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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第8章 青少年期 特別生掌握編

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第七十五話「天才少年の秘め事 後編」

 こんにちは、ルーデウスです。
 えー、はい、とゆーわけで、ですね。
 先日ね、クリフ君からのお便りでね。
 エリナリーゼさんに恋をしているので、紹介してほしい。
 というお言葉をいただきました。
 はい。

 確かにね。
 俺はエリナリーゼとは知り合いです。
 両親の元パーティメンバーという事ですね。はい。

 この世界の恋愛についてはよく知りませんが、
 クリフ君が恋をしているというのであれば。
 そして、その気持ちを打ち明けて協力してほしいというのであれば。
 俺も応援したいとは思います。

 思います。
 思いますが。

 さて、エリナリーゼという人物を思い出していただきたい。

 エリナリーゼ・ドラゴンロード。
 S級冒険者。前衛。戦士。
 魔法大学の一年生。
 年齢不詳。
 意外な事に授業に対しては勤勉で、成績は優秀らしい。
 最近は初級の水魔術を己の戦術に組み込もうとしているとか。
 長い付き合いのある冒険者からは、とにかく忌み嫌われているが、
 腕が立ち、面倒見もよく、そして床上手。

 そう、床上手。

 彼女はある呪いに身を侵されている。
 ゆえに、夜な夜な男の精をすすらなければならない。
 ゆえに、特定の男は作らず、一晩だけの関係を何度も繰り返している。
 子供を産んだこともあるという。
 子供がどこに行ったのかは、教えてくれなかった。
 もしかしてそこら辺に捨てたり、奴隷として売っぱらったりしてるんじゃねえだろうなと疑ったものだ。
 実際には、滅多に妊娠しないので、きちんと育てて自立させるらしいが。

 まあ、詳しい事はわからん。
 こんな人物を恋愛対象として紹介するのは、はたして良いことなのだろうか。

 クリフはエリナリーゼがそういう人物だとは知らない。
 彼のエリナリーゼの人物像を聞いて、俺は頭を抱えそうになったものだ。
 エリナリーゼは汚れを知らない純白の天使。
 そんな感じだ。

 もちろん、彼もエリナリーゼについて調べはしたそうだ。

『窓辺の君。
 彼女はとっても有名。
 名前はエリナリーゼ・ドラゴンロード。
 彼女にふさわしい、美しくも勇ましい名前だ。
 当然ながら勤勉で、成績もいいらしい。
 ちょっと前まで冒険者だったから、実戦における魔術の知識も持っている』

 とりあえず、この時点でのツッコミ所は窓辺の君だけだ。
 彼女にとって、窓辺ってのは尻を突き出す場所だろうしな。
 もっとも、クリフは窓辺の君は性行為なんてしないと思っている。

『しかし、他の男子生徒と見境無く性交するという、良からぬ噂がついていた。
 おそらく、彼女に嫉妬した誰かがそんな噂を流したんだろうな』

 と、一番重要な部分を、クリフは都合よく解釈したのだ。

 先日の喧嘩もそうだ。
 六人の生徒が、エリナリーゼについて噂しているのを聞いた。
 誰にでも股を開くビッチ扱いして、俺達も頼んでみようぜ、なんて言っていた。
 それを聞いて、クリフはムッとした。
 噂で人を貶めるんじゃない、と注意を促した。
 もちろん、相手は確かな真実を元に話しているだけだが。

 六人は上級生で、体格もよく、そして不良崩れだった。
 下級生であるクリフに上から目線で注意されて、ややイラつきながら言葉を返した。
「俺の後輩もこの間、三人一緒にお世話になった。
 現実の見えてないお前も筆おろししてもらえばいいんじゃねえか?」
 とか、ゲスい顔で言い放ったのだそうだ。

