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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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94 早朝に警戒せよ


 陽が昇り始めるよりも早くに俺たち旅に出る人間は女村長の屋敷前に集合した。
 四頭仕立ての豪華な四輪馬車と、二頭仕立ての二輪馬車が俺たち辺境の外交に回る一団の移動手段である。
 これとは別に雁木マリたち騎士修道会の四騎と野牛の騎兵二騎、予備の馬が数頭加わる。

「村に残る皆には迷惑をかけるが、しばらくわらわが留守にする間をよろしく頼むぞ」
「おう、その点は心配なく俺たちに任せてくれ」

 留守を預かる野牛の族長がタンヌダルクちゃんと並んで俺たちに軽く返事を返した。
 ッワクワクゴロさんも俺たちに向かって手を振ってくれた。

「それでは出発するとしよう」
「はっはいッ」

 女村長が豪華な四輪馬車に向かって歩き出したので、従うカサンドラもそれに続いた。
 馬車のドアを冒険者エレクトラが開けると、女村長は元は貴族軍人だったと言うだけはあって身軽な仕草でドレス風の衣装の端をつまんで乗り込む。
 カサンドラはそうは行かなかったので女村長に引き上げてもらい、まったく身長の足りないッヨイさまはエレクトラに抱き上げてもらって乗り込んだ。
 さて俺も乗り込もうとしたところで、どういうわけか馬車の扉がエレクトラによって閉じられてしまった。

「おい、何でドアを閉めるのかな?」
「シューターさんはあっちでしょうが」

 話がかみ合わず、何を言っているんだと言う顔をするエレクトラに俺の頭の中は「?」だった。
 エレクトラの指す方向には馬がいた。
 馬と言ってもサラブレットの様な背高い馬ではなく、小ぶりで腹の出た馬である。

「俺にこの馬に乗れと言うのか?!」
「武器の扱いに精通したシューターさんが馬車の周辺で警護についている方が、いざという時に安心じゃないさ」
「いや俺、馬はちょっと……」

 むかし俺は、馬に蹴散らされるというバイトをやっていた経験がある話は過去に振り返った事があったはずだ。
 大長編時代劇の撮影で甲冑を着こみ、突撃する武士たちの最前線で馬の直近で蹴り飛ばされるという演出の撮影だったのだが、馬は恐ろしい生き物であると俺は思っていた。

「乗れるんだろう?」
「まァ……」

 確かに乗った事はあったけれども……

「早くしなよ、出発が控えているんだ」
「シューターさん、お手伝いします」
「お、おう……」

 名目上の外交使節のトップという事もあって立派なおべべを着ていた俺である。
 妻のひとりタンヌダルクが妙に艶やかでニコニコした表情をしながら注目しているのもあるし、馬車の窓から正妻のカサンドラもこちらを見えているのがわかった。
 エルパコは、妙にキラキラした目線で俺の側にやってくると、馬にまたがるのを手伝ってくれようとしている。
 これは、これは逃げられない。
 今さら馬に恐ろしくて乗れませんとは言えない。

 俺が恐る恐るへっぴり腰で馬のあぶみに片足をかけると、背後に立ったエルパコが手伝って押し上げてくれた。
 さすがに何度か乗った事があるので、たぶん無様な格好にはならなかったと思う。
 しかしどうすりゃ馬は進むんだよ……

「よ、よし。じゃあエルパコは馬車の上に、ニシカさんは荷馬車の荷台に頼むぞ!」
「うん、わかったよ」

 今さら騎士の威厳を取りつくおう様にして俺が叫ぶと、軽快な動きでエルパコが走り出すと、そのまま勢いで馬車の上に飛び乗った。
 エルパコはハイエナ獣人のはずだったが、まるで猿の様な身軽さだ。
 ニシカさんも「おう」と返事をすると、もひとりの冒険者ダイソンと一緒に後方の荷馬車に移動した。
 豪華な馬車の御者台には野牛の兵士と、エレクトラ自身が配置につくらしい。
 野牛の兵士はいつぞや会話を交わしたタンスロットさんだ。

