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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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97 俺たちは聖少女とようじょの過去を知った

「そうだな。俺たちの目的はブルカ辺境伯の力に頼らず自立する道を模索する事なんだ。それが我が領主さまアレクサンドロシアちゃんが外交使節団を送り出した理由さ」
「ふむ。それがどうして我ら騎士修道会と会談する事になるのだ」
「そこはそれ、騎士修道会といえば辺境でも極めて有力な軍事力をもった組織だ。辺境の前線指揮を束ねる辺境伯といざ敵対が表面化した時に、教会堂の人間まで敵に回したのでは、俺たち辺境の小領民では消し炭になるだけの運命だ」

 若い修道騎士の質問に、俺はフレンドリーに説明をした。

「このご提案をしてくださったのは、おたくの雁木マリとッヨイさまだ。例えばサルワタの領内に大きな聖堂を建立して、可能ならば修道騎士隊の一隊でも駐留してくださるのならばブルカ辺境伯と言えど簡単には手出しできないだろうと」
「ふむ。そうなれば確かに辺境伯もおいそれとは手が出せぬであろうが、逆に俺たち騎士修道会の立場が悪くなってしまう」

 不満そうに青年修道騎士が言った。彼らは基本的に世俗の権力闘争には不介入という立場を形式的には取っているという話だ。
 政治の世界はきっとそんな純真で単純な理屈では動かないのだろうが、少なくとも聖堂会の多くの人間はそうありたいと信じているに違いない。
 だが俺たちの村の教会堂にいた助祭マテルドなどは、まさに世俗の権力闘争のために潜伏していた様な輩である。

「そこは雁木マリにも考えがあるんだろう。詳しい事は会談が終わった後にでも聞いてみればいい」
「ふむ、そうさせてもらう」
「けどま、ブルカ辺境伯の圧迫と介入は今俺たちの領内では大きな問題となっているからな。開拓を促進しようと考えている我が領主さまアレクサンドロシアちゃんが目障りなのだろうなあ」

 助祭さまが村に反逆した件についてはここで口にするのはよしておこう。
 俺の隣に座っているエレクトラも、俺が余計な事を語らなかったので黙して視線だけで確認をしてくるだけだった。
 どうせ総長との会談の中で話題に上がっている事は間違いないだろうし、いずれそこから彼らも知る事になるだろう。
 それに、せっかく少しデレたエリート修道騎士たちと、ここで関係をこじらせるのはもったいないしな。

「それでッヨイさまのご提案で、ブルカ辺境伯といざ敵対姿勢が決定的になった時に、自立して領内を運営するために、他の近郊領主たちと交流を深めようという事になったんだ。リンドルと、そしてオッペンハーゲンという街にこれから向かう予定だ」
「なるほどさすが賢くもようじょさまだ。我ら修道騎士の中でもッヨイハディさまの事を存じ上げている人間は、早熟の賢者であるとか、ッヨイ・ザ・ビヨンドなどと呼んでいる」
「ようじょ・ザ・ビヨンド?」
「そうじゃない、ッヨイ・ザ・ビヨンドだ」

 ようじょ・ザ・ビヨンド。
 ゴクリ。とても言い得て妙だが、何だかいけない響きをかもし出している。
 しかしこのエリート修道騎士たちはどこでようじょと知り合ったんだろうね。
 雁木マリ経由かな?

「それで、あんたたちはッヨイさまとどういうご縁があったんだい」
「あれは俺たちがアギトの森に遠征した時の事だったかな。その遠征で俺たちはッヨイハディさまに助けられたのだ。まさに女神様の小さな使徒とでもいうべきか」

 そう言ってぼつぼつ過去の話を語りだしたのは、ひとりの修道騎士だった。
 たぶん三人の中で一番年配で、リーダー格なのだろう。金色の髪をオールバックに撫でつけているが、なかなか様になっている。

「サルワタの騎士どのは巨大な猿人間というのは知っているか」
「実物を見たことはないが、名前だけはね」

 サルワタの森の語源は、巨大な猿人間のハラワタがその森から見つかったことに由来している。
 あるいは雁木マリがひどく恐れている存在だったと俺の中では記憶していたはずだ。
 恐らくはサルワタの森周辺にも生息しているはずだが、あの場所はワイバーンの狩場なので、今のところ俺は周辺で遭遇した事が無かった。