 クリフは激怒した。
 無謀にも体格のいい六人相手に、殴りかかった。
 魔術ではなく。拳で。

 クリフもそこそこ喧嘩はできるつもりだった。
 だが六対一という状況。
 体格の違い。
 魔術戦ならまだしも、相手が手の届く位置から始まった戦いでは、勝ち目もなかった。
 で、そこに俺が現れたと。


 情報収集・解析の大切さを認識できる素晴らしいお話だな。
 しかし、さて。
 どうしたものか。

 俺はクリフに対しては何の義理もない。
 エリナリーゼを紹介して、そのふざけた幻想を打ち砕かれたとしても、知ったこっちゃない。
 だが、だからといって。
 だからといってホイホイ紹介していいものだろうか。

 エリナリーゼからは感謝されるかもしれない。
 彼女は男を紹介すれば、大体喜ぶからな。
 特に最近の彼女は、童貞を狩る事が楽しくてしょうがないらしい。
 初々しくて申し訳なさそうにしていたり、初めてなのに強がる態度がいいんだと。
 最初はそんなだった子が、回数をこなす毎に段々と変化していくのがいいんだと。
 俺も生前は調教系のエロゲーは何本もやったことある。
 だからわからんでもない。

 クリフは見た感じ童貞だろうし、エリナリーゼは喜んで食べてしまうだろう。

 しかし、クリフはどうだろうか。
 彼はエリナリーゼという人物を勘違いしている。
 実際に会い、付き合ってみると、正体を目の当たりにするだろう。
 その時になって、怒るんじゃなかろうか。
 お前のせいで大変な目にあったんだ、と。
 俺に言わせれば自業自得なのだが、知ってて紹介した俺にも、確かに少々の責任が発生する気がする。

 かといって、紹介しなかったらどうなるだろうか。
 変な勘ぐりをされるのではないだろうか。
 実は俺もエリナリーゼを狙っているとか思われるのではなかろうか。
 俺も病が治れば、ああいう人と一晩のアバンチュールはしてみたいと思う。
 が、狙っているとか思われるのは心外だ。

 どうしたものか。


---


 というわけで。

「フィッツ先輩、一つ相談したい事があるんですけど、いいですか?」

 俺は放課後の図書館にて、フィッツ先輩にそう問いかけるのだ。

「なに?」
「ちょっとした恋愛相談なんですが」
「恋愛相談!?」

 フィッツ先輩が体ごとこちらを向いた。
 身を乗り出し気味で、口元が微妙な感じに歪んでいる。

「ル、ルーデウス君、好きな人がいるの!?」

 意外と食いつきがいい。
 目が輝いて……いるかどうかはサングラスのせいでわからんが。
 フィッツ先輩もお年ごろという事だろう。

「いえ、知り合いの話なのですが」
「知り合い……?」
「はい。知り合いです」
「う、うん。続けて」
「その知り合いは、ある人物に一目惚れをしたんです」
「一目惚れ……で、ボクに相談……も、もしかして、アリエル様? だ、だとしたら駄目だよ。応援したいのは山々だけどさ……」

 フィッツ先輩の言葉尻が段々と下がっていく。
 あの王女様に一目惚れするって奴は多いんだろう。
 護衛の立場としては、そんな悪い虫は全シャットアウトが当然だしな。

「いえ、違います。アリエル王女ではありません」
「そ、そっか、よかった」
「知り合いが一目惚れしたその人物。
 僕の知っている人なのですが、
 恋愛対象として紹介するには少々問題がありましてね。
 紹介していいものかどうか、迷っているんですよ」

 ふと見ると、フィッツ先輩が変な顔をしていた。
 口元に手を当てて、グラサンの奥から強い視線を送っていた。

「知り合いは、その女性の『問題』を知っているの?」
「いえ、知らないはずですよ」

 ……あれ?
 俺、いま女性って言ったっけか?
 いや、アリエル王女からの流れで女だと思い込んでるだけか。
 まあ、実際にエリナリーゼは女だから、問題ないんだが。
 それとも、俺の事だと思ってたんだろうか。

