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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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100 しかして俺は決断を迫られる


 俺の名は吉田修太、三二歳。
 ドキッ!
 女だらけの宿泊所で眠れぬ夜を過ごした奴隷外交官である。

 雁木マリと唇の接触をし、しかもエルパコにそれを目撃されるというとんでもない失態を昨夜はしでかした。
 それからなかなか寝付けずに色々と考え事をしていたのだが。
 そこで俺はとんでもない事実に気が付いたのだ。

「……もしかして、この部屋にいるの俺以外全員年頃の女だ」

 あの時、俺の思考は見事に口から飛び出していた。
 自分ではもちろん頭の中だけのひとり言だったはずなんだけれども、ため息と一緒に思考の一部を吐き出してしまったらしい。
 そしてこの部屋には俺だけではなく、三人の女たちがいた。
 ひとりは安心しきって深い眠りについていた冒険者の女、エレクトラだ。これは問題なくゆっくり寝ていてくれたのでいい。

 けれども。先ほどまで俺と結婚の話をし、唇まで交わしてしまった雁木マリは、きっと俺と同じ様に眠れない夜にさいなまれていたはずだ。
 そしてハイエナ獣人のエルパコは、間違いなくビクリと上の吊り床で身を震わせるたのを俺は闇の中で感じた。

 少なくともふたりの女は起きていて、俺のつい漏らしてしまった言葉に反応したのだ。
 しまったと思ったものの、もはや手遅れである。
 年頃の女だらけの寝所にいるという事よりは、今の俺の中では雁木マリとの結婚という言葉がずっとグルグルとまわっていたのである。
 けれどそれは俺だけに限ったことで、年頃の女子にしてみればあまりいい気がしないかもしれない。
 事実。
 俺の余計なひとり言を漏らしてしまって以後、エルパコと雁木マリの吊り床の辺りからは、ずっと衣擦れの音や所在なげに寝返りを打つたびにきしむ吊り床の網のギシギシ音が響いていた。

 まあお預けを食らった様な悶々とした気分のまま、俺たちは寝つきの悪い夜を過ごしたのは事実である。

 朝はとても不快な気分で、汗がとても肌着に纏わりついて気持ち悪かった。
 少しは寝たのか起きたのか、よくわからない感覚で数時間を過ごした後に、俺は半開きの板窓から差し込む陽の光に目を覚ました。
 部屋の中には除虫菊の煙がもたらすだけではない、汗と女の体臭が混じった様な臭いが漂っていた。
 もう少しだけ、もう少しだけ床の中でじっとしていたい気分を味わいながら俺は寝返りを打つ。
 けれども。

 ムクリ、起きました!

 悶々とした朝を迎えたおかげで、息子だけは元気だった。
 悲しいね!

「シューターさん、朝だよ起きよう」

 いつもなら自然と朝には目を覚ますというのにこれだよ。
 エルパコはそれでもしっかり目を覚ましてたらしく、俺の寝ていた下段の吊り床までやってきて声をかけてくれる。
 くれるのだが、俺は今起きられない。

「シューターさん。調子悪いの? ねえ」
「何をしているの」
「……うんと、シューターさんが起きないんだ」

 俺は狸寝入りをしていた。
 今の俺は息子が起床している。
 起床した息子はギンギンと脈打つありさまで元気いっぱいのありさまなのだが、それをエルパコに知られては不味いので、体を折って背中を見せ、小さな毛布を腹にかけた状態でくるまっていた。
 そうしているとすでに起床していたらしい雁木マリの声まで加わって、俺の背中で会話をしている。

「おかしいわね。シューターは割と寝起きがいい方だったと思うんだけど」
「そうだよね。いつもは家族で一番に起きているから」
「……じゃあやっぱり、昨日の事で悩んでいたのかしら」
「…………」

 思案気な雁木マリの声が聞こえる。
 あの場には俺の事を心配してこっそり付いてきたけもみみもいたのだが、もちろんその内容をしっかりと聞いていたはずのエルパコは、無言でやり過ごそうとしているらしい。
 しかし残念ながら、エルパコと日々を過ごしているうちに気付いたこのけもみみの癖を俺は知っている。
 ソワソワしている時は、浅い吐息を数度ばかり繰り返すのだ。
 案の定、その吐息の音を耳にした俺は、申し訳ない気分になってしまった。

 ここでさっさと俺が起きれば、きっと問題はないのに。
 沈まれ、俺の男気!