「アギトの森という場所はブルカから南に十余の村を超えて進んだ場所にある、山々に囲まれた場所だ」
「ほう、ずいぶんと遠方の土地に遠征したんだな」
「そこに巨大な猿人間たちが住む事でダンジョン化した山の砦があったからな」

 アギトの森の由来は、万年雪をたたえる南の山々がモンスターの(アギト)の様に突き出した谷間に存在しているかららしい。
 季節は冬か冬以外のふたつしか無い様な人間に厳しい環境なのだそうで、そういう次第からかほとんど未開の諸部族がそこで細々と暮らしている程度だったらしい。

「山の砦というのは、むかしその場所に黄色い長耳の都市があった遺跡なのだそうだが、黄色い長耳の部族たちはご存知の通り今はサルワタの方面に移住してしまった」
「そうだね」

 相槌を打っておいたが、俺は詳しい事はまるで知らない。
 だが恐らく黄色い長耳というのは、ニシカさんたちの部族を指している事は何となくわかる。
 生活環境が厳しくて故郷を捨てたんだろうかね。

「問題は王国の領土と宣言するにも無理があるそれらの村々は、何十年にもわたって俺たち騎士修道会が教化を施した場所だったんだ。巨大な猿人間たちが砦を根城にしてしまったので、周辺の村や集落は家畜は襲われる、人間も時には殺められるとさんざんで、いよいよ現地の教会堂を通じて討伐依頼が舞い込んだというわけさ」
「なるほどなあ」
「俺たちはブルカの冒険者ギルドとともに討伐隊を組織して一〇〇人からの遠征を行った。当時はまだ軍人訓練を終えたばかりのガンギマリーさまが、騎士隊の一隊を率いて参加されていた。その中にッヨイハディさまもいたのさ。ほんの二年前の話だ」

 そこまで話したところで、古参の修道騎士は渋い顔をした。
 たぶんあまりいい思い出話ではないんだろうな。
 俺も雁木マリがお茶を濁しながらその時にあった話の一部を耳にしていた記憶がある。
 大規模なダンジョンを準備不足のまま攻略し、巨大な猿人間の集団に圧倒されたまま各個撃破をされたという内容だったはず。

「俺たちは攻略にあたって周辺の村々から古い砦の情報をかき集めたのだが、その時にッヨイハディさまが活躍なされた」
「今から二年前といえば、ッヨイさまは当時七歳か」

 ッヨイさまは当時、まごうことなきようじょ・ザ・ビヨンドだったという事になる。
 幼い外見と裏腹にゴブリンというのは知性が早熟なのか?
 うん。ようじょを知っている身としてはさもありなんだな。さすが早熟の賢者。
 その身は子供、知識は大人、しかして心はいかほどか。
 ちょっとおませなジョビジョバようじょは、やはり総合的に見てようじょである。
 いや、ジョビジョバを加味すると、やはりようじょか。

「まあッヨイハディさまは純潔のゴブリンだからな、早熟なのさ。俺たちよりも賢くあらされたッヨイハディさまは、古い文献を精査してだいたいの砦の見取り地図を作製したんだ」
「あの時のッヨイハディさまは、まさに賢者の知恵を持つ神童だった」
「俺たちはそのッヨイハディさまの作られた見取り地図をもとにアギトの森にある巨大なダンジョン化した砦を攻略に向かったのだが、砦の奥には巨大な猿人間が築き上げた地下集落もあって、それはもう難儀した」
「黄色い長耳たちが長い年月使っていた鉱山の坑道が、それはもう迷宮めいた作りになっていたんだ。これではその先、ッヨイハディさまの作られた地図も役に立たずで、奥に逃げた巨大な猿人間たちといたちごっこよ」

 鉱山跡地の坑道見取り図までは文献を発見する事が出来ず、結果的にマップなしで突入する事になったらしい。
 だがそこは大規模な遠征部隊。
 騎士隊までも組織して挑んだ騎士修道会と、複数参加していた冒険者のパーティーたちが力攻めをして、物量で敵を圧倒しようとしたらしい。
 古参の修道騎士が口を開く。

「それが仇となった。本来ならば慎重にベースキャンプから徐々に側道を倒破する事がダンジョン攻略の基本だったが、数百年使われた坑道は思いのほか複雑で、しかもあちこちがつながっているという始末。騎士隊の一部が主攻略戦を分断されて、結果的にみっつの小隊が壊滅したんだ」
「あんたたちもその騎士隊に参加していたのか?」
「もちろんだ。今の騎士修道会を支える主だった修道騎士は、皆あの死線を潜り抜けて来た古強者ばかりだからな。その騎士隊を率いたのがガンギマリーさまだからな」
「そして今の騎士修道会総長カーネルクリーフさまが、遠征部隊の第二陣を率いて駆けつけられたのだ」

