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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第1章 気が付けばそこは辺境の開拓村だった

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11 飛龍を狩る者たち 前編


 俺はワイバーンを目撃した。
 元いた世界では想像上の産物でしかないものだったけれど、目の前で確かにその生物は動いている。
 大きさはおおよそ全長がマイクロバス程度だ。
 鱗におおわれた潰れた様な顔に牙がずらりとならんだ大口、そしてずんぐりとした胴体に長い尻尾だった。マイクロバス並の全長といってもその半分が長い尻尾だった。こいつも鱗がびっしりと張り付いていて、まさに空飛ぶトカゲの王様だ。
 そんなトカゲの王様が、村の中心地より少しだけ外れた場所で放し飼いにされていた牛を襲っていた。
 哀れなその牛は「ブモーッ」と悲痛な叫びを上げながら、抵抗空しく転がされて、ワイバーンはその脚で爪を立てていた。

 強そう……
 俺は確信した。

 村人たちは口々に何事かを叫びながら指を差したり、物陰から様子をうかがったりしていた。
 けれど絶対的な空の王者に近づこうとする者はいなかった。
 そりゃそうだ。この村を構成する大半の人間が農民であり、その家族だ。
 ワイバーンを相手にできるとすれば、カサンドラの親父さんほどのベテラン猟師でなければ不可能なはずだ。
 そしてカサンドラの親父さんは今となっては亡き人だ。

「外が騒がしいが、何事だシューター?!」
「あれを見てください、ワイバーンですよオッサンドラさん!」

 炭を抱きかかえて外に出てきたおっさんに向かって俺は言った。
 おっさんは抱いていた炭を腕から取りこぼして、唖然とした顔をしている。

「ワイバーンが、どうして……」
「わ、わかりませんが。突然飛来したんですよ……」
「なんという事だ」

 茫然とワイバーンの捕食風景を眺めていた俺たちだったが、そんな中でも勇敢に空の王者に戦いを挑もうとする集団を目撃した。
 ッワクワクゴロさんをはじめ、猟師のひとたちである。
 彼らは少し前まで狩りに出かけていたのか、普段の狩猟スタイルのまま数名ひとかたまりとなってワイバーンを目指していた。
 他にもワイバーンに向かう、別の集団がいた。
 村長だ。あの妙齢の女村長とその義息子ギムル、それから他の武装した集団だった。最後尾には木こりッンナニワさんもいた。

 ふたつの集団は村に点在する家々を遮蔽物にしながらジグザグに向かっている。
 先着しつつあったッワクワクゴロさんたち猟師集団が、ここで二手にわかれた。一方が複数の矢筒を手に持っていたグループで、もう一方が弓と手槍を装備している。手槍の集団がさらにひとつ先の遮蔽物まで駆けて行った。
 なるほど、ッワクワクゴロさんたちは援護射撃を受けながら肉薄攻撃をするつもりなのか。

 空の王者はそんな襲撃者の存在など無視するかの様に、ムシャムシャと牛の腸をくちばしで啄み、引きずり出していた。
 グロいぜ……。
 モノの本によれば、大型の捕食哺乳類は相手の首に噛みついて完全に仕留めてから捕食すると聞いていたが、牛はまだ弱弱しい悲鳴を上げている。
 これでワイバーンが哺乳類でない事は確定だな。

 そうして女村長の従える戦士の集団は、弓を構えていた猟師の援護射撃集団のところに合流して、何事か激しく会話を交わしていた。
 女村長は、いつものゆったりとしたドレス風の服の上から、簡易的な胸当てをしていた。
 あわてて飛び出してきたので、とりあえずそれだけ装備したという感じだろうか。
 そして腰には長剣、由緒正しい女騎士のスタイルだった。

 これまであっけにとられて状況を眺めているだけだった俺だが、そこにきて脳が覚醒した。
 このままワイバーンに捕まってしまった女村長に「くっ殺せ!」なんて台詞を言わせるわけにはいかない。
 ワイバーンはもしかすると、女村長の言葉を待たずに喰い殺してしまうに違いない。

 俺がこの村で自分の立ち位置を築くためにも、少しでも女村長のために槍働きをするべきだ。
 何より、美人は無条件に保護されるべき対象だ、間違いない。

「槍働き……」

 自分でつぶやいた単語に、俺は振り返った。
「おっさん、鍛冶場に武器はありますか。長物なら何でもいい」
「武器はあるが。まさかお前、どうするつもりだ――」
「何でもいい、貸してください。槍か薙刀みたいなものはないんですかね?」
「長物がいいなら、槍とハルバートか、両手持ちの(ツーハンド)メイスがあるはずだが」

