はわらわが預かっておく事にしよう。辺境を平らげた後にはお兄ちゃんにも今少し格好の付く爵位を貸与せねばならんな」

 そう言われて俺とカサンドラは顔を見合わせた。
 奥さんをたくさん抱える事になる俺としては、収入が増えるのなら爵位を頂けるのもありがたい事だけれども、今の状況では頭が回らないのである。

「と、とにかく間を開けるのはまずい。アレクサンドロシアちゃんは領主の屋敷に向かってください。俺はもうしばらく後始末をしてから向かいますので?」
「ん、後始末?」
「ナメルシュタイナーの事も気になりますからね、生きている様であればその場で始末します」

 始末という言葉を俺が口にしたとき、カサンドラの表情がにわかに強張った。
 妻の前で出来るだけこういう話はしたくないもであるけれど、これもお役目だからしょうがない。そうしなければ、あべこべに俺の方がカサンドラを差し出すことになっていたのだし、ヤツらが女村長の野望を取り除こうとするのであれば、やはり躊躇するべき事ではない。

「わかった、では領主の館に向かうとする。カサンドラ、わらわに付き合え!」

 そういう含みも理解してか、アレクサンドロシアちゃんは了承するとカサンドラの手を引いてその場を立ち去って行った。
 しばらくその姿を見届けた俺だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 閑散とした巨大な猿人間の暴れた後を見回してみれば、状況はひどいものだった。
 中央広場を立ち去る際に、雁木マリが領主ハメルシュタイナーの転がった首だけは持参して領主の屋敷に向かった。
 なので、そこには熊の体が無残に倒れているだけである。
 そして彼の次男坊もすぐ近くに、カラメルネーゼさんによって投げ出されたまま倒れこんでいた。
 近づくと、周りに村人たちの気配がいない事を確認してからしゃがみこんだ。

「息はまだありますわよ」
「そいつは不幸でしたね、この男も」

 すると、背後から剣を杖代わりにしたカラメルネーゼさんが近づいてきて俺に話しかけてきた。
 蛸足の損傷はいったん雁木マリによって治療はされたものの、体力そのものまで全快というわけにはいかなかったらしい。
 俺もそうだが、彼女もまた複数のポーションを重ねて摂取しているので、その間の無理が徐々に発露して体がしんどいらしいな。

「それで、この坊やについてはどうするつもりですこと?」
「意識はないのですね」
「そうですわね、ただ息をしているだけですわ」

 カラメルネーゼさんの触手で捕縛された時に、おそらく締め上げられた際に脊髄でも損傷したのかもしれない。
 フェーデの最中に死んでいる方がこの哀れな次男坊によっては苦しまずに済んだのかもしれないね。

「……たった女の覗きをひとつしただけで、この男もこんな結果になって残念きわまりないな」
「どうされるのです?」
「どのみちフェーデの最中に殺さなきゃならなかったんだ。それに、こんな状態は生きているとは言わない」

 刃広の剣の刃を確かめた俺は、それだけ言うとカフィアシュタイナーの首に剣を押し当てた。
 恐らく脊髄まで損傷しているというのであれば、雁木マリがいかに優れた聖なる癒しの魔法の使い手だったとしても、生きながらえさせる事は出来ても完治させる事は無理だろうしな。
 俺はそれほど剣の扱いが得意なわけではないので、切腹の介錯人よろしく首を斬り飛ばすなんて事は出来ない。

「悪いが痛いのは我慢してくれよ……」
「この坊やも貴族の子弟ですわ。許してくれますわよ」

 そんな言葉を背中に受けながら、俺はズブリとやった。
 カラメルネーゼさんは躊躇なく俺がそうした事に妙な感心顔をしていたけれど、もちろん俺の心の中に隠し様のない後味の悪さがあったのは間違いない。
 ただ、それを見せなかっただけ。
 俺はふたり目の人間を殺したのだ。
 カサンドラに見せなくてよかったとだけ、心の中で思った。

「次は俺の番かもしれない、そうじゃないかもしれない。俺は運がよかったんですかね」
「ええ、わたくしたちは運がよかったのですわ。そして最後まで諦めなかった」

 そしてこの坊やは運が悪かった。
 俺たちはカフィアシュタイナーの脈がなくなったのを確認してもういち度だけ周辺を見回った後、領主の屋敷に向かった。
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