「エルパコ夫人は何か知らないかしら?」
「えっふ、夫人?! ぼっぼくはシューターさんの奥さんじゃないよ」
「あら、そうだったわね。では愛人、でもそう言うのはおかしいわね。義姉さんがいいのかしら」
「どど、どっちでもないよ。ぼくはまだシューターさんの家族だから……」

 ますます俺不在の場所でおかしな展開になっている。
 とにかく気を落ち着かせろ。
 俺の息子は気疲れからか、いつまでたっても収まるところを知らなかった。
 本当にもう勘弁してくれ!

「聞いていたのでしょう。会談の内容も、あたしたちの会話も」
「き、聞こえていたんだよ」
「ならもう知っているのね、エルパコさんは。シューターに命じられたのかしら?」
「ううん。ぼくはシューターさんに聞かれても言わなかったよ……」
「ちょ、ちょっと話があるわ。どこまで見たのか教えなさいッ」
「ぼ、ぼくは何も見てないよ。聞いただけだからっ」

 何やらふたりで会話をしながら寝所の外に出て行った様だ。
 俺はべったりと汗を吸った毛布をガバリと飛ばして起き上がる。
 ひとの姿が無いうちに顔でも洗って冷静にならんとね、いつまでも息子の我がままには付き合っていられない。
 などと吊り床に干していた手ぬぐいを片手に起き上がる。

 寝所はすでに俺を残してみんなの姿は無かった。
 エレクトラは女村長のところにでもいるのだろうか。
 とにかく前かがみになりながら廊下に出ると、井戸のある場所に向かう事にした。
 誰にも顔を合わせないのは幸いだな。
 ほんのひとむかし前は全裸だった事を考えると、この前かがみの姿勢は全裸なら間違いなく大惨事になっていたはずだ。
 などと馬鹿げた事を考えながら外に出ようとしたところ、

「お兄ちゃん、何という格好で歩いているのだ」
「い、いやあこれは。色々とありましてねぇ」

 一番この瞬間に顔を合わせたくない人間に遭遇してしまった。
 女村長は村から持ってきたネグリジェ姿で俺を見つけると、呆れた顔をしていたのである。
 もちろん大人の女性であるところの女村長は、俺の息子が生理現象で苦しんでいる事を理解しているので安心だ。
 いや安心というのもおかしいが。

「ふむ。まあよい、話しておきたい事があるのでちょうどよかった」
「話、ですか……?」
「付いてまいれ」

 女村長は俺の反応など気にもせずにツカツカとどこかへ向かって歩き出した。
 俺は顔を洗いたかったのだが、もはや勢いで押し切られてしまい付いていく。

「寝所に戻るんじゃないのですかね」
「ヘイヘイジョングノーが画の仕上げとやらをやっておるので、今は都合が悪い」
「エレクトラは一緒じゃなかったのですか?」
「あいつには今、村の市場まで腸詰めを買いに走らせておる。留守だ」

 その方が都合もよいしな、とひとりごちたアレクサンドロシアちゃんは宿泊施設の談話室までやってくると扉を閉めた。
 他の人間がいる様では都合の悪い話。
 つまり昨夜の件で、女村長自身の考えをこれから話すと言う事か。
 閉まる扉を見やりながら、俺はゴクリとつばを飲み込んだ。
 女村長は、これから外交活動を俺に託している手前、俺と雁木マリの結婚について快く思っていないのだろう。
 俺について、事あるたびに褒めてくれて側に置いてくれている事は理解できている。
 そしてサルワタの現状を考えるならば、村に戦力になりそうな人間が野牛の兵士ぐらいしかいない事を考えれば、俺を手放したくないというのも理解出来る。

 アレクサンドロシアちゃんの俺に対する評価が、過大であるのか等身大であるのかまでは俺には判断のつきかねるところではなったけれど、俺が彼女の立場であるのなら、これ以上多少なりとも使えるコマを手放すのは嫌だろうからな。

 談話室の長イスに腰を掛けた女村長は、無言でその隣に座れとばかり、ポンポンとイスを叩いた。
 俺も無言でうなずいて席に着く。

「聖少女どのからは何か聞いておるか」
「ああうん。昨夜寝静まってから呼び出されたよ」
「そうか」
「騎士修道会からの提案では、俺とマリとの結婚によって、我がサルワタ領と騎士修道会の結びつきを強めるのが、サルワタに対する支援の条件だと言われたのだっけ」

 ふうとため息をつきながら俺はひと息に言った。

「でもアレクサンドロシアちゃんは、それに反対なんだろう? 俺とマリが結婚するとなれば、そのために軍事訓練に出なくちゃいけないらしいじゃないか。そうすると、これからの外交交渉のための使節団に俺が出かけられなくなるとか。いや、そこまでは出来たとしても、その先は軍事訓練でしばらくサルワタを留守にするからか」

