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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第7章 青少年期 入学編

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第六十七話「入学初日・前編」

 ラノア魔法大学。
 広大な敷地を持ち、3つの国と魔術ギルドをスポンサーに付ける、世界最大級のマンモス校。
 現在の校長は、魔術ギルド幹部『風王級魔術師ゲオルグ』。
 生徒数は一万を超える。

 『魔法』大学と銘打っているが、教師の層は厚く、この世に存在するありとあらゆる事を学ぶことができる。
 あらゆる種族、人種、身分を問わず入学する事ができる。
 例えば、ミリス教団に忌避され、いまだ差別意識が強く残る魔族。
 例えば、やや排他的で、一般的には気難しいとされる獣族。
 例えば、権力争いで国外追放にされた人族の国の王族。
 例えば、生まれつき呪いを持っていて、手に負えないとされた貴族の子供。
 さすがに天族や海族は在籍していないが、
 魔力の高い者や、魔術に関わり深い者であるなら、多少問題のある者でも入学する事ができる。

 かつてはそれで問題も起こったそうだが、
 世界でも有数の力を持つ同盟と、魔術ギルド。
 この2つを併せ持つ国に対抗できるのはアスラ王国ぐらいしかない。
 そのアスラ王国も、魔術ギルドには少なからぬ出資をしており、
 関係を悪化させたく無いと考えている。

 ちなみにミリス神聖国のある一派……というか神殿騎士団はこの学校の在り方に真っ向から反対している。
 が、世界の逆側にある学校である。
 わざわざ戦争を起こしてまでどうこうという事はないらしい。

 学生の在籍期間は通常七年。
 最大で九年。
 魔術ギルド所属の研究者として、そのまま在籍し続ける事も可能だそうだ。

 五階建ての巨大な寮はあるものの、利用は自由。
 町中に家のある者はそこから登校することもある。
 だが、基本的には寮を使用するようだ。
 俺も寮に一室用意してもらうことにした。

 寮の部屋は簡素なものだった。
 場所は二階。
 六畳ぐらいの部屋に二段ベッドが一つ。
 椅子とテーブルが一つ。

 通常、二人で一つの部屋を使うが、特別生は一人だ。
 希望すれば二人部屋にしてもらえるらしい。
 が、やめておく。
 俺は友達を作りにきたわけじゃないしな。
 金を払えば貴族用の、セキュリティ性が高く、面積の広い部屋にも移動できるらしいが、
 まぁ、必要ないだろう。
 暗殺者に狙われるような生活はしてないしな。

 トイレは廊下だ。
 驚いた事に水洗式だった。
 もっとも、レバーひとつでジャーというわけではない。
 トイレの端に水瓶があるので、そこから水を汲んできて手動で流すのだ。
 すると、パイプを伝って汚物が下水道まで流れる、という仕組みらしい。
 もちろん、俺のような奴はバケツを使わず、水魔術で流すんだそうだ。
 ちなみに、水瓶に水を貯める当番は決まっているそうだ。
 俺は特別生なので免除だそうだが。

 制服も支給される。
 男の方は学生服に、女の方はブレザーに似ている。
 実直だが、結構可愛らしいデザインだ。
 なんでも、去年まで制服は統一されていなかったそうだが、今年から変わったらしい。

 なら体操服はブルマ、と思う所だが、残念ながらこっちはローブだ。
 支給も指定もされなかった。
 無い奴は買え、という事だろう。
 一応、金も無いやつには購買で売っている一番安いものが支給されるらしい。

「どう、似合います?」

 と、新しいおべべを着たエリナリーゼが俺の前でファッションショーをしている。
 髪型が豪奢な肩下縦ロールなので、ローブ姿の方はコスプレにしか見えなかった。
 制服の方はそこそこ似合っている。
 だが、俺はエリナリーゼの本性を知っているため、こちらもやはりコスプレに見えてしまう。

「スカートを短く改造すれば、男が釣りやすいかもしれませんよ。
 ギリギリでパンツが見えないぐらいの」

 とりあえずそうアドバイスしてみるとエリナリーゼは「天才か」という顔で俺を見てきた。

「でも、それだと寒いんじゃありませんの?」
「太ももまである靴下を履けばいいじゃないですか」
「なるほど、さすがルーデウス。天才ですわね」

 エリナリーゼは俺に言われるがまま、スカートを折って女子高生みたいな感じにしていた。
 それでくるりと回ると、彼女の飾り気のありすぎるパンツがチラチラと見える。
 うーん。
 やっぱり制服に煽情的なパンツは似合わんな。


