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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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111 フェーデしますか逃げますか 後編


 俺の視界を走り抜けた矢は、寸分の狂い無く巨大な猿人間の心臓に突き刺さった。
 これは胸筋を貫いて内部まで到達したのではないか。
 見上げれば山の様に大きな巨大な猿人間を見上げながら、そんな期待感が俺の中で膨らんだけれども、残念ながらそうはならなかったのである。

「ウガンダ、ホッホセイ!」

 何語かはわからない。たぶん巨大な猿人間の間でしか通じない言語で雄叫びを上げた彼は、胸に一撃を喰らった事など無かった様に怒り狂い、そして盾を持った左手のひとすくいで俺を吹き飛ばした。
 瞬間、群衆から湧き上がる歓声と仲間の悲鳴が聞こえる。

「シューター!」
「婿殿!!」

 盾でフックを喰らったその衝撃たるや、ほとんどダンプカーか何かに跳ね飛ばされたような気分だった。
 ただの一撃で俺の脳みそはぐらりと揺れ、そして最悪な事に舗装された石畳に叩きつけられた格好だからしばらく身動きをする事も出来ない。
 当然、今の一撃で握りしめていた剣を手放してしまった。
 朦朧とする意識の中ではっきりとひとつだけわかった事は、完全に俺は無防備だという事である。
 下手をすれば全身バラバラになっていてもおかしくないのに、まだ生きて五体が動くのはポーションチートのおかげだろうか。

 このままでは巨大な猿人間に踏み潰されてしまうか、デブにとどめを刺されてしまうか。
 結果だけを言うと俺はそうならなかった。
 すでに瀕死の状況まで締め上げられていたカフィアシュタイナーを放り出したカラメルネーゼさんが、ギリギリのところで俺を触手で抱き上げてくれたのだ。
 強引に引きずり上げる様な格好だったけれど、それでも間一髪で戦斧を叩きつけて来た巨大な猿人間から救い出された。

「す、すいませんカラメルネーゼさん」
「まだ意識はしっかりなさっている様ですわね」
「ポーションが無ければ即死だった」
「今はその様な事を言っている暇は、ありませんわ!」

 蛸足で地面におろされた次の瞬間には、カラメルネーゼさんが刃広の長剣を走らせて迫りくるデブの連撃を打ち払っている。
 俺も即座に動き出して、巨大な猿人間の意識をこちらに集中させる様に行動をとった。
 恐ろしい事に、そうなのである。
 ポーションのおかげからか、ほんの数秒まえまでは体を動かすことも億劫だったはずなのに、すでに全身を全力で動かしても不具合がない。
 きっとポーションの効果が切れた時はひどい事になっているであろう体の心配を、今はしている余裕など確かにない。
 視線を巨大な猿人間に向けると、彼は俺に一撃を加えた後に満足していたのかニシカさんを次の標的に定めていた。

「くそったれめ、させるか!」

 俺は自らに気合を入れるべくそう叫ぶと、石畳に転がっていた長剣を探して視線を走らせる。
 カラメルネーゼさんが視界の端でデブと剣を交えているのが見えたが、こちらはその実力が互角といった感じだった。
 いや、やや押しているところがある。
 チラ見した限りではカラメルネーゼさんはさすが騎士というだけあって、剣術は正規の扱いを心得ているらしく、その蛸足を持った容姿からもわかる様に受け太刀スタイルで引き付けて戦うタイプだ。

 そしてニシカさんが弓を使うのではなく、ッヨイさまや雁木マリがファイアボールを打ち出す時の様な構えをして何かを手元から打ち出した。
 ウィンドストライクとでも言うのだろうか。
 色のない風弾らしきものが打ち出されたと思うと巨大な猿人間の顔面にぶち当たった。

 俺はその隙に長剣を拾い上げるべく駆け出した。
 背後でニシカさんとカラメルネーゼさんの叫び合いが聞こえる。

「おい、デブをやるぞ」
「何ですの?」
「戦力がバラけてたらアイツはいつまでも倒せねえ!」
「了解ですわ!」

 ニシカさんはこのわずかな隙に先ほど巨大な猿人間の顔面に打ち出したウィンドストライクを、デブことナメルシュタイナーめがけて打ち出す。

「ぐおっ」
「油断ですわよ!」

 ウィンドストライクは風圧を塊にして相手にぶつける魔法なのか、巨大な猿人間には刹那の目潰し効果しか期待できなかったが、ニシカさんに背中を見せていたナメルシュタイナーは、これでもんどりを打つ格好になる。
 そしてその触手が双剣のデブを羽交い絞めにして完全に拘束させたのである。
 問題はこの、目まぐるしく移り変わる攻守と体勢だ。
 俺はこの隙にデブを背後からズブリとやるつもりでいたのだ。けれども、