「重ねて言いますが、僕のことではないですよ? フィッツ先輩だから明かしますが、特別生のクリフ先輩の事です」
「あ、そうなんだ。ごめん、勘違いしてた」

 フィッツ先輩は耳の裏をポリポリ。
 俺の事だと思ってたんだろうか。
 まあ、知り合いが~、なんてのは自分の事を話す時の常套句だしな。

「こういう場合、どうするべきですかね」
「えっと、その『問題』を教えてあげるべき……じゃ、ないか、な? 教えられない理由があるんだったら、別だけど……」

 フィッツ先輩は少々自信なさげだ。
 そういえば、先輩も童貞だったか。
 恋愛経験はあまりないのかもしれない、

「教えるのは問題ありませんが、クリフ先輩は少々思い込みが激しい人物なので、教えても信じてもらえない可能性が高いんですよ。もしかすると、僕がその女性が好きだからそんな事を言うんだと勘違いされるかも」
「あ、かもしれないね」
「はい。ですので、僕の口からは言わない方がいいかな、と思いまして」

 うん。
 自分で言っていて少し整理ができてきた。
 クリフの信頼している、別の女性あたりからそれとなく情報を流すのがいいかもしれない。
 ……いや、もういっそ本人の口から喋らせるのがベストか。

「えっと、ルーデウス君は、その女性の事、好きじゃないの?」
「嫌いではありません。恋愛対象としては見れませんが」

 エリナリーゼはとってもお上手らしいので、一晩だけやらかしてみたいとは思うが。
 真面目に付き合うのはちょっと嫌だな。
 すぐ浮気とかされそうだし。

「そうなんだ……でも、ルーデウス君がそういう目で見れないだけで、クリフ君は別かもしれないよね」

 どうだろうな。
 けがれなき純白の天使に恋するやつが、エリナリーゼを別と見れるとは思えんが。
 誰だって

「うーむ」

 紹介すべきか、紹介しないべきか。
 迷う所だ。
 しばらくして。
 フィッツ先輩がぽつりと呟いた。

「えっと、ボクも好きな人がいるから、その人の気持ちはわかるんだ。普通なら恋愛対象に見られないような人らしいんだけど、それでもボクは好きなんだ」

 フィッツ先輩に好きな人?
 誰だろう。
 ……無難に考えるとアリエル王女かね。
 さっきも超反応だったし。
 確かに、アリエル王女は恋愛対象には見難いかもしれない。
 アスラ王国の王族だし、高嶺の花すぎる。
 いや、まぁそれはいい。

「見てるだけで告白できないって、辛い事だと思うんだ」

 フィッツ先輩の顔が赤い。
 耳まで真っ赤だ。

「だから、えっと、きちんと紹介して、告白するチャンスを与えて上げるのがいいんじゃないかな?」
「でも、後になって問題が起きるかもしれません」
「それは仕方ないよ。だって、紹介してもらったら、後の事は本人同士の問題でしょ?」

 おお、あるほど。
 紹介した後の事は本人同士の問題。
 確かにその通りだ。
 その事を、先に明示しておけば、なおいいだろう。

「わかりました、ではそういう方向で行ってみる事にします。
 フィッツ先輩、ありがとうございました」
「う、うん……お役に立てたなら、なにより、です……」

 フィッツ先輩はやや自信が無さそうだった。
 恐らく、恋愛経験のない自分が何を偉そうに、と考えているのだろう。
 しかし、経験がなくとも言っている事がもっともなら、何の問題もないのだ。

 ともあれ、方針は決まった。

 図書館から出るとき、フィッツ先輩が机に突っ伏していたのが気になったが。
 ……彼の年齢で、偉そうに上からアドバイスをするのは、少々恥ずかしい事なのだろう。
 俺はただ、感謝するだけなのにな。


