挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

121/574

101 両頭会談は落としどころを見つけた様です

 騎士修道会総長カーネルクリーフとサルワタ騎士爵アレクサンドロシア・ジュメェの二度目の会談は、その日の午前中に行われた。

 今回の会談には当事者のひとりとして俺も参加するように女村長に命じられている。
 というか、当事者がこの場に三人もいるのがとても不思議だ。
 俺、アレクサンドロシアちゃんに、雁木マリ。
 鷲鼻のカーネルクリーフめ、この時ばかりは状況を楽しんでいる助兵衛親爺そのものの顔で俺たちを参加しているので腹が立つぜ。
 あんたはそれでも聖職者の最高指導者なのか!

「では昨夜の会談の内容についてのご回答をお聞かせ願いたいが、アレクサンドロシア卿。よろしいだろうか?」
「うむ、あれから後にわらわたちもよくよく検討をさせていただいての……」

 おおむね前回の会談中に騎士修道会からの条件は言い渡されていたし、逆にこちらがどう対処するかという点についても、早朝から村の一同が集まって善後策を協議していた。

 善後策と言えば聞こえがいいが、俺とアレクサンドロシアちゃん、そして雁木マリが結婚するという事でお互いに確認したというだけの話である。
 ただし、これらはそのまま今すぐに行われるというものではない。
 俺には正妻のカサンドラがいるので、まず先に報告と相談をしなければならない。
 こう書き記すとまるで俺が恐妻家の様に見えるかもしれないが、むしろ愛妻家だと言ってもらいたいね。
 問題なのはそこではなく、そういう口実を作って、今すぐに俺と雁木マリの結婚が進むことを阻止しようというのが本当の狙いだった。
 今すぐに結婚ともなれば、俺は外交使節団に出かけることもできず、ただちにブルカに向かわなければならず女村長としては計画が大幅にくるってしまう。

 俺と雁木マリは、騎士修道会とサルワタ領の意向によって将来的には結婚する。
 つまりは婚約という形をこの会談で取り決めたいのである。

「前向きには検討させてもらっておるが、今すぐにカーネルクリーフどのにご提案いただいた内容を許諾することはできぬ」
「つまり、聖少女ガンギマリーと騎士シューターどのの結婚は、今しばらくは無理だと」

 昨夜と同じ教会堂の礼拝所において、お互い最前列に腰を掛けた指導者同士が顔を向き合わせる。
 俺と雁木マリは立ったままで、事の成り行きを静かに見守っていた。

「わらわとしても、これから外交使節団を送り出さねばならぬ立場ゆえにな。使節団の使者は騎士シューターだ、よって外交団の使節がリンドル、オッペンハーゲンと交渉を行い、ブルカに入城した後にこれを正式のものとして発表していただけると、わらわとしても非常に助かる」
「おおっ、それでは余らと貴卿とは外交使節の歴訪を終えて後、晴れてお身内となる事が出来るのだな。それではアレクサンドロシア卿ご自身のご結婚については考えてくださったか」
「も、もちろんその事についても鋭意検討しておるところである」

 少し言葉を濁しながらアレクサンドロシアは言葉を続けた。

「これについても先ほど申し上げた通り、まず外交使節の使者・騎士シューターの夫妻がブルカにて辺境伯に対する抗議文を提出するにあたって後、行うのがよろしいだろう。まずもってシューターの正妻カサンドラにこの事を報告し相談しておくのが筋道であるからな」
「ふむ、兵は神速を貴ぶとという。可能であれば電撃的に余らの関係を周辺に公表し、辺境伯の動きを封じるのがよろしかろうと余は考えるが、それは難しいか」
「タイミングというのは重要だわ。ドロシア卿の側にも都合はあると思うし、あたしたちもどのタイミングで公表するのがもっとも効果的か、精査する必要があるの」

 女村長とカーネルクリーフの顔を交互に見ながら雁木マリが言った。
 確かにその通りだろう。
 今朝の話し合いの中でも多少触れていた事だが、俺たちの同盟関係の発表は、早すぎても遅すぎても敵対する事になるブルカ辺境伯に時間的余裕を与える事になる。