「おいシューター、うしろ!」
「何ですの?!」

 まじかよおい。
 すでに目潰しから復帰した巨大な猿人間が、ニシカさんめがけて襲いかかろうと半ばタックル体制になっているではないか。
 そして慌てて低い姿勢から大盾を前面に押し立てながら疾駆してくる巨大な猿人間を、俺は必死で避けた。
 避けた結果。
 残念ながら俺と巨大な猿人間の突撃線の延長線上に絡み合っていた蛸足美人とデブが、巨大なタックルによって中央広場の端にある露店まで吹き飛ばされたのである。

 群衆たちは固唾を呑み、広場は静寂に包まれた。

 むかし俺はアクション映画の撮影現場で、これと似たようなシーンを見たことがある。
 スタントをしていた俺の仲間が、主役に蹴り飛ばされて商品が並んだ屋台か何かにぶっ飛ばされるという筋書きだったはずだ。
 してみると、カラメルネーゼさんはまんまその状態で蛸足でデブを抱きしめながらに露店に吹き飛ばされてしまったのだ。
 たぶん、直接に大盾でタックルされたデブはひどい事になっているだろう。俺たちは三人ともポーションチートであらゆる能力の引き上げ恩恵を受けているが、ナメルシュタイナーは生身の体だ。
 それだとしてもカラメルネーゼさんも無事で済むとは思えなかった。

「大丈夫ですか?!」
「…………」

 反応はない。
 そしてそちらに意識を向けている様な余裕は俺たちにはなかった。

「……グルルル、ウホゴゴ……ッ」

 何より、巨大な猿人間の様子がおかしい。
 おかしいのは顔とかの問題じゃなくて、何だかプルプルしているのだ。
 そして目つきがおかしい。
 震える体を抑え込むように何度か胸をかきむしったかと思うと、そのまま勢いで首に繋がれていた首輪? の様なものを引きちぎってしまう。いや簡単に引きちぎれたとこを見ると、何か特殊な魔法の拘束具なんだろうな……

「おい、あのデブの拘束が解けたんじゃないのか?」
「解けたって、あのチョーカーと何か関係が?」

 一瞬の間にニシカさんと俺がそんなやり取りをしていると。
 突然貴賓席で絶叫を上げたハメルシュタイナーの声が静まり返った村の広場にこだました。

「わしの、わしのナメル、わしのカフィア……おおおおっ、何という事をしてくれたのだ!」

 叫んだ熊そのもののハメルシュタイナーは、そのまま部下たちの静止も振り払って広場の中央まで飛び出してくる。
 上等な服を着た熊が取り乱しながら次男のカフィアシュタイナーの側まで走り寄り、そして俺たちと巨大な猿人間を交互に見比べながら叫び続ける。

「おのれ、わしの息子たちをこの様な目にあわせて、ゆるさんぞ貴様ら! ゾンゴンアグバンジャビンよ、こやつらを何としても捻りつぶしてぐべちゃsじゅんbgr……」

 叫び続けていたハメルシュタイナーは、そうしながら巨大な猿人間に近づいていったけれども、その言葉を最後まで言う事は出来なかった。
 なぜならどうやらデブの魔法道具か何かによる拘束が解けてしまった彼(もしくは彼女?)はすでに、自らの意志で動いていたからだ。
 近付く熊を見下ろしていた巨大な猿人間は横薙ぎに戦斧をひと振りすると、熊そのもののゴルゴライ領主の首を一撃で飛ばしてしまった。

「フェーデは中止だ! お前たちはただちに集まった村人たちを逃がせッ。ッヨイよ、あれを何とかしろ!」

 貴賓席から立ち上がったのは女村長である。
 すでに武力解決手段どころの騒ぎではない広場の雰囲気から、いち早くサルワタの仲間たちが飛び出してくる。
 ようじょは女村長に命じられると、すぐに魔導書を抱きしめながら飛び出してきた。
 けもみみも自分の短弓をつがえながら駆け出す。

「どれぇ、ここでは地面が石畳なので土魔法が使えません!」
「火の魔法はどうですか?」
「威力が大きすぎると、村に被害が出てしまいます! 火事になってしまうのです」

 イチかバチか、あの巨大な猿人間に肉薄して一撃を加えるしかない。
 恐らくだがニシカさんの魔法補正がかかった強弓ですら心臓に届かせる事が出来なかったという事は、それだけ筋肉が鍛え上げられているのだ。
 深々と刺さっている様に見えて、きっと若干ずれていたのだろう。

「おい、オレ様が囮になる。その隙に全員で連携して何とか倒すぞ!」
「了解なのです。足を狙うのです!!」

 こういう時にすぐさま連携に移れるのは、過去に冒険者としてダンジョンに潜った経験があるからなのだろう。
 ニシカさんはすぐにも駆け出して、ッヨイさまが魔法の一撃を何としても加えるべく魔力を練り上げ始めた。

「これでも喰らいやがれ!」

 まずは巨大な猿人間の注目を引き付けるつもりで強力な一撃をニシカさんが射かけた。
 その後は引き射ちとでもいうのだろうか、ゴルゴライの中央広場いっぱいを上手く使いながら走っては振り返り一射という、かなりきわどい対応をしている。
 ほとんど狙いは適当に、どこかに当たればめっけもんという具合に弓を射ちかけているので、これはもう持久戦だった。
 では俺は何をするべきかと言えば、巨大な猿人間のヘイトがニシカさんに向かっているうちに、目標の急所部分を何とか攻撃しなければならない。