---


 翌日、俺はクリフを呼び出した。
 やや期待した眼差しを向けるクリフ。

「紹介するのは構いませんが、一つ言っておく事があります」
「なんだ?」
「クリフ先輩。僕はエリナリーゼさんと以前パーティを組んでいた事もあり、
 彼女の事は他の人より多少は知っているつもりです」

 パーティを組んでいた、という部分で、クリフの眉がピクリと動いた。

「彼女の人となりについて、僕はあえて何もいいません。
 しかし、それは騙そうとしているわけではないんです。
 実際に会って、話して、そして自分の目で確かめてみて欲しいんです」
「どういう事だ?」
「ようするに、後になってから、
 話が違うだとか、なんで言わなかったんだとか、
 よくも騙してくれたなとか、
 そんな感じで突っかかられるのは嫌だという事です」

 一応の保身。
 そして、予防線。
 彼女に問題があると臭わせておく事も忘れずに。

「当たり前だ、僕は敬虔なるミリス教徒だ!
 仲人には相応の敬意を払う!」

 仲人?
 ミリス教徒にとっての仲人ってなんだ。
 教徒じゃないからわからん。
 おお、神よ、俺を導き給え。

「僕はミリス教徒ではないので、後になってから、あれが仲人のすることか、とか言わないでくださいよ?」
「言わないさ」
「どういう結果になっても、僕は関知しませんからね」

 クリフはもちろんだと頷いた。

「振られるのは覚悟の上だ!」

 振られるより、もっとおぞましい何かを体験する気がするが。


---


 エリナリーゼは無人の空き教室にいた。
 今日も窓枠に肘をついていたが、
 上半身が2つあるケンタウロスみたいな事にはなっていなかった。
 窓の外を見て、ボンヤリとしている。
 彼女の考えている事はわかる。
 はやく夜にならないか、夜になれば町の酒場があくのに、
 酒場が開けば、そこにはたっぷりと溜め込んだ男がいるのに。
 そんな感じのピンク色だろう。
 しかし、何もしらない目線で見れば、確かに天使のようかもしれない。

「あら、ルーデウス……珍しいですわね。あなたからこちらに来るなんて」

 エリナリーゼは俺に気付くと、特に笑うでもなく、意外そうに言った。
 確かに、この学校に入学してから、あまり彼女と会話をしていない。
 たまにエリナリーゼが昼食時に様子を見に来るぐらいだ。

「あら? そちらの方は?」

 俺の後ろから、クリフがぴょんと飛び出してくる。
 そして、胸に手をあてて、足を揃えて立つ。
 ミリシオン流の礼儀作法だろうか。

「エリナリーゼさん。こちらはクリフ・グリモル。特別生で、一つ上の先輩です」
「ご紹介にあずかりました、クリフです」

 クリフはそのまま頭を下げた。

「あらあら、これはどうもご丁寧に。エリナリーゼ・ドラゴンロードですわ。
 それで、クリフさんはこのわたくしに、一体どんな御用ですの?」
「なんでも、エリナリーゼさんを紹介してほしいらしいので、連れてきました」
「はい、エリナリーゼさんのお美しいお顔は、いつも拝見していました!
 ぜひとも個人的なお付合いをお願いしたいのです!」

 沈黙が流れた。
 エリナリーゼがぽかんとしている。
 彼女はしばらくして、やおら椅子から立ち上がると、俺の腕を掴んだ。

「ちょっと」

 そう言って、俺を教室の端へと連行する。
 そして、耳元に口を寄せる。

「なんですか?」
「いくら欲しいんですの?」

 言葉の意味がわからず、数秒逡巡。
 もしかして、いくら出せばこの男を自分のベッドに連れ込めるのかって話か?
 だとすりゃ最低だな。

「金はいりません」
「じゃあ、何? 何が目的ですの?」
「いや、なんか彼、エリナリーゼさんの事が好きなんだそうです」
「嘘おっしゃい……ルーデウス、あなた私の事わかってるでしょう?
 あんな騙しやすそうな子を連れてくるなんて……恥を知りなさい」