 困惑したおっさんの背中を押して、俺は急かした。

「何でもいい、貸してくれ」
「お前ワイバーンに勝負を挑むつもりか? どう見てもあれはオスの成獣だぞ?!」
「このままじゃ村長がくっ殺せとか言うだろうが。そんな展開、俺は望んでねぇんだよ!」

 勝手に鍛冶場に飛び込んだ俺は、ドワーフの爺さんを突き飛ばしそうになりながらも屋内を見回した。

「オッサンドラこいつは誰だ!」
「俺の義従妹の夫でシューターです、親方。武器を借りたいとこいつが……」

 そんなやり取りを背中で受けながら、俺は振り返った。

「おっさん、武器はどこにある」
「そっちの奥にあるのが長物の武器だ。槍なら手前のヤツより奥のものが上等だ。メイスなら手前のを使え
!」
「馬鹿者。オッサンドラよこの若者をつまみだせッ」

 ドワーフの親方を無視して俺は言われた奥の部屋に入り、武器立てにずらりと並んだ槍のうち最奥部のものを引き抜いて外に飛び出した。
 吟味している場合ではない。時間が惜しい。

「お前が死んだらカサンドラが悲しむぞ」
「ふん、あいにく俺は妻とまだ抱き合った事すらないんだ」
「だがおじもワイバーンと相打ちになっているんだ。また辛い思いをするぞ」
「ウンコしてるところはガン見したがね、情が沸くほど俺たちは夫婦生活をしちゃいないんだよ。死んだらあんたがもらってやれ。惚れてるんだろ?」
「いや俺は別に……」

 俺を引き留めようとするおっさんの言葉が煩わしくなって、黙らせた。
 そうこうしながら、槍の鞘を抜いていつでも駆けだせるようにする。

 牛を啄んでいたワイバーンが、ふと潰れた顔を持ち上げて咆哮した。
 地響きの様な低い、空気を震わせるのに十分な恐怖が俺たちに伝播した。
 その咆哮に耐えきれなくなったのだろうか、ッワクワクゴロさんたち弓で援護射撃する集団が一斉にその弦を引き絞る姿が見えた。

「くそ、俺もここで槍働きをしておかないとな。いつまでたっても村八分はごめんだ」

 俺はニヤリとしておっさんを見返すと、駆けだした。
 本心では恐怖がどこかにあった。
 当たり前のことだ。俺が今までに相手した事のある連中といえば、焼肉店バイト時代に酔っ払いどもを数人と、空手で全国二位まで進んだ男と県大会でかちあったぐらいである。
 あとは素人剣士の青年ギムルか、インディースプロレスの選手たちぐらいだな。
 槍一本で虎を相手にしろと言われても、たぶん平常な状態なら大喜びで、いや即答で拒絶する。
 しかし今は脳内に変な分泌物でも出ているのか、恐怖は頭の片隅に追いやる事ができた。
 アドレナリンだ。
 試合の時、自然と体にエンジンがかかった時だけは、恐怖心がぶっ飛んで、怖いもの知らずになるのだ。

 俺が走っている間にも状況は動いていた。
 ッワクワクゴロさんたちの射かけたのとほぼ同時に、呼応して突撃集団が一射だけ矢を放っていた。ッワクワクゴロさんたちはそのまま速射する具合で二射目にかかる。
 見ていると正確に狙いをつけているわけではないらしい。
 相手はマイクロバスの王様だ。適当に狙ってもどこかに命中するって寸法だろう。そして猟師の突撃集団がワイバーンに迫った。

 ふたたび、ワイバーンが低い咆哮を村にまき散らした。

 俺は走っている途中、たまらず腰を抜かしそうになる。
 アドレナリンとは何だったのか。先ほどまでの絶対無敵精神は、一瞬にしてぶっ飛んだ。
 俺が腰を抜かした場所は、ワイバーンまでおおよそ五〇メートルもないだろうという距離だ。

 空の王者は数字上の全長以上に、巨大な存在に俺には見えた。
 俺はとても怖かった。

     ◆

 異世界はとても理不尽だと俺は思う。
 勇敢にもワイバーンに突撃して行ったひとりのゴブリンは、ただの一撃、空の王者が尾を振っただけで宙を舞っていた。
 ひとが宙を舞うなんてものは、普通の人生を歩んでいるぐらいでは見れないだろう。
 俺はある。目の前でな。
 それは、むかし俺がスタントマンのバイトをしていた時にやった様な段取りがあるわけじゃない。
 名も知らぬゴブリンの猟師は理不尽な暴力によって、みごとな放物線を描いて飛んで行った。
 次に手槍を持った別の男が仲間の犠牲を利用して懐に飛び込んだが、これは巨大な翼を広げたワイバーンがバックステップした時に風圧で吹き飛ばされた。
 器用なワイバーンは、バックステップをしながら潰れた顔のくちばしで男を噛んだ。
 男はどう見てもゴブリンではなかった。異世界流に言うなら俺たちと同じヒト族だ。
 彼は悲鳴を上げながらすぐ死んだ。

