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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第4章 少年期 渡航編

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第三十八話「倉庫の中の悪魔」

 港町ザントポート。
 そこはウェンポートとよくにた町並みをしている。
 坂の多い町並みで、街中よりも港の方に活気がある。
 冒険者ギルドが町の中心よりも港よりの場所にあるのもそっくりだ。

 だが、いくつか違う点もある。
 まずウェンポートよりも木造建築の数が多い。
 それらは潮風対策なのか、カラフルな塗料が塗られている。
 町には街路樹も立ち並んでおり、町の外には遠くを見ればうっそうとした森が見える。
 緑が多いのだ。
 白、灰色、茶色ばかりだった魔大陸から見ると、目がチカチカしそうなほどに。
 海を一つ隔てるだけで、まるで別世界のようだった。

 それにしても、さすがミリス大陸というべきか。
 道行く人々の姿も、荒唐無稽で雑多な印象を受ける魔族では無く、
 獣族と人族、長耳族や炭鉱族、小人族といった、
 人に近しい見た目をした種族ばかりだ。


 さて、宿を探すに関して、まずは現在の所持金を確認。

 魔大陸での通貨では、
 緑鉱銭2枚 鉄銭18枚 屑鉄銭5枚、石銭3枚。
 これだけ持っていた。

 これを両替すると、
 ミリス銀貨3枚、ミリス大銅貨7枚、ミリス銅貨2枚。
 となった。

 予想していたよりちょっと少ないが、手数料として取られたらしい。
 ギルドに加入していないモグリの両替商に厄介になると、もっと取られるのだろう。
 なら、これぐらいは許容範囲だ。

「宿は冒険者ギルドに近いところがいいですね」
「そうね、依頼も請けないといけないもんね」

 明日からは、また一週間ほど滞在して、依頼と一緒にデッドエンドの名前売りだ。
 話によると、ミリス大陸では『デッドエンド』という存在はあまり知られていないらしい。
 ネームバリューが使えなくなる日が近いかもしれない。

 そう思いつつ、ギルド近辺の宿を探す。
 しかし不思議なことに、手頃な値段の宿は満室ばかりだった。

 こんなことは初めてだ。
 満室は何度かあったが、まさかほとんどの宿が満室だとは。
 まさか祭りか何かでもあるのだろうか。

 そう思って宿屋の主人に聞いてみる。

「もうすぐ雨季がくるからな。めぼしい宿はどこも満員だろうよ」

 とのこと。

 雨季というのはミリス大陸『大森林』特有の天候で、
 三ヶ月ほど大雨が降り続く。
 大森林は大洪水で、街道ももちろん通れない。
 なので、この時期は長期で宿を取るお客さんが多いのだとか。

 普通なら、雨季にこんな場所に足止めされるのは避けるはず。
 と、思うところだが、
 なんでも、雨季にしか出没しない魔物が町の方まで流れてくるらしい。
 そして、そいつの素材は高く売れる。
 なので、この時期に町に滞在する冒険者は多いらしい。

 俺たちにも恩恵のある話だ。
 ここで三ヶ月みっちりと金稼ぎに勤しみ、
 これからの旅費を稼ぎまくるのだ。
 ついでにルイジェルドの名前も売る。
 そうしてスタートダッシュを決めれば、ミリス大陸での旅も楽になるだろう。

 と、それも獲らぬ狸のなんとやら。
 現在は金もそれほど余裕は無く、宿も見つからない。

 空き部屋がありそうなのは、
 普段より高い宿か、あるいはずっとランクの低い宿。
 無い袖は触れないので、前者はダメ。

 結果として、あまりよろしくない連中の住む場所。
 ありていに言えば、スラム近辺の宿を取ることになった。

 一泊、大銅貨3枚。
 食事他、各種サービスは無し。
 安いが、寝るだけの場所としては悪くない。
 魔大陸では、これよりもっと酷い宿に何度も泊まった。

 とはいえ、これから三ヶ月も生活すると考えるなら、
 金がたまり次第、どこかに移ったほうがいいだろう。

「ふうん、まあまあの宿ね!」

 エリスは一応貴族の令嬢のはずだが、建物の古さやサービスの悪さは気にしない。
 むしろ、俺が文句を言うぐらいだ。

「僕としては、もうちょっと良い所に泊まりたいです」
「ルーデウスはワガママね」

 エリスに言われたくないよ。
 と、言い返せない。
 よくよく考えてみれば、このお嬢様はその昔、
 羽虫だらけ、かつ馬糞臭い馬小屋の藁の上で熟睡していた。
 胸を揉まれてもなお、熟睡していた。
 転生してもなお温かいベッドでぬくぬくしていた俺とは違う。