 恥を知れとか、一番恥知らずな人に言われた気がする。
 まあ、いいが。

「騙すもなにも、僕は紹介してくれと言われただけです」
「本当ですの?」
「裏はありません、なんだったらロキシー先生に誓ってもいいですよ」

 そう言うと、エリナリーゼは数秒考え、
 そして、眉をハの字に寄せた。

「ルーデウスの言葉が本当だとしても、本気の子はちょっと困りますわ」

 困るのか。
 意外だな。
 エリナリーゼなら、喜んで「実はそんな事もあろうかと、宿を取ってありますの」なんて言うかと思った。

「わたくしの呪いは存じておりますでしょう?
 一人とお付合いすることはできませんのよ」

 一人とは付き合えない。
 ゆえに決して本気にはならず、不特定多数と金か遊びの関係を続けている。
 そんな話は、俺もどこかで聞いたような気がする。
 まあ、一応彼女も考えているのか。
 となると、付き合うのは無理、か。

「じゃあ仕方ありません、綺麗に振っちゃってください」
「いいんですの? ルーデウスの顔にドロを塗るんじゃなくて?」
「問題ありません」

 もともと、大した名前じゃない。
 所詮は泥沼だし、もう名前を売る必要もないしな。

「でも、なるべく真実を話してあげてください。僕をダシに使ったりしないように」
「わかってますわよ」

 よし。

 話し合いは終わり、エリナリーゼはクリフと向かい合った。
 エリナリーゼの方が、背が高い。
 クリフが小さいのだ。
 見ればみるほど不釣り合いに見えてくる。
 しかし、背丈が不釣り合いだからって、思いの丈は関係ないはずだ。
 そう思うと、なんだかやるせないものがあるな。

「ルーデウス、人の恋路を覗き見るもんじゃありませんわよ」
「あ、そうですね。では、僕はこれで失礼します」

 エリナリーゼに言われ、俺は退室することとする。
 少々クリフが不憫だ。
 だが、これが一番いい結末だろう。
 呪いの影響もあるが、エリナリーゼは元々好色な女だ。
 対するクリフは真面目な優等生。
 水と油なのだ。

「ルーデウス……その、ありがとう!」

 クリフの最後の言葉。
 胸が痛かった。


---


 それから、約一週間が経過した。

 月に一度のホームルーム。
 そこには、公然といちゃつくカップルがいた。
 背の高い女の方が男の膝の上に乗り、イチャイチャとしていた。

「混合魔術は起きうる事象さえ暗記しておけば簡単さ。二つの魔術を使わなくても、自然の中のものを利用して再現できる」
「さすがはクリフ、物知りですわね!」
「大したことないさ」

 どっちも知っている人だった。
 クリフとエリナリーゼである。
 俺はゆっくりと近づき、目の前で首をかしげた。

「ん? ルーデウス! この間はありがとう!」

 クリフは立ち上がって礼を言おうとして、しかし膝の上に乗った女のせいで、その場で頭を下げるにとどまった。

「どういたしまして……エリナリーゼさん、どういうことですか?」

 膝の上のエリナリーゼは柔らかく微笑んだ。

「わたくしたち、付き合う事になりましたの」

 アイエエエ?
 ナンデ? ニンジャナンデ?
 話、違くない?

「えっと、話が違いませんか?」
「ルーデウス、あんな男らしいプロポーズをされては、さすがのわたくしでもキュンと来てしまいましたのよ」

 プロポーズ?
 いくらなんでも気が早すぎないか?