「ふむ。水面下でサルワタ領の外交交渉を進め、余たちも別の対策を講じるのがよいという事だな」

 その背後にはもちろんアレクサンドロシアちゃんの考え、そして俺の本音でもある俺自身がどうやればブルカに出向せずに済むかという点もある。

「しかし、騎士シューターどののご夫人に許可と相談が必要というのは、どういう事であるか」
「俺の妻には家の内向きのことはすべて任せておりますので、他の妻たちとの実家の調整は彼女に任せているのです……」
「なるほど、いやシューターどののご夫人は恐妻であるか」

 カーネルクリーフはわずかに聞こえるか聞こえないかという声音で、チラリと雁木マリの顔を見ながらそう口にした。
 恐縮した顔をして俺は総長を見ておく。
 俺自身が恐妻家と思われる事は、この際ありがたい事かもしれないしな。ここは何と思われようが実を取る方が先決だ。

「では余たちとしても、ただちに出来る手立てを打つ事にせねばなるまい」
「そうね。まずはオーガたちの被害調査の一環という事で、サルワタ領に騎士隊の派遣を検討しましょう」
「規模はどの程度がよいか。支隊か、少なくとも分隊程度は送り出しておく必要があるな」
「あまり目立った数でない程度がいいわ。かと言ってブルカ辺境伯に無視される数字ではな意味がないし、分隊単位がいいと思うわ」

 騎士修道会側の人間が、俺のよくわからない単位で派遣を検討する騎士隊の数を口にし始めた。
 詳しくはわからないけれど、昨夜カーネルクリーフの護衛たちと話しているときにも、騎士隊という単位と小隊という単位が出てきたはずだ。
 たぶんこれはこの世界の軍隊規模の単位を指す用語なのだろう。

「騎士隊の分隊というのはどの程度の規模なのでしょうかねえ」
「修道騎士だけで編成した二〇人規模の集団よ。分隊をいくつかあつめて騎士隊を編成、分隊の下には小隊があるわ」
「なるほど。支隊というのは?」
「騎士隊から分派した遊撃部隊というところね。さすがに騎士隊規模で送り出すとなればブルカ市中でも目立つと思うし、小隊を送り出したというのでは意味がないわ」

 俺のために説明をしてくれる雁木マリ。
 そこに女村長が顔をあげて俺の方を見た。

「今、村に派遣されている野牛の兵士たちは何人だったかの」
「義兄にはごっそり居留地から二〇人ばかりを連れてきていると聞いていますけどね、村全体を守るのにどれぐらいの人間が必要なのか、さすがに見当もつきません」

 俺は異世界の軍事事情についてははっきり言ってとても疎い。
 何しろ総人口がどのぐらいいて、それぞれの領主がどれほどの軍事力を抱えているのかも知らないのだから、村に駐留している野牛の兵士がどの程度の抑止力を持っているのかも、よくわからなかった。
 なので、このあたりの話は貴族軍人出身である女村長や、武装教団組織である騎士修道会のみなさんにお任せするのがいいだろう。

「ふむ。調査の名目で送り出すのであれば、やはり分隊規模というのがよいかな。アレクサンドロシア卿、いかがか」
「わらわとしてはそれで異存はない。いったん村にわらわが戻ったのち、村でその旨の触れを出すので、いつでも送り出してくれるがよろしいだろう」
「うむ。それでは余は聖堂会に戻り次第、人選に取り掛かることにしよう」
「それと助祭マテルドを引き渡すのであれば、その人間も送り出してくだされば助かる。この期に及んで、辺境伯がどう動くかわからぬでな。場合によっては口封じをけしかけるという事も考えられる」
「あいわかった。余の周辺警護についておる三人の修道騎士を向かわせるゆえ、そのあたりは安心してくださるがいいだろう。彼らは優れた軍人たちだ」

