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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第4章 アレクサンドロシアの野望

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90 アレクサンドロシアの挑戦状 (※ 扉絵あり)

本日より第4章開始です!
http://15507.mitemin.net/i168395/

挿絵(By みてみん)
てすん(G.NOH)さまより、女村長アレクサンドロシアさまのイラストを提供していただきました。ありがとうございます、ありがとうございます!







 ある日、女村長の屋敷にある執務室に集められた俺たちは、アレクサンドロシアちゃんよりその様な意見を求められたのだった。

「わらわとしては、このままブルカ辺境伯に介入された事を黙ってやり過ごすわけにはいかん。ただちに抗議の書状を送り付ける所存であるのだが、皆の者、何か意見はあるか」

 集められたのはッヨイさまに雁木マリ、ニシカさん、そして俺とエルパコである。
 ギムルが留守になり、メリアも暇を出されてしまった現在は村長の手足も人手が足りておらず、ふたりの妻は花嫁修業がてら屋敷へ出入りし、俺たちは何かある度に集まっては協議に参加しているのだ。
 少し前までは街からやって来た冒険者カムラがその相談相手になっていたらしいが、奴はもう死んだ上にブルカのスパイだった男だ。
 その穴埋めは俺たちでしなければならない。

 さっそく女村長の言い出した言葉にようじょが口を開く。

「ドロシアねえさま。もしブルカに抗議の書状を送り付けた場合、今後ブルカと交易をする事が出来なくなってしまうのです」
「ふむ、その意見はしごくもっともであるな。だがそのために他の辺境領主たちと交流を深めようと言い出したのはお前ではなかったのか」

 ようじょが言う様に、辺境地帯の最僻地にあるここサルワタの森領内の生活必需品を、基本的に多くの部分でブルカの街に頼っている。

 例えば貨幣ひとつとっても、領内で使われている金貨はブルカ辺境伯金貨であり麻布、木綿の布もまた全て街から行商人によってもたらされている有様である。
 街からもたらされる麻布は光沢を帯びた上布と呼ばれる高級品で、村で産出される安いごわついたものとは肌触りがまるで違った。

「その通りです。けれども、リンドルやオッペンハーゲンと交易を深めるためには、それらの土地の領主さまや商人たちによってお得なものがなければいけないのです」
「お得なものか。わらわの領内には貨幣すら数が足らない始末だからな。さてどうしたものか……」

 貨幣についても、大領主や有力者ともなれば国王より貨幣鋳造権を付与されて独自に金貨・銀貨を作る事が許可されるのだ。
 サルワタの領内に産するささやかなものと言えば、狩猟によって得られる革製品と湖で取れるサルワタマスの燻製などが少々ある他は、イモなどの農作物ぐらいのものだ。

「ブルカと言えば辺境交易の中心地よ。あたしが眼にした限り、王都や本土の諸都市から運び込まれた名産品や特産物、それに辺境の各地から集められた資源や農作物は、いったんブルカの街に集まって、そこから再分配される様に出来ていたはずね」
「なるほど、ブルカは消費都市というわけか」
「消費都市とは何だ」

 雁木マリの言葉に俺がひとりごちると、女村長が知らない単語を耳にして聞き返してきた。

「モノの本によれば、消費都市というのは政治的や宗教的な中心地として文物の生産に寄与しない街なんだそうだ」
「続けてくれお兄ちゃん」
「なるほどな。さしずめブルカにはブルカ聖堂があり、辺境交易の中心地として栄えている街なので、特段何かしらの産物がブルカで作られているわけではない」

 逆に言えばブルカを経由していろいろな産物がやり取りされているのだ。
 俺がそんな事を説明してやると、ふと素の状態で聞き返したアレクサンドロシアちゃんの「お兄ちゃん」発言に、ようじょもマリもエルパコも、ぎょっとした顔をしていた。
 こらこら、人前でお兄ちゃんはやめなさい。

「え、えっと。ぶ、ブルカの街は辺境交易の中心地なので、いろんなものが街に集まっています。だからブルカからそれぞれの辺境領地にものが運び出されていき、代わりに食べ物が送り出されていくのです」

 眼を白黒させながら俺と女村長の顔を交互に見比べながら、ようじょが言った。
 サルワタ領内は湖と河川が走り抜ける森を開墾した土地だけあって、水耕栽培でよその土地よりも多産が可能なタロイモの仲間がとれる。
 ある意味で農産業だけが生命線の辺境において他の領地よりいくらか産出量が多いと言えるが、それらはどの辺境でも大小の差はあっても似たようなものだろう。

「遠慮はいらんぞ、最後まで続けよ」
「ブルカとの敵対を鮮明にするサルワタ領と交流するためには、それぞれの街にとってそれなりの魅力がないといけないのですドロシアねえさま」

 ッヨイさま賢いなあ。
 不機嫌そうな女村長にちょっぴり怯えながらも、はきはきと説明をした。
 雁木マリも腕組みをしながらうんうんと唸りはじめたではないか。
 どうしたもんかね。

「しかし魅力ね、辺境伯を敵に回すのも簡単な事ではないわ……」
「何言ってるんだよ、だったら話は簡単じゃねえか。この村にしかないものをよその街に売りつけてやれば簡単だ!」

 鱗裂きのニシカさんが白い歯を見せてそう言い切った。
 そりゃそうだ。ニシカさんのいう事はごもっともである。
 しかし俺はこの村で生活する様になって数か月になるが、村で自慢が出来るものといえばワイバーンが定期的にやってくるぐらいしかない。

「この村にしかないものって何かしらニシカさん。それがあればあたしたちに味方する辺境領主がいるかもしれないわ!」
「そうなのです、おっぱいエルフはもったいぶらずに言うのです!」
「うるせえ、おっぱいじゃねえ! お前たちはよそ者だから知らないだろうが、オレたちの領内の特産品と言えば、村長の机の上に置かれているじゃねえか、なあシューター?!」

 ニシカさんはぼよよん胸を躍らせて咆えて見せると、俺に同意を求めながら女村長の執務机を指差すのだった。
 唯一他にない特産品は何かと問われればそれは……

 ゴブリン人形である。

「わらわの村が辺境の諸都市と交易するために輸出可能なものと言えば、このようなものしかない」

 執務机の脇に鎮座した木彫りのゴブリン人形を睨み付けながら、女村長がため息交じりにそう口にしたのである。
 ゴブリン人形は、開墾のためにサルワタの森を伐採した際に出た材木の一部を利用した工芸品である。
 サルワタ農民の生活というのは春に冬麦の収穫をして夏は芋を育て、秋にはまた冬麦の種を巻いて冬ごもりをする。
 冬は内職をして過ごすのが一般的な領民たちの生活なのだが、いつしかその冬の収入源としてゴブリンの木彫り人形を生産する様になっていたのだという。
 北海道の特産品というヒグマが鮭を加えている木彫りの人形みたいなものだと思えばいい。

 しごく真剣な顔でみんなの顔を見回したニシカさんは、語気を強めながら力説した。

「これを辺境の領主との産物交流に売りつければいいんじゃねえか? ん?」
「何よこれ。悪魔の人形なんか気味悪がって誰も欲しがらないわよ」
「悪魔では無くあくまでゴブリンだぜ! ガンギマリーもよその村でこれと同じものを見たことがあるか? ねぇだろう」
「ないわね。というか頼まれたっていらないわ」
「い、いらない、だと?!」

 驚愕の表情をしたニシカさんを無視して、俺はしごくまっとうな提案をする事にした。

「村長さま、村の特産品と言えばワイバーンがあるじゃないですか。あれは確か鱗や爪が防具の素材になるんじゃなかったでしたっけ」
「うむ、そうだ」
「だったら、他の領主や商会とは販売特約を結んでしまえばいいのですよ」
「特約か、つまりどういう事だ」
「えっとですね、冬に得られたワイバーンの鱗や骨は、優先的にそれらの取引先に卸す様にすれば、彼らにもお得感があるでしょう」
「さすがシューターだ。学のある者の意見は違うな」

 喜んだ顔をした女村長がその場で採用してしまった。

「よし、さっそくその方向で他の交易する方向を検討しよう。これで正々堂々と抗議書簡を辺境伯に突きつけてやることが出来るな」
「どれぇは賢いですね!」
「そうね、こんな人形に頼るより、そっちの方が堅実でメリットがあるわ」

 口々に賛同した協議参加者をよそに、ニシカさんはまだ抗議を口にしていた。

「何でだよ、ゴブリン人形かっこいいだろ! なぁシューター何とか言えよ!」

     ◆

 俺は今、ゴブリンの木彫り人形を作成中である。
 ゴブリン人形の素晴らしさをまったく理解できなかったこの俺に、ニシカさんが懇切丁寧に教えてくれるのだそうだ。
 がらんどうの屋敷の食堂の端で俺たちが座り込んで木片を削り出していると、礼儀作法の練習をしていたというカサンドラとタンヌダルクちゃんがやって来たのだ。
 気が付けばみんなで、ゴブリン人形教室がはじまってしまった。

「むかしお父さんやおじさんと、冬になるとよくやっていました。懐かしいです」
「へえ、ナイフ一本でこんなものを作るのですか蛮族は。ナイフに魔法がかかっているのかしら?」
「ぼくも、やってみたい……」

 子供の頃に職人たちと混じって作っていた経験がカサンドラにはあるらしい。
 それに、蛮族の民芸品に興味を示したタンヌダルクちゃんも参加表明をしてくれた。
 けもみみは、自分の義理の両親を思い出しながら、顔を一心不乱に削っている。

「いいかシューター、お前にはゴブリン人形の素晴らしさをみっちり教えてやるからな!」

 馬鹿にした事を後悔してやるぜと吠えるニシカさんだが、残念でした。
 むかし俺は、木工職人の隣の家に下宿していた事があるので、ちょっとだけかじった事がある。
 京都の町屋の並んだ繁華の裏手には、料亭だけでなく版画工房や染物工房、着物屋に小間物屋と、昔ながらの職人が住む工房が長屋を形成していたのだ。
 俺は当時料理屋の住み込みをやっていたのだけれど、時々暇を見つけてはその木工職人の弟子になりたいと通っていた美術学校の女子大生をひと目見たさに、よく工房を出入りして手伝いをしたものだ。
 細かな仕上げはさすがに素人の俺には出来ないだろうが、なんとなくひとの形にするぐらいなら道具さえあれば出来るのがありがたい。

「何だよシューター、お前ぇなかなかセンスがあるじゃねえか」
「いやぁ昔取った杵柄というやつで、ちょっとだけ習った事があるんですよ」

 かわいこちゃんの女子大生にお近づきになりたくて、などと言えばふたりの妻に何を言われるのかわからないので黙っておく。
 ちなみにその女子大生には彼氏がいた事が後日発覚したので、俺は工房に通うのをやめた。
 しかしいち度手伝った事もあって、俺が暇をしていると職人が手伝いをしたら小遣いをやるというので、しぶしぶ内職をしていたものだ。
 当時は外国人向けなのか、変な顔の鬼のお面を作っていた。

「さんざんゴブリン人形を馬鹿にしていた癖に、はじめたらやたらと熱心で、しかも上手いところがムカつくぜ」

 講師役のニシカさんが、俺が彫っていたッヨイさま人形を見てぶうたれた。
 ぶうぶう言う割には小器用にナイフを片手にゴブリン人形を彫るのだ。
 ん、いや違う。ちょっとゴブリンにしては上背があるし、顔がまんまるだ。

「そういうニシカさんこそお上手じゃないですか。それは豚面の猿人間か何かですかね?」
「ち、ちげぇよ! これはお前ぇの顔に決まってるじゃないか!」
「ゴブリン人形作るのに、何で俺の人形つくってるんですか。しかもぜんぜん似てないし」

 ついそんな事を口にするとニシカさんが発狂した。
 講師の癖に、実はニシカさんあんまり上手くないんじゃないのか?

「えーっ。旦那さまはもう少し顔が細いですよ。ニシカさんは眼がひとつしかないので、もうひとつは節穴ですね?」
「そうですねぇ。シューターさんなら胸のところに傷がないといけませんね」
「うるせぇ、顔はまだ削り出している途中なんだよ! ここに傷か、わかったぜ」

 女性陣は俺をそっちのけで盛り上がり始めたので、ふうふうと木くずを吹き飛ばしながら集中する。
 俺はッヨイさま人形を彫り続けるのだった。
 むかし俺がフィギュアの造形師でもやっていたのなら、きっともっと忠実にッヨイさまの顔を再現できるのだろうが、ちょっと難しいな。
 うんでも、なかなか上出来じゃないか。
 眺めていると、何となくようじょっぽく見えてくるから不思議だ。

「おいシューター、お前の顔を参考にするからこっちに顔見せろよ」
「旦那さま笑顔ですよ。かっこいい顔を彫ってもらいましょう」
「あ、シューターさんはここにほくろがあるんです。ここですね」
「シューターさんはやっぱり服着てるとおかしいよ」

 だがちょっと待ってほしい。
 別に俺はロリコンじゃないからな。
 ようじょがかわいいのは、この世界の摂理なのである。

 奥さんたちの黄色い声に惑わされる事無く、俺は集中力を高めながらッヨイさま人形の顔を削り出しに取り掛かるのだった。

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