「こちらは準備出来たわよシューター」
「で、では出発」

 軽やかに馬にまたがった修道騎士たちの指揮官、雁木マリに促されて、俺たち外交使節の一団はサルワタの開拓村を出発した。

 ブルカの街へと続く田舎道は夏を迎えて草原の葉が高く伸びあがっていた。
 雁木マリと俺が一団の先頭を並んで歩き、その後に豪華な馬車と貧相な荷馬車が続く。
 周辺を修道騎士の三騎と野牛騎兵の二騎が散って警護に当たっているが、実際のところそんなものものしさはまったく不要だった。
 生ぬるい風がひとつ吹き抜けるとその草原がざわざわと揺れるのだが、こんな行程がずっと街のすぐ近くまで続くのだ。
 盗賊やモンスターの跳梁跋扈は、どちらかと言えばブルカの向こう側に広がる本土へ至る道が危険というからな。
 馬を並べて雁木マリが微笑を浮かべて来た。

「どう、乗馬には慣れて来たかしら?」

 おいおい気が付いてたのかよ、へっぴり腰を奥さんたちに見せるハメになったというのに…

「わかってたのなら助けろよ! 同郷のよしみだろ?!」
「久しぶりに乗ったんでしょ?」

 確かに、俺は撮影で馬の手綱を握ったりまたがった経験があるにはあったけれども。
 それは本当のところを言うと、修学旅行で北海道に行った時に数度、それから撮影の時に足軽に扮した調教師に引っ張ってもらった事が数度。
 あと一回は、出来もしないのに「撮影で乗馬の経験があるひと」と撮影現場で挙手を求められた時に、ついフィルムに写り込みたい一心で手を上げた時のいち度だけだった。
 それをひとは乗れるとは言わない!

「時代劇の斬られ役だったんでしょ? 乗馬戦闘もお手の物じゃない」
「端役の俺は馬に乗るより馬に蹴り飛ばされる側だったんだよ。まあ乗った事はあるが、久しぶりというかほとんど初心者だぞ」
「嫌がって敬遠するより、早く手を付けて慣れちゃった方がいいから。ちょうどいい機会だったじゃない」
「習うより慣れろか。もう少し若ければもっと熱心だったんだがな」
「そうねえ。この世界だと三二歳ってずいぶんおじさんだからね」
「うるさいよ!」

 こいつは最近、あまりツンケンしたところを見せなくなってきた。
 出会いがしらなどは、いきなり拳を握りしめて殴る蹴るをしてくる様な暴力女だったのだから、人間変われば変わるものである。
 今もメガネの向こう側で眼を細めて笑っているのである。
 笑えばかわいいんだけどな。

「この先の道で、確か隣の村に入る側道と街に向かう街道に分かれるのよね」
「予定ではこのまま街道を直進する事になっているけど、今のところ遅れもないし、むしろ早いぐらいだな」
「そうね。今日中に次の村まで移動出来る感じだから、そのまま進みましょうか」

 馬上で器用に地図を広げて見せた雁木マリが、現状のルートを確認しながら俺に話しかけてきた。
 ギムルやニシカさんたちとはじめて街を目指した時よりも、たぶん移動速度はかなり早い気がする。
 あの時は一頭仕立ての馬車に野営道具やワイバーンの骨皮を大量に乗せての移動だったから、ほとんど歩いているのと変わらない速度だった。
 それを考えれば一両日とはいかないが、二日もあればブルカに到達できる速度で移動しているんじゃないだろうか。

「昼休憩はこの先の見晴らしのいい場所でするか」
「そうね、これだけ何もない場所とは言っても、警戒はしておいた方がいいわ」

 そんな風に今後の打ち合わせを馬上でやりながら、順調に旅路は続いた。

     ◆

 陽が傾き始めた頃、俺たちは野営をする事にする。
 街道から少し外れた場所に小川を見つけたので、その近くに馬車を引き入れて野営の準備開始だ。
 雑魚寝が基本の野営ではあるけれど、さすがに領主さまである女村長のためには簡易テントを設営する。
 カサンドラとようじょは簡易テントのお世話になる事になったが、他の面子は冒険者と軍事訓練を受けている人間なので、ポンチョにくるまって寝る事になる。

「ッヨイも見張りに参加した方がいいですか?」
「今夜は見張りに立てる人間も多いので、あんたたちはゆっくり寝ていても大丈夫よ」

 キャンプファイアを囲みながらようじょは見張りに立つことを志願してくれたけれど、これだけの大人数なのでそれは不必要だ。
 子供はしっかりと寝て、すくすく育ちましょうね。
 というわけで、野牛の兵士と修道騎士のメンバーが交代で見張りに立つことになった。
 俺やニシカさん、エルパコの猟師組三人はどうするかというと。