 そういう理由で不満なんじゃないのかね、と俺は隣に座った女村長の顔を見る。
 切れ長の眼に紺碧の瞳を浮かべたアレクサンドロシアちゃんの顔は、ちょっといつもとは様子が違った。

「その話は、それで全てじゃないんだお兄ちゃん」
「まだ他に何かあるのか」
「ガンギマリーどのは自分の事については自分の口で説明したらしいが、わらわの事については言っていないのだ。騎士修道会が提示したのは、聖少女どのとシューター、そしてシューターとわらわとの結婚だったのだ」
「え、俺とアレクサンドロシアちゃんが?」
「そそ、そうだ。ただ聖少女どのとお兄ちゃんが結婚しただけでは、それはわらわの部下と騎士修道会の枢機卿が結婚しただけになってしまい、結びつきとして弱い。それよりもサルワタ領主の夫たるお兄ちゃんとガンギマリーどのが結婚した、という方が結びつきとして強いはずだと……」

 まあ言わんとしている事はわかる。
 わかるが、あまりに唐突な展開だったのでちょっと何を言っているのかわかるのに時間がかかった。

「それで村長さまは今回の騎士修道会の提案に難色を示していたのか……」
「そ、そうだ。いや違う。違うそうじゃないのだが、そうだ。うううっ」

 みるみる顔を桜色に染めたアレクサンドロシアちゃんかわいい。
 だがそんな事を言っている場合ではないので、続きの言葉に耳を傾ける。

「わっわらわには義息子がおる」
「はい」

 ギムルは、アレクサンドロシアちゃんの血のつながっていないひとり息子だ。
 そしてその言葉を聞いた瞬間に、俺は何を言おうとしているのかすぐに察しがついた。

「義理とは言え、死んだ夫の忘れ形見であるギムルに跡を継がせる事は、わらわにとって大命だ。そっそれをシューターと結婚してしまえば、跡継ぎ争いの種を巻く様な結果になるのではと……わらわはそれを危惧している」

 言われてみればその通りである。
 俺は今の段階でもカサンドラとタンヌダルクちゃんという妻がいる。
 こういう場合どうなるのかはわからないが、俺がアレクサンドロシアちゃんと結婚してしまえば、俺も領主の一族になるので、俺と妻たちとの間に生まれた子供もみんな家督継承権の様なものが発生するのかもしれない。
 さらに俺とアレクサンドロシアちゃんとの間に子供でも出来たもんなら、後々ギムルと争うなんて事になったらえらいことである。

「わ、わらわはこの歳でまだ実の子を持った事がないのでな。いざ自分の血を分けた子が出来た時にどういう態度に出るのか、想像もつかぬのだ。それにギムルがどういう風な態度に出るのかもわからぬ」
「そりゃそうだろうな。大好きな母親が再婚でもした日には、怒り狂う姿が想像出来る……」
「……わらわ自身も再婚については考えていないわけではなかったのだがな」

 その言葉を聞いておや、と俺は思った。
 言われてみればアレクサンドロシアちゃんは独身の領主という立場なので、上手くそれを利用して政略結婚をするという事も考えられるだろう。

「そうだったのか、どこかの領主との結婚を?」
「ち、違うそれはない。そんな事をすればギムルに残すべき領地を奪われる危険があるであろう」
「ああ確かに……」

 それもそうだ。
 義息子の将来のために色々と考えている女村長が、そんな安直な行動をとるわけも無いよな。
 となると何だろう。そう思ったところで実はな、と言葉を続けられる。

「タンクロードの話によれば、ギムルは今いい仲の野牛の娘が密かにいると言うのだ。わらわはそれを聞いて義息子からの報告はまだかと思っているのだが、これがなかなか本人の口から言い出さない。どうやらわらわに対して遠慮をしている節がある」
「それはアレか、大好きな義母親を残して自分だけ幸せになるのでは気が引ける。義母が心配だと。ハハア、ギムルくんはマザコンでちゅからねえ」
「?」
「いや、何でもありません。続けて」
「そ、そうか。ゆえにわらわが結婚でもすれば、ギムルも安心するだろうとはカサンドラとも話して言われていたのだが……」

 俺の奥さんとそんな話をしていたのか!