 むごい。
 怯んだ突撃集団の仲間たちは広く散開しながらワイバーンを遠巻きにした。
 数射にわたって援護射撃をしていた弓隊も、もはや敵味方が接近し過ぎていてそれも叶わない。
 とても残念な事に、鏃はワイバーンの皮膚を捉えてもその鱗の表層にしか届いていなかった様だ。

 そして女村長の一党が、とうとう抜剣してワイバーンを取り囲む一団に加わった。

 ようやく自分を奮い立たせながら一団の後方にたどり着いた俺。
 かっこいい事を言って鍛冶場から槍を持ち出した俺だったが、まったくもって情けなかった。
 腰を抜かした姿は、きっと全てが無事に終わったら笑われるだろう。
 いや犠牲が出ているのだから、冷たい仕打ちを受けるのだろうか。

「村長、下がってください!」
「わらわはこの村の支配者ぞ。ここで引き下がれるわけなかろう」
「ではせめて最後尾に」

 そんなやり取りを義息子のギムルたちと交わす村長を尻目に、飛龍を狩る者たちたる猟師は果敢に二度目の突撃を加えた。

 当然、空の王者は簡単に隙を見せなかった。
 ぐるりと潰れた顔を回したワイバーンは、威嚇をしながら器用に尻尾を振り回す。
 だがワイバーンを仕留める気概のある猟師は確かにいた。
 ひとりのゴブリンだった。
 他の猟師と明らかに動きの違う男は毛皮の服の上から革鎧の様なものを装備して、両手にそれぞれメイスを構えていた。

「目的はひとつ! 今はワイバーンに手傷を負わせてここから撤退させることだ!!」

 女村長が指示を短く飛ばした瞬間、そのゴブリンは真っ先に懐に入った。
 たぶん、あれはいつかッワクワクゴロさんの言っていたッサキチョさんという猟師のリーダーじゃないだろうか。ギムルと揉めた時に見た事がある。
 彼の動きに合わせて、他の猟師たちが手槍や短弓を構えた。
 俺もその包囲網に加わった。

「おお、シューターお前か」

 女村長の声が聞こえるが今は無視だ。
 飛び込んだ毛皮の猟師は、連続してメイスでしたたかにワイバーンの腹を叩く。
 そして転がって離脱した。
 痛みを感じないのかワイバーンは首をもたげて毛皮の猟師に噛みつこうとするが、その瞬間に弓矢がワイバーンの翼を襲う。
 なるほど、鱗の鎧をまとった空の王者も翼は弱いか。
 これにはたまらずワイバーンが甲高く咆えて、再び翼をばたつかせた。

 そして。

 いったん宙を舞ったワイバーンは、ヤツを取り巻く俺たちの集団の後方にいた女村長めがけ、鍵爪を立てようとした。
 俺は映画の撮影所でスタントマンのバイトをした事がある。
 アクションクラブの出身ではない俺だが、もぐりでそういう事を一時期した事があったのだ。さすがにワイバーンを相手にしたことはないが、疾走する騎馬武者に蹴散らされた経験ならある。
 今の恐怖はその時以上。
 だが、恩の売り時は今だと俺は確信した。
 大きさには違いがあるが、接近する相手をギリギリで回避するのにはワイバーンも騎馬武者もたいした違いなどないと自分に言い聞かせる。それに今回はもっと簡単だ。

 槍を捨てた俺は一心不乱に走り出すと女村長に体当たりをかまし、身代わりとなる覚悟をした。

「グオオオオッ!」

 ワイバーンは雄叫びを上げて女村長の前に飛び出した俺に爪を立てようとした。
 女村長は俺に突き飛ばされて、尻もちをついたまま唖然としていた。
 俺は、咄嗟にオッサンドラにもらった短剣を引き抜くと最後の、せめてもの無駄なあがきをしようとした。

 こりゃ死ぬかもしれんね。
 運が良くても重体か。やっぱ猟師の戦い方は、待ち伏せに限るね。
 そんな諦めを脳裏に浮かべたとき、毛皮の猟師がワイバーンの顔面にダブルメイスを振り込んでいた。
すみません!
いったん投稿したのですが、大幅に後半を加筆しました。
ちょっと半端なところで終わっていたので…
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