「もっとも警戒が必要な時間は明け方前だぜ。オレたちは早めに寝て置いて、最後の見張りの交代の少し前に起きる様にすればいいんじゃねえか」
「そうですね、ニシカさんとエルパコはそうした方がいいだろう。俺は別に周囲警戒が得意なわけじゃないから、早番で見張りに立つことにしましょうか」

 股が妙に擦れて痛いので、息子の位置を調整しながらニシカさんの提案に返事をしたところ、

「何を言ってるんだお前は。騎士さまは偉いンだから、さっさと寝てくれた方がいいぜ。カムラみたいな盗賊が出た時はお前の出番なんだからな」
「そうだよ、シューターさんはぼくが守るから……」

 あっさりと強制的にゆっくりしろと気を使われてしまった。
 正直な事を言えば、一日中馬にまたがるという経験をしたのでかなり疲れていたのである。
 乗ってしばらくの間はよかったのだが、まだ体が馬に乗る事に慣れていなかったので、妙に筋肉に緊張感を強要してしまって全身が重たい。
 お言葉に甘えて俺は横になる事にした。

 そして朝。
 陽の昇り始める時刻に、ひときわ大きな悲鳴が野営地に響きわたった。

「な、何だこれはああああっ!」

 黄色い悲鳴の主は、間違いなくご領主さまのものだ。
 簡易テントの中から転げる様に飛び出してきたアレクサンドロシアちゃんが、ドレスのスカート部分をつまみあげながら叫んでいる。
 簡易テントの側で寝ていた俺はというと、寝ぼけまなこで顔をしかめながら女村長の方を見やった。
 ぐっしょりとドレスのスカートに大きな染みを作ったアレクサンドロシアちゃんが、血相を変えている。
 あ、もしかしてジョビジョバしたんですかね。
 やっぱり一族の宿命からは逃れられなかったのかな?

「ち、違うぞこれは。わらわではない!」
「でっかい地図が出来上がりましたねえ。ふむ、ここがサルワタの森かな?」
「信じてくれお兄ちゃん、わらわはもうおねしょは卒業したんだ!!」
「本当なんですかねえ?」
「本当だとも。昨夜は気を使って寝る前に水分は出来るだけとらないようにしていたのだからなっ」
「それより、騒ぐと他のみんなが起きてきますよ」

 案の定、アレクサンドロシアちゃんの悲鳴めいた叫びに驚いた人間たちが眠気まなこをこすりながら、あるいは持ち場の見張り位置から顔をのぞかせて注目している。

「違うのだ、違うのだお兄ちゃん。わらわは十五の時を最後に、お出かけ先ではした事が無いのだ!!」
「な、夏とは言っても朝は冷えますので、お召し物を交換しませんと」

 簡易テントの中から顔を出したカサンドラが、あわてて女村長をなだめにかかる。
 これ以上アレクサンドロシアちゃんをいじっていると、禍根が残っちゃうね。
 奥さん後は頼んだぞ。

「朝からどうしたのシューター? 敵襲でもないみたいだけれど」
「いや、村長さまは悪い夢を見ておいでだっただけだ。みんなも見世物じゃないから解散解散!」

 毛布にくるまったまま近づいてきた雁木マリに返事をした後、俺はみんなに聞こえるように叫んだ。
 向こうの方で見張りについていたらしい寝ぐせ頭のニシカさんが、ニヤニヤしながら顛末を見ているが気にしない。

「ほら、テントに戻りましょう」
「わらわでは、わらわではないのに……」

 ガックリと気落ちした女村長の肩を俺とカサンドラで押しながら簡易テントに戻る。
 すると、むにゃむにゃ顔のようじょが毛布を引きずって立っていた。
 女村長の絶叫でおねむのようじょまで起こしてしまったとは、まったくアレクサンドロシアちゃんは罪深いジョビジョバだ。

「どれぇ、朝からどうしたのですかあ……」
「おおっッヨイさま起こしてしまいましたか。それがですねえ、」

 そう言いかけたところで俺は見つけてしまった。
 ようじょの寝間着代わりのキャミソールも、毛布もお湿りしているではないか。

「ッヨイ、お前だな!」
「びえぇ~~。どれぇ~?!」

 女村長の激昂に、ジョビジョバの犯人ッヨイさまはもういち度ジョビジョバしてしまったのである。

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