「やめろよ、恥ずかしいだろ」
「『呪いはこの僕が必ず治してみせる! だから結婚してくれ!』」
「お、おい!」
「そして宿でのクリフの初々しい……ああ! 思い出しただけでまたイキそうですわ」
「や、やめろったら。人前で」

 クリフの顔は真っ赤だった。
 やめろという割には、まんざらでもなさそうだ。
 とりあえず、卒業おめでとうございます。
 あまり悔しいと感じないのは、俺がすでに棄却済みだからだろうか。
 それとも、エリナリーゼの本性を知っているからだろうか。


 しかし、さて。
 呪いの事は話したらしい。
 エリナリーゼは不特定多数とヤることをやめるつもりはないだろうし。
 一人と付き合えない理由としても悪くないだろう。真実だし。
 でも、なんで?
 クリフはそれを聞いて、え?
 プロポーズ?

「わたくし、これからはクリフのためになるべく我慢する事にしましたのよ」
「べ、別にいいって言ってるだろ、呪いだからしょうがないし、こ、心だけ僕の方を向いててくれれば、それで……」
「クリフ……もちろんですわ、他の方は体だけ……でもあなたには身も心も捧げますの」

 うっとりするエリナリーゼの髪をクリフがそっと撫でる。
 自然と目線が絡み合う。
 膝の上に座っているため、顔も近い。

「エリナリーゼ……」
「クリフ……」

 そして接吻へ。

 その後、俺の存在など無いように、イチャつきはじめた。
 人前で堂々とイチャイチャ、イチャイチャ。
 それでいいのか、クリフ。
 本当にいいのか?
 その女は殊勝なこと言ってるけど、キープ君にされているようなもんだぞ?
 恋で盲目になってるんじゃないのか?

「……」

 そう言いかけて、ぐっと我慢する。
 紹介して、どんな結果になっても文句は言わない約束だ。
 俺の方から何かを言うのもおかしい気がする。

 教室の後ろの方を見る。
 三人は我関せずという感じだった。
 プルセナは干し肉をかじっているし、
 ザノバは先日市場で見つけてきた人形についてジュリに語っている。
 ジュリの眼は真剣で、近くのバカップルは眼中にない。

 リニアだけがふてくされていた。
 ケッて感じだ。

 ゆえに、俺はリニアの所に赴いた。

「ボス、あの女は何ニャんだ?
 皮肉を言ったら凄いキツイこと言い返されたニャ」
「僕もちょっと、よくわかりません」

 おかしい。
 そう考えつつ、話を整理する。

 先日別れた時は、スッパリ振るという話だったはずだ。
 そして、エリナリーゼもそういう方向で話を進めたはずだ。
 エリナリーゼの事だ、クリフが後腐れなく諦められるように、呪いの事やら何やらもきっちりと話して、噂の事も事実だと話したのだろう。

 しかし、プロポーズされたらしい。
 呪いを直すから結婚してくれ。
 そんな感じの事を言われ、陥落したらしい。
 クリフがどうしてそんな思考に至ったのか、まったくわからない。

 少し、考えてみよう。
 もし、俺がエリナリーゼの立場ならどうなるだろうか。
 病気は必ず直すから、自分と結婚してください。
 そんな事を真正面から言われたら……。

 落ちるだろうか。
 恋に。
 グラッとはくるかもしれない。

 自分でも気にしてる事、悩んでる事を、直せるかどうかわからないけど、懸命に努力してくれるというのだ。
 エリナリーゼがどれほど呪いの事で悩んでいたのかは知らない。
 いくら好きモノだからと言っても、まったく悩んでいなかったわけではないだろう。
 落ちる……か。

 いや、エリナリーゼの事ばかりを言うまい。
 クリフは頑張ったのだ。
 男気を見せて、エリナリーゼを骨抜きにしたのだ。

「ボス、良い事思いついたニャ」
「なんですか?」
「あちしらも付き合ってあいつらを見返すニャ」

 リニアがそんな提案をしてきた。
 どうせ、刹那的な提案だろう。
 しかし、ふと実験してみたくなった。

「リニア先輩。付き合うのは構いませんが、実は僕は不能なんです。付き合ったら直すために努力とか、してくれます?」
「えっ?」

 その言葉に、エリナリーゼ以外の全員が「えっ?」とつぶやいた。
 視線が集まる。
 何いってんだこいつ、という感じの空気。
 なんだ、俺がリニアと付き合うのがそんなにおかしいのか?