---


 そして、入学式へと赴く。

 こんな学校でも、入学式というものは存在した。
 今年の新入生が寒い校庭に集められる。
 もちろん整列なんてしない。
 一人でつまらなさそうにしている少女もいれば、
 校長の話を熱心にきいている少年もいる。
 知り合い同士で適当に集まって雑談をしている者もいる。
 もしこれが日本の学校であったなら、生活指導の教師が怒鳴る所だろう。

 そんな雑多な人々を前に、レンガ作りの壇上で校長が演説をぶっている。

「諸君、魔術師というものが剣士に見下されて、もう長い年月が経過する。
 なるほど、かの剣神らが作り上げた剣術は至高であろう!
 だが! 魔術もまた至高であるのだ!
 剣術はしょせん人殺しの道具にしか過ぎない。
 だが魔術は違う、魔術には未来がある!
 失われた魔術体系を取り戻し、現在の詠唱術式と組み合わせ、
 新たな進化を遂げることが人々の――――」

 俺はエリナリーゼと共に、静かに立っていた。
 どこの世界でも、校長の話というのは長い。
 けれど、ここの校長の演説は聞いていて飽きない。
 魔術に対するやる気に満ちあふれているからだろうか。
 いや違う。
 カツラが飛びそうになっているのを必死に抑える姿が面白いからだ。

 エリナリーゼは周囲を見渡しつつ、男を吟味しているようだ。
 目移りしているように見える。

「以上だ。諸君らに、魔導の道があらんことを!」

 校長は、最後にどっかの自由と正義の守護者みたいな言葉で締めくくった。

 校歌斉唱などは無い。
 そもそも校歌は無い。
 国歌はあるのにな。歌えないけど。

「続いて、生徒会長より新入生への言葉」

 教頭の言葉で、壇上に三人の少年少女が登ってくる。
 先頭に立つのは綺麗な金髪を持つ少女。
 編みこみの入ったサラサラのロングヘア。
 服装は俺たちと同じ、新しい制服だが、
 歩き方からすでに気品がにじみあふれている。
 隣にいるなんちゃってお嬢様とは大違いだ。
 もっとも、エリナリーゼの立ち振舞は『隙が少ない』と言うのだが。

「あら、あれってこの間ルーデウスが泣かせた子じゃありませんの?」

 言われて見ると、背後を歩く二人の少年。
 その片方には、白髪にサングラスを付けた人物だ。
 フィッツである。
 彼は油断なく周囲を見渡しながら、壇上を上がってくる。

 もう片方は見知らぬ少年だ。
 俺より少し年上だろうか。
 軽薄そうな茶髪をオールバックにまとめ、腰に剣を差している。
 魔術師には見えない。
 あの身のこなしは剣士だろう、多分。
 そして何よりイケメンだ。
 俺の調べによると、中央大陸の国々では、俺が想像するイケメン顔より、ちょいと濃い目の顔の方が持てる。
 要するにパウロみたいな顔がモテる。
 ていうか、あいつ。パウロに似てるな……。

 ちなみに俺も結構悪くないらしいが、笑うと残念だとよく言われる。
 エリナリーゼにだけは、笑顔が男らしくてステキだと褒められたけどな。

 彼らが壇上に上がると、周囲の若い子たちがざわざわとし始める。

「あれ、アリエル様じゃないの……」
「あっちのは『無言のフィッツ』じゃないか」
「キャー、ルーク様よ!」

 彼らは何やら有名であるらしい。
 女子生徒が黄色い声を上げている。
 恐らく、あのパウロ似の男がルークなのだろう。
 女にキャーキャーと声援を送られ、手を振り返している。
 モテるのだ。
 チッ、マネキンのAV男優みたいな名前しやがって……。

