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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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102 さらば奴隷の日々よ

本日の更新ふたつ目になります。

 サルワタ騎士爵アレクサンドロシアと騎士修道会総長カーネルクリーフとの間で取り交わされた協定合意文書は、改めて教会堂の礼拝所、女神像の神前で行われた。

 ツダ村司祭さまが羊皮紙に二通の文書を作成し、これを騎士修道会側は副官のスウィンドウ氏が、サルワタ領側は雁木マリが確認を行った。
 本来マリは騎士修道会の人間だが、すでにサルワタの森の開拓村に移住した立場ではあるし非公式とは言え俺の婚約者だ。
 本当なら女村長の助言者という立場で言うと俺がそれをするべきだったのかもしれないが、残念ながら俺はこの世界じゃ文盲だ。
 密かに自分の名前だけは書けるように練習しておいたのだけれど、今回はそれが役に立つことはなかったね。
 残念!

「も、文言(もんごん)の確認はこれでよろしかったでしょうか……」
「問題ないわ。スウィンドウ、どうかしら?」
「拝見したところ、これでいいのではないかと思います」

 たぶん達筆なんだろう文章で書かれた書面を確認したマリとスウィンドウは、互いにうなずきあってそれをそれぞれの指導者に差し出した。
 女村長とカーネルクリーフが、署名用の専用台の前で人差し指の先をナイフで切ってみせ、その血でペンを走らせて署名する。最後に指紋の捺印だ。

「これで互いに余らは文字通り身内となったと言える」
「まだ世間には公表出来ぬ事ではあるがな。シューターには必ずや辺境歴訪を成功させ、ブルカ辺境伯には抗議文、いや弾劾を行わねばならぬ」
「いい結果をブルカで聞ける様、互いに今できる事なそうではないか」

 ふたりとも指先の止血を雁木マリから受けた後、女村長とカーネルクリーフの間で握手が交わされた。
 外交使節団の使者として、俺のしなければならない事はデカいな。

     ◆

 騎士修道会とサルワタ領の相互が教会堂の食堂に並んで昼食を取る事になった。
 上座に位置するのは当然、女村長とカーネルクリーフである。
 そこから俺と雁木マリがそれぞれ向かい合って、その後にそれぞれの従者が並ぶ。

 今日もツダ村の教会堂関係者たちが手づから料理を用意してくれたのだけれど、みんなの食事に向かう姿勢はずいぶんと和やかなものだった。
 ごく一部を除いてね……

「シューターさん」
「うん……」
「ぼ、ぼく、まだ返事を聞かせてもらってないよ」
「そうだね……」

 俺のすぐ隣の席に座ったけもみみが、食卓の下側で俺の袖を引っ張った。
 もちろんエルパコの要件は、彼女の言い出した結婚への俺の返事であるのだ。
 重要な会談の直前だったために俺はその場で返事をする事を先延ばしにしてしまった。
 男児としてこれは非常に恥ずかしい事の様にも思っていたけれど、言い訳を許してくれるのならば仕方がないことだった。
 ただひとこと「カサンドラに相談をして、からな」と言ったのだけれど、これは雁木マリに対してもアレクサンドロシアちゃんに対しても口にしたことだ。
 ここでエルパコひとりだけに「いいね!」とふたつ返事で答えるわけにはいかない。

 ちなみに俺自身がエルパコとの結婚をどう思っているかというと、正直を言えば「考えた事も無かった」というのが本音である。
 はじめて顔を合わせたのはブルカから、サルワタの森の開拓村を目指して移民団が冒険者ギルドを出発した時の事だった。
 銀髪の獣人は胸が少しばかり残念な女の子という認識だったけれど、後々それは本人の口から男の子だ言われ、それもまた事実と間違っていて見た目通りの女の子だという事が発覚した。
 ただし付いている。
 何が付いているかというとナニが付いていたわけだが、これは一緒にお風呂に入った時に俺もカサンドラもタンヌダルクちゃんも確認した事だ。

 しかし外堀は着々と埋められていたのではないかと、後になって俺は思ったね。
 何しろ村のご近所さん方は、エルパコの事を俺の愛人と認識していたらしい。
 そもそもが奥さんのカサンドラ本人からして「そんな事じゃ立派なシューターさんの奥さんにはなれませんよ」などと口にしていたのを、このけもみみにプロポーズされてから思い出したのである。
 こうなってしまっては逃げ場がないわけだが、もちろん俺はエルパコの事を大事に思っているわけだ。

 何しろ家族だからな!