 なので、俺も我侭は言うまい。
 俺にできるのは、ベッドに魔術で熱風を送り込んでダニを死滅させることぐらいだ。
 その後、部屋の掃除もササッと済ませておく。

 俺も綺麗好きというわけではない。
 正直、散らかっている方が好きだ。
 けれども、こういう宿には、たまに前に泊まった人の忘れ物がある。
 ベッドの隙間にお金が一枚落ちていたり。
 小さな指輪が落ちていたり。
 金はそのまま拾得してしまえば問題ないが、
 指輪などはたまに冒険者ギルドに依頼として出されているときがある。
 もし見つけたら金を払う、というその依頼はランクに関係なく完了できる。
 基本的にははした金だが、たまに大金をもらえるらしい。
 なので、俺はきっちり掃除をする。
 忘れ物はどこですかー。見つけにくいものですかー。
 なんちゃって。

 その間、エリスは桶を借りてきて簡単な洗濯。
 さらに装備の手入れをサッと済ませる。
 全てが終わる頃には、日が落ち始めていた。

「エリス、そろそろルイジェルドを迎えに……」

 いきましょうか。
 と言いかけて、ふと、この宿の場所を思い出した。
 スラムが近い。
 治安が悪い。

 魔大陸でもスラム付近の宿には泊まったことがある。
 依頼で外に出ている間に、あっさりと泥棒に入られた。

 その時はルイジェルドが痕跡を発見、
 追跡してきついお仕置きをしてやったが、
 盗まれた物はすでに他の人物の手に渡っており、戻ってこなかった。

 その時盗まれたのは大したものではない。
 また、今回も貴重品をおいて出るつもりはない。
 だが、防犯対策はきっちりしておくべきだろう。

「行ってきますので、留守番をお願いします」
「留守番? 私は行っちゃだめなの?」
「そういうわけではありませんが、ここらへんは治安が悪そうなんで」
「別にいいじゃない、たいしたものは無いんだから」

 なんてことだ。
 エリスの防犯意識が低すぎる。
 日用雑貨でも盗まれると困るのだ。
 あんまりお金に余裕がないから。

 ここはきっちりと、防犯に対しての意識をすり込んでおかなければ。

「いいんですか? 洗濯したてのパンツが盗まれるかもしれませんよ?」
「そんなの盗むのはルーデウスぐらいよ!」

 ぐうの音も出なかった。
 ……だがなエリス。
 俺は洗濯後のパンツを盗もうとした事は一度もないんだぜ?


---


 俺は一人、夜の町を歩いていた。
 エリスを説き伏せるのに時間が掛かってしまった。
 防犯は本当に大事なんだがね。

 さて、受け渡し時間は夜という事だが、正確な時間は指定されていない。
 日没後ならいつでもいいし、数日ぐらいなら預かってもらえるらしい。
 もっとも、現在のルイジェルドは奴隷扱いである。
 最低限、維持するだけの事はしてくれるだろうが、
 この一週間、ルイジェルドもひどい扱いを受けたかもしれない。

 ロクな飯だって出なかっただろう。
 ということは、お腹もすいているだろう。
 人はお腹が空くと怒りっぽくなるからな。
 はやく迎えにいってやらないと。


 俺はルイジェルドの槍を片手に、波止場へと移動した。
 密輸品の受取り場所、保管場所は巧妙に隠されているらしい。

 波止場の端。
 木造の大きな倉庫が4つ並んでいる。
 『第三倉庫』と書かれたところへと、俺は入り込む。
 中では、一人の男が黙々と倉庫内を掃除していた。
 世紀末で最も一般的な髪型(モヒカン)だ。
 彼に、「よう、スティーブ。渚のジェーンは元気かい?」と尋ねる。
 そう言えと仲介人に言われたからだ。

 モヒカンは俺を見て訝しげな顔をした。

「なんだ坊主、なにか用か?」

 はて、合言葉を間違えただろうか。
 違うな、俺が子供だから、信じていないのだ。

「主人の使いで、積荷を受け取りにきました」

 そういうと、モヒカンは合点がいったらしい。
 静かに頷くと、「ついてこい」と、倉庫の奥に足を向けた。
 俺は無言でそれに付き従い、倉庫の奥へ。
 倉庫の奥には、人が五人ぐらい入りそうな大きな木箱。
 モヒカンはその中から松明を一本取り出し、箱を動かす。
 箱の下から階段が現れた。

 階段を降りると、じめじめした洞窟だった。
 モヒカンは松明に火をともし、先へと進む。
 俺は滑る足元に気をつけつつ、彼に続く。
 一時間ほど洞窟が続く。

 洞窟を抜けると、森の中に出た。
 どうやら町の外であるらしい。
 そこからまたしばらく歩くと、木々に隠れるように、一軒の大きな建物があった。

 倉庫らしくない見た目で、金持ちの別荘という感じだ。
 あれが保管場所か。
 こんな森の中に家なんか建てて、魔物に襲われたりはしないのだろうか。

「わかっていると思うが、ここの事は他言するな。
 他言すれば……」
「わかっていますよ」

 俺はこくりと頷いた。
 この場所を誰かに口外すれば、必ずや探しだして殺す。
 そういう説明は、魔大陸(むこう)の仲介人から受けている。

 そんな事をわざわざ口約束で守らせるぐらいなら、血判状か何かでも書かせた方がいいと思う。
 どうしてやらないのだろうか。
 ……指紋の無い種族がいるからか。
 ま、お互い文章として残しておきたくないだろうしな。
 証拠は作らないに限る。

 モヒカンが入り口をノック。
 トントントトン、トントトン。
 このノックの仕方にもルールがあるのだろう。

 しばらくして、中から執事服を着た白髪の男が顔を出した。
 男はモヒカンと俺の顔を確認すると、「はいれ」と短く言った。
 中に入る。
 真正面に二階への階段。その脇に二つの廊下。左右にも扉がある。
 ありていに言えば、屋敷のロビーのような場所だ。

 ロビーの端には丸テーブルがあり、
 あまりガラのよくなさそうな男たちが、テーブルに肘をついていた。
 なんだかピリピリしている。

 と、白髪の執事が、俺を見下ろし、いぶかしげな視線を送ってくる。

「誰の紹介だ?」
「ディッツです」

 ディッツとは仲介人の名前である。

「ディッツか。それにしても、こんな子供を使いに出すとは、用心深い奴だ」
「扱う品が品ですからね」
「そうだな、はやく持っていってくれ。怖くて敵わん」

 白髪執事はそう言いつつ、懐からかぎ束を取り出し、そのうちの一つをモヒカンに渡す。

「202の部屋だ」

 モヒカンは静かに頷き、歩き出す。
 俺もそれに付いていく。

 キィキィと鳴る床の音と、どこからか聞こえるうめき声のようなもの。
 時折漂ってくる、獣の臭い。

 ふと、鉄格子のはまった部屋があったので、中を覗いてみる。
 ぼんやりと光る魔法陣の中に、でかい獣が鎖につながれて寝そべっていた。
 暗くてよくわからないが、あんな獣は魔大陸では見たことがないな。
 ミリス大陸の生物だろうか。

「この建物には、ミリス大陸から魔大陸へと密輸する商品も置いてあるんですか?」
「ああ」

 ふと聞いてみると、モヒカンは答えてくれた。
 隠す必要はないんだろうか。

 モヒカンは奥にあった階段から下へと降りていく。
 202なので2階かと思ったが、地下らしい。

「地下なんですね」
「上はダミーだ」

 なんでも地上には、見つかっても困らないような品がおいてあるらしい。
 そして、地下には関税ではかなり金を取られたり、
 密輸すると重罪にあたる品が置いてあるのだとか。

「ここだ」

 モヒカンは202というプレートの掛かった扉に。
 そこには後ろ手を縛られ、頭にやや緑の毛が生え始めたルイジェルドが座っていた。
 さすがに一週間ともなると、うっすらマリモヘッドだ。

「ご苦労さまです」

 俺の言葉にモヒカンは頷くと、部屋の入り口に立った。
 一応、見張り役なのだろうか。

「手錠はここでは外すなよ。
 スペルド族に暴れられたらかなわんからな」

 そう口にするモヒカンの顔は若干青ざめていた。
 緑色の髪というのは、例え坊主頭でも効果的らしい。
 ここであっさり手錠を外し、ルイジェルドに言う事を聞かせたらもっとビビるだろうか。
 いやいや、そんなジャイの威を借るスネみたいな真似はすまい。

 さて、そういえば鍵はどこにしまったかな。
 懐を探ってみると、どこにもない。
 ……宿に忘れたかもしれん。
 めんどくさいから魔術で開錠するか。

 と、ルイジェルドに近づくと、彼は険しい表情をしていた。
 やはり人はお腹がすくと怒りっぽくなるな。
 まってろ、今すぐ腹いっぱい飯を……。

「ルーデウス、耳を貸せ」

 ルイジェルドが、ぽつりと呟いた。

「なんですか?」

 と、俺が言われるがまま顔を近づけると、モヒカンが慌てたように言った。

「お、おい、やめとけ。食いちぎられるぞ」

 大丈夫。
 ルイジェルドならあま噛みで勘弁してくれるさ。
 と、心の中で適当にコメントしつつ、俺はルイジェルドに耳を寄せる。

『子供が捕らえられている』

 ほう。

『獣族の子だ。無理やり攫われたようだ。
 ここにいても泣いている声が聞こえる』
『……ほう』

 子供。奴隷だろうか。
 この世界の奴隷制度については、正直よくわかっていない。
 何がよくて何が悪いのか、判別がつかない。
 ここで奴隷を助けるのが、彼らにとって本当に良いこととなるのか……。
 生活に困って親に売られた子供なら、親元に送り返されても迷惑になるだけだろう。

『助けたい』

 とはいえ。
 ルイジェルドにとって、子供とは大切なものだ。
 状況がどうこうは関係ないのだ。
 残念だったな、密輸人。
 まさかルイジェルドがいるときに子供を誘拐してしまうとは。

『建物の中には結構な数の用心棒がいます』
『わかっている』
『密輸人は組織で動いています』
『反対なのか……?』

 ルイジェルドが「信じられん」という顔をしている。
 裏切られたような顔だ。
 でも、今、裏切ろうとしてるのは俺たちだ。

『彼らはしっかりと仕事をしてくれました。これは裏切りに当たるんじゃないんでしょうか』
『…………構わん。子供が助かるのなら、俺は裏切り者の汚名を受けよう』
『汚名を受けるのはルイジェルドさんだけじゃなくて、スペルド族ですよ?』
『む……だが……だがな……』

 そんな顔すんなよ。
 助けないとは言ってないだろ?

 俺も言っちゃったしな。
 我慢できなくなったら言ってくれって。
 子供ぐらい助ける余裕はあるって。
 その手前、聞かないわけにはいかないだろ。

『今すぐ助けたいのなら、
 外に情報が漏れないようにしないといけませんね』
『ルーデウス……!』

 俺の言葉に、ルイジェルドは顔をほころばせた。

 今回は、ルイジェルドの好きにやらせよう。
 一週間も閉じ込められてたんだ。
 鬱憤も溜まっているんだろう。

 とはいえ、もし、一人でも逃せば、
 スペルド族が暴れた、という情報が密輸組織に届くだろう。
 スペルド族を密輸した俺たちの名前は、
 密輸組織にきちんと覚えられているはずだ。

 密輸組織は裏切った顧客には、子飼いの暗殺者を送り込む。
 裏切り者には無残な死が待っている。
 と、仲介人が言っていた。

 ルイジェルドがいれば暗殺者程度は大したことは無い。
 だが、枕を高くして眠れないのはよろしくない。
 ルイジェルドが常にいるとも限らないしな。

 さて、どうやって情報を漏らさずに事を収めるか……。

『その事なら安心しろ』
『何か案がありますか?』
『この建物にいる人数なら誰も逃さん。皆殺しだ』

 ヒュー、さすがルイジェルドだ。
 頼れる言葉だね。
 確かに皆殺しにすれば解決だ。
 でも、ちょっと短絡的じゃありませんかね。

『どうしても許せない相手なんですか』
『……ああ、今にもハラワタが煮えくり返りそうだ』

 ルイジェルドがすごい怒っている。
 なんだ、何やったんだ密輸人。

『何が起こったのか、聞いても?』
『お前も、子供たちの様子を見ればわかる』

 見ればわかると言われてもな。

『後で子供たちだけ助けにくる、という方法もありますが……』
『奴らの話を聞いた。明日にでも子供たちを船に乗せ、魔大陸に運ぶつもりだ』

 明日じゃダメか。
 しかし、皆殺しか。
 皆殺しはちょっとな。
 他に方法があるはずだ。
 殺さずに済む、もっとスマートな方法が……。

『安心しろ、お前は手を汚さなくともいい』

 その言葉で、俺は動きを止めた。

『いえ……』

 ルイジェルドの言葉は、俺の心に小さなトゲとなって刺さった。

『僕も……やりますよ?』

 確かに。
 俺はこの一年間、人殺しを避けてきた。

 魔物はいくらでも殺した。
 人型をした魔物も殺した。

 けれども、殺人はしなかった。
 する理由がなかったというのもある。
 しない理由が多かったのもある。
 けれど、誰かに対して殺意を持った事がないのも事実だ。

 この世界はシビアだ。
 人と人との殺し合いも日常的に行われている世界だ。
 俺も、いずれ、誰かを殺すこともあるだろう。
 そういう状況はいつか訪れるはずだ。
 覚悟はしている。
 できている。
 そのつもりだった。

 けれども、俺がやった事と言えば、岩砲弾の威力調節だ。
 高すぎる威力で人を殺してしまわないため、
 殺さない程度に術の威力を下げたのだ。

 結局、俺は人を殺すことに抵抗があるのだ。
 口ではなんと言っても、俺は殺人という禁忌を犯したくないのだ。
 覚悟なんてできていないのだ。

 そして、ルイジェルドはそのことを察してくれている。

 だから、わざわざこんな事を言ってくれているのだ。
 気を使ってくれているのだ。

『そんな顔をするな。
 お前の両手は、エリスを守るためのものだろう』

 ……まあ、いいか。
 無理して誰かを殺す事なんてないよな。
 今日は胸を借りるとしよう。
 ルイジェルドが一人で出来るというのなら、まかせよう。
 ヘタレで結構。
 俺は俺に出来る事をする。

『わかりました。では、僕は子供たちを解放してきます。
 どこにいるかわかりますか?』
『二つ隣の部屋だ。七人いる』
『わかりました。死体はどこかにまとめておいてください。
 あとでまとめて燃やしましょう』
『わかった』

 俺は無言でルイジェルドの手枷を外した。
 肩を鳴らしつつ、ゆっくりと立ち上がるルイジェルド。

「なっ、お前! どうやって手枷を!」

 慌てるモヒカン。

「大丈夫ですよ。ちゃんと言うことは聞いてくれますから」
「ほ、ほんとうか?」

 俺の言葉に、モヒカンはやや安堵の表情を見せる。
 ルイジェルドに槍を手渡した。

「もっとも、暴れないわけじゃないんですがね」
「えっ?」

 モヒカンが最初の餌食だった。
 ルイジェルドは音もなくモヒカンにトドメを刺すと、音もなく階段へと走っていった。
 俺はそれと反対方向。
 子どもたちが捕らえられているという部屋に向かう。

「ギャアアアァァァァァ!」
「ス、スペルド族だ! 手枷がはずれてるぞ!」
「くそっ! 槍までもってやがる!」
「悪魔だ! あぁぁ、悪魔あぁぁ!」

 俺が扉にたどり着く頃、一階から悲鳴が聞こえはじめた。

 今宵のルイジェルドは血に飢えておる。
 なんちゃって。


 ていうか。
 攫ったのは別の奴だろうし、密輸人は悪くないんだよね。

 悪いのは運だけ。
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