 俺の質問の残りのふたりが説明してくれる。
 そしてその言葉を受け取る様に、古参の修道騎士がふたたび語り始めた。

「前線で一度は孤立したガンギマリーさまを救出するために、賢くも幼いッヨイハディさまが、土の魔法を使って坑道を遮断しながら冒険者たちを率いて、孤立した騎士隊のもとへかけつけたのだ」
「そして雁木マリは助け出されたのか」
「いや、ガンギマリーさまはすでにその場にはおられなかった」

 どういう事だちょっと話がわからん。
 俺が首をひねっていると、古参の修道騎士は難しい顔をして続ける。

「ガンギマリーさまは仲間を逃がすために最後まで盾になって戦っていたからな。残り少ない生きた仲間たちをかばい、そして巨大な猿人間に最後の抵抗空しく捕まっちまったんだ」
「ああ、女神様をも恐れぬ猿人間たちは、ッヨイハディさまの救援の直前に、ダンジョンの表層を放棄して、上の階層に逃げやがったのだ」
「上の階層?」

 ダンジョンが地下洞窟なら、普通は下に降りていくのではないかと思ったのだがどうやら違うらしい。

「山の地形を利用して作られた坑道だからな、山頂近くに続くダンジョンの上層と、もともとの採掘のために作られた下層のふたつが表層エリアとは別にあったんだ。黄色い長耳以外にもかなり巨大な猿人間たちはダンジョンに手を入れていたわけだ」
「それで、ッヨイさまたちはその後どうしたんだ」
「俺はその助けられた主攻略部隊の生き残りだったんだが、合流してもちろん聖少女さまの足取りを追ったさ」

 だがたとえようじょの土の魔法をもってしても、ズタズタに分断された各パーティーを救出するのは至難を極めたらしい。
 結局、救出部隊は全ての戦力をかき集めて一時的に突破を賭けた後に、巨大な猿人間の主が逃げ込んだ部屋で雁木マリと出会った。
 彼女は激しく抵抗をしながらもその身を主によって弄ばれたのだ。

「聖少女さまをお救いした後に、さらに十日以上の時間をかけてようやく攻略を完了した」
「壮絶な戦いだったんですね」
「恐らく近年騎士修道会が経験した戦闘の中で最も苛烈なものだ。あの時、あの場に冒険者パーティーに加わっていたッヨイハディさまがおらず、第二陣としてカーネルクリーフさまの騎士隊が来なければ、恐らくあのダンジョンは今も巨大な猿人間の巣窟だった事だろうよ」

 なるほど、それほどの死闘を演じた戦いにようじょの身でありながらッヨイさまは参加していたのか。

「ッヨイハディさまはこれから、サルワタの領内に移住されるのか」
「まあそういう風に聞いているが、少なくともしばらくは俺たちの村で生活するんじゃないかな」
「そうか。ならば俺はサルワタの騎士爵閣下に刃を向けるわけにはいかんな」

 どこまで本気でそう言ったのかわからないが、白い歯を見せた古参の修道騎士はそう言って手を差し出してくれた。

「俺の名はスウィンドウだ。カーネルクリーフさまの副官をしている」
「イディオだ、軍事訓練の格闘教官をしている」
「僕はハーナディンだ。君と同じ出身は元猟師だね」

 次々に自己紹介をして差し出された手を握っていくと、何だか打ち解けた気分になった。

「では改めてシューターだ。奴隷騎士をしている」
「わ、わたしはエレクトラだ。彼の部下だ」

 あわてて自己紹介に加わったエレクトラがそう言った。
 あれ、エレクトラって俺の部下なのか? 村にいる騎士と言えば唯一俺だけなので、警備責任者になっているが、なるほどそうすると指揮系統的には俺の部下か。
 知らなかったそんなの。

 などと互いに少し打ち解け合っていると、礼拝所の前の壁に身を預けていたエルパコが反応した。
 そうだな、お前もいい機会だから挨拶しておきなさい。

「シューターさん、こっちに来るよ」

 そう思ったのだがどうやら違ったらしい。
 会談がひと段落したのか扉が開き、ひょいと雁木マリが顔を出したところだった。

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