 だが家族と言ってもそれは様々ではないか。
 夫婦も家族というのなら、親子も家族である。
 または自分の弟や妹、兄や姉だって家族なわけで、ペットも考え方によっては家族というだろう。
 我が家のペットと言えば肥えたエリマキトカゲみたいな存在のバジルである。
 近頃は食べ盛りも過ぎたところがあって、肥えた見た目がますます肥えていたのであるが、俺たちが留守にしている間に、またひとまわり大きくなるんじゃないかな。
 もちろん横にも。

 けれどもエルパコを家族としてどういう位置づけに考えていたかと言うと、これは俺の中で難しかった。
 俺も男だから女の子をかわいいと思うことはある。
 いいわけをすれば、エルパコが付いてはいるけれど女の子だとわかった事で、少しはそういう眼で見た事は……あった。
 何が付いていようと女の子は女の子だからな、差別はいけない。
 野牛の奥さんをもらった時点でそんなことは考えていなかったのだが。
 どちらかというと、けもみみはバジル寄りの心情だったのも事実だ。

「やはり腸詰めのひき肉は美味だな。ブルカでも出回ってはいるものだが、あまりブルカ聖堂の食卓に並ぶ事はない」

 俺の服を引っ張っているエルパコにどう返事をしていいものかと苦い顔を浮かべていると、上座ではふたりの指導者たちの話に花が咲いていた。

「そうなのか。わらわもブルカ郊外の生まれではあるが、これを口にしたのは昨夜がはじめてだ。村への手土産にと少量だが市場で買い求めたぐらいだからの」
「豚面の猿人間たちは、あまりブルカの街にはやって来ぬからな。彼らはその容姿からあまり快く街の人間から受け入れられないところがある」
「ふむ。そのあたりはゴブリンも似たようなものだ」
「ほう?」
「わらわもこれでゴブリンハーフだからな」

 そうだ。差別はいけない。
 ならばやはり結婚はしなければならないな。
 けれど、女の子として改めてエルパコを観察すると、やはりかわいい。

「シューター、さん……」
「仲間外れはしないから、ちゃんとカサンドラに報告して相談な」
「うん……義姉さんにちゃんと許可もらうよ」

 かわいい。
 俺は口周りの筋肉がどうにも緩んでしまうのに苦慮しながら、トマトと挽肉の腸詰スープを口に運んだ。
 油断すると口から零れそうになってしまうのがやばい。
 そうしながらふと視線を感じて正面を向くと、そこには俺と視線を交錯させてやや上気してみせた雁木マリがいた。
 伏し目がちになりながら上目遣いに微笑んで見せつつ、黒パンを口に運ぶマリ。

 やはり俺はいまモテ期が到来しているのだろうか。
 元いた世界では決して得られなかった感覚に、俺はどうしていいのかわからなくなるのである。

 カサンドラは俺がいっきに三人の奥さんを迎え入れるというと、どんな反応をするだろうね……

     ◆

 昼食を終えた後に騎士修道会の一同はブルカへと引き上げる事になった。
 鉄皮合板の鎧の上からΠ(パイ)記号みたいな刺繍の施された灰色の法衣、そしてその上からさらにマントという出で立ちの修道騎士装束。
 教会堂前の敷地から、カーネルクリーフとその護衛たる三人の幹部修道騎士たちはその身も軽やかに馬上のひととなると駆け出した。

「それではシューター、総長を送ってくるわね」
「おう。ツダ村で待っていればいいんだな」
「夜半には戻れると思うから。ドロシア卿もそれまでこちらでおくつろぎください」
「うむ。ではカーネルクリーフどのをよろしく頼む」