「あら、いい男」

 エリナリーゼのお眼鏡にもかなったらしい。

「静まれ! アリエル様がお話になる!」

 ルーク(多分)の号令で、周辺のざわめきが一瞬で静まる。
 拡声器なんて使っていないのに、すげぇな。

 場が静まるのを見計らって、少女が前に出てくる。

「私はアリエル・アネモイ・アスラ。
 アスラ王国第二王女にして、魔法大学の生徒会を束ねる者です!」

 その声は、シンとした場に染み渡った。
 耳朶を撃つと、脳みそが震えた。
 カリスマ性とでも言うのだろうか。
 よく通る声、というだけではない。
 聞いていて心地いいのだ。

「あなた方は世界中から集まりました。
 中には私達の常識と大きな違いを持つ方もいるでしょう。
 ですが、ここは魔法大学、故郷とは違う秩序に守られた場所です」

 彼女の話す内容は、基本的に校則のことだ。
 自分の常識とは違う事があっても、決まりは守りましょうと、ただそれだけの事だ。
 しかしその言葉は、まるで心の奥底に沈み込むように定着した。
 そうだな、ルールは守らないとな。
 と、そう思えたのは、俺が元日本人だからというわけではないだろう。
 彼女の言葉だからこそ、従おうと思えたのだ。

「――――では、良き学生生活を」

 アリエルは最後にそう締めくくり、壇上を降りていく。
 その時、ふとフィッツの視線が俺を捉えた。
 サングラスでわからないはずなのに、なぜか目があったと確信が持てる。
 彼の視線は強かった。
 まずいな、はやく菓子折りを買いに行かなければ……。


---


 入学式が終わった後、エリナリーゼと別れて指定の教室へと向かう。
 月に一度のホームルームには参加しなければならない。

 聞いた話によると、現在の特別生は俺を含め6名しかいないそうだ。
 どれも曲者ぞろいで、くれぐれも喧嘩しないようにと頼まれた。

 言われなくても、俺は喧嘩などするつもりはない。
 何を言われてもへりくだって受け流してやるさ。

 そう思いつつ、3つ並ぶ校舎の端。
 三階の一番奥にある教室へと向かう。
 途中、地面に線が引いてあり、「ここより先、特別生の教室」と書かれている。
 まるで隔離されているようだ。
 特別生は校内を自由に出歩けるはずだが。
 逆か。
 プライドが高く問題を起こすから、一般生徒の方が近寄らないようにとの配慮か。
 特別なんて名前を付けられてしまえば、特別だと思い込んでしまうだろうし。

 などと考えていると、教室についた。
 扉の上のプレートには『特別生徒室』と書かれている。
 こういうかかれ方をすると、なんか嫌な気分だ。

 ドアを静かに開けて、そっと教室にはいる。

 教室はなんとなく見慣れた感じのするものだった。
 真新しい黒板に、教壇と教卓のようなもの。
 木製の机が教室中に並んでいる。
 窓は締め切られているが、なぜか教室内は明るかった。

 席に座るのは4名。
 最前列の席に座り、本を読みながら書き物……おそらく勉強をしている少年。
 ダークブラウンの髪で目元が隠れているのが印象的だ。
 彼はこちらをチラリと見ると、すぐに興味を失ったように視線を戻した。

 教室の奥、窓際一番奥の席に座るのは、二人の少女。
 どちらも獣族だ。
 片方は硬そうな骨付き肉をコリコリと食べつつ、胡乱げな目で俺を見ている。犬系。
 片方は机の上に足を載せ、両手を頭の後ろに組んでふんぞり返りつつ、こちらを睨んでいる。猫系。
 この二人を見ていると、ドルディア族の村で出会った二人の幼女を思い出す。
 名前はなんだったかな。
 二人ともいい子だった。
 それに較べてこいつらは少々行儀が悪いな。
 まるでコギャルだ。

 そして最後の一人。
 どこかで見た事のあるような男だった。
 面長で、丸い眼鏡をつけていて。
 学生時代に「スポック」というアダ名がついていたような男。

 彼は俺をしばらくポカンと見ていた。
 表情は変わらず、ポカンとした顔のまま、ガタンと立ち上がった。

 俺は予見眼を開眼した。

「し……師匠ォォォ!」

 奴は邪魔だと言わんばかりに机をふっ飛ばした。
 ラッセル車のように机をふっ飛ばしつつ突っ込んでくる。
 並んだ机を次々とふっ飛ばしつつ突っ込んでくる。
 そう、突っ込んでくる!