「わ、わらわとお兄ちゃんの結婚となると、義息子がどういう反応をするかまではわらわにはわからん。それともうひとつ、もしも結婚をするのならば、何事も手順を踏んでおかねばならない」
「手順と言うと、サルワタの後継者は明確にギムルであるという事を定めておくって事か」
「そういう決めごとは大事だ。それに、お兄ちゃんをサルワタから長期間引き離す事は、わらわとしては許容できぬ……」

 俺の事を重宝してくださり、ありがとうございます、ありがとうございます。

「何かよい案はないかお兄ちゃん。わらわたち三者間の婚姻関係以外の方法で解決策があるのであれば、それもよい。もしくはこの結婚の落としどころがあるのであれば、なおの事よい」
「そうですね。それならまず確認しておきたい事があります」

 俺は昨日の晩にもしたのと同じ様に、大切な事を聞いておく。

「アレクサンドロシアちゃん。あなたの気持ちはどうなのです? 俺みたいな奴隷と結婚してもいいのか。政治と割り切っていただけるのか。それで体面は保てるのですかね」
「わらわは二度も政治のために結婚したのだぞ」
「じゃあ問題ないって事ですね」
「違う。せ、政治と割り切ってだけの結婚などもうたくさんだ!」
「どっちなんですか」

「けっ結婚しても、いい……」

 いつもならその切れ長の眼で睨み付ける様な視線を送って来るアレクサンドロシアちゃん。
 それが伏し目がちな視線でおずおずと見上げながら言ってくるのだから、これをかわいいと思わない俺ではない。

「言っておくがこれは政治に利用できる男ならだれとでも結婚するという意味ではないぞ。シューターはわらわの村にやって来てこっち、多大なる貢献をわらわにもたらしてくれたわけでもあるし、これからも頼りにしておるからな。このまま騎士修道会の小娘にだけ結婚をさせておいては、お兄ちゃんが騎士修道会になびいてしまうやもしれぬので、繋ぎ止める必要があるのだ」
「なるほどそうですか」
「そうだ褒美だ、これは日頃からわらわに貢献してくれている事に対する褒美だ。新居やお兄ちゃんと呼んでやる権利だけでは足りぬ故、わっわらわをくれてやろう」

 放っていると眼をグルグル回しながらおかしな事を次々と言い出すアレクサンドロシアちゃんである。

「ただし、タダでやるわけにはいかぬ。お兄ちゃんがサルワタを離れる事なく、今後もわらわの側にいる事が出来る様に考えるのだ。それを思い付く事が出来れば、わらわは晴れてお兄ちゃんのものだ!」

 こういうのをテンパっていると言うのだろう。
 まくしたてるアレクサンドロシアちゃんに圧倒されながらつい「おっ(おう)」と俺は返事をしてしまった。
 返事をしてしまってから、どういう風に解決すればいいのか頭を抱えてしまうのである。

「……あっあのう。お取込み中のところで申し訳ないんだけど、いいかしら?」
「?!」

 振り返ると、唐突に談話室の奥からひょっこりと顔を出す雁木マリである。
 すぐにももうひとつの顔、けもみみがぴょこんと続けて出て来るので俺たちは絶句してしまった。
 マジかよ、全部俺たちの会話、聞かれてたの?!


「い、いたのかよ」
「いたわよ、あなた達がこの部屋に入って来るよりも前から、エルパコ夫人とね!」
「ぼ、ぼくまだ夫人じゃないから……」

 エルパコが遠慮がちに訂正しようとするが、それはあっさりと遮られてしまい雁木マリが言葉を続けた。

「そっそれでね、しゅしゅシューターをサルワタにちゃんと居残りさせながら、ああっあたしたち三人が無事に結婚できる方法を思いつちゃったのよねっ」
「な、何だ聖少女どの。その名案を早く聞かせるのだ」

 照れ照れした顔の雁木マリが近づいて来ながら、俺たちの顔を見比べた。
 こほん、とひとつ咳払いをして口を開く。

「ま、まずシューターとあたしが結婚するためには、シューターに軍事訓練を受けてもらって、聖使徒になるための修行を受けてもらうのよね。その修行の場所は普通、聖地で行われるの」
「その話は昨夜も会談で、そしてその方と遅くまで話し合って結論が出なかったであろう。聖地と言えば王都の近くにある女神の聖地か、その方が降誕したブルカ聖堂しかないという話だったではないか」
「その事なんだけどさ。シューターが降誕した場所も、聖使徒の降り立った場所なんだから、聖地なのよね。それってサルワタの森の奥地でしょ……?」

 俺はいったい何を話しているのかよくわからなかった。
 けれども、おずおずとそう言ってのけた雁木マリの言葉に、隣でみるみる何かの確信に満ちた表情になっていくアレクサンドロシアちゃんを見て、何かの解決策が発見されたと言う事だけはわかった。