 最後まで残っていた雁木マリだったが、俺たちと約束を交わしたのちに馬首を翻して先行する修道騎士たちの馬列に向けて走り出す。

「シューターよ」
「何でしょう村長さま」
「お前がまさか女神のご意思によってこの世に降臨した使徒だというのには、わらわも驚いたよ」
「俺も驚きなんだよなあ」
「そうだのう。てっきり全裸を貴ぶ部族だと思っていたさ。それとも、ガンギマリーどのもやはり全裸を貴ぶ部族だったのかの?」

 とんでもない。
 そこのところはしっかりと否定しておかないと雁木マリ、ひいては日本人の沽券にかかわるところである。
 裸の付き合いという言葉はあるが、それは時と場合によりけりだからな!

「本人の前で言ったらグーで殴られるからやめましょうアレクサンドロシアちゃんっ」
「ふふふ、少し肩の荷が下りた気分だな。話があるゆえ、お兄ちゃんはちょっと付いてまいれ」

 上機嫌に笑った女村長は、俺の言葉も待たずに歩き出した。
 向かう先は宿泊所の寝所だが、仕方がないので俺もけもみみもエレクトラもその後に続く。
 移動の途中、(うまや)の前を通過して先ほどより二頭馬が増えている事にふと気が付いた。
 騎士修道会の連中が自分たちの馬を連れて出て行ったのだから、減っていないとおかしいはずなのにである。

「あれ、ダイソンが戻ったのですか?」
「うふふっ」

 俺がふと気になった事を女村長にぶつけてみるけれど、あっさりとそれは無視されてしまう。
 隠し事をする様な事でもないだろうにと首をひねりながら後ろを振り返ると、今度はエレクトラも俺から視線を外す。
 けもみみだけはほげーっという顔を俺のほうに向けて一緒に首をかしげてくれたけれども、それじゃ疑問は何も解決しない。

「エレクトラ、お前何か隠しているな」
「シューターさん、あたしを困らせないでくださいよ」

 困っているのは俺の方だと文句のひとつでも言いたいところだが、先々行く女村長を置いてはいけないので、仕方なくそれに従った。
 まったく、何なんだよもう。

 寝所に戻ってくると、朝から肖像画の最後の仕上げをやっていたはずのヘイジョン氏の姿が見当たらなかった。
 そして寝所の入り口のところで振り返った女村長は俺とエレクトラ、けもみみの顔を見比べた後にこう言う。

「しばらく内密の話があるゆえ、お前たちは席を外している様に。それからエルパコは、」
「……はい」
「これを絵師ヘイヘイジョングノーのところへ届けよ。大した額ではないが、騎士修道会銀貨が十枚ばかり入っている。謝礼だと言って渡すのだ」

 女村長の命令にふたりが頷いた。
 なるほど、あのアレクサンドロシアちゃんの肖像画はいつの間にか完成していたのか。
 それなら俺からもヘイジョンさんに言っておきたい事があるのだった。

「エルパコ、ついでに俺からも頼まれてくれるか」
「?」
「ヘイジョンさんに、俺たちと一緒に外交使節団に加わる気はないかと聞いてくるんだ」
「うん、わかった」
「付いて来てくれるのなら、衣食住の保証ぐらいはしてやれると言ってくれるか?」

 そう俺が口にすると、エルパコはこくりと頷いて「まかせてよ」と小さく返事をした。
 ふたりが廊下を遠ざかるのを見届けてから女村長は俺を室内に招き入れて、そして扉を静かに閉める。

「お兄ちゃんはどうしてあの様な事を言ったのだ」
「ああ、ヘイジョンさんの事ですか」
「そうだ。確かにあの者の画はなかなか素晴らしいけれども、そういくつも肖像画があっても困るであろう」
「まあそうですね。けど結婚の記念に家族そろっての肖像画というのも悪くないと俺は思うんだよなあ」

 ふと思いついたことを俺が口にすると、突然アレクサンドロシアちゃんの顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。
 まだ自分が俺と結婚するという現実が気恥ずかしく感じられるのかな?
 俺もこの展開には驚きを隠せないでいるから当然か。