 三人の修道騎士というのは、副官のスウィンドウ氏、軍事訓練の格闘教官イディオ氏、そして元猟師のハーナディン氏の事だろうな。
 この世界のムキムキ男性とは違った痩せ身の彼らを見て俺が思ったことは、例えばギムルや冒険者ダイソンがプロレスラー体系なのに対して、彼ら修道騎士三名は軍の特殊部隊に所属している隊員みたいなイメージだった。
 どちらがいいという事はないのだろうけれど、非常に無駄のない体のつくりである。これは雁木マリの体のつくりも似たところがあって、アスリート体系ではあるのだろうけれど、そこからさらに実用的な体になっているという印象だ。

 これと共通した人間と言えば、俺の記憶の中にあるのは美中年カムラである。
 カムラは明らかに武術の達人体系というか特殊部隊の隊員めいた体のつくりだった。
 やや細く、そして質実剛健。

「わらわとしてはシューターがその警護に当たってくれるのがもっとも信頼出来るのであるが、今回は外交の要件も頼んでおるのでの」
「ほほう、騎士シューターどのはそれほど頼りになるか」
「確かにそうね、シューターなら安心して任せられるけれど、そこはしょうがないわ」

 ちょっと持ち上げすぎじゃないですかね。
 女村長に続いて雁木マリまで持ち上げるものだから、カーネルクリーフの視線が何となく怖い。
 またいつぞやの野牛の族長とやったパンツレスリングみたいに、競わせてみようなどと言われては困る。

「自分の身を守る程度には」
「謙遜する必要はないわ。けど今回はあの三人に任せましょう、彼らも十分に優秀な修道騎士だからあなたも安心して」

 メガネの縁を持ち上げて見せたマリがそう言って笑った。
 とんでもない話で、俺は別に彼らを問題視なんかするつもりはない。たぶん普通に戦えば経験の差で彼らに軍配が上がることは間違いないのだ。
 何度でも言っておくが、俺はあくまでも県大会三位程度の実力だ。
 同じ県にだって俺より強いヤツがふたりもいたわけだし、全国にはもっとヤバいヤツがゴロゴロいるのだ!

「他に何かサルワタ領で問題になっている事などはないだろうか、アレクサンドロシア卿?」
「そうだの。常に不足していることは開拓のための人材というところだろうか……今後特にブルカとの交流が途絶えるとなると、人間の流入が極端に少なくなる事になる。ブルカと敵対しながらもその周辺から求めるとなれば、それらの人間の中にスパイが紛れ込んでいる可能性もあるゆえな」

 無作為に移民を受け入れていると、おっさんの姉マイサンドラやカムラの様な人間が入り込んでしまうことになるからな。
 ある程度の精査は必要だし、なかなか難しい事は確かだが信用のおける移民がほしいというのも実情。

「では蛮族の反乱で起きた戦災難民など、聖堂会で預かっている人間を送り出す事はいいかもしれん」
「いいわねそれ、どうかしらドロシア卿?」
「ふむ。それをどのような理由で行うつもりだ」

 三人が顔を合わせて試案しているので、俺が思いついた事を口にする。
 隠れ蓑があれば何だっていいんじゃないか。

「オーガ出没の原因究明のために調査キャンプを設営するという名目で、労働力として送り出すのなら名分が立つんじゃないですかね。まず今不足しているのは湖畔の築城、集落建設の労働力だから、そこに絞って人を送り込めばいい」
「それだと大規模なものは出来ないでしょうけれど、当座の労働力確保にはなるかもしれないわね」
「なるほど。わらわもそれであるならば賛成だ、総長どのいかがか」
「問題ないだろう」

 そんな次第で、残りの細かな事を打ち合わせた上で、二度目の会談は終了となった。
 この後に、ツダ村の司祭が作成した協定合意文書を二通用意し、お互いに保管しあう流れになるが、それはまた後程である。
 そして礼拝所から出る直前。

「軍事教練を受ける際には、ぜひ余も立ち会ってその実力を観覧させてもらうことにしよう」

 案の定、カーネルクリーフがそんな不穏な発言を最後に口にした。
 絶対に軍事訓練など受けてたまるものか、俺は村から外には出たくないからな!
 俺は心の中で激しく反発した。
 この齢になって騎士修道会の軍事教練ホーリー・ブートキャンプなんてまっぴらごめんだよ!
 そもそも体力的についていく自信がない……
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