 どこだ、どこがいい。
 目まぐるしく位置関係を変え続けるニシカさんと巨大な猿人間。その小山の様な背中を見ている時に、ひざ裏を俺は睨み付けた。
 今なら思い切り長剣を振り抜けばひざ裏の(けん)を断ち切る事が出来るに違いない。
 俺は走り、そしてちょうど目線の高さにあるひざ裏から前面に向けて斬り抜けてやろうとした。

「ニシカさん全力で逃げろ、膝をつぶす!」

 ニシカさんは引き射ちするのをやめ、俺が本来しなければならない囮役を買って出てくれる。
 もちろん会話をする余裕も頷き返す余裕も無いので、行動で示してくれるのだ。
 そして俺と彼女が立ち位置を入れ替える様に互いに疾走し、巨大な猿人間の膝を、決して浅くない感触を持ちながら俺は斬り抜けた。

「ウホヒッ、ウホザカックン!」

 巨大な猿人間は俺の期待した通りに斬り抜けた片膝を付くと、大盾を投げ出す。
 そしてこの瞬間に出来た隙を無駄にしない様にエルパコが弓をつがえる。
 苦しみながら首をこちらに振った巨大な猿人間の片目にズドンと矢が刺さると、次の瞬間にはニシカさんが、エルパコよりさらに深くえぐる様にして強弓を射ち込んでいた。

 完全に半狂乱になった巨大な猿人間が顔をかきむしる。
 そしてその巨大な猿人間ゾンゴンアグバンジャビンに、ようじょが練り上げた火球がぶち込まれた。

 ぶち当たる、そしてのけ反る。
 炎はすぐにも巨大な猿人間の剛毛に纏わりついて、その苦しさからか宙をもがく様に腕を暴れさせる巨大な猿人間。
 そのとどめをささんとばかり先ほどまではどこにいたのか、雁木マリが飛び出して来た。

 マリは白刃を鞘走りさせると、ポーションで強化されたであろう迅速の太刀捌きで巨大な猿人間の首を落とした。

     ◆

 俺たちは、何もかもボロボロになりながら茫然と立ちすくんでいた。

「このフェーデは騎士修道会のガンギマリーによって最後まで見届けたわ。勝者は鱗裂きのニシカと、その介添人とする。いいわね?」

 すでに群衆も逃げ出して、村の幹部たちも姿すらいない。
 なので雁木マリがそう宣言したところで何か意味があるのかという向きもあるが、

「誰も見ちゃいないんだから、もうオレたちの勝ちでいいだろ」
「これも必要な手順なのよ。ところでニシカさん、ひどい顔をしているわよ?」
「お前ぇに言われたくはねえよ。ガンギマリーこそ、病人みたいな顔をしているっての」
「ポーションのせいよ、しばらくすればよくなるわ」

 あれからさらにカプセルポーションを重ね射ちしたのだろう。かなりゲッソリした顔の雁木マリはそう言いながら手をかざすと、棒切れの様に突っ立っていたニシカさんに聖なる癒しの魔法をかけていく。

「シューターさん、お体にどこか具合は?」
「ああ大丈夫だよ奥さん。お薬のおかげで今日も無事に戦い終わりました」
「でも、腕から血が……」

 駆けつけてくれたカサンドラとエルパコに疲れた笑みを振りまきながら返事をした。
 俺の体も婚約者の雁木マリがやってくれるのかと思えば、こちらは修道騎士ハーナディンが行ってくれた。
 ご褒美はありませんでした。

「それより、カラメルネーゼさんの具合は?」

 露店にぶち込まれてしまった彼女である。もろに大盾タックルを食らっていたのだから、具合が心配だった。
 振り返ってみると、

「足を何本かやられましたわ、動けないので誰か起こしてくださらない……?」

 あまりいい状態ではないらしい。
 つかつかとカラメルネーゼさんに近づいた女村長とようじょ。
 そのうちの女村長が手を差し伸べて、立ち上がるのを手伝っている様だった。

「おい、足は大丈夫なのか」
「大丈夫じゃありませんわね。と言いたいところですが、足などは飾りですの」

 二本の足で立ち上がったところを見ると、カラメルネーゼさんの言う足はきっと蛸足の事を言っているのだろう。
 見れば触手の何本かがかなりひどい状態だった。

「ガンギマリーどの、ネーゼにも癒しの魔法を」
「わかったわ、任せてちょうだい」

 そんなやり取りを互いにしているところ。
 ひとりふとキョロキョロとしているようじょである。

「どれぇ、おデブシュタイナーの方が見当たりません!」
「どういう事だ?」

「?!」

 そうなのである。
 気が付けば、カラメルネーゼさんと重なる様にして吹き飛ばされたはずのナメルシュタイナーの姿が、こつ然と消えていたのだった。

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