「岩砲弾!」

 そこをガツンだ。

「師匠ォォォ!」

 俺の岩砲弾を顔面にくらい、パガンとでかい音を立てつつも、よろめきもしなかった。
 成人男性が正気に戻るには十分な威力だが、まったく効力が無いのか。
 バカな。これが神子のパワーか!?
 奴は俺の腰のあたりを掴み、グンとそのまま上へと持ち上げようとする。

「どうどう、抑えて、抑えて、肩の力を抜け、リラァックスしろ、落ち着け、やめろ!」

 天井にたたきつけられる衝撃に備えた。
 が、持ち上げられただけですんだ。

「師匠! 余のことをお忘れですか! ザノバでございます!」

 ザノバはニコニコと笑いながら、丁寧な動作で俺に抱擁した。
 どこの磯な一家の若奥様だって?

「ああ、覚えていますよ。我が弟子よ、怖いから離してください」

 シーローンの第三王子ザノバが、そこにいた。


---


 ザノバは留学という名目で、ここラノア魔法大学に送り込まれたらしい。

 本来なら、力を制御できない神子など呪子同然。
 騒乱の種にしかならないと受け入れを拒否される所だ。
 だが、魔術ギルドには、呪いや祝福を研究する機関がある。
 神子となれば貴重な存在であり、サンプルとしては上々。
 というわけで、ザノバは特別生として魔法大学に迎え入れられたらしい。
 サンプルにする代わりに、授業を受ける権利をやろう、って感じか。
 ザノバとしても、魔術に興味をもった所だったらしいので、渡りに船だったのだとか。

「余も師匠を目指し、日々を土魔術の訓練に費やしております!」

 と、ザノバ。
 健気な弟子である。

「そうですか。殿下も元気そうで何よりです。
 落ち着いたら、一緒に人形を作りましょう」
「はいっ!」

 ザノバがニコやかな顔で頷いた。
 いいな。
 中学時代の後輩を思い出す。
 パソコンを自作できると自慢したら、こんな感じになついてくれたっけか。

「あっと、この学校だと殿下が先輩になるんですね。いま何年生でしたっけ?」
「2年です。しかし、ハハ、殿下や先輩などとは呼ばないでください。どうかザノバと呼び捨てに。師匠は余の師匠ですゆえ」
「ザノバ」
「はい、師匠」

 ザノバとそんな感じで談笑していると。

 ダンと、何かがたたきつけられるような音がした。
 思わずそちらに顔を向ける。
 獣族の少女が、机に載せていた足を片方だけ下ろした所だった。
 片足は机の上に乗ったまま。
 スカートでやっているので、例の部分が見えそうだ。

「気に食わないニャ」

 ニャ!
 ニャ……。
 ニャと言えばドルディア族。
 そしてエリスの……いや、思い出すまい。
 エリスの事を思い出すと挫折状態になりそうだ。

「おいザノバ、オマエ、何そんニャ新入生とくちゃくちゃくっちゃべってんだ?」
「リニア殿、この御方は以前話していた余の師匠で……」
「んニャ事聞いてんじゃネェよ」

 猫耳少女は、苛立つように、テーブル上のカカトをガンと叩きつける。

「ザノバよ、おいコラ、おまえ、おい。
 わかってんのかニャ?
 あちしの言ってることわかるか? あ?」

 ザノバの顔が硬くなる。
 なんだ、もしかしてこいつ、イジメられてるのか?
 ザノバってかなり強かったはずだよな……。
 いや、単なる体育会系な上下関係の場合もある。

「わかったらそいつ連れてこい」

 くいくいと手を動かし、俺を呼びつける。

「すいません師匠……」
「いえ、問題ありません」

 俺は言われるがまま、猫耳少女に近づく。
 猫耳と犬耳。
 二人はギロリという感じで俺を睨んでくる。
 かつての俺なら、足を震わせてしまったであろう眼光だ。
 しかし、あまり怖くはない。

 なんというか、もうちょっとこう。
 ただ睨むだけじゃなくて、
 殺気を込めたほうがいいんじゃなかろうか。
 本物(ルイジェルド)はそうしていた。

「どうも、はじめまして、ルーデウス・グレイラットです。
 本日からお世話になります、でしゃばらないように気をつけます。
 よろしくおねがいします」

 俺は腰を深く曲げ、日本式のお辞儀をした。
 何にせよ、こういう相手は下手に出るに限る。
 そして、極力関わらないようにするのだ。

 すると、リニアはむふぅと笑った。

「おう、素直な奴は嫌いじゃニャい。
 あちしはリニア・デドルディア。5年生だニャ。
 こう見えても大森林ドルディアの里の戦士長ギュエスの娘だニャ。
 そのうち族長にニャる。だから今から傅いておくんだニャ」

 やっぱりドルディア族だったらしい。
 しかも、ギュエスの娘。
 そういえば、長女の方は別の国に勉強に行ってるって話だったっけか。
 ここだったのか。
 懐かしいなぁ。

「ああ、そうなんですか!
 前にドルディアの里に行った時にギュエスさんにはお世話になりました!
 いや、感激だな! こんな所で恩人の娘さんに会えるなんて!
 あ、てことはギュスターヴさんのお孫さんって事ですよね?
 ギュスターヴさんにもかなりお世話になったんですよ。
 雨季の間に家を貸してもらったりして!」
「お、おう、そうか、じ、爺ちゃんの知り合いだったのか……」

 マシンガンのように喋ると、リニアはあっけに取られた顔で俺を見ていた。
 どうでもいいが、さっき机をけった衝撃で、例の部分が見えている。
 水色か。

 隣で肉を食っていた子が、すんと鼻をひくつかせ、顔をしかめた。

「臭い……」

 いきなり失礼だ。
 俺が臭いとでも言うのだろうか。
 しかし、それは顔に出さず。
 俺は優雅に犬っ子にむかって礼をした。

「失礼。先輩のお名前を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「…………プルセナなの。リニアと大体同じなの」
「プルセナさん、いい名前ですね! よろしくお願いします!」

 彼女は鼻を抑え、ぷいと顔を背けた。

「……ファックなの」

 最後の一言は、悪口だろうか。
 彼女のような少女がいうと、おじさんはむしろ興奮してしまう。

 ともあれ、先制攻撃は成功だろう。
 今後、理不尽なことで絡まれることはない、と思いたい。


---


 二人との接触を、ザノバは難しい顔をして聞いていた。
 そして離れた後に小声で、

「師匠、なぜあんなにペコペコしているのですか?」

 などと聞いてきた。

「……我が弟子よ、余計な喧嘩を回避することも重要な事です」
「そう、ですが……師匠がそうおっしゃるのであれば、余が言うことはありませんが」

 ザノバは悔しそうに頷いた。
 以前に何をされたのかしらんが、もし今度こいつがイジメられそうになってたら、
 きちんと盾になってやろう。
 イジメはダメだ。絶対にな。

「おい」

 などと考えていると、後ろから声を掛けられる。

「はい、なんでしょうか」

 と、振り返ると、最前列にいた少年が立っていた。

「お前、さっきルーデウスって言ったか?」
「はい、ルーデウス・グレイラットと申します。以後お見知りおきを、先輩」

 ぺこりと頭を下げると、少年は面食らっていた。

「クリフ・グリモル。天才魔術師だ」

 天才魔術師なのか。
 すごいな。
 自分で天才って言っちゃうのか。
 恥ずかしくないのだろうか。

「二年だが、すでに攻撃魔術は全属性上級まで習得した。
 治癒も解毒も神撃も上級だ。結界は初級だが、すぐ中級になる。ロクな教師がいないんだ」
「そりゃ凄い」

 俺は素直に称賛した。
 天才と自称するのもうなずける。
 二年でそれだけ七種類も上級を習得するなんて、一体どれだけ努力すれば出来るんだろうか。
 俺なんて治癒魔術が中級で、解毒なんて初級だ。

 上には上がいるとは思っていたが、
 やっぱ凄いやつがいるな。
 これが特別教室か。
 俺の自尊心が傷つかなかったのは、水魔術を聖級まで取得しているからだろうか。

「僕は攻撃魔術四種の上級を取得するのに2年掛かりました。
 先輩は凄いですね」
「…………チッ、調子に乗るなよ」

 素直に褒めたつもりだったが、クリフは舌打ちし、不機嫌になった。
 俺の胸ぐらをつかまんばかり勢いで、睨んでくる。
 俺の方が背が高いので、やや上目遣いだ。

「お前は魔術だけじゃなく、剣術も使うんだろ?」
「ええ、まあ、嗜む程度ですがね……」

 一応、俺は剣神流中級の腕前だ。
 水神流に至ってはすでにほとんど覚えていない。
 筋力トレーニングの一環として木刀は振っているが、
 実戦で剣術を用いた事はない。
 嗜む程度だ。
 はっきり言って、エリスやルイジェルド、他の剣士たちが呼吸するように使っている身体強化がいつまで経ってもできないので、剣の道は半ばあきらめかけている。

 それにしても……。

「誰から聞いたんですか? 僕が剣術を使えるって」
「…………エリスさんだ」

 ドキリとした。
 彼はこの二年の間で、エリスと会ったのだろうか。
 魔法大学にはいないだろうと思っていたが……。

「彼女もこの学校に?」
「は? いるわけないだろ?」

 すげなく言い返された。
 そりゃそうか。
 あのエリスが今更学校なんて行くはずないもんな。

「えぇと……彼女と、どこで会ったんですか?」
「……」

 答えてくれない。
 睨まれる。
 何か変なことを聞いただろうか……。
 ハッ、もしかしてこの子、昔エリスに殴られたとかだろうか。
 すいませんすいません、うちのエリスが本当にすいません。

「えっっと……僕に関して他になんか言ってました?」

 クリフはギロリと擬音の出る目つきで俺を睨みつけ。
 ジロジロと上から下まで見た後、

「ふん、(背が)小さいって言ってたけどな」
「…………そ、そうですか(アレが)小さいって言ってましたか」

 泣きそうだった。
 やはりあの一件で彼女は俺の前からいなくなったのか。
 もっとビッグなら……。

「ま、まあ、彼女と別れてから2年、それなりに成長しましたので」
「え? エリスさんと別れたのか?」
「ん?」

 何か話が微妙に噛み合っていない感覚。
 違和感。
 その違和感を確かめる前に、

「ふん、まあいい。どのみち、お前なんかじゃエリスさんとは釣り合わないからな!」

 そんな言葉に心を抉られた。

 クリフは鼻息を一つ、自分の席へと戻っていった。
 奴は要注意だ。


---


 その後、教師がきて、俺の紹介と、簡単な連絡だけをして、ホームルームは終わった。
 一人足りない。

「あれ? 特別生はもう一人いると聞きましたが?」

 ザノバに聞いてみると、彼は首を振った。

「サイレント殿は月一の朝礼も免除されております」
「理由は?」
「さて、余にはわかりかねます」

 最後の一人はサイレントと言うらしい。
 やっぱり陰術が使えなかったりするんだろうか。

「やっぱり凄い人なんでしょうかね」
「顔が広く、事あるごとにあれこれと学園に口出しをしているらしいです。学食のメニューを増やしたり、魔道具を作ったり……この制服もサイレント殿の発案だとか。噂によると、七大列強の一人に推薦を受けたがゆえ、特別扱いされているということです」

 俺の脳裏に浮かんだのは、マッドなサイエンティストな感じの男だった。
 白衣を着て瓶底メガネを掛けていて、緑色の液体の入ったフラスコを持っている。
 頭はよくて成果も出すが、人としてはダメな感じ。

「普段は自分の研究室に篭っているようですが、
 用事があれば出てくるので、いずれ師匠も顔を見るときが来るでしょう」

 ザノバはそんな事を言っていた。
 ちなみにサイレントは3年生だそうだ。
 先輩だ。
 見かけたらへりくだっておこう。


---


 こうして、俺は特別生の中に溶け込む事に成功したのだった。
 一気にキャラが増えたので整理

1年:ルーデウス(変態魔術師)、エリナリーゼ(ビッチエルフ)
2年:ザノバ(怪力フィギュアオタク)、クリフ(天才魔術師)
3年:サイレント(謎の人)
4年:アリエル(アスラ第二王女)、フィッツ(白髪グラサンフィ)、ルーク(イケメン)
5年:リニア(猫)、プルセナ(犬)
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