「なるほど。なるほど! するとその修行の地というのは我がサルワタ領内で行う事が出来るのだな!!」
「さすがに軍事訓練をどうするかという問題はあるけれど、こいつ不在でブルカ辺境伯と事を構えるという事態は回避できるんだと思うの」
「その問題は確かにあるが、少しでも空白期間を減らす事は可能だな」
「あとはその、ドロシア卿の義息子さんの事だけ解決すれば、あたしたちは今後もいい関係を築けると思うの」

 俺とエルパコの事はそっちのけで、ふたりの奥さん候補が熱くなっていた。
 しかしその問題のギムルの事が解決しない限り、アレクサンドロシアちゃんは結婚にウンとは言わないのではないか。

「その事なんだけどな、俺たち結婚するとするだろ。その時に一緒にギムルさんに結婚させてしまったらいいんじゃないかな、そしてアレクサンドロシアちゃんは家督をギムルさんに譲るわけだ」
「ど、どういう意味よ。あたしたちにもわかる様に説明しなさい」
「モノの本によれば、確か織田信長が本能寺の変で残念な横死を遂げる前の絶頂期、彼は自身の嫡男・信忠に織田家の家督を継承させるという方法で『こいつは俺の後継者だから。天下人は相続されるもんだからね』と示したというのを書いてあった気がする」
「なるほど。そのオダノブ・ナーガという全裸を貴ぶ貴族のやった手法を真似ればよいのか……」

 端で聞いていたアレクサンドロシアちゃんが、ふむと腕組みしながら「一考の価値があるの」などと言っている。いや別に信長は全裸を貴ぶひとではなかったと思うけどな……
 それでも、どうやら俺たちの元いた世界の事でも何となく理解できたらしい。

「それなら、あたしとシューターのけけけっ結婚は、いったん婚約と言うカタチで公表して、時間稼ぎするのがいいと思うわ。その間に外交使節でシューターには辺境歴訪をしてもらって、後ろ盾に騎士修道会がいるというのを大いに利用すればいいと思うの」
「なるほどな、それは名案だ。どう思うアレクサンドロシアちゃん、これで俺たち結婚出来るんじゃないですかね」

 桜色に染めたままの顔で考え込んでいた女村長に向き直ると、彼女はまた改めて俺を見上げて来た。

「そ、その。シューター。本当にわらわでも良いのか? わらわはもう三十路にかかった大年増であるし、お前の若い妻たちに比べればいまひとつ魅力に欠ける事は自覚しておる……」
「そんな事はない。アレクサンドロシアちゃんには大人にしか出せない魅力があるし」
「ほっ本当か、わらわは政治だけで結婚するのはもう嫌だぞ……」
「大丈夫だ、何の問題も無い」

 いやあった。
 カサンドラにちゃんと許可を取ってから、ふたりの結婚の事は進めないといけない。
 タンヌダルクちゃんの時みたいに悲しませてはいけない。
 というか、こんなに嫁が増えるとなれば、やはりカサンドラは悲しむのだろうか。

「まず、カサンドラにこの事を相談してから、話を進めようね」
「もちろんである。何を持っても正妻をたてねばならぬしな……。これはわらわがカサンドラに言い出したことであるから、しっかり守らねばならぬ」

 近頃、正妻正妻と言っていたのは、アレクサンドロシアちゃんの教えだったのか……
 だがとにかく、これで騎士修道会を味方につける事は出来るだろう。
 後はカサンドラの了承をまず得るまで仮の条件という事で話を進めて、そして辺境歴訪となるのかな。

「とにかく、これで騎士修道会に片手落ちの状態で交渉を進めることは避ける事が出来るな!」

 少し気を取り直した女村長は、うんうんとひとりうなづいて立ち上がった。
 しかし、このまま一気に奥さんが増えてしまうとは誰が想像したであろうか。
 いや、俺だって驚きだ。
 服を着替えると宣言して部屋に戻っていった女村長を見送って、しばらくすると雁木マリも騎士修道会の仲間たちに話してくると出て行った。
 第二回目の会談は午前中、昼食の前にするというからまだ時間がある。
 宿泊所の談話室に残ってため息をついていた俺は、ふとぼけーっと立っていたエルパコを見やった。

「どうしたエルパコ。君もここに来て座りなさい」
「シューターさん……」
「どうした?」

「ぼっぼくも結婚したい。ひとりだけのけものは寂しいよ……」

 えっ。
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