「そ、そういうのは確かにありだな。せっかくだからギムルの結婚祝いにするのがいいだろう」
「ギムルさん、結婚するんでしたね」
「まだ本人からは報告はないが、お兄ちゃんと聖少女どのが結婚するまでにはさせておかねばなるまいよ」

 顔を朱色にしたまま俺のほうを見上げて女村長が言った。

「それならちょうどいいじゃないですか。俺としては外交へ行く先々で、少しでも俺たちが取り入るための手管は多いほうがいいと考えたのでね」
「手管か?」
「物事を進めるために必要なのは八割がたが段取りと言いますからね。根回しをいかにしておくかが基本なんですよ」

 むかし俺が父親の紹介でとある社長さんの運転手をしていた頃、そんな話を聞いたことがあった。
 ビジネスの基本は段取り八割。
 実際のプロジェクトが動き出すまでに、いかに段取りを重ねて根回しをしておくかが成功の秘訣なのだという話だった。
 ひとつの商売を成功させるためにはまず多くの味方を作り、このプロジェクトに理解を示してくれる人間をどれだけ作るのか、というわけである。
 さしずめ俺たちが進めている反ブルカ辺境伯同盟の結成のためには、味方に引き入れるべき諸侯の周辺から、まずは攻略しなければならない。

「要はこれから向かうリンドルやオッペンハーゲンのご領主さまがたにお話を聞いていただくために、それぞれの領内の幹部の方々を味方に引き入れたいわけですよ」
「ふむ。それがどうして絵師を捕まえておく事に繋がるというのだ」
「彼の腕前はアレクサンドロシアちゃんも知るところでしょう。写実のテクニックに加えて、なかなか綺麗に纏める力もある」

 俺がそういって女村長の顔を見やると、何やら彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らして見せた。

「その様な物言いでは、まるでこの肖像画のわらわが、実際のわらわよりも美しく描かれている様な物言いではないか。不愉快だぞお兄ちゃん!」

http://15507.mitemin.net/i168522/
挿絵(By みてみん)

「いやあ。確かにこの肖像画は素晴らしい出来栄えだし、アレクサンドロシアちゃんの特徴をよく捉えているとは思いましよ。だけど本物のアレクサンドロシアちゃんはもっとかわいいからなぁ」
「かっかわいいだと?! わらわをからかうものではないっ」
「き、気を悪くしたのならごめん」
「大年増にもなって、かっかわいいなどと……」

 慌てて俺が謝罪すると、アレクサンドロシアちゃんはブツブツ何事かを言いながら下を向いてしまった。
 やっぱりそういう態度を取るアレクサンドロシアちゃんかわいい!

「こほん。ととにかくだ。絵師ヘイヘイジョングノーが有用である事はわかった。わらわにやった様に諸侯の女子どもの肖像画を描かせて喜ばせておけば、何かの役に立つかもしれんしな。それに、」
「それに?」
「あの者が風景画でも描けるというのであれば、道中の街の見取り図のひとつでも描かせるのがいいだろう」
「おお、なるほど! いざ敵側に回った領主がいれば、何かの参考になるかもしれないですね」

 そういう事だ、とようやく平静を取り戻したらしい女村長が頷いて見せた。

「さ、さて内密の用事があるというのは他でもない」

 安楽椅子に腰を落ち着けた女村長が、そこから手を伸ばして小さな棚から巻物をひとつ取り出した。
 その羊皮紙は先ほどの騎士修道会と取り交わした協定書簡で無い事は確かだ。
 あれは互いに調印しあった後に、いったんは蝋蜜で封を施したからな。
 とするとこれは何だ。

「これが何か気になるか。ん?」
「そりゃまあ、気になるかどうかで言えば気になります」
「そうであろう。まあ喜べ」
「はあ……」

 いったい何が起こるのかわからないね。
 そう思っていると女村長の口角が吊り上がった。

「ではまず、お兄ちゃんは服を脱げ」
「え、ここでか?」
「そうだ。四の五の言わずに早くするのだ」

 唐突にそんなことを言い出すものだから俺は戸惑う。
 まさか、人を遠ざけておいていけない夜の営みに、昼間のうちから及ぼうというのでは……
 言われるままにシャツに手をかけて俺は黙ってそれを脱いだ。

「ふふふ。相変わらずいい体をしておる」

 そう言ったドロシアちゃんが身を起こして寝所と続きになっている奥の部屋を覗き込むようにして口を開く。
 この奥の部屋は小さな納戸になっていて、俺たちの旅道具が放り込まれているだけであったが、はて。

「よいぞ、その方顔を出せ!」
「おーっほっほ。いつまでわたくしをお待たせになるのかと、首を長くしてお待ちしておりましたのよ」

 張りのある女村長の言葉に応えて、奥の納戸から女性の声音が聞こえてきた。
 顔を出したのはたまらず二度見してしまう様な、窓から差し込む陽光に煌く金髪の美人だった。
 たぶん、女性だ。エルパコの時みたいにややこしい事はない。顔も白人っぽい美女であるし胸には豊かなふくらみがある。
 だがややこしいのは性別ではない。
 その女性は蛸足(たこあし)の猿人間だったのである。

「殿方とのお話はお済になられたかしら?」
「は、恥ずかしいところを見せてしまったな。もう話は済んでおる」
「あら、へそピアスもなかなかお似合いの殿方だこと」

 俺の上半身裸姿をじっとり舐めるように見回したその蛸足美人は、そのまま流し眼を送ってくる。
 が、そのぬるぬると動く触手に俺は釘づけだ。

「わらわが王宮の軍へ入営していた折の同期でな、名をカラメルネーゼというのだ。当時は国王の騎士たる貴族軍人であったが、今は退役したのだったかの」
「そうですわね。お初にお目にかかりますシューター卿、国王の騎士号を授かるカラメルネーゼでございますわ。またの名を奴隷商人カラメルネーゼ」
「ど、奴隷商人……」

 も、モノの本によれば国王より直接騎士号を授かっているという事は、王の直臣という事になるそうだ。
 同期である女村長ももまた然りで、このファンタジー世界の位階に当てはめるのなら、爵位のひとつという事になる。つまり騎士爵というお貴族さまだ。
 俺もまた女村長より騎士に叙勲されているが、これはただの階級としての騎士であり、国王の騎士たるアレクサンドロシアちゃんやカラメルネーゼさんとは身分が違う。俺は国王の陪臣たる騎士に過ぎない。
 わかりやすく言えば江戸時代の将軍様の家臣である大名や旗本御家人と、大名旗本の家臣である藩士ぐらいの差があるといえばいいだろうか。将軍様から見れば家臣の家臣。
 つまりアレクサンドロシアちゃんやカラメルネーゼさんは大名であり、俺は藩士だった。

「父が王都で奴隷売買を商っておりますの。わたくしも今は辺境の商流開拓をするために、やってまいりましたのよ」
「な、なるほど」
「ブルカまで足を延ばしたところで、アレクサンドロシアの実家に手紙を出しましたの。そうしたら坊主頭の冒険者さんが、わたくしをお迎えにおいでになったのですわ」

 いつぞやの名前の覚えられない奴隷商よりもかなり広域に手広く人身売買をやっておられるカラメルネーゼさんは、ねっとり絡みつく様な視線で俺を見ながらそんな風に言った。
 この蛸足触手に捕まったら、どんな男も逃げる事がかなわないだろうな……

「ごっ御託は良い。悪いがカラメルネーゼよ、この男の奴隷解放の手続きをやってはくれぬだろうか」
「よろしいですわ。わたくしの事はお気になさらずに、先ほどと同じ様に“お兄ちゃん”とお呼びすればよろしくてよ?」

 俺のへそピアスに細い指を引っ掛けながら、カラメルネーゼさんはそう言った。
 そんな恥ずかしいところも俺たち聞かれていましたとさ。
 顔をゆでダコみたいに真っ赤にさせたアレクサンドロシアちゃんが、神経質そうに「いいから早くせよ!」と憤慨して見せた。

 それにしても触手やべぇ。
 どれが脚で、どれが触手なのか日本人の俺には皆目見当もつかないぜ……

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