挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第8章 青少年期 特別生掌握編

85/286

第七十六話「絶壁の婚約者 前編」

 鬼ヶ島。
 北方大地の最東端のビヘイリル王国。
 そこより更に東。
 海を越えた先に、その島はある。

 鬼ヶ島。
 そう呼ばれる、小さな島だ。
 そこには、『鬼族』と呼ばれる特異な一族が暮らしている。

 赤黒い頭髪と額に角を持ち、『鬼神』と呼ばれる強力な武人を首領とする戦闘集団。
 それが『鬼族』だ。
 魔族の一種であるが、人魔大戦にもラプラス戦役にも参加しなかった。
 そのため、人々には魔族の一種とはみなされず、
 長耳族や炭鉱族と同じような種族という認識を持たれている。
 とはいえ、基本的に鬼ヶ島から出ないため、知名度は低い。
 鬼ヶ島の存在を知らない者の方が多いだろう。

 彼らは排他的な種族である。
 交友関係にある人族はビヘイリル王国のみである。
 彼らの領域内に入ったよそ者は、容赦なく攻撃を加えられ、撃滅される。

 だが、そんな種族も、自らの認めた客に対しては心を開く。
 現在も、一人の客人がいる。
 彼は海人族の船に乗って旅をしていたが、
 この島が近づいた時に興味本位で上陸。
 すったもんだの末に『鬼神』に認められ、客として扱われるようになった人物である。

 彼は居心地のいい鬼ヶ島に居着いた。
 気さくな態度で鬼神と話し、酒を酌み交わし、
 時には鬼族の若手に稽古を付ける。
 そんな生活を続けて、約二年。
 数千年の時を生きるその客人にとっては、刹那の如き時間であった。

 ある日、そんな客人の元に手紙が届いた。

 緊急依頼として依頼され、旅慣れたS級冒険者によって極めて迅速に届けられた手紙。
 内容は短く、簡潔であった。

『魔法三大国にて探し人発見せり。数ヶ月後、ラノア王国の魔法大学へと向かう』

 そんな手紙を見て、客人は立ち上がった。
 手紙の内容と、そして客人の顔を見て、鬼神が尋ねた。

「ゆくのか?」

 客人は大仰に頷いて、これに答えた。

「うむ。そろそろ行かねばなるまい」

 それを聞いた鬼族たちは口々に言った。
 寂しくなる。
 行かないでほしい。
 ここで暮らせばいいじゃないか。
 口々にそう言われ、客人は「うむ」と頷いた。

「そうしたいのは山々である。しかし、人族の寿命は短い、ゆるゆると過ごしていては、死んでしまうやもしれん。短い間であったが、楽しめた。また会おうではないか」

 ただ、鬼族のリーダーである『鬼神』は、引き止めなかった。
 ただ一言「達者でな」と、言ったのみである。
 鬼神の言葉、それが鬼族の決定である。
 名残惜しさを感じつつも、他の鬼たちは決定に従う。

 しかし、せめて。
 せめて、最後に宴を。
 そんな声により、鬼族の集落で、盛大な宴が開かれた。
 鬼族の腕自慢による相撲のような競技や、飲み比べなどの催し物が行われ、
 鬼神も、客人も大いに楽しんだ。

 そして、客人は気持ちよく送り出された。


 ある日突然にやってきて、二年近くも村に居候しつづけた、気さくな男。
 鬼神と戦い、敗北し、しかし翌日には蘇り、
 何度も何度も打ち倒されて蘇り、
 そしていつしか鬼族と仲良くなってしまった不死身の男。
 漆黒の肌を持ち、六本の腕を持つ偉丈夫。

「フハハハハ! 待っていろよ!」

 彼は西へと突き進む。

 ある国は、彼の唐突の襲来に驚き、上級魔術を浴びせかけ、
 ある国は、彼の突然の襲来に驚き、貢物を用意した。

 しかし、彼は全てを無視。
 突き進むように西へと向かう。
 森を抜け、山を越え、人族の情報伝達速度を凌駕しかねないスピードで。

 各国がそいつの目的を探ろうとする頃には、
 彼はその国を通り過ぎ、次の国へと到達していた。
 西へ、西へと。
 圧倒的なスピードで。

 そして、たどり着いた。

「ふむ、ここか」

 魔法大学へ。




--- ルーデウス視点 ---


 魔法大学に入学し、はや半年の月日が流れようとしている。

 季節は秋、豊穣の秋。
 この季節は、極めて短い。
 しかし、辛い冬を乗り越えるための重要な収穫期であり、
 珍しく街でお祭りなんかが行われる季節でもあり……。

 そして獣族にとって、特別な意味合いを持つ発情期となる。

 この時期になると獣族は男も女もそわそわとしだす。
 魔法大学には、それほど多くの獣族が在籍しているわけではない。
 10000人の生徒数から見ても、せいぜい5%。
 それでも500人である。
 魔法大学の広さを考えれば、それほど多くはない。
 ないのだが、この時期、その少ない種族が各所で決闘している姿が見受けられるようになる。

 決闘をしているのは男女だ。

 獣族はこの時期、好き同士の異性で決闘するのだ。
 決闘が終わった後、数ヶ月ほどイチャイチャして、後に結婚。
 決闘に勝ったほうが『家族』という群れのボスとなるのだとか。
 まあ、あくまで「昔から続く慣習」なだけだそうだが。

 リニアとプルセナは獣族にとって高嶺の花である。
 戦闘力はこの学校にいる獣族の中でもトップクラス。
 そしてドルディア族の姫君ともなれば、そりゃあモテた。
 人族の風習に習い、15歳になったら成人とみなし、数々の獣族が彼女らに決闘を申し込んだ。
 中には、わざわざ遠方から旅をしてきた者もいる。
 部外者が立ち入っているのだ。
 本来ならば学校側で止めるべき事案である。
 が、発情期とは、風習と生殖に関する極めてデリケートな問題だ。
 全て禁止にしてしまえば、獣族の生徒が暴動を起こす可能性もあった。
 ゆえに学校側は、きちんと許可を取れば「見学」という名目で、生徒でない獣族の敷地内への侵入を許可している。

 さて、リニアとプルセナ。
 二人に求婚し、決闘をして勝利するということは、
 すなわちドルディア族の族長の座を狙えるという事でもある。
 すぐに族長になれはしないが、次期族長を選ぶ時、候補者にあげられる事は間違いあるまい。

 もっとも、遠方まで勉強をしている身で、勝手に結婚相手を決めるわけにはいかない。
 15歳になった時、二人は全ての求婚を断った。

 しかし、そうした態度を公表したにもかかわらず、翌年も二人に求婚を申し込む獣族の戦士は減らなかった。
 モテモテだ。
 中には、無理矢理襲い掛かってくる者もいたという。
 既成事実さえ作ってしまえばこっちのもんだと言わんばかりに。

 そうした事もあり、二人はこの時期になると、寮に引きこもる事になった。
 断るのもめんどくさい。
 断っても『飢えた男』は襲い掛かってくる事もある。
 女子寮が安全とは言わないが、少なくとも内部に侵入されれば、女子全員で追い出す事もできる。
 ゆえに、二人はこの時期、部屋から出てこない。

 なので、ホームルームも休み。
 これがいわゆる生理休暇というものなのだろう。

 発情期ということは、二人はいま、そういう状態なわけで。
 二人が部屋でニャンニャンワンワンしているのかと思うと、俺も少々興奮するものがある。
 もっとも、頭が興奮するだけなのだが。

 俺の所には二人から「ボスには迷惑をかけるが、あとは頼む」という趣旨の手紙がきた。
 あとを頼むと言われても、俺は特に何もしていない。
 代返でもしておけという事なのだろうか。
 どの授業に出てるのかわからないので無理だが。


 なお、秋という季節に発情するのは獣族だけではない。
 そして、この時期、魔法大学ではレイプ紛いの事件が後を立たない。
 種族が入り交じったことによる弊害というべきだろうか。

 互いの寮への厳重な警備体勢も頷ける。

 発情期の種族同士なら、自然の摂理と流せる所だが、
 まったく関係ない一年生には何のことかわからずに襲われる子もいるそうだ。
 もちろん、レイプ行為に関しては学校の規則で禁止されている。
 そのため、この時期の学校内は守衛が見回っている。

 レイプはダメだが、決闘を通しての「合意」ならオッケー。
 決闘を断られた後に襲撃することは厳重に禁ずると。
 そんな感じであるらしい。

 ホームルームでも教師からも注意があった。
 この時期、迂闊に決闘行為を受けないようにと、
 戦闘力に自信の無い子は、常に数人で固まって移動するように、と。

 フィッツ先輩からも気をつけるようにと心配された。
 君は強いから、単なる武者修行とか言って戦いを挑んでくる女の子がいるかもしれないけど、それは嘘だから、一度断ったら、どんだけ挑発されても受けないように、背中に気をつけつつ足早に去る事、と。

 発情期系女子。
 昔の俺なら、片っ端から決闘をふっかけてハーレムを築いたかもしれない。
 だが、病に犯されたこの身では、そんなことをしてもただ辛いだけである。

 発情期。
 あっしには関わりのねぇこって。

 関わりあるのは、ほれ、そこの若人二人。
 晴れて恋人同士となった、長耳族と人族の少年でさぁ。
 万年発情期の長耳族が少年の膝の上に乗って、一緒に勉強してるんで。
 いやはや、朝から晩までお暑いこって。
 『はぁとまぁく』がこっちまで漂ってくらぁ。

 しかし、クリフはともかく、エリナリーゼの態度は他の男に対するものと同じに見えるな。
 それをクリフに知らせるのは少々不憫なので、口には出さないが……。
 はっきり言って、演技にしか見えない。
 大丈夫なんだろうか、あの二人。

「師匠、そろそろ新作の方に取り掛かられた方がよろしいのでは?」

 二人を見ていると、ザノバが話しかけてきた。
 彼は平常運転だ。
 発情期など知らぬ通じぬ、といった所か。

「新作ですか……」

 先日、リハビリがてら作成しはじめた『1/8エリス』だったが、
 作ってるとなぜか知らんが涙が出てきたので途中でやめた。
 それ以来、どうにも手が鈍い。
 スランプなんだろうか。

「そうですね、誰を作りましょうか……」
「いっそ、人から離れてみては」
「じゃあ、赤竜でも作ってみますか」
「おお、そういえば一匹仕留めたのでしたな」
「あれは大変でした、死ぬかと思いましたよ」
「ははは、ご謙遜を」
「……? ますた、なんの話?」

 ジュリが首をかしげていたので、俺が冒険者時代に赤竜を倒した事を聞かせてやった。
 すると、彼女は頬を紅潮させ、目を輝かせて聞いていた。
 やはり、この世界の子供はこういう話が好きらしい。
 彼女はあまり子供らしい扱いをされていないが、それでもまだ六歳だもんな。

「よし、じゃあジュリのために赤竜を作ってあげますか」
「む……し、師匠、余には? 余には何も作ってはくださらないのですか?」
「お前も弟子なら手伝いますの一言ぐらい言えんのか」
「……っ! ハッ、師匠、微力ながらお手伝い致します!」


 ちょっと調子が悪い面があるものの、俺も平常運転だ。

 神撃と結界の初級ももうすぐ授業過程が終わる。
 次はさて、どの授業をとってみようかと悩む日々だ。
 やはり解毒の中級か。
 しかし、今の所、解毒関連で悩んだ事はない。
 初級を覚えていれば大体なんとかなるので、中級以上は必要なのだろうか。
 あるいは、治癒の上級を取るべきか。
 これもまた中級で大体なんとかなっているので、必要なのだろうか。

 あるいは、召喚系という事で付与の授業を取ってみるか。
 付与は魔道具なんかの製造に関わってくる魔術だ。
 なぜ製造なのに召喚系に分類されているのかは分からないが……。
 新たな分野への挑戦という事で習ってみるのも悪くないかもしれない。

 いっそ、授業を取らずに図書館にいる時間を伸ばすのでもいい。
 転移事件の方はやや行き詰まりを覚えているが、
 他種族の言語を覚えてみるのも面白いかもしれない。

 授業を取らないなら、クリフに神撃を教えてもらうというのはどうだろうか。
 いや、彼は最近エリナリーゼにベッタリだからな。
 邪魔してると思われるのは嫌だし、しばらく放っておこう。

 あるいは、もっと別の、魔術ではない分野をみてみるか。
 馬術の授業なんて面白そうだし。

 なんて考える日々が続いている。

 平和な日々だ。


---


 と、思っていたのだが。

「はぐれ竜を単騎にて仕留めたA級冒険者『泥沼』のルーデウス殿とお見受けする!
 我と尋常なる婚儀の決闘を!」

 図書館に行く最中に決闘を申し込まれた。

 振り返って目に映ったのは、美少女だ。
 浅黒い肌、流れるような濃紺色の髪を首の後ろでまとめた少女。
 年の頃は17、8ぐらいか。
 キュっと結んだ口元、顔立ちは凛々しいの一言。
 あえていうなら、女武士といった感じだろうか。
 服装は群青色が目立つ。青が好きなのだろうか。
 胸はそこそこ。
 筋肉も結構ついてるな。
 腰には剣神流の剣士がよく使う、湾曲した太刀を帯いている。
 服装は制服ではなく、剣士風だった。

 そんな少女が俺の方を見ていた。
 正確にいうと、驚いた顔で、俺の前にいる人物を見ていた。

 俺に向かって決闘を申し込んだ、毛むくじゃらのむさい獣族を見ていた。

 そうだよ。
 言ったのはむさい男だよ。
 どう見ても魔術師には見えない、筋肉ムキムキの犬系の獣族。

 少女は多分、通りすがりだな。
 いきなりすぐ傍の大男がそんな事言ったから、びっくりしたんだと思う。
 なにせ、今はそういう季節だから。
 自分に言われたのかと思ったんだろう。

「えっと」

 まあ、少女は置いとこう。
 問題は、男だ。
 俺も男で、こいつも男。
 男から決闘を申し込まれた、って事だ。
 大問題だ。

「それはあれですか、この時期流行りの求婚の決闘って奴ですか?」
「左様!」

 アッー!

「すいません、その、僕、こう見えてもわりとノーマルなんで、ホモホモしいのはちょっと勘弁です。お断りさせていただきます」
「少し勘違いしているようだが」
「すいません、ピアノのお稽古があるので、あっしはこれにてドロンさせていただきやす……」

 一度断ったら、それ以上話を聞かず、その場を去る。
 フィッツ先輩に言われた通りに行動する。

「まてぇい!」

 と、思ったら、毛むくじゃらはダンと大きな音を立てて飛び上がった。
 そして、俺を飛び越え、目の前に降りてくる。
 まるで逆関節のような跳躍力だ。
 竜騎士になれる。

「貴様に拒否権はない!
 我が名はブルク・アドルディア!
 プルセナに求婚を挑み、アドルディアの長にならんとする者なり!」
「プルセナ先輩は今、寮の方で発情休暇中なので、そっちに言ってください」

 そう言うと、ブルク氏は首を振り、啖呵を切った。

「プルセナ様に文を出した所、貴様が群れのボスだと判明した!
 ギュエス殿より聞き及んだその武名!
 雨の森一帯を凍りつかせたその所業!
 赤竜を単騎にて仕留めたというその手腕!
 まさにこの学校の主にふさわしい実力、相手にとって不足なし!」

 単騎、単騎ってさっきからいってるけど、俺は徒歩だったからな。
 まあいいが。

「拒否するとどうなるんですか?」
「群れのボスたる貴様には決闘を受ける義務がある!」

 少し整理しよう。
 要するに。
 先日、決闘にてリニア・プルセナを仕留めた俺は、
 彼女らにボスと呼ばれるようになった。
 ボスの下にいるメスが欲しければ、ボスを倒すのがスジ。
 で、俺を倒せば、賞品としてプルセナが手に入る。

 決闘を受けるのは群れのボスの責務だそうだ。
 俺は望んで彼女らの群れのボスになったつもりはないんだが、
 そんな事は関係ないんだそうだ。
 アニマルルールだな。

 つまり、わざと負ければ、俺は群れのボスから解任され、
 プルセナは晴れてこいつの花嫁。
 今後、こいつみたいに決闘を挑んでくる奴もいなくなるわけだ。

「いざ尋常に……勝負!」

 俺の返事を待たず、ブルク氏は大きく遠吠えをし、踊りかかってきた。

 ………………。
 …………。
 ……。

 まあ、なんだ。
 口ほどにも無い奴だったよ。
 まっすぐ突っ込んできて、泥沼に足を取られて、岩砲弾で気絶した。
 3秒ってところか。

 なんとなく反射的に倒してしまったが、
 考えてみると、俺がわざと負ける必要なんかないのだ。
 プルセナも今の所、誰とも結婚するつもりはないみたいだし。
 要するに、手紙に書かれていた『迷惑を掛ける』ってのはそういう事なんだろう。

 丸投げされた事はちょいと気に食わないが、
 この程度の相手をあしらうぐらいならなんとかなるし、
 まぁいいだろう。


 なんて軽く考えていたら、
 図書館に行くまでに5回も襲撃された。
 この日を待っていた、と言わんばかりだ。
 リニアとプルセナ、モテモテである。
 あんなののどこがいいんだろうか。
 体か?
 いや、中には顔も見たことないやつが多いはずだ。

 てことは、地位か。
 最初の奴も族長になりたいって言ってたしな。
 そんなにリーダーになりたいか。
 どこの航空参謀だ。

 しかし、どうやら、決闘を仕掛ける順番が決まっているらしい。
 途中で俺に喧嘩を売ろうとした奴が、順番抜かしとかで怒られていた。
 それもこれも獣族のしきたりか。
 獣族はなんでもしきたりだな。
 まったく、この獣族め……。

 しかし不思議な事に、図書館の中までは踏み込んでこなかった。
 学校側から建物内では暴れるなと言われているのだろうか。
 それとも、獣族のしきたりだろうか。
 わからんが、とにかく、しばらく避難だ。


---


 夕方、フィッツ先輩が図書館に現れた。

「ルーデウス君、外が凄い事になってるけど、何をしたんだい?」

 やや咎めるような視線だ。

「何も、リニアとプルセナを嫁にするには、
 僕を倒せばいいらしいです」
「なにそれ……」

 フィッツ先輩の眉根が寄ったので、詳しく説明する。
 リニアとプルセナを倒した俺は、彼女らのボスと認識されているらしい事。
 ボスを倒せば娘が手に入るらしいということ。
 説明し終えると、フィッツ先輩はムッとした顔になっていた。

「そんなはずはないよ。
 君はドルディア族の族長じゃないんだ。
 一時的に彼女らに勝ちはしたけど、
 彼女らをどうこうする権利はないはずだよ」

 ふむ……やっぱそうか。
 そりゃそうだよな。
 それがまかり通るなら、俺はあの二人の体をもっと自由にしていいはず。

「とはいえ、どうやって諦めさせましょうか」
「え? うーん……発情期の獣族は言っても止まらないからなぁ……」

 フィッツ先輩は顎に手を当てて、うんうんと考える。

「本当なら、相手をする必要はないけど、彼らだって、決闘で負ければ諦めて帰るはずだよ」
「……それは結局、決闘を受けろって事ですか?」
「そうなるね」

 簡単に言ってくれた。
 何人いるのかは分からないが、外で30人ぐらい順番待ちしているらしい。
 ほとんどは族長にならんとするむさい男。
 そいつら全員を倒せとは……。

「僕はそういうバイオレンスな日常は望んでいません」
「それは知ってるよ。でも、どうにかしないとここから出られないよ。ずっと隠れてたら我慢できずに入ってくるかもしれないし、図書館で暴れられたら困るよ」
「そうですね」

 さて、困ったものだ。

「むさくるしい男だらけの決闘か……」

 誰得なんだ。

「えっと、男だらけってほどじゃないよ、一人だけ女の子もいたし」
「マジすか。可愛い子でした?」
「ルーデウス君……その子から決闘、受けるの?」
「いえ、まさか」

 咎めるような視線に、俺はなんとなく首を振った。
 しかし、顔ぐらいは知っておきたいものだ。
 どこで俺のことを知ったんだろうか。

「でも、気になるじゃないですか」

 好意を寄せられていると知れば、そりゃ俺だって気になるさ。
 もちろん、その後どうこうするかどうかは、病が治ってからの話だが。

「そう? 気になる? ふうん?」

 ……なぜだか知らんがフィッツ先輩の機嫌も悪い。
 軽々しく決闘は受けるなって言ってたからな。
 あ、そうか。
 きっと、ルークあたりがその昔やらかして、その始末に追われたりしたんだろう。
 だから、軽々しく考えている俺にイラついているんだ。

「しかし、こんな大事になってるのに、生徒会の方ではどうにかならないんですか?」
「発情期に関してはしょうがないよ。
 禁止したら、もっと酷いことになるもの」

 生徒会の方も、この時期は色々と忙しいらしい。
 暴走する生徒も多く、学校の敷地の外で暴れる奴もいる。
 決闘騒動に乗じて、誰かを闇討ちしたりだとかする奴もいる。

 生徒会に所属する生徒は、そういう輩から、戦闘力の低い生徒を守っているらしい。
 数人単位で学校内を見回り、不埒な事件が起こっていたらその場で止めるのだと。
 フィッツ先輩も、一応ここに顔は出したものの、すぐに見回りのローテーションに入るんだそうだ。

「生徒会がそういう事になってるなら、僕も助けてくださいよ」
「ルーデウス君は自分でなんとかしなよ、できるでしょ?」

 今日のフィッツ先輩の声音はいつになく冷たい。
 何か気に障ることを言っただろうか……。

 いや。
 もしかするといつぞやの試験の事を思い出したのかもしれない。
 俺が勝利した事を、フィッツ先輩は気にしないと言ってはくれた。
 だが、ここで俺がこそこそと逃げ回ったら。
 臆病者に負けたとして、フィッツ先輩の評判も落ちるだろう。

 フィッツ先輩には色々とお世話になっている。
 あまりやりたくはないが、ここはひとつ、頑張ってみるか。

「わかりました、フィッツ先輩の名誉のためにも、連中を皆殺しにしましょう」
「こ、殺しちゃだめだよ!」
「わかってますよ、冗談ですよ」

 決闘とはいえ、命までは取られない。
 そんな不文律もある。
 とはいえ、もしかすると強いのが混じっているかもしれない。
 油断はすまい。
 気を引き締めていこう。


---


 方針が決まった所で、外に出る。
 そこには、意外な光景が広がっていた。

「……なんだこりゃ」

 大勢の獣族の男が転がっていた。
 まさに死屍累々という表現がふさわしい光景である。
 全て、獣族の男だ。
 大きさは大小様々。
 耳の形も様々。
 獣族にも、色んな奴がいるもんだ。
 制服を来ている奴もいるが、着ていない奴も多い。
 あ、一人女の子がいた。
 さっきの剣士風の子だ。
 巻き込まれたのだろうか。
 それとも、俺にほの字?
 と、考える前に、一人の男の笑い声が響き渡った。

「フハハハハハ!!」

 そして、そんな死屍累々とした荒野の中。
 一人の男が立っていた。
 そいつは最後の一人を掴みあげ、高らかに笑い声をあげていた

「我輩に挑むとは!!
 身の程知らずであるが、魔法大学というのは気骨のある者が集っておるようだな!」

 唖然とする俺とフィッツ先輩。
 だって、外に出たらいきなりコレだぜ?
 死屍累々で、すごいのが立ってるんだぜ?

「……えっと」

 そいつは最後の一人を放り投げると、こちらを向いた。

「おお、順番待ちが嫌なら俺たちを倒せというのでそうしてみたら、
 本当にすぐに出てきたではないか!
 重畳重畳! 約束を守る者は好ましく感じるぞ!」

 一目で魔族とわかる黒曜石のような肌。六本の腕。
 一番上は腕組みされ、中段は俺たちを差し、下段は腰に当てられている。
 腰まで伸びる長髪は紫。

「我が名は魔王バーディガーディ!」

 魔王。
 魔王というとあれか、近所の村から若い娘をさらってきて性的な意味で食べてしまっても問題ないという。
 たまに差し向けられる勇者という名の刺客をなんとかすれば好き放題できるとかいう。
 いや、それはいい。
 問題はそう。
 なんで魔王がここにいるかだ。

「その予見眼! 貴様がルーデウス・グレイラットか!
 我がフィアンセ、魔界大帝キシリカより話は聞いておる!」

 奴は俺の前へとノシノシと歩いてきた。
 そして、一言。

「貴様に決闘を申し込む!」

 犬と猫(わかいむすめ)を生贄に捧げるから見逃してくれないかな……。
副題を

「ゴジラvsルーデウス」
「特攻魔王Bガーディ」
「ワンコに囲まれて困っちゃう!? 魔法大学のドキドキ発情期!」

にしよ(以下略)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