 と、リニアがおろおろしだした。

「ボボ、ボス、も、もしかして、この間(こにゃーいだ)の事、聞いてたのか?」
「この間のこと?」
「ボスは魅力的すぎるあちしらを監禁しても、もんだり脱がしたりはしたけど交尾はしなかったから不能野郎かもしれないって、お昼ごはんの時にプルセナと話していた時の事ニャ」

 何だとこのやろう、初耳だぞ。
 と、プルセナをみると、さっと目をそらされた。

「ち、違うの。誹謗中傷じゃないの。前に、私たちを触った時、臭いが薄かったから、もしかしたらそうなのかもって思ってただけなの……」

 プルセナの言葉に、俺を見る視線が、一斉に不憫そうなものに変わった。
 察した目線という奴だ。

 しかし、付き合う云々じゃなくて、不能の方か。
 隠していたとはいえ、そんなに不思議か?

「言いふらそうとかそういうつもりはなかったの。不能野郎なんて言葉を使ったのはリニアだけなの。あいつマジファックなの」
「プルセナだって、触られても襲われたりはしないから無害なの、とか言ってたニャ」
「褒め言葉なの」
「ニャ!?」

 漫才を始めた二人を尻目に、俺は席についた。

「まあ、いいんですがね。知られて困る事でもありませんし」
「そ、そうニャ、別にボスが不能だからって、あちしらは偏見の目で見たりはしないニャ」
「そうなの、不能なボスでも、普通なボスでも、ボスはボスなの」

 不能、不能って連呼するんじゃねえよ。
 地味に傷ついてきたぞ。
 やっぱ隠しておいた方がよかったか?

「師匠、気にする事はありません、我々は人形に生きましょう」

 ザノバはそう言って、ポンと肩を叩いてくれた。
 ジュリだけは首を傾げている。

「ますた、ふのうって何?」
「うむ、男の役割が果たせない……とでも言うべきか……。
 何にせよ、人形作りにはまるで関係のない事である」
「ふぅん」

 ザノバは慰めのつもりなのだろうか。
 言葉を選んでいる感じがひしひしと伝わってくる。

「ボス、エロいエロいと思ってたけど、
 治そうと必死だったんだニャ……涙ぐましいニャ……」
「できそうな事があったら協力するの。お肉くれたらだけど……」

 犬猫の取ってつけたような同情。
 あれだな。
 なんか違うな。
 こんな言葉では、俺はこいつらに恋に落ちたりはしないな。

「ルーデウス。一応、僕はミリス神官として信徒の懺悔を聞く訓練も受けた事があるんだ。そっち方面ではあまり才能は無いと言われたけど、一緒に考えてやることぐらいはできるからな。何かあったら相談に乗るぞ」

 クリフさんの言葉は真摯で、暖かかった。
 エリナリーゼの気持ちがちょっとわかった。
 いや、俺はホモじゃないから落ちたりはしないがな。


---


 こうして、クリフとエリナリーゼは付き合う事となった。
 正直、あのエリナリーゼが他の男を我慢し続けるなんて無理だと思う。
 クリフが他の男と寝るエリナリーゼに我慢しきれるとは到底思えない。
 今はいいが、そのうち破局してしまうのでは……。
 と思うが、俺からは何も言うまい。

 そして、俺の病は特別生に知れ渡ることとなった。
 少々のダメージはあったが、一応みんな何かあったら協力はしてくれるという。

 ここに来て、初めて一歩前進した……のだろうか?

 俺も早く病を治して、誰かとイチャイチャしたいものだ。
-補足-
クリフはエリナリーゼが呪いのせいで望まぬ性交を強いられており、健気にもそれを悟られないようにビッチを演じている悲劇のヒロインだと『思い込んで』